国書刊行会から出ているこの“魔法の本棚”シリーズは、我が国であまり知られていない作家の作品集をセレクトしている上、函入りのハイセンスな装丁ながら価格が良心的で、素晴らしい企画だと思います。ロバート・エイクマンなどは、その実力が知られながらほんの数篇の短編のみがアンソロジーで紹介されていた作家だっただけに、短編集『奥の部屋』の刊行はモダンホラーの愛好家や作家達から大喝采をもって迎えられましたが、このヨナス・リーの作品集も又、大変に珍しいものです。 ヨナス・リーは、ノルウェーでは知らぬ人のないくらいの国民的作家ですが、我が国ではほとんどその名を聞かず、私も今回初めて知りました。本書で窺える彼の作風はとてもユニークなもの。どの作品にも、ノルウェー土着の民話や言い伝えを題材にしたような雰囲気があります。ほぼ全ての作品に漁師や船が登場する他、トロルやドラウグ、魔法使い、亡霊といった、この世の者ならぬ存在が跳梁跋扈する作品世界は、正に民話そのものの風情を漂わせ、時に恐ろしく、背筋が寒くなるようなお話も少なくありません。しかし、ノルウェーの荒々しい自然や、北の海の神秘的な雰囲気をよく伝える魅力的な作品群は、一読の価値ありだと思います。 訳文から窺える限りでは、文体も独特のさえざえとした美しさを持っていて、読むほどに引き込まれるよう(訳者はあとがきで、本書がノルウェー語の原文ではなく、英語版から訳されている事を断わっています)。童話や民話が好きな方、それから、一風変わった物語やホラー短編を探している方には、お薦めでしょう。 |