ブラジルを代表する作家と言われる、マシャードの長編小説。本書と『ドン・カズムッホ』『キンカス・ボルバ』を合わせて3大傑作とされています。南米文学はコロンビアのガルシア・マルケスをはじめ、マジック・リアリズムが盛んに言われますが、その観点からすればマシャードの作品にはシュールな描写があまりなく、ほぼリアリズムの作風と言えます。 ただ本書は、死んでから作家となり、カバにさらわれて始原の世紀へさかのぼった書き手が語る回想記なので、その枠組みだけは超自然的と言えなくもありません。ストーリー自体は俗っぽい不倫話にすぎないのですが、癖の強い脇役を散りばめ、仕掛けの多い語り口によって、斬新なスタイルの小説に見えるのは確かです。 ユニークなのは章立て。文庫本560ページほどの分厚さにたじろがれる方もいらっしゃるでしょうが、短く章で区切られていて、空白が多いゆえにページ数が増えている面もあります。なんと160章まであり、巻末の目次だけで10ページ以上。しかもこの文庫シリーズは字が大きく、行間もゆったりしているので、本の見た目ほど長い小説とは言えません。 なぜそこまで章立てが細かいかというと、場面が続いていて、普通は区切る場所じゃないのに章が変わっていたりするからです。ちょっとした考察や回想まで、1章を設けて記述していたりします。いわば「章」のパロディみたいなものですが、その事からも分かる通り、著者の態度はユーモラスで機智に富んでいて、文章も平易。この件に1章を割く価値があるかどうかとか、この話は何章で出て来たものだとか、メタ・フィクション的な視点も多いです。 同じ文庫から出ている『ドン・カズムッホ』も同様のスタイルで書かれていて、本書が気に入った方にはお薦め。 |