*ビジネス書、自己啓発本 〜実用だけでなく何度も読めるものを〜

◎目次

『ブランド』 岩田松雄  

『18歳からの経営学 未来のリーダーたちへ』 阪口大和

『自分の仕事をつくる』 西村佳哲 

『ゼロ』 堀江貴文  

『最強の働き方』 ムーギー・キム  

“信頼とは何か、ブランドとは何か、シンプルで大切な事を教えてくれる感動の書”

『ブランド 元スターバックスCEOが教える「自分ブランド」を築く48の心得』

 岩田松雄  (アスコム)

 スターバックスコーヒージャパンの元CEOが書いた本。企業のサクセス・ストーリーではなく、著者個人の経験を元にした営業術です。私もセールスや営業の本はよく読みますが、自分に合わないものも多いし、必要な部分だけメモしたら後は大体処分するか、古本として売ってしまいます。本書はその中で唯一、私の本棚に並んでいるもの。なぜなら、必要な部分だけ抜き出そうと思うと、中身の半分以上をメモしなければならなくなるからです。

 著者はスターバックスだけでなく、ザ・ボディショップのCEOをしていた事もあるし、日産自動車の社員だった時代もあります。そこから本当に、セールスパーソンにとっては宝物になり得るエピソードがたくさん出て来る。中には、思わず熱い涙が込み上げてくるような、素敵な話もあります。共通して言えるのは、この人は最近流行している“セルフ・ブランディング”の、正に根幹の部分を体現している事。

 スターバックスがCMや広告を一切打たずに業界のトップでいる、その理念や企業風土の根っこの所は、著者の個人的な考え方と見事に一致しています。信頼とは何か、ブランドとは何か、ものすごく基本的で当たり前なのに、多くの企業や社員が出来ていない事。本書はそれを、人としての原点に立ち返るという、ものすごくシンプルな形で教えてくれます。たったの230ページだけれど、深く、豊かな内容が盛られた本。

“面白くてタメになる、全ての人に勧めたいエキサイティングな良書”

『18歳からの経営学 未来のリーダーたちへ』

 阪口大和  (集英社インターナショナル)

 タイトルを見ると学生向けの経営学の本と思ってしまいますが、大手サイトのレビューでも「凄い」「面白い」「若者向けに限った本ではない」と絶賛されている通り、実にエキサイティングな内容です。著者は物書きではなく、立正大学の教授。「熱い心」と「氷の目」を合い言葉に、現代の経済環境やその成り立ち、ビジネスの世界について、鋭い視点で分析、解説しています。

 文章の分かりやすさ、興味の惹き方も一級と感じますが、実際の企業の例も多く盛り込む情報量の豊かさと、そこからエッジの効いた分析を導き出す洞察力の深さは、こういったビジネス書でなかなか他に類を見ないもの。

 各章の見出しだけを挙げても、「私たちは「組織の時代」に生きている/経営はリアリズムだ!/完全競争の光と影/敵は内部にあり 「組織論理」を解剖する/リーダーの終りなき戦い/「日本的人事」システムとは何か/作る時代から、売る時代へ マーケティングの登場/数字はすべてを語る 会計の読み方/経営学から見た「これからの世界」。本書が単なる経営学の入門書やビジネス書の類いではない事が、分かっていただけると思います。

 著者は決して未来を楽観視してはおらず、厳しい現状認識に基づいていますが、今の時代を生きる現役のビジネスパーソンや、これから社会に出てゆく若い人達は、まずそこに立脚して出発しないといけないのも事実。学校の授業に採用して欲しいだけでなく、私のような一般会社員や、そうでない人にも一般教養として、是非一読を勧めたい良書。

“相手を幸せにする仕事とは? 働き方研究家による、仕事とものづくりの研究本”

『自分の仕事をつくる』

 西村佳哲  (ちくま文庫)

 時折、読み始めてすぐに、これは書棚の手の届く所に置いて、この先何度も読み返さなくてはならない、と感じる本に出会う事があります。私にとって、本書はその一冊でした。以前、半農半Xの提唱者、塩見直紀氏の民泊体験スクールに参加した折、本書を薦めている人がいてずっと気になっていたのですが、文庫化されたのをたまたま書店で発見して、ああこの本だ、と即購入したものです。

 大量生産でぞんざいに作られた安売りの品物たち。それらはあらゆる細部が「こんなもんでしょ」「この程度でいいでしょ」というメッセージを発していて、手にする人の存在を否定する。ものづくりに関してだけでなく、映画や音楽にも当てはまるこの考え方は、読んだ瞬間、「これこれ、これが言いたかったんや!」と思わず膝を打ちました。

 丹念に心をこめて作られた手工芸品、ひいては、細部まで手を抜かず丁寧に作られた映画や音楽がなぜ人を惹き付け、触れた人を幸せにするのか、それは出来上がった作品自体が、相手を大切に考えているという、目に見えないメッセージを発しているからなのですね。

 著者はデザイン関係の仕事をしている人ですが、働き方研究家の肩書きを名乗っていて、本書もその立場で執筆されています。インタビューが中心で、やはりデザイン系の人が多いですが、柳宗理やヨーガン・レール、イタリアの人気キッチンウェア・ブランド、アレッシーや、アウトドア用品のパタゴニア社など、かなり幅広い分野に渡って取材を行っています。インタビューの分量が少なく、少し食い足りない点を除けば、非常に興味深い内容。

 勿論、これらは抜きん出た才能と勇気、頭脳の明晰さや知識量を前提にした話で、私のように、頭も良くなくなければ、特に図抜けたセンスや才能を持たない小心者のサラリーマンには、必ずしもすぐ参考になるものではありません。しかし、各人の考え方に共感する部分は多いし、読む人によっては人生を変えるきっかけになるかもしれませんね。

 私はどちらかというと、著者本人のエッセイ部分に、色々と気付かされる事が多かったです。本全体からも丁寧な手作業の雰囲気がそこはかとなく漂っていて、それも読むのが心地よい一因かもしれません。他の著書では、ワークショップとファシリテーションについて考察した『かかわり方のまなび方』もお薦め。

“全てを失っても決してマイナスではない。虚心坦懐に読みたい傑出した内容”

『ゼローーーなにもない自分に小さなイチを足していく』

 堀江貴文  (ダイヤモンド社)

 ホリエモンの逮捕と、それに続く似たような事件を見ていて個人的に強く感じたのは、日本って「出る杭が打たれる」典型的な村社会なんだなあ、イヤな国だなあ、という事でした。ホリエモンの態度や物言いに人から嫌われやすい要素があったとはいえ、そのビジネス手法に問題もあったとはいえ、それとは全く別の問題として、圧倒的な成功を許さない、一人勝ちを許さない、何かしらケチを付けて抹殺してしまおうという圧力は、一般人の目にも誤摩化しようがないほどはっきりと見て取れました。

 投獄された著者が獄中で書き始めた本書は、素晴らしい内容だと思います。この人は、せっかちな人柄を反映してか、スピーディーにぱぱっと本を書いて出版してしまうきらいがあるし、多くの人にとって難しい事を「こんな簡単な事はない」と切り捨ててしまう、生まれつき有能な人間に特有の無神経な安直さもありますが、見方によってはそれも「自らの背中を見せる」やり方と言えなくもありません。

 少なくとも著者にとっては、本書が「ゼロ」からのスタート。全てを失っても、人間は決してマイナスにはならない。あくまでゼロ、生まれて来た時と同じです。反感を覚える箇所もない訳ではありませんが、人生を変えたいと思っている人には、何かしら触発される言葉や考え方が、たくさん見つかる本ではないでしょうか。こういう本は反感も共感も織り込み済みのものとして、虚心坦懐に読めばいいのだと思います。

“ユーモラスな筆致を楽しみながら、エリートの仕事ぶりに基本を学ぶ良書”

『最強の働き方 世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓』

 ムーギー・キム  (東洋経済新報社)

 グローバル機関投資家を名乗り、投資銀行、コンサル、大手資産運用会社、プライベート・エクイティ、インシアードでMBA取得と、輝かしいキャリアを重ねながらも、関西魂に基づくふざけた文章で硬質な内容を噛み砕く人気著者の作。

 金融エリートの仕事術といっても、実は他のビジネス書と同じような事を言っていたりするのですが、それをこんなに新鮮な視点から、面白おかしく書ける人は稀かもしれません。勿論、読んでいて「おおっ」と思う箇所もあり、特に、基本を成すのが全力投球の完全主義である点は重要。

 私のようなしがない会社員からすれば目もくらむような世界のお話ですが、基本的な業務に異常なまでの完璧さを追求するなど、すぐに真似できる事も多いです。これを読んで以来、当サイトも誤字脱字、文字サイズや段落の不揃い、不統一をできるだけ修正していますが、まだ「できるだけ」などと言っている所が甘いですね。恥ずかしいです。頑張ります。純粋に読み物としても、繰り返しの再読に値する良書。

 本書を面白く読める人には、デビュー作の『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』もお薦め。元は東洋経済オンラインに連載されて人気ナンバーワンになった『グローバルエリートは見た!』というコラムで、書籍化の際に大幅加筆されています。この人の本はどれを読んでも面白いですが、本書は著者お得意の話題である「エリートの生態」も描かれているので、読み物としてはお薦めの1冊かと思います。

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