“鬼才・桜庭一樹の超絶的センスが躍動する、美しくも奇妙な物語世界”

『少女七竈と七人の可愛そうな大人』(角川文庫)

 桜庭一樹

 桜庭一樹は、ライトノベルから出発して、無類の読書好きを反映させた様々なタイプの小説を繰り出し、直木賞受賞に至った人。当初からラノベの範疇を逸脱していると言われていましたが、一般小説へと踏み出した本書が出た時も、多くの人がそれを当然の事として受け止めました。私が最初に衝撃を受けた作品もコレですが、とにかく彼女の本はどれも面白く、小説であろうとエッセイや読書日記であろうと、この人の作品ならもう、どれを読んだっていいくらいなのです。

 主人公は、「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」川村七竈。彼女は周囲の男達を軽蔑し、幼馴染みの美声年・雪風だけを友として青春時代を過ごす。希代の美男美女でありながら鉄道オタクという七竈と雪風が、本当は血が繋がっているのかどうか、最後まで曖昧なままです。そこに、実父を名乗る男、芸能マネージャー、出奔を繰り返す母などの大人達、七竈を慕う後輩少女も入り乱れ、世にも奇妙で美しいドラマが展開します。

 行間に、北国の湿り気や背徳の匂いをうっすら漂わせながらも、作品はどこかユーモラスな明るさを湛え、漫画チックな描写と純文学的な精神性の間を行ったり来たり。地方都市(本書では旭川)を舞台にしている所や、地域社会の閉塞感、ほのかに匂わされるインモラルな人間関係など、他の桜庭作品に繋がる要素も多く、『私の男』の世界観も地続きに感じられます。作品によって変化する彼女の文体は、もっとポップなものも多いですが、本書は古風な文語体で書かれているのがまた独特です。

 章によって語り手が変わる構成は、日本の現代小説ではごく当たり前になったようにも思いますが、本書の場合は桜庭作品に特徴的な構成への強いこだわり、とりわけ、章立てにやたらと凝る性質から来ているようです。『赤×ピンク』のように、全ての章が別々の人物の視点で描かれる小説もあり、もしかすると彼女がこのスタイルの走りなのかもしれません。最後の章で、唐突に元アイドルの物語が始まる所は、流行に慣れた読者でも思わず突き放されてしまうかも。

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