二分冊で出た、元はっぴいえんどのドラマーで作詞家の松本隆、待望の対談集。前半の方はぴあより『KAZEMACHI CAFE』として出ていたものを加筆・再構成したもので、後半は松本隆オフィシャルサイト「風街茶房」の対談を中心に書籍化しています。 なので、前半の対談相手は元はっぴいえんどのメンバーや、当時アルバム製作に関わった人、音楽仲間が多いですが、後半はより若い世代のクリエーター、アーティストが多くなっています。ただそれも大きなくくりで、前半にも藤井隆のアルバムにまつわる詳細な裏話があったり、小説家・町田康との対談で少々ピリついた雰囲気があったりもします。 個人的には、生の声やキャラクターが生前あまり伝えられてこなかった大滝詠一が、こんなに陽気でおしゃべり好きな人だったとはという、意外な一面が見えるのが楽しいハイライト。レジェンド作曲家・筒美京平が対談で普通に喋っているのも、なんだか稀少でおトク感があります。 後半は、『ハチミツとクローバー』の漫画家・羽海野チカ、『ピンポン』『鉄コン筋クリート』の松本大洋、ジャーナリストの江川紹子、天才作曲家・菅野よう子、映画『天然コケッコー』『リンダ リンダ リンダ』の山下敦弘監督、『SPEC』『ケイゾク』シリーズなどの売れっ子・堤幸彦監督など、非常に興味深い人選がなされています。 例えば元が雑誌の対談企画だと、内容がかなり浅いものもなくはないですが、本書は各対談の分量もたっぷり取られ、元々松本隆が興味を持っていた相手や、一緒に仕事をした相手だったりして、内容自体にかなり読み応えがあります。 そして改めて驚くのが松本隆という人の、物を見る目(それは芸術だけでなく、社会、経済や商業にも向けられた目)の確かさ。それが一流の表現者でもある対談相手と話をする上での盤石の基盤となっていて、それは最後に収録されたエッセイや映画評論風の文章を読んでもよく分かります。私は映画好きなので、評論家やライターの文章を目にする機会も多いですが、そういう人たちに最低この半分でもいいから、鋭敏な審美眼とそれを上手に伝える聡明さがあればと思わずにはいられません。 もちろん、はっぴいえんどのファンにとっては各メンバーや関係者との思い出話、アイドル好きにとっては当時松本隆が担当した人たち、クリエイター志望の人にとっては筒美京平、松任谷由実など同業者の話も、きっと大きな刺激になるでしょう。 |