イタリアを代表する作家の一人、イタロ・カルヴィーノ最晩年の作品。知的なお遊びが満載のカルヴィーノ作品は、難解なものも多いながら毎回その仕掛けが面白く、私などはついついコンプリートしたくなってしまいます。しかし本作は、岩波少年文庫から出ている事からも分かる通り、とても分かりやすく、親しみやすい内容。都会に住む会社員マルコヴァルド氏の目を通して、氏と家族をめぐる四季の出来事がユーモラスに、社会風刺も込めて描かれます。 短いエピソードがそれぞれ、春夏秋冬の順に繰り返し配置される構成はいかにもカルヴィーノらしく、それぞれに結構辛辣な、皮肉っぽいオチがつくのも、彼のファンならニヤリとさせられる所。各章で小難しい思考を展開しながら、結局情けないオチで現実に引き戻されるパターンは遺作『パロマー』にも見られ、ここではそれをより簡単な形で踏襲したような体裁です。内容的には少年少女というより、普通に大人向けの本かも。 カルヴィーノの作品はどれも破格のユニークなものですので、以下、簡単に紹介したいと思います。まずは、子供の目を通してレジタンス活動を描き、レジスタンス文学の最高傑作という評価を得た『くもの巣の小道』から出発。その後はがらりと作風を変えて、寓話風の物語を続けて発表します。 大砲によって善い半分と悪い半分に引き裂かれた兵士を描く『まっぷたつの子爵』、親子喧嘩が元で木に登り、そのまま一生を木上で過ごした男爵の人間観察記『木のぼり男爵』、肉体は持たず、空洞の鎧の中に意志だけが存在する『不在の騎士』は、「われわれの祖先」三部作としてまとめられました。 その後も、タロットカードの組み合わせで物語を構成する『宿命の交わる城』、マルコ・ポーロに世界中の風変わりな都市の見聞を報告するという『見えない都市』、鉱物(?)である主人公Qfwfq氏が世界や地球の成り立ちについて語るSF仕立ての『レ・コミニスケ』『柔らかい月』と、いずれの作品でも実に奔放な創造力を発揮。 晩年の作では、「あなたは今、イタロ・カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』を読んでいる」というメタ・フィクション的な書き出しで始まり、新しい小説が始まっては打ち切られてを繰り返す『冬の夜ひとりの旅人が』も面白いですが、個人的には、卓越したユーモア感覚に溢れる『不在の騎士』か『パロマー』、故郷の民話を自らの文体で語り直した『イタリア民話集』辺りをお薦めしたい所。 |