『欲望』『さすらい』『ある女の存在証明』など、イタリア映画の中で特殊なポジションを占める名作には枚挙に暇がない巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ。彼が自ら執筆した小説を原作に、ドイツの鬼才ヴィム・ヴェンダースと組んで完成させた美しいオムニバスです。ヴェンダースはオムニバス映画によく参加している人ですが、今回は、脳卒中のために言語を失ったアントニオーニを補佐する意味での共同監督で、各話をつなぐ挿話とプロローグ、エピローグはヴェンダースが独自に監督しています。音楽にヴァン・モリソンやブライアン・イーノ、U2を使っている所は、いかにもヴェンダース。 ジョン・マルコヴィッチ演じる映画監督を狂言回しに、フェラーラ、ポルトフィーノ、パリ、エクス・アン・プロヴァンスと、イタリア/フランスの各町で繰り広げられる恋愛模様は、ロマンティックにも軽快にも重厚にも傾かず、ただ淡々と、それでいて官能的に描かれています。彼はいつも、日常のふとした仕草や出来事を描きながら、そこに深い思索や空虚でとりとめのない感情も含めた人生の時間を取り込んできました。『太陽はひとりぼっち』の頃のアントニオーニは、もう少しシャープで乾いていて、モダンな感じも受けたものですが、こちらは映像のウェットな美しさも手伝ってか、もっと豊かで、詩情に溢れ、芳醇な香りすら漂います。 ただ、愛とは何か、生きるとは何かを探求していて、結局はやっぱり「わからない」という結論にたどり着く点は昔のアントニオーニと変わらないようです。それが、以前は愛の不毛、虚しさを描いているようにも見受けられたのが、今は、「わからなくていい、愛とはそういうものだ」という人生を楽しむ境地に達しているという事でしょうか。 それにしても、フェラーラやポルトフィーノの町の静かな佇まいは、なんと美しいのでしょう。こんな場所が実在するんですね。注目は米欧入り混ざった豪華キャスト陣。第3話なんて、『ロボコップ』『裸のランチ』の異色俳優ピーター・ウェラーから、フランスの名女優ファニー・アルダン、ジャン・レノ、キアラ・カゼッリ、さらにはイタリア、フランス両国を代表する名優マストロヤンニとジャンヌ・モローが特別出演するなど、見どころ満載です。第4話もキェシロフスキ作品で有名なイレーヌ・ジャコブにヴァンサン・ペレーズという、なかなかにユニークな配役。それでいて作品はお祭り感覚からはほど遠く、常にアントニオーニの渋い個性が立っている所が凄いと思います。決して分かり易い映画ではありませんが、ヨーロッパ映画が好きな人は必見。 |