壮大な世界観と魅力的なキャラクター達。美しい言葉で語られた心優しい物語

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

 紅玉いづき 

 額に「332」の焼き印、両手両足に鎖を付けられたミミズクと名乗る少女。ある美しい月夜、魔物の住処である夜の森で、彼女は人間嫌いの夜の王と出会う。

 私はライトノベルという分野を全く知らないので、第13回電撃小説大賞に輝いたこの作品がライトノベルに当たるのかどうか、この分野では最初から文庫本として発売されるのが普通なのか、よく分からなくて申し訳ないのですが、とにかくアスキー・メディアワークスが発行している文庫本であります。しかし、いわゆるジャパニメーションの世界と共通するような一部のマニア向けファンタジーをイメージしていた私は、まずその普遍性の高さ、詩情の豊かさと堂に入った文章の扱いに、読み始めて数ページで度肝を抜かれました。これがライノベの通常のレベルだとしたら、ライノベと普通の小説の差異など無きに等しいと思います。

 著者は、文学的な美しい文章を駆使して地の文を語りつつ、主人公ミミズクにはコギャルみたいな口調に方言や何かを織り交ぜた不思議な言葉で喋らせ、夜の王には神話の登場人物のような古風な言葉を喋らせる。その対比に驚きつつも読み進めてゆく内、ミミズクや夜の王の悲しい過去が明らかになり、人間世界の城に住む騎士アン・デュークやその妻オリエッタなど、魅力的なキャラクターも次々に登場して、意外にも壮大かつ豊穣な世界観を形成してゆきます。とても大作とは言えない、わずか250ページほどの作品で、これだけの内容を描き切った著者の筆力は相当なものではないでしょうか。

 欠点も皆無とはいかず、登場人物が誰もかれもあまりに善良で優しすぎるきらいはあるのですが、特にミミズクの、どんな人間も魔物も分け隔てなく見つめる瞳の純粋さ、真っ正直さは、ストレートに読み手の心を打つ事と思います。久しぶりに小説を読んでおいおい泣きました。スタジオジブリさん、この素晴らしい小説を何とか映像化してくれませんかね!

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