後にビクトル・エリセ監督の名作『ミツバチのささやき』『エル・スール』を手掛ける、製作者エリアス・ケレヘタによるスペインのオムニバス映画。国立映画学校の生徒で特に才能が抜きん出ていた三人を起用したという事で、エリセも抜擢されました。当時日本では未公開、2008年発売のDVD(エリセ作品のBOXセット)によって初めて一般に知られた、エリセのデビュー作です。各章はそれぞれ30分強の尺。 オムニバスとしては、実に特異なスタイルを持った映画で、スタッフが共通、共同脚本家も共通、さらに企画発想と財源確保を担ったアメリカ人俳優ディーン・セルミアが、三章全てで主演しています。それでいて各章は独立しており、関連性はないのですが、さらに本作を特殊にしているのが、三章共通のシチュエーションを設定している事です。二組の男女、閉鎖的な舞台設定、暴力的な結末という三点がそれです。 どの章においても、二組のカップルが出会い、ディーン・セルミア演じる主役の男が関係をかき回す事で悲劇的ラストを導くというプロットが適用されていて、しかもスタッフが共通ですから、雰囲気が似ていて当たり前でしょう。アメリカとスペインの相克をテーマにしたという事ですが、闖入者であるアメリカ人がトラブルの元凶となっているだけの事で、特に文化的対立を主題に用いているとは言えません。 共同脚本のラファエル・アスコナと激しく対立したというだけあって、やはりエリセ篇は他の二章と雰囲気が違います。セリフや描写が抽象的、詩的で、音楽の使い方や編集も独特。ラストも、より映画的な言語で語られている印象です。その分、他の二章よりは難解ですが、エリセのファンには大いにアピールするでしょう。編集のパブロ・G・デル・アモや撮影のルイス・クアドラドは、後のエリセ作品も担当しています。 |