チェコ

『チェコへ行こう! 絵本と雑貨とちいさな街めぐり』

 著:すげさわかよ

 河出書房新社・2005年

 私はイラストだけで写真がない旅本にはあまり興味が湧かないのですが、この人のイラストは繊細で且つとても可愛らしいので結構好きです。見た目のガーリーな雰囲気とは裏腹に、内容はかなり充実していて侮れません。本書も、ビアホール巡りに人形劇場&美術館巡り、絵本・切手探し、ビール工場やヨゼフ・ラダの村探訪、画家の邸宅に宿泊、コンサート&オペラ鑑賞、サーカス、遊覧船&列車の旅と、少ない紙面に盛り沢山な情報がぎゅっと凝縮されていて圧倒されます。

 各スポットの住所、電話番号及びウェブ・サイトのアドレスがそれぞれ記載されているのも親切。ガイドブックとしても使えます。著者は書籍・雑誌で活躍するイラストレーター。こういう人がチェコのような、今まで余り知られていなかった国にスポットを当ててくれるのは、とても意義のある事だと思います。

『りんごの木の村で チャルカが旅したチェコのガラスボタン物語』

 著:チャルカ

 ヴィレッジブックス・2006年

 “ガラスボタンとりんご。旅に出る理由はそれだけでよかった”。大阪・北堀江の有名な雑貨店、チャルカの久保よしみ&藤山なおみによる著書第2弾は、ガラスボタンに魅せられてチェコのヤブロネツという村を訪ねる旅日記。マレーク・ベロニカのディアフィルム幻燈会など、以前から私はこのお店の企画や著書に、どことなく文学性や物語の雰囲気を感じていて、それが他の雑貨屋さんと大きく異なる点だと思っていたのですが、本書は正にその文学性が如実に表れた本だと言えるでしょう。

 まるで小説か映画を思わせる導入部にはじまり、どこか現実のものとは思われないような詩情豊かな写真と美しい文章で村の人々の生活と文化を伝える本書は、それ自体まるで古い物語のよう。私のような、特に手芸や田舎生活に興味を持っているわけではない読者にも、ロマンティックな叙情をそっと提供してくれる本です。読み終えてなお、本当にこの村が実在するのかまだ信じられないような、不思議な余韻が残りました。ほぼオールカラー。

『メッセージ・フロム・チェコアート』

 監修:小宮義宏 

 アーティストハウス・2006年

 こちらはアニメ、絵本、陶器、人形劇と、伝統あるチェコの芸術に幅広く触れた画期的な本。まず最初に大きな分量を割かれているのが有名なチェコ・アニメ。パヴェル・コヴェツキー、ミハエラ・パヴラートヴァー、ヨゼフ・ラダ、ミロスラフ・シュチェーネク、ヨゼフ・チャペック、ヨゼフ・パレチェク、ズデネック・スメタナ、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの作品をカラー写真も交えて紹介し、最初の二人とブジェチスラフ・ポヤル、ヤン・シュヴァンクマイケルのインタビューを収録。

 それから絵本、人形劇の独立した章があって、最後に設けられたコーナーでポスター作家やミュージシャン、家具やゲームのデザイナーへのインタビュー、陶芸や美術出版、ブルノの近代建築、そしてなぜかビールに関するコラムがあるという、驚きのヴォリューム。各分野はさらに詳しく掘り下げる事も可能でしょうが、チェコアートを知らない人が全体を俯瞰で見て回るのには充分な一冊ではないでしょうか。オールカラーで写真も多数収録。

『プラハアート案内』

 エスクァイア・マガジン・ジャパン・2006年

 上の『メッセージ・フロム・チェコアート』と似た内容ですが、文章が主体で構成がしっかりとしたそちらと違い、本書は写真をメインに据えて、構成も気まぐれで雑誌に近い印象。特に著者を置いていませんが、『〜チェコアート』と同様に小宮義宏が企画・製作協力を担当しています。

 内容は、芸術家・皆川明がヨゼフ・パレチェクを訪ねるプラハ旅日記や、出版社アルバトロス、映画スタジオや製作会社ハファン・フィルム、グラフィック・デザイナーのペトル・ポシュ、キュビズム芸術、人形劇場、ガラス作家ペトル・ラルヴァなどの取材に、写真評論家ルツィア・レンデロヴァーが語るチェコ写真の現在などなど、『〜チェコアート』と同様、サイズに見合わぬコアで盛り沢山な内容。文章は少々ディープですが、オールカラーページで写真が多いので、パラパラと眺めるだけでも楽しいかも。ちなみに、本書にもチェコビールのコラムがあります。

『チェコA to Z +プラハ旅日記』

 著:鈴木海花・中山珊瑚

 ブルース・インターアクションズ・2006年

 アルファベットAからZまでの26文字から始まるチェコ語の単語を各章のテーマに選び、カラー写真と共にチェコの文化や旅日記を紹介したおしゃれな本。著者はフリーライターと女性誌編集者のコンビで、ページをめくるとどことなく雑誌を思わせる楽しさが感じられます。しかし内容は、キュビズム建築、カフェ、人形劇場、映画、文学、キノコ狩り、マッチラベル、ビール、歴史、植物、テレビ番組などなど、実に多彩な話題に及ぶもの。豊富な写真も変化に富んだレイアウトがなされていて、読み手を飽きさせません。チェコという国に初めて興味を持った方には最適な本でしょう。オールカラー。

『よりみちチェコ 街と森をめぐる旅ガイド』

 著:鈴木海花・中山珊瑚

 ブルース・インターアクションズ・2007年

 『チェコA to Z +プラハ旅日記』の母娘コンビによる、チェコ本の第2弾。今回は、現地アーティストによる「有名な観光ポイント以外にもプラハという都市のビザールな魅力を感じられる場所はたくさんある」という発言が取材のモチベーションになっているだけあり、タイトル通り「よりみち」的な内容。プラハ以外にも、カルロヴィ・ヴァリ、ドブジーシュ、ズリーンと、珍しい街も紹介しています。とはいっても、決して取っ付きにくいマニアックな内容ではなく、オールカラーで可愛らしいデザインのページが満載。

『チェコへ、絵本を探しに』

 著:谷岡剛史

 産業編集センター・2008年

 神戸(現在は浅草に移転)の雑貨・絵本店、チェドックザッカストアの店主による、チェコの絵本/古本屋めぐりガイド。首都プラハのみならず、ブルノ、オストラヴァ、リベレツ、チェスケー・ブジェヨヴィツェと、私など聞いた事もないような街に足を運び、古本屋や絵本を細かく紹介しています。文章にユーモアがあって楽しいのも類書にはない美点で、著者自身もかなり暴走気味の買い付け旅行をしているみたい。お店に行った事がある方ならご存知の通り、お客さんに気さくに話しかけて下さる店主さんなので、この面白紀行を読んでいて、思わずご本人の姿が頭に浮かびました(写真にもちょこちょこ写ってらっしゃいます)。

 オールカラー、写真も豊富で、各店の雰囲気や店主の様子などはよく分かるのですが、盛りだくさんな内容になった代わり、絵本自体の紹介が案外少なく、小さな表紙写真だけまとめて掲載しているページも多いのが残念です。ひと目見ただけで「中身ももっと知りたい!」とウズウズしてしまう絵本も多いので、絵本のみに焦点を絞った続編を期待します。(本書は“大人のための絵本館”のコーナーでもご紹介しています)。

『新しいチェコ・古いチェコ 愛しのプラハへ』

 著:横山佳美

 イカロス出版株式会社・2015年

 首都プラハに焦点を絞り、街歩き、ショッピング、食、カルチャーの章に分けてカラー写真で紹介するガイド。最後に1章を設け、プラハを飛び出してチェスキー・クルムロフ、リトミシュル、クトナー・ホラの3都市も紹介しています。内容としては類書をなぞるようなオーソドックスな構成ですが、ディープな情報も細かく紹介しているのと、写真のセンスが抜群。著者のプロフィールを見ると、写真が美しいのもその筈、プラハ在住のフリー・カメラマンでした。やはりプロの腕はさすがですね。そして現地人の情報は細かいですね。

『もうひとつのチェコ入門 メイド・イン・チェコスロヴァキアを探す旅』

 著:谷岡剛史

 産業編集センター・2016年

 こちらも現・浅草の絵本・雑貨店、チェドックザッカストアの店主による8年ぶりの著作。これまた凄い本です。雑貨屋さんの店主は博学な人が多くて、雑貨やデザインの事だけでなく文化や歴史への造詣の深さが文章に現れる事もしばしばですが、著者もその代表的な人物。こういう本は続編で情報量がパワーダウンしがちだというのに、現地の関係者でしか知り得ないような、正に足で稼いだ情報を惜しげもなく展開しています。その意味で、類書が遠く及ばないディープな本として強くお薦めしたい所。

 勿論、有名なスポットやカルチャーにも少し紙面が割かれてはいますが、観光客がまず行かないような町や施設だとか、お店、工場等の情報は稀少。特に、ブリュッセル・スタイル(初耳でした!)を追いかけた章や、チェコ最大の靴メーカーの取材はエキサイティングです。注目すべきは、チェコにおいても民主化以前の古い物をないがしろにする風潮があったという話。近年は伝統を受け継いで新しい物を生み出そうという若い人も出て来て、そういった絵本出版社や文具店にも取材しています。

 それともう一つ著者が強調しているのは、チェコに行くとこういうレトロな雑貨がたくさん見つかると思われがちですが、現地でそういうものを見つけるのは非常に困難だという事。著者は「古本屋、ガラクタ屋、冬の時代」と題して、その厳しい現実を報告しています。当欄でも紹介しているチャルカをはじめ、こういうお店の尽力で東欧雑貨の魅力が広く認知されるのは良い事なのでしょうが、古い物の絶対数は限られているし、少ないパイの奪い合いにもなりかねません。

 それにも関わらず、貴重な情報をここで紹介する著者は太っ腹という他ないですね。商売敵だけでなく、一般の観光客もマーケットでこういう物を見つける可能性はありますから、そうなるとみんなライヴァルという訳です。インタビュー記事が複数あるのは、ブックメーカーとしてプロの仕事という印象。関西出身の人らしくユーモアも交えながら、あくまで自分の言葉で文章を綴っているのも人柄を感じさせます。オールカラー、写真豊富で、レイアウトもセンス良。

『チェコの十二ヵ月 ーおとぎの国に暮らすー』 

 絵・文:出久根育

 理論社・2017年

 本書はガイド本ではなく、チェコ在住の絵本作家・出久根育が理論社HPに連載しているウェブエッセイ、「プラハお散歩便り」の一部を書籍化したもの。エッセイストの文章とは違って詩的な含みのある語り口が印象的で、ウェブエッセイと聞いて想像する軽い雰囲気ではありません。彼女の言葉を通して語られると、ちょっとしたエピソードもそれが本当にあった事なのか、まるで物語のような幻想的な趣が漂うから不思議です。オールカラーではありませんが、イラストも入っているのが嬉しい所。

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