“変な話、笑える話、背筋も凍る話‥‥平安時代の面白説話ショートショート集”

今昔物語(ちくま文庫)

 訳:福永武彦

 個人的に、寓意性、物語性に興味があるので、超大作よりも、構成がタイトな童話や民話に、より心惹かれる私ですが、これはもうショートショートの元祖というか、古典中の古典といった趣のあるものと言えそうです。オリジナルの今昔物語は、平安時代末期に編纂された説話集で、当時巷に流布していた様々な噂話や、あちこちで耳にした話などを集めて無名の撰者が編んだものとされています。本作は、我が国随一の知性派作家と謳われた福永武彦が、膨大な物語を収録したオリジナルから本朝の部を抜き出し、そこからさらに155篇を選んで口語訳したもの。現代語訳とはいっても、原文を直訳したものではなく、さりとて勝手に文章を足したりはせず、福永武彦自身の言葉で元の文章を再構築したようなものだそうです、解説によれば。(私は原文を読んでいないし、読む能力もないので…)

 さて、肝心の内容ですが、これ、面白すぎます。全て「今は昔のこと、」で始められる短いお話の数々、その内容の多彩なこと多彩なこと。オチも何もない変な話やら、背筋も凍る恐怖譚があるかと思えば、とてつもなく下品でバカバカしい話があったり、ほとんど支離滅裂です。私なんて、何度も笑い転げてしまいました。登場人物も庶民から貴族まであらゆる社会層に渡っていて、ある意味では、平安時代の日本の雰囲気をまるごとヴィヴィッドに伝える作品であるとも言えますね。ここに収められた物語の数々は、近代作家によって何度も取り上げられ、古くは芥川龍之介の『鼻』や『芋粥』から、最近では夢枕獏の『陰陽師』まで、今昔物語に取材した小説は少なくありません。700ページ近い大部の文庫本ですが、一つ一つの話は2、3ページ程度なので、毎日寝る前に少しずつ読んでゆくのも、愉しいかもしれません。

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