別欄でご紹介のトランペット篇と同時に製作・公開された豪華監督陣によるオムニバス。こちらは一篇多くて8話構成ですが、各10分というルールで作られている点は同様です。 トップ・バッターは『ラストエンペラー』『ラストタンゴ・イン・パリ』の巨匠ベルナルド・ベルトルッチ。謎の老人に頼まれて水を汲みにいったのをきっかけに、時を越えて数奇な人生を辿る男性の物語。ベースはインドの寓話ですがイタリアの片田舎に舞台を移し、モノクロで描かれた不思議な短編です。 『リービング・ラスベガス』で高い評価を受けた英国のマイク・フィッギス監督は近年、4分割画面にこだわりを見せていますが、今回も全編4分割で製作。さらに10分間ワンカットという、極めて実験的な手法で撮影しています。アイデアはユニークですが、作品そのものは私にはちんぷんかんぷんでした。 『つながれたヒバリ』で東欧きっての名監督となったイジー・メンツェル作品は、チェコ映画界のベテラン俳優の人生を10分間に凝縮したのどかな一編。若い頃から晩年まで、映画の一場面をチェコの作曲家ヤナーチェクの音楽に乗せてコラージュしていて、ほのかな郷愁が漂います。 ハンガリーのイシュトヴァン・サボーは、『メフィスト』がアカデミー賞に輝いた事で世界にその名を知らしめた監督。倦怠期の夫婦の運命が、10分間で一気に暗転してしまう様を全編ワンカットの長回しで撮り上げた力作ですが、室内劇で且つワンカットという事で、どこか演劇的な雰囲気もあります。 フランスの注目株クレール・ドゥニのパートは、著名な哲学者ジャン=リュック・ナンシーと若い女優を列車の中で議論させた、ドゥニ流の現代哲学論。他者と自己の関係論はそのままフランス社会と移民の問題に敷衍され、面白い事は面白いのですが、映画としてはインテリ臭が少々鼻につく感じがします。 カンヌとアカデミー賞を両制覇した『ブリキの太鼓』で知られる、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手フォルカー・シュレンドルフの作品は、哲学者アウグスティヌスの「告白」を一匹のハエに語らせた異色作。湖畔のキャンプ場の風景がハエの目線で描写されますが、最後は神の光(電灯)に飛び込んで死に至ります。不敵なユーモアとアイロニーを感じさせる作品。 イタリア人かと思いきや実は英国人が監督していた『イル・ポスティーノ』。その監督、マイケル・ラドフォードの参加作は、又もや意表を衝いてSF。タイムトラベルから帰還した宇宙飛行士が自分より老いた息子と再会する、不思議で物悲しい作品です。6代目ジェームズ・ボンドとして人気急上昇のダニエル・クレイグ主演。 ラストを飾るのはオムニバスの名手、ゴダール御大。ラストに置かれる事を意識してかどうか、全て「最後の○○○」というサブタイトルで始まる1分間の映像を10個繋げて10分。各映像は、自作やパゾリーニ作品、戦争やホロコーストのニュースから引用。ゴダールが最近得意にしているビデオ/映画のコラージュですが、こうやってオムニバスに組み込まれるとやはり冴えた才能を感じます。 収録作品数はこのチェロ篇の方が多いですが、個人的にはトランペット篇の方に好きなタイプの作品が多い印象でした。 |