驚異的なまでに旺盛な創作ペースで知られる、アメリカを代表する作家オーツの短編集。近年は毎年のようにノーベル文学賞の候補に挙がるので、日本でも名前は知られているかもしれません。しばしば“短篇の名手”と讃えられる彼女ですが、我が国ではまとめて作品が読める短篇集がほとんど出ておらず、年に『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』が発売されるまでは、恐らく本書が唯一でした。 収録作は60年代後半から70年代前半の短篇で、『国勢調査員』『盲目の少年との出会い』『世界の果て』『儀式』『白い薄い冬の霧』『川のほとりで』『洪水に流されて』『北門の傍で』の8作。いずれもエデン郡という、オーツが作品によく使う土地を舞台にしてしていますが、この場所が実在するのかどうかは不明だそうです。 彼女の作品にしばしばみられる、不可解なまでに唐突に示される悪意、敵意は、これらの短篇にも顕著に示されています。嫌な予感が単なる予感で静かに終ってしまう事もあれば、予想も付かない形で表現され、思わずのけぞってしまう事もあります。純文学的な文章家の顔と、斬新な展開で読者を追い込むストーリー・テラーの顔。いずれにおいても、研ぎ澄まされたペン先を読み手に突きつけてくるオーツは、鬼才と呼ぶ他ありません。 出版社があまりメジャーではないのか、絶版で入手しにくいのが難点ですが、本書に戦慄された方、また本書がなかなか手に入らないという方は、前述の『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』や中篇集『邪眼:うまくいかない愛をめぐる4つの中篇』、或いは長編の数々を、是非読んでみて欲しいです。 |