エサ=ペッカ・サロネン 指揮 

フィルハーモニア管弦楽団

庄司紗矢香(ヴァイオリン)

曲目

シベリウス/交響詩《大洋の女神》

ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番

ストラヴィンスキー/バレエ音楽《春の祭典》

2020年1月25日 西宮、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 個人的には2010年5月、2013年2月の来日公演以来、三度目のサロネン&フィルハーモニア管。もうそんなに経つのかという感じ。近年は来日オケのプログラムを見ても、同じような曲ばかりで足を運ぶ気になれない事が多いが、サロネンは大好きなので別格。しかも、前半後半共に曲目がいい。

 座席は、二階左サイド・バルコニー席のステージ寄りブロック二列目。指揮者、ソリスト、オケ全体がよく見える席。今回は公演プログラムの販売がなかったため、メンバー表がないのが残念だが、やはり若いメンバーが増えている印象。ファゴットの首席を始め木管や、ホルン、トランペット、第2ティンパニなど、管楽セクションに女性も目立つ。

 サロネンは相変わらず、棒を上下に揺らしてリズムを取るような歩き方で登場。はっきりと確認できなかったが、老眼なのかメガネを掛けているようだ。しかし容貌には若々しさがあり、何よりも指揮のキレと激しさに全く衰えが見られないのが嬉しい。シベリウスはあまり馴染みのない曲で、第5交響曲の推移部みたいな曲想が延々と続いて変化に乏しい印象。できれば《タピオラ》か《ポポヨラの娘》辺りをやって欲しかったが、珍しい作品が一流の演奏で聴けるのは良い事なのだろう。

 凄いのはコンチェルト。ソリスト、オケ共に圧巻の演奏だった。庄司紗矢香は高音域の繊細な美音のみならず、中音域ではかすれがちな弱音を駆使。弦楽器の技術にはあまり詳しくないが、聴いた感じでは弓圧をかけず、弦に触れるか触れないかぐらいでギイっと引く感じの音を随所に使っている。

 第3楽章のカデンツァでは、弓圧と弓のスピード変化を強調して楽想の急変を表現した上、続くオケ部分のテンポとグルーヴを巧妙に先導する第4楽章への繋ぎ方は、もう見事という他ない。怜悧でありながら瞬発力に烈しい感情を乗せて行くスタイルは、サロネンの指揮と共通する性向で親和性の高さも感じた。オケと一体になった圧倒的なクライマックスに、異常なまでの熱狂的ブラヴォーが浴びせられ、ここまで客席を触発したコンサート体験は近年稀だったと思う。

 しかし、興奮状態の聴衆と暖かい拍手を送る楽員達の間で、演奏中のオーラを微塵も感じさせず申し訳なさそうに行ったり来たりする姿は、いかにも日本人らしい。何度もカーテンコールに応えた後、すまなそうにおじぎをしてから、そのままの姿勢でチューニングを始め、その続きでほんの少しだけという感じで弾き始めたのは、明朗な旋律にピツィカートの合いの手で伴奏型を作る不思議な曲だった。後でロビーの案内板を見たら、パガニーニの《憂うつな心の主題による序奏と変奏曲》との事。初めて聴いた。

 後半は《春の祭典》。同じ顔合わせで80年代にレコーディングもしており、サロネンは欧米各地のオケへの客演でこの曲を振っていて、得意のレパートリー。ロスアンジェルス・フィルとの再録音もあるし、放送録音のCDRだけでもバイエルン放送響、オスロ・フィル、スウェーデン放送響、北ドイツ放送響などとの演奏が出回っていて、どれも非凡な名演。ただ、彼は同じ曲でも演奏する度に異なる解釈を試す人なので、常に聴き逃せない。

 今回はソステヌートを基調にフレーズを歌わせるスタイルで、長い全休止をあちこちに挿入したり、旋律線どころかリズム・パターンまでねっとりと粘液質に歌わせたり、なかなかユニーク。もっとも、楔のように激烈に打ち込まれる強靭な打楽器を軸にした、アグレッシヴで精悍な表現はこのコンビの80年代セッション録音に立ち返った印象もある。

 サロネンの指揮ぶりは正確無比で、おそろしくシャープ。スコアが完全に頭に入っているようで、譜面は確認用というか別に無くてもいい感じ。どんな複雑な変拍子の箇所も難なく振りさばいて、その上で烈しい感情をぶつけている。こんな指揮なら、オケはさぞかし演奏しやすいだろうと思う。アインザッツが乱れる箇所も無い訳ではないが、この合奏の一体感の強さは、サロネンの指揮あってのものに違いない。

 冒頭のファゴット・ソロを吹いた女性奏者を始め、緻密かつ熱気に溢れたパフォーマンスを展開したオケに熱い声援が送られた。アンコールは無かったが、サロネンには凄まじいブラヴォーが叫ばれ、楽員が引き上げた後も彼だけ呼び出されて、熱狂的なスタンディング・オベーションを受けていた。まったく、凄い人だ。

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