世界最古の映画キャメラ、シネマトグラフ。本作は、リュミエール兄弟によってちょうど100年前に発明されたこの手回し式キャメラを使い、世界中で活躍する40人の監督が各々52秒の短編に挑戦した、大変ユニークな企画です。ルールは3つ。1カット52秒である事、同時録音はしない事(アフレコはOK)、3テイク以内で撮影する事。 かくして、名だたる著名監督達による、ただの木箱みたいなシンプルなキャメラで撮影されたモノクロの短編が集まりました。もっとも映画全体は、単なる作品の羅列でなく、撮影風景や監督達へのインタビューがコラージュされたドキュメンタリーの形をとっています。リュミエール・キャメラを渡され、単純な外見や仕組みに驚嘆する監督達の姿も見ものです。 最初に置かれているのは、かの『工場の出口』と共に有名な『シオタ駅への列車の到着』。リュミエール兄弟が100年前に上映し、スクリーンから迫って来る列車に驚いた観客達が逃げ出したといういわくつきの映像です。『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』のパトリス・ルコント監督は、当企画の一番手となる作品で、このシークエンスをそっくり再現しました。しかし、特急TGVは駅に停車せず、猛スピードで通過してゆきます。時の流れを表現した秀逸な表現ですね。 各52秒という上映時間は予想以上に短く、監督の個性は強烈に出ているものも出ていないように思えるものも相半ばする印象です。しかし、明瞭に自分の刻印を押すピーター・グリーナウェイやデヴィッド・リンチ、万里の長城で撮影したチャン・イーモウ、ホメロスの『オデュッセイア』を題材にしたギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロスなど、思わず「52秒でそこまでやるか?」と叫んでしまう作品も多々あります。 他で面白かったのは、イングマル・ベルイマン作品の看板女優リヴ・ウルマンが監督し、そのベルイマン作品を支え続けた名キャメラマン、スヴェン・ニクヴィストがキャメラを扱う様を撮影したもの。それから、熱烈に抱擁し合う男女の前を、創成期から最新式までのキャメラが次々に通過してゆくという、恋愛映画の名手クロード・ルルーシュらしい一編。港の風景に独特の風情が漂う、『サイダーハウス・ルール』『ショコラ』のラッセ・ハルストレム作品、などなど。 総監督のサラ・ムーンは、『エル』『ヴォーグ』『マリー・クレール』などのファッション誌で60年代から国際的名声を得てきたモード写真家/CM監督。映画も短編・長編共に何作か撮っています。本作ではリュミエール・キャメラの作品は撮らず、あくまで総監督に徹していますが、スチール写真は多数使用しています。 |