“エドガー・アラン・ポーの怪奇小説を欧州の大物監督達が映像化した豪華オムニバス”

世にも怪奇な物語

Histoires Extraordinaires d'apres Edgar Allan Poe

1967年、フランス/イタリア (116分)

 

第1話『黒馬の哭く館』

  監督:ロジェ・ヴァディム  出演:ジェーン・フォンダ、ピーター・フォンダ

第2話『影を殺した男』

  監督:ルイ・マル  出演:アラン・ドロン、ブリジッド・バルドー

第3話『悪魔の首飾り』

  監督:フェデリコ・フェリーニ  出演:テレンス・スタンプ

 怪奇小説の第一人者、エドガー・アラン・ポーの原作をヨーロッパの大物監督三人が映像化した、豪華なホラー・オムニバス。原作がポーである上に、参加している監督達の顔ぶれを考えると、とても一口にホラー映画と呼べる代物ではありません。

 第1話は、中世の古城を舞台にした、黒馬にまつわる不気味な因縁話。『素直な悪女』『血とバラ』など耽美派の名を欲しいままにするロジェ・ヴァディムが監督しています。残忍な美人伯爵を、当時の監督夫人だったジェーン・フォンダ、彼女の歪んだ恋情のせいで命を落とす無口な美青年をピーター・フォンダが演じていて、兄妹スターの競演という事でも話題を呼びました。しっとりとした映像美や、堕落した城内の淫蕩な描写はヴァディムの得意とする所ですが、織り物が黒馬の姿に出来上がってゆく所は、なかなか恐いです。

 第2話はいわゆるドッペルゲンガー物(そんなジャンル、あるのかどうか知りませんが)で、放埒な青年が、自分の良心的分身に追われるというお話。アラン・ドロン、ブリジット・バルドーという二大スターをキャスティングしているのも凄いですが、監督にルイ・マルを持ってくるセンスも相当なものです。彼は、『死刑台のエレベーター』や『地下鉄のザジ』など、モダンかつ斬新な感性で颯爽と台頭してきたヌーヴェルバーグの旗手。時代物のこのエピソードも、虚飾を排したシャープなセンスで鮮やかに描ききっています。

 このオムニバスの白眉は、何と言っても第3話。イタリアの巨匠フェリーニによる怪異譚は、現代のローマを舞台にしています。アメリカからやってきた売れっ子俳優が、空港で目にした白い鞠を持つ少女によって、死に導かれてゆく話。開巻早々観客の目を釘付けにする、夕日で真っ赤に染まった空港ロビー(怪し気な人影で溢れ返っています)にはじまり、異様なまでに人工的なテレビ・ショーの世界、全く人気のない夜の街角と、死へのお膳立ても見事に推移しますが、主人公に異色俳優テレンス・スタンプを起用し、もう最初から死と狂気の匂いが漂う退廃的な人物として描いている所がミソですね。音楽、色彩、セットと、もう全編フェリーニ一色といった雰囲気で、お得意の見世物小屋的演出も飛び出します。ポーの原作はどこへやら、あくまで自己流の映画を作り上げたフェリーニには脱帽です。

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