“ファンタジー作家と野生動物の医師による、限りなくエキサイティングな対話”

『命の意味 命のしるし』 (講談社)

 上橋菜穂子×齊藤慶輔

 『精霊の守り人』や『鹿の王』など、異世界ファンタジーで人気の小説家・上橋菜穂子と、野生動物の獣医である齊藤慶輔の対談本。NHKの人気番組、SWITCHインタビューの書籍化ですが、大幅に加筆されている上、お互いへの書簡や質問状、その回答(の形式で書かれたエッセイ)もふんだんに入っていて、番組をご覧になった方も改めて読み物として楽しめる、充実の内容です。

 私は放映当時にこの番組を観たのですが、まずは、齊藤医師の常人離れしたキャラクターに圧倒されたのをよく覚えています。ハンサムな長身の男性ながら眼光鋭く、その顔つきは彼が日常的に診ている猛禽類のような精悍さ。しかも話しぶりは落ち着いているのに、その奥にはただならぬ熱意と真摯さがあり、話題は豊富で人を惹き付けるものばかり。聞いていて、息を飲むほどに引き込まれます。

 一方、上橋菜穂子はファンタジー作家の範疇に留まらない才人である一方、オーストラリアの先住民アボリジニの研究のためフィールドワークを行う文化人類学者でもある。この二人の対談が面白くない訳がありません。この番組は、出演者によってはかなり皮相なやりとりに終始する事もありますが、この二人の回は間違いなく神回だったと思います(だからこそ書籍化されたのでしょう)。

 生態系において突出したパワーを持ってしまった人類が、そのピラミッド・バランスを壊さずに、一体どうやって野生動物と共生してゆくか。それは決して動物愛護の話などではなく、私たち人類の未来を左右する重大な問題だと分かります。

 齊藤医師は自分で言うように、最初から強い義務感と熱意を持って行動してきた訳ではなく、たまたま問題を知ってしまったから、たまたまスキルがあったから、自ら手を挙げ、行動せざるを得なかった人でもあります。そこに、私たち読者の共感を呼び、強く訴えかけてくる理由があるのかもしれません。

 「小学上級から」と表示され、難しめの漢字にはルビが振ってあります。写真も多いし、文章を詰め込みすぎず適度な分量に構成されているので、ぜひ子供にも読んで欲しいエキサイティングな本です。

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