“切々と心に沁みる叙情。世界が注目するSF作家による傑作短編集”

『紙の動物園』

 ケン・リュウ  編・訳:古澤嘉通 (ハヤカワ文庫)

 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の三冠に輝いた表題作をはじめ、第1短編集の単行本『紙の動物園』から7篇を収録。続いて刊行された『もののあはれ』には、さらにそこから8篇を収録しています。文庫で初訳というのも面白いですが、お笑い芸人/芥川賞作家の又吉直樹がTVで紹介し、帯に推薦文を書いた事で売上げを伸ばした本としても有名。

 ケン・リュウは中国生まれ、11歳でアメリカに移住した人で、アメリカと言わず世界のSFファンから注目されている才人。普通の読書好きからすれば、設定こそSFではあるものの、内容は純文学として読める作品ばかりです。表題作は、テネシー・ウィリアムズの戯曲『ガラスの動物園』をイメージされる方も多いかもしれませんが、著者は「まさしく、ウィリアムズの戯曲へのアリュージョンです」と認めています。

 物語の舞台は色々。中国の農村小説を思わせるものもあるし、宇宙や惑星が舞台のもの、歴史小説風のもの、オルタネート・ワールド(あり得たかもしれない世界を仮定するSF)など様々ですが、共通しているのは切々と心に沁み入る叙情性。SFのハードの部分より、情感をすくい取るタイプの作家だと思います。SFファン以外にも広くお薦めしたい、心を揺さぶる美しい短編集です。

 さらに続刊で、第2短編集から『母の記憶』『草を結びて環(たま)を銜(くわ)えん』も出ていて、本書と同様、幻想と詩情、切なさの横溢する斬新なSF世界が楽しめます。

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