“なんだこりゃあ? あまりに破天荒でぶっ飛んだ、アフリカ文学の金字塔” |
|
『やし酒飲み』 (岩波文庫) |
エイモス・チュツオーラ 訳:土屋哲 |
|
これ、すごい本です。とにかくぶっ飛んだ内容で、個人的にはこの数年最も爆笑した小説でした。 |
著者はナイジェリア出身。アフリカ文学の最高傑作とまで讃えられていて、尚且つマジック・リアリズムの匂いもしそうな紹介文に誘われてつい手に取った本書。いざページを開いてみれば、マジック・リアリズムでも何でもなく、ましてファンタジーでも寓話でさえもなく、まるで子供の適当な作り話を、ちょっとばかし技術のある(精神的には子供のままの)アマチュアの大人が書いてみましたといった体裁。 |
こんなコメントではアフリカ文学の研究者や関係者から猛クレームが来そうですが、何を隠そう、本書の最大の魅力は正に、この、究極の素人っぽさだと思うわけです。何せ、ストーリーも文体も支離滅裂だし、もし日本で新人作家がこれを出版賞に応募したら、下読みでけちょんけちょんにけなされて、相手にされないこと請け合いです。 |
驚くのは、それでも人を強烈に惹き付ける、この得体の知れない迫力。子供の頃からやし酒を飲むしか能のなかった男が、自分専属のやし酒名人の死をきっかけに、新しい職人を捜す旅に出るという、一体なんだそれはというストーリー。そして、ブッシュに住むゴースト達にまつわる、その場で適当に思いついたような、投げやりで荒唐無稽なエピソードの数々。それを異様な磁力で最後まで読ませてしまうのは、土壌や背景が神話の型というか、地域土着の物語性にそのまま結びついているからかもしれません。 |
それにしても、ゴーストに捕まった娘を救いに出かけた主人公が、完璧な紳士に化けたそのゴーストの容姿をひと目みて、「なぜ自分はあんなに美しく生まれてこなかったのだろう」と泣き出してしまう場面など、私にはどう考えたって、真面目に書いているとは思えません。面白すぎます。さらに、地の文が突然読者に語りかけてきたりする、文体と視点のあからさまな不統一。突然、第三者の解説が挿入される、みたいな。 |
さらにさらに、「だった」と「ですます」調が混在する、破天荒な日本語訳がまたすごい。最初は誤植かと思いますが、その後も延々と続くので受け入れざるを得ません。なんでも、著者は原書を英語で書いており、その英語というのがまた、相当に独特でユニークな文体らしいのです。そして、訳者はその雰囲気を伝えるため、あえて地の文を不統一にしているらしいのです。 |
ああ、私はもう知りません。本書を気に入った人は、同じ著者の同じ世界観を継承した(そして同じ登場人物も出て来る)、バカっぽいアイデアとドタバタ・コント満載の『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を読んで、軽く100回ほどズッコケていただければ幸いです。以上です。 |
|
|
* * * |
|