ディック・ブルーナ

Dick Bruna

* 作家紹介

  1927年、オランダのユトレヒト生まれ。出版社勤務の父の依頼で手がけた本の装丁が好評で、幼少の頃から好きだった絵の道へ進む。年に100冊もの装丁をこなした後、1952年に初の絵本『りんごちゃん』を出版。以後、ポスターや切手、標識に至るまで幅広い分野でデザイナーとして活躍する傍ら、ミッフィー・シリーズの大成功によって、世界中で愛される絵本作家となる。

 ミッフィーちゃんのキャラクターはもう皆さんご存知でしょうから、今更説明の必要もないくらいですね。日本では“うさこちゃん”と訳されて、数十冊の絵本が出版されています。ポップで限られた色使いとシンプルな線で描かれた彼の絵は、一見単純なデザイン画にも見えますが、実はそこに大変な労力と、人並み外れたセンスが注ぎ込まれています。他にも、ボリス&バーバラやポピー&グランティ、スナッフィーなど、色々なキャラクターが登場する絵本がありますが、ブルーナ作品はあまりにたくさん出版されているので、ここでは少し変わったものを選んでみました。

 ちなみに、日本でも彼のデザインになる切手が過去何度か発売されましたが、当時、友人達への葉書や封書にこの切手を貼った所、切手そのものに予想以上の反響があってびっくりした記憶があります。

* おすすめ

『クリスマスって なあに』(1963年、オランダ)

 作・絵:ディック・ブルーナ

 訳:舟崎靖子

 講談社・1982年

 クリスマスの由来について、子供にも分かりやすく説明した、ブルーナには珍しい絵本。イエス生誕の情景や聖母子像、東方三博士の訪問など、古今の絵画などに描かれてきた有名な場面の数々が、いかにもブルーナ流の簡略化された可愛らしいデザインで表現されています。特にキリスト教徒ではなくとも、我が国にはクリスマスの行事が充分浸透していますから、これは、大人も子供も十二分に楽しめる絵本と言えるでしょう。小型ながら、横に細長い特殊な本の形状も秀逸。クリスマス・プレゼントに最適です。

 ちなみにブルーナは、聖書の中からもう一作、ノアの箱船のお話を基に『ケムエルとノアのはこぶね』(福音館書店)という絵本を制作していますので、併せてご紹介しておきます。ケムエルという一匹の毛虫を主人公に設定し、洪水の引いた新しい世界で彼が蝶になる(!)という、ブルーナらしいアレンジが素晴らしい一編です。

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『ミッフィーのおばあちゃん』(1997年、オランダ)

 作・絵:ディック・ブルーナ

 訳:角野栄子

 講談社・2005年

 ミッフィーちゃんのシリーズのみならず、何十冊にも及ぶ子供向けの絵本を描いてきたブルーナですが、この本は、“死”という概念を真正面から扱った事で、その内容の素晴らしさ共々、大変に高く評価されたものです。おばあちゃんの死を悲しむミッフィーは、葬儀やお墓参りを体験し、おばあちゃんの存在を再び身近に感じるようになる事で、悲しみを乗り越えてゆく。哀切な内容ではあっても、ブルーナの視点は優しく、温かく、常に前を向いて生きてゆこうという希望に満ちています。私は、何度読んでも泣けてしょうがないのですが、なぜ泣けるのかをいくら考えても、うまく説明できないのが不思議な所です。日本語訳の美しくて柔らかい文章が素敵です。

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『ディック・ブルーナのすべて』

 講談社・1999年

 ブルーナほどの人気作家ともなると、他にも同種の本が出ていないわけではありませんが、これは絵本のキャラクターの紹介から、ブルーナ本人や家族へのインタビュー、バイオグラフィー、オランダの様々な街やユトレヒトの紹介、装丁やデザイン、グッズ、社会福祉活動、世界各国での商品展開など、盛りだくさんの内容をオールカラーで掲載した、日本独自の企画本です。2000年以降の最近の仕事まではカバーしていませんが、ディック・ブルーナその人について様々な角度から知るには最適な本と言えるでしょう。

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