“ニューヨークをテーマに、アメリカの名監督三人が夢の競作”

ニューヨーク・ストーリー

New York Stories

1990年、アメリカ (124分)

 

第1話『ライフ・レッスン』

  監督:マーティン・スコセッシ  出演:ニック・ノルティ、ロザンナ・アークエット

第2話『ゾイのいない人生』

  監督:フランシス・F・コッポラ  出演:ヘザー・マッコム、ジャンカルロ・ジャンニーニ

第3話『エディプス・コンプレックス』

  監督:ウディ・アレン  出演:ミア・ファロー、メイ・クエステル

 ニューヨークをテーマに、アメリカの名監督三人が競作した、お洒落なオムニバス。三人共、初期の作品からニューヨークという街を重要なモティーフとして描いてきましたが、最初はウディ・アレンが単独で監督する予定だったそうです。企画・製作も、主にアレン作品を手掛けているロバート・グリーンハット。

 第1話は『タクシー・ドライバー』『ギャング・オブ・ニューヨーク』の巨匠、マーティン・スコセッシが監督。ドストエフスキーの弟子で愛人だったアポリナリア・サスロハの日記を元に、小説家の主人公を画家に置き換え、名曲『青い影』に乗せて現代的に描いています。嫉妬深い中年画家と自由奔放な若い女性、この二人がうまく行かない事は最初から目に見えていますが、そんな二人の微妙な距離感と、アーティストの街ソーホーのヒリヒリするような空気感を、スコセッシは例の天才的映像センスで描写。歌手ピーター・ガブリエルが本人役で登場する他、個性派俳優スティーヴ・ブシェーミがパフォーマンス・アーティストの役で出ています。

 『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』のコッポラによる第2話は、一転して子供達の物語。超高級ホテルに暮らす上流社会の子供達の華麗な生活をめくるめく映像美で綴った、極上のメルヘンです。ポップでチャーミングなユーモア・センスが横溢しているのは、脚本と衣装を監督の娘ソフィア・コッポラ(今や世界的な写真家/映画監督になりましたね)が担当しているせいでしょうか。何でも彼女は一年間シャネルで仕事をしていた事があり、本作で使われている衣装も全てシャネルとの事。

 さらに《きらきら星》のメロディを全編にあしらった音楽は、監督の父カーマイン・コッポラが担当。街角のフルート吹きの役で出演もしています。妹のタリア・シャイア(『ロッキー』の妻エイドリアンですね)も出演し、ほとんどコッポラ一家のファミリームービーの様相も呈していますが、そういった裏事情抜きに観ても、夢見るように素敵な一篇だと思います。

 『アニー・ホール』『マンハッタン』など、ニューヨークを舞台に名作を撮り続けるウディ・アレンによる第3話は、母親に頭の上がらない中年男が主人公。ある日、中国奇術の見せ物でボックスに入った母親は、そのまま忽然とどこかへ消えてしまう。様々な感情の波が去った後、得も言われぬ開放感を感じ始めた主人公の前に突然、空に浮かぶ巨大な母親の顔が現れ、彼をガミガミと追い回してニューヨークの街を大混乱に陥れる。

 いかにもアレンらしい、皮肉とユーモアと心理学をスパイスに効かせたコメディですが、今回はけっこう大規模なファンタジーですね。彼は「スピルバーグ(当初このオムニバスに参加する予定だった)なら特撮をもっとうまく使えるんだろうけど」と謙遜していますが、この場合はチープな特撮の方が面白いかも。強烈な母親の役を、ベティ・ブープの声で有名な声優メイ・クエステルが演じて話題を呼びました。

 ちなみに、このオムニバスには裏テーマというか、裏つながりがあって、ニューヨークを舞台にしながら、三作とも撮影監督にヨーロッパの名キャメラマンを迎えているのが面白い所。スコセッシ篇のキャメラは、フランソワ・トリュフォーやエリック・ロメールなど、自然光によるドキュメンタリックな撮影でヌーヴェルバーグの映画作家達を支えてきたネストール・アルメンドロス。コッポラ篇は、イタリアを代表する光の芸術家、ヴィットリオ・ストラーロ。ウディ・アレン篇は、彼も敬愛するスウェーデンの巨匠、イングマル・ベルイマン監督と組んできたスヴェン・ニクヴィストが担当しています。彼らが腕をふるった、素晴らしい映像に注目して鑑賞するのも、なかなか楽しいものですよ。

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