“クイズ番組で全問正解した貧しい孤児の少年。奇跡の秘密は彼の悲惨な人生の中にあった”

『ぼくと1ルピーの神様』 (ランダムハウス講談社)

 ヴィカス・スワラップ  訳:子安亜弥

 クイズ番組で優勝した主人公がインチキだとしていきなり逮捕される。学校も出ていない孤児の少年に、史上最高額の賞金を勝ち取る事など出来る筈がないから。インドの外交官が書いたこの小説は、オープニングから読者をぐいぐいと物語に引き込んでゆきます。主人公を救うために現れた女性弁護士と共に、彼がなぜクイズに答えられたのか、自分の過去を語る事で一問ずつ検証してゆきます。そして次第に明らかになる、あまりにむごたらしく、悲惨な彼の人生。

 各章は、主人公が体験した凄惨なエピソードが本人の口から語られ、それに続いて弁護士がクイズ番組のビデオを再生し、主人公がなぜ問題に答えられたかが一問ずつ分かる構成になっています。緻密に組み立てられたこの構成のおかげで、本書は寓意性をも得ていますが、各エピソードでは子供の虐待、階級差別、同性愛、スラムの現実、少年売春と、現代インド社会の病巣をヴィヴィッドに反映した、読むだに辛い描写が延々と続きます。本書の後味が良いのは、それでも物語が前向きな希望と奇跡に満ちているからですが、この小説を職業作家ではなく、外交官の男性が書いた事自体、物語内容に劣らないくらい奇跡的ではないかと思います。

 難を言えば、各エピソードの時系列が前後する上、登場人物が非常に多いので、なかなか細部まで把握できないのが問題ですが、これは私がインド系の名前を覚えるのに慣れていないせいかもしれません。本書は世界中で絶賛を浴び、『スラムドッグ$ミリオネア』というタイトルで映画化されてオスカーに輝きました。

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