“ローマの街角で恋愛ウォッチング。ネオ・リアリズモとフェリーニが対立する異色オムニバス”

 

街の恋

L'amore In Citta

1953年、イタリア (110分、モノクロ)

 第1話『お金で買う愛』  監督:カルロ・リッツァーニ

 第2話『自殺未遂』  監督:ミケランジェロ・アントニオーニ

 第3話『3時間のパラダイス』  監督:ディーノ・リージ

 第4話『結婚相談所』  監督:フェデリコ・フェリーニ

 第5話『カテリーナの物語』  監督:フランチェスコ・マゼッリ

 第6話『イタリア人は見つめる』  監督:アルベルト・ラトゥアーダ

 フェデリコ・フェリーニ監督のファンであれば『巷の恋』という名前でインプットされていたであろう、レアなオムニバス映画。実は90年代後半に一度ビデオソフト化されているそうですが、フェリーニ好きの私でも、それは知りませんでした。大抵は私と同じく、2013年のDVD/ブルーレイ化で初めて観る事ができたという人が多いのではないでしょうか。

 本作は、製作者のチェーザレ・サヴァッティーニが言うように「フェリーニがネオ・リアリズモを拒否した」事でも知られる映画です。何でもフェリーニは自分のパートに関し、「実話だ」と嘘をついてねじ込んだとの事で、後にネオ・リアリズモを批判する発言もしている事から、一派と袂を分かった作品と見られているようです。

 映画全体は、『観客』という雑誌の創刊号特集という設定で、その記事が各短篇になっているという体裁。ネオ・リアリズモの手法を適用してドキュメンタリー・タッチで、素人を起用して撮影されています。そこが今の感覚だと、「要するに疑似ドキュメンタリーじゃないの」と、フェリーニでなくても批判したくなるツッコミ所なのですが、中にはアントニオーニのような名監督も混ざっているので侮れません。

 特に売春婦を調査した第1話と、自殺未遂の経験者達に取材した第2話はインタビュー物ですから、完全にドキュメンタリーの体裁を取っている訳ですが、そうはいっても、ダンスホールでの男女の出会いを描いた第3話が既に普通の映画っぽいし、育児放棄を繰り返すシングルマザーを描いた第5話はフェリーニ篇に負けず劣らず映画そのものの雰囲気、最後には、街の女性達に向けられる男性達の視線のコラージュを持ってくるなど、仮にフェリーニのパートを外した所で、全体的な作風の統一が図られているとは言い難いです。

 そのフェリーニ篇は、結婚相談所を調査する男性と、そこで出会った女性との物語。まずもって相談所にたどり着くまでに、迷宮のような回廊を探しまわるシュールな描写がフェリーニらしいというか、短篇で時間が限られているというのに、本筋とは全く関係がない枝葉に延々とこだわる所がさすが。ついでに言えば、主人公を先導する子供達が、どこかキューピッドの天使達を想起させるのもフェリーニ風です。その一方、結末は現実的で、どこかほろ苦くもあり。

 『さすらい』や『ブーベの恋人』も担当した撮影のジャンニ・ディ・ヴェナンツォ、音楽のマリオ・ナシンベーネの他、名を連ねる脚本家達もほぼ各話共通で、その中の一人トゥリオ・ピネッリは『甘い生活』『81/2』でもフェリーニと組んでいます。ちなみに、第6話でコラージュされている男女の中にはウーゴ・トニャッツィ、マルコ・フェッレーリなど、名優、名監督の卵が多数出演しているとの事。

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