■東欧・二カ国以上

 

『東欧の郷愁』 

 監修:菊間潤吾

 新潮社・2001年

 本書はコンプリート・ガイドブックと銘打たれている通り、写真と文章をぎっしりと詰め込んで、あと一歩で『地球の歩き方』になっちゃういそうな情報本。ただ、ツアー旅行がカバーしないような細かい情報も満載で、帯も「プロも使えるワンランク上のガイドブック」と謳っているので、参考のために取り上げました。なので、純粋に読み物として楽しむにはボリューム感がありすぎるかもしれません。

 ただ、安野光雅のスケッチ紀行や、高樹のぶ子の旅エッセイもあったりして、完全に実用向けのガイド本という訳でもありません。ミニコラムも随所に挿入され、執筆陣も学者、映画評論家、音楽作家、旅行ライター、写真家など実に多彩な顔ぶれ。国としてはチェコ、ハンガリー、ポーランドだけでなく、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア、スロヴェニア、そして旧東ドイツまで取り上げています。

『チャルカの東欧雑貨買いつけ旅日記』

『チャルカの東欧雑貨買いつけ旅日記2』

 著:チャルカ

 産業編集センター・2005年、2013年

 大阪・北堀江にある東欧系雑貨屋の有名店、チャルカ。私達も何度か行った事がありますが、本書はオーナーのお二人が、ベルリン→プラハ→ブダペストと3ケ国を巡った雑貨買付けの旅を、写真と文章で事細かに綴った素晴らしい本。フリーマーケットや問屋、工場、古書店などを周っては、郵便局で荷物を発送し、様々な人に果敢に会いに行く彼女達の熱意溢れる姿を追い掛けていると、お店の成功も自然と納得できます。最後まで読んで、思わず感動してしまいました。雑貨屋さんを開きたいと思っている人には必読の書かと思われます。

 お店でも売られているような手動式のカメラを使っているのか、写真がみんなレトロな感じなのも素敵。細かいコラムも充実していますが、とにかく普通の人が観光では絶対行かないような所がたくさん紹介されているので、そういう観点からも楽しい本です。オールカラーで全ページに写真あり。サイズも小さいので、旅行にも携帯できますよ。

 ちなみに本書は通称「オレンジ本」として、我が国における東欧雑貨の認知向上に大きく貢献しましたが、8年後に続編が出ています。今や一緒に東欧を旅するツアーまで企画・催行するようになったチャルカの二人が、チェコ、ハンガリー、ルーマニアの蚤の市情報や手仕事、フォークロア、最新の各国郵便事情まで、詳細に渡って紹介。東欧雑貨店のパイオニアたる彼女達の矜持が溢れる、圧巻の内容となっています。

『東欧のかわいいデザインたち 〜チェコ・ハンガリーから届いた暮らしのかたち』

 編:BOOKLUCK

 ピエ・ブックス・2006年

 “かわいいデザイン”シリーズに待望の東欧諸国が登場。北欧や西欧の場合と違って、ごく最近まで共産圏だったせいか、どこかレトロで垢抜けない雰囲気が魅力になっています。社会主義的な堅苦しさや、それと相反する田舎の民芸品みたいな素朴さ、暖かさが、モダンな西欧デザインとは差別化された個性となっているように思います。

 同シリーズの他の本と同様、雑貨や日用品、食料品、文房具や紙モノまで、幅広く集められたアイテムがオールカラーで紹介されていますが、ページや表紙が敢えてきめの粗い、薄手の紙質になっているのも、内容にぴったり。装丁も、東欧的なユルいアナクロ感を出したデザインで味わいがあります。

『チェコ・ポーランドの雑貨とくらしの旅手帖』

 著:齋藤忠徳・梶原初映 

 毎日コミュニケーションズ・2007年

 前者はベテランの写真家、後者は若いライター/チェコ語翻訳・通訳者。年齢も職業も大きく離れた二人による、オールカラーの写真紀行本。それぞれが得意分野を生かし、雑貨やスウィーツ、建築デザイン、絵本や文房具、ライフスタイル、歴史などについて短いコラムを持ち寄ったような構成ですが、大野舞によるイラストも手伝って、全体的には可愛らしい感じのヴィジュアル本になっています。

 ポーランドを特集した写真中心の本はなかなかないので期待したのですが、本書も圧倒的な分量でチェコの方に紙面を割いていて、ちょっと残念。雑貨や絵本なども紹介されているので、“かわいいデザイン”物のシリーズが好きな人なら楽しめるでしょう。民主化以前の貴重な写真も収録。

『マーケットで見つけたかわいい東欧のレトロ雑貨』

 著:ビスケット たけわきまさみ

 玄光社MOOK・2007年

 六本木のレトロ雑貨屋店、ビスケットの経営者が紹介する東欧雑貨の本。ハンガリー、チェコ、ポーランドの他、ドイツとバルト三国の雑貨も紹介されています。本書の特徴は、国ごとに章を切ってあるのではなく、アイテムごとの章立てとなっている事で、各国の雑貨は一つのページにごちゃ混ぜに載せてあります。雑貨屋さんのディスプレイっぽいとも言えますね。ただ、フリーマーケット等で見つけた商品ですから、どこへ行けば買えるという物ではなく、ショッピングの参考に使える本ではありません。こんな雑貨があるんだなあ、と眺めて楽しむ本。

 章の構成はぬいぐるみ、子供雑貨、絵本、バッジ、マッチラベル、生活雑貨、紙もの、人形、切手、最後に旅日記、マーケットのガイドと心得となっています。著者はパッケージ・デザイナーから出発してイラストレーターを経た経歴の持ち主で、ページ一面を模様で埋め尽くしたり、写真の大小のメリハリがダイナミックだったり、類書にはない優れたデザイン・センスが光ります。オールカラー。

『東欧ブルガリア・ルーマニアのなつかしいモノたち』

 著:Norica Panayota

 インターシフト・2008年

 こちらは東欧でもさらにディープなブルガリア、ルーマニアの製品や雑貨を紹介する本で、この辺りの物になると国内の雑貨屋さんでもあまり見かけないかもしれません。実際に写真を見ていても、他のヨーロッパ諸国に近い色彩も見られるチェコやハンガリーのものと違い、さらに地味でこっくりした色合いの物が多い印象を受けます。著者の文章からは、これらの国にまだ社会主義的なムードが残っている様子も伺えます。

 著者は毎日新聞北米総局インターン、英字記者を経て通訳・翻訳者になったという硬派な履歴の人ですが、文章は若者言葉も使ってくだけたタッチ。彼女の文体については、既刊の『ルーマニアの森の修道院』でより強く個性が発揮されています。雑貨屋関係の人ではありませんが、スーパーマーケットの商品から民族衣装、テキスタイル、陶器、切手、絵画、人形、食べ物など、雑貨好きが興味を持ちそうなアイテムは大方カバーしています。オールカラー。

『カナカナのかわいい東欧に出会う旅 チェコ/スロヴァキア/ハンガリー』

 著:井岡美保

 産業編集センター・2009年

 当コーナーでも多くの著書を紹介している、奈良のカフェ「カナカナ」のオーナーによる東欧雑貨めぐりの本。旅エッセイというより、各国のお薦め情報を紹介するような内容で、マーケットやアンティーク・ショップ、古本屋から、カフェ、レストラン、ホテル、博物館、観光施設、交通情報など、商売敵の人達も読むだろうに、ここまで教えてしまって大丈夫なのというくらい、惜しげもなく掲載しています(勿論、他にも情報を持っているのでしょうが)。

 装丁やページ構成は、内容にふさわしく実に可愛いデザインが施されていて素敵。写真はややぼんやりしていたり、小さすぎたりしますが、それがレトロチックで味があるという事なんでしょうね。各国、それぞれ中心地(プラハ、ブラチスラヴァ、ブダペスト)に焦点を絞ってはいますが、テーマが幅広く、読み物としても十分楽しめます。オールカラー。

『チャルカの旅と雑貨と喫茶のはなし』

 著:チャルカ 

 産業編集センター・2009年

 こちらもチャルカの本です。上記の旅日記以降、チャルカの本もたくさん出ていますが、本書はサイズもデザインも最初の旅日記と対になった姉妹本。オープンから10年、お店が成長してきた軌跡と、その仕事っぷりを惜しげもなく明かす本書、いやあ〜スゴいです。感動します。前々からただの雑貨屋さんではないと思っていましたが、その秘密が分かりました。要するに、彼女達がやっているのは正にベンチャー・ビジネスなのです。

 普通、雑貨屋さんというと、海外のお店やフリーマーケットで商品を買付け、お店で売るというのが基本だと思うのですが、彼女達はそれに飽き足らず、日本人は普通行かないような田舎にまで足を運び、様々な人々と交流し、工場や会社を回って交渉し、オリジナル商品を作ってしまう。さらに地元・大阪の町工場にも商品を発注し、難しい注文を付けて困らせているそう(でも、写真に写った工場のおっちゃん達は満面の笑みで楽しそうです)。

 さらに、ハンガリーの絵本作家マレーク・ベロニカが好きとなれば、本人に接触し、来日イベントまで企画。帯にある通り、「いつでも本気のチャルカ」です。そんな彼女達の原動力は、「これが好き」という強い気持ちと、お店に対する熱い思い。素晴らしいです。私はサラリーマンですが、自分もこうあらねばと思いました。

 それにしてもこのお店、雑誌等でも時々見かける藤山なおみ&久保よしみのお二人で切り盛りされているのかと思いきや、今はスタッフも増え、お二人は事務所務めとの事。初期のチャルカに行った事もある者としては、感慨深いものがあります。買付けの様子や旅日記、カフェ部門のレシピ、事務所や倉庫の様子なども豊富なカラー写真で紹介。やはり雑貨店開業を目指す人には必読の書といえそうです。

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