ドゥブラフカ・コラノヴィッチ

Dubravka Kolanovic

* 作家紹介

  1973年、クロアチアのザグレブ生まれ。18歳で絵本作家としてデビュー後、アメリカのサヴァナ美術大学に学び、ザグレブ・アカデミーでは絵画を専攻。世界中の児童書にイラストを書いている他、子供達が平和な世界で成長できるように情熱を注ぎ、ユニセフのポストカードやポスターも手掛ける。夫と息子と子犬と共に、ザグレブ在住。

 最初に彼女の絵を見た時は、ちょっとメルヘンチックで可愛いすぎるかなとも思ったのですが、東欧らしい複雑な陰影に富んだ色使いや、柔らかな輪郭、森や街、動物などの繊細なデッサンは、見るほどに味わい深いです。キリスト教に関する題材が多いのも特色。

 クロアチアというと、ごく最近まで旧ユーゴの内戦に苦しんだ痛ましい記憶が残りますが、若年ながらも戦争を経験し、今も生地ザグレブに住む彼女が、母国の美しい自然を背景に、優しさと幸せに溢れた物語を展開する様は感動的。同郷で少し年上のアンドレア・ペトルリック・フセイノヴィッチの絵本もそうですが、背後に平和への切実な願いを感じます。

* 作品

『ちいさなペンギンが はじめて およぐひ』 (株式会社ワールドライブラリー)

 他

* おすすめ

『あかい ふうせん』 (2004年)

 作・絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:野坂悦子

 講談社・2005年

 人気絵本作家アンドレ・ダーハンの推薦で日本に紹介された、コラノヴィッチ最初の邦訳本。でこぼこコンビのチポとポワンが、大きな赤い風船で空の旅に出るお話です。シンプルでほのぼのとしたストーリーもいいですが、最大の魅力は色彩。時間の経過と共に様々な色合いに変化する空と、地上の風景、特に丘や森の端にこじんまりと集まった家々は、いかにも東欧的なこっくりとした配色で嬉しくなります。出版国の記載なし。

『はる・なつ・あき・ふゆ』 (2004年、スイス)

 作・絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:いぬいゆみこ

 評論社・2005年

 アンナという少女を主人公に、森の四季の移り変わりを観察したスケッチ風絵本。子供の絵日記みたいな雰囲気もありますが、色彩のマジックと細やかなデッサンに目を奪われる事しきりで、どのページをとってもポストカードやポスターにしたいくらい魅力的です。

『イツクのクリスマスのたび』 (2005年、イギリス)

 作:エレナ・パスクアーレ

 絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:さくらいずみ

 ドン・ボスコ社・2005年

 英国の作家と組んだ宗教物で、イヌイットの少年が、空から現れたシロクマのお告げでイエスの誕生を知り、カヤックで南の国へ行くという異色の内容。北極や砂漠が舞台なので東欧色は希薄ですが、コラノヴィッチ特有のキュートなキャラクター・デザインが光ります。イツクと旅をする犬のジャックや、途中で出会うアザラシやウサギ、イエスやマリアまでもがやたらと可愛らしく造形されていて、大笑いしながらもすっかり魅了されてしまいました。

『しりたがりやの こりす』 (2006年、イギリス)

 作:レイチェル・リヴェット

 絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:くらとみちずこ

 女子パウロ会・2008年

 「かみさまってなあに?」、好奇心の強い子リスが答え探しの旅に出て、カラス、川、ぶなの木、月など様々な相手と対話する事で、自分なりの答えに到達するというお話。大人にとっても大きくて難しいテーマを、平易な文章(表記も全てひらがな)と柔らかい絵で子供にも伝わるよう腐心された力作です。可愛いだけでなく、詩情豊かなイラストに心躍る素敵な絵本。

『チビクマちゃんのだいじなともだち』 (2007年、イギリス)

 作:クレア・フリードマン

 絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:おがわひとみ

 評論社・2007年

 こちらも英国の作家と組んだ絵本。みんなより早く冬眠から目覚めたチビクマちゃんが、雪だるまのキラキラリと仲良しになるというお話。春が来るとキラキラリは去ってしまい、チビクマちゃんは寂しい想いをしますが、次の年、冬眠開けよりもほんの少し早く、またチビクマちゃんを揺り起こす懐かしい声が聴こえてきます。

 「本当の友だちは、きっとまた会えるものさ!」というリフレインは、内戦を経験した作者の事を思うと、特別に強い想いが込められているように感じられます。キャラクターはアニメチックなほど可愛く造型されていますが、背景に溢れる色彩の繊細な味わいは特筆もの。

『きらきら きらら おつきさま』 (2007年)

 作:デイヴィッド・コンウェイ

 絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:おがわひとみ

 評論社・2007年

 夜空があまりに寂しいので月が街に下りてくるという、とても詩的な物語。なんとか夜空を賑やかにしようとする心優しい男の子の涙が凍って星になり、それが夜空を照らしだすというのも実にポエティックな展開です。

 イラストの柔らかな美しさと人物や動物の可愛らしさ、繊細を極めた配色はため息もの。窓の明かりが全部違う色で表現されていて、それぞれの窓に人間だけでなく、猫やら犬やら小鳥やらが覗いている様なんて格別です。出版国の記載がありませんが、出版社名が英語表記で作者もロンドン在住の詩人なので、本書もイギリスで出たものと思われます。

『ひかり』 (2007年) 

 作・絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:立原えりか

 講談社・2008年

 荒涼たる雪原の中、「ひかり」を探しに旅に出る犬(?)とペンギン。ふたりは様々な仲間の協力を得て「ひかり」を見つけるが、いつの間にか自分たちが違う種類の「ひかり」に囲まれていたことに気づく。シンプルながら、ひたひたと感動が湧いてくるお話ですが、二人を助けるシャチやクジラ、アザラシ、ペンギン達がやたらと可愛く描かれていて笑えます。

 シャチなんてまるで手足があるようで、水の中をすい〜んと泳ぎ去ってゆく姿はひたすらおかしくてキュート。全体は雪原らしい寒色系のトーンで統一されていますが、そのグラデーションの豊かさは類を見ません。タッチの柔らかさも格別。講談社《世界の絵本》シリーズは、出版国の記載がないのが困り物です。

『クリスマスと ちいさな てんしたち』 (2009年、イギリス)

 作:サラ・ドッド  絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ

 訳編:女子パウロ会

 女子パウロ会・2010年

 マリアとヨゼフを主人公にしたイエス誕生までのお話と、その後の東方三博士の来訪が、羊飼いの子シモンや家なし子ジャスパーの視点で描かれます。コラノヴィッチはこの主題を何度も作品に取り上げていますが、毎回視点の違う登場人物で描いているのは面白い所。イラストの魅力はここでも発揮されていて、ディティールの可愛さ、美しさは秀逸です。マリアとヨゼフも、ちびっこくてまるで子供みたい。

『おやすみまえに ちいさな てんしたちへ』

 (2009年、イギリス) 

 作:サラ・ドッド  絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ

 訳編:女子パウロ会

 女子パウロ会・2011年

 この出版社のシリーズとしては、珍しく宗教色が強くない絵本。子供の寝かしつけ用というコンセプトなのか、短いお話がたくさん入ったオムニバスの体裁です。どれも子供達の日常を描いた、他愛のないお話ばかりですが、とにかくイラストが可愛い。コラノヴィッチは、大きく画風を変えたり斬新な手法に乗り出したりしない代わり、安定の可愛さと美しさが素晴らしいです。読み物でもあるので、文章の分量はやや多め。

『せいしょから 10のおはなし』 (2010年、イギリス)

 作:サラ・ドッド  絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ

 訳編:女子パウロ会

 女子パウロ会・2012年

 聖書から10のエピソードをチョイスしたオムニバス絵本。創世記のアダムとイヴ、ノアの箱船や、イエスの誕生や奇跡など有名なお話も入っていますが、子供向けのせいかやはり悲惨なエピソードは避けられています。文章の分量はやや多めですが、イラストが抜群に可愛くて、大人にはコラノヴィッチ版・聖書物語として楽しめる内容。

『ちいさなほしのものがたり』 (2016年、イギリス) 

 作:リチャード・リトルデール

 絵:ドゥブラフカ・コラノヴィッチ  訳:サンパウロ

 サンパウロ・2017年

 空の中の小さな星に、神様の使いである天使がやってきてあるお願い事を伝える。出版社からも分かる通り、実はイエス生誕にまつわる宗教物語です。コラノヴィッチが何度も扱っているテーマですが、絵本らしく丸っこくて可愛らしい造形と美しい配色センスは健在。

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