ミヒャエル・ゾーヴァ

Michael Sowa

* 作家紹介

 1945年、ドイツのベルリン生まれ。ベルリン芸術大学を卒業後、美術教師を経て画家に。95年、現代を的確に諷刺した画家に与えられるオラフ・グルブランソン賞受賞。

 彼の作品の特徴は、非現実的なシチュエーションや漫画チックな諷刺画を、複雑で陰影の濃いトーンとこってりとした絵画的なタッチで描いている所でしょう。特に、大ヒットしたフランス映画『アメリ』では、主人公の部屋に飾ってある絵やテーブルランプなどをデザインして、一気に知名度が上がりました。ドイツでは多くのポスターや挿絵を手掛けている他、98年には、フランクフルト歌劇場でモーツァルトのオペラ《魔笛》の美術を担当。

 日本で出版されているもので中心的なのは、絵本と小説の中間のような一連のシリーズです。こういうジャンルがあるのかどうか、小説の単行本くらいのサイズで、文字もページ数も少なめ、カラーの挿絵がたくさん入っています。児童書の大人版といった所でしょうか。読みやすいし、棚に差しても飾っても美しいのでお薦め。

* 作品

『パパにつける薬』

『お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれか』

『怖るべき天才児』 (以上、三修社)

 他

* おすすめ

『エスターハージー王子の冒険』

 (1993年、ドイツ/オーストリア)

 作:イレーネ・ディーシェ、ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー

 絵:ミヒャエル・ゾーヴァ  訳:那須田淳、木本栄

 評論社・1999年

 繁栄を誇るオーストリアのうさぎ貴族、エスターハージー伯爵家。一族の存亡をかけ、伯爵は全ての孫を嫁探しの旅に出す。末っ子の王子は、国境を越えてベルリンへ向かうが、そこでは数々の苦難が待ち受けていた。

 うさぎの王子が人間と折り合いを付けながら嫁捜しの旅をするという童話風の物語。具体的な地名が出てくるし、ベルリンの壁崩壊など歴史的出来事も盛り込まれています。絵はあくまで挿絵程度の分量ですし、物語に即しているのでポスターや絵葉書の時ほど自由ではありませんが、個性は十分発揮されているようです。講談社から出ているアクセル・ハッケとのシリーズとほぼ同サイズで、文字も大きく、決して分厚い本ではありません。

『ちいさなちいさな王様』 (1994年、ドイツ)

 作:アクセル・ハッケ  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 訳:那須田淳、木本栄

 講談社・1996年

 手の平サイズのちいさな王様のお話。「ちょっと意地悪で辛辣な内容」と評されているのをよく目にしますが、私はそんな感じは受けませんでした。主人公との人生観のやり取りなどは結構哲学的で、ところどころ詩的でロマンティックな表現もあり。王様も物腰こそ尊大ですが、サイズが小さくて要求が子供っぽいので、何だか可愛らしく思えて来ます。

 挿絵は文章の内容に忠実ですが、ゾーヴァ独特のタッチもちゃんと生きていて、なかなか楽しめます。これも絵本ではなく、挿絵入りの短い小説の体裁。

『キリンと暮らす クジラと眠る』 (1995年、ドイツ)

 作:アクセル・ハッケ  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 訳:那須田淳、木本栄

 講談社・1998年

 本書は絵本でも小説でもなく、博物誌風エッセイ。作者のハッケは本書を「情緒あふれる博物学入門書」と呼んでいますが、ゾウやクマから、ニシン、コガネムシに至るまで26種の動物に関して、意外な生態や面白いエピソードなどを、豊富な文献から紹介しています。こう書くと何だか真面目な本みたいですが、そこはハッケの事、人と動物達とのパートナー学をテーマに、あくまでユーモラスな視点でエッセイを綴っています。

 挿絵は全18点。絵本に準じたイメージで接すると物足りない感じもありますが、一つ一つの絵がみんな素晴らしく、挿絵としては逆に存在感があります。文章が相当面白いので、ゾーヴァの絵にしか興味がない人でも楽しめると思います。

『ゾーヴァの箱舟』 (1996年、ドイツ)

 絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 BL出版・1998年

 わが国では初、ドイツでは3冊目になるゾーヴァの画集。ちょっとした絵本くらいの親しみやすいサイズで、値段も二千円強、画集といってもそんなに大仰なものではありません。彼の場合は絵本よりも挿絵の仕事が多い感じなので、こうやって作品を一挙に見られる本は貴重です。

 諷刺の効いたシニカルなトーンが優勢ですけれども、ヨーロッパ的なほの暗い色調は素晴らしいです。『エスターハージー王子の冒険』や『キリンと暮らす クジラと眠る』の挿絵なども一部収録。ゾーヴァ作品の翻訳も手掛けている那須田淳が日本版の序文を担当しています。

『思いがけない贈り物』 (1996年、ドイツ)

 作:エヴァ・ヘラー  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 訳:平野卿子

 講談社・1997年

 クリスマスイヴの夜、サンタクロースの手元に残ったひとつの人形。一体誰に渡すプレゼントだったのか、サンタは色々調べて子供達の家を一軒ずつ回る内、人形の行き先は意外な所へ・・・。アクセル・ハッケとの前2冊と同じシリーズなので、ページも少なく、字が大きいです。分量は少なめながら、挿絵も気が利いています。

 作者は大人向けの本の人気作家という事ですが、サンタがパソコンで配送管理をしていたり、タクシーを使って家々を回ったり、ハッケと共通する現代的なテイスト。人形が本当に必要とされている所へ行き着くラストは、暖かな幸福感に溢れていて、登場人物のセリフにも思想が滲み出ています。「もし“これはあなたへのプレゼントですよ”と言えないくらいなら、いっそあげないほうがいい。みな、軽率に人に物を贈りすぎますよ」

『魔笛』 (2000年、ドイツ/日本)

 絵:ミヒャエル・ゾーヴァ  文:那須田淳

 講談社・2002年

 プロフィールでもご紹介した通り、ゾーヴァは98年にフランクフルト歌劇場でモーツァルトのオペラ《魔笛》の舞台美術を担当しました。本書は、そのデザインを基にドイツで作られた絵本《Printz Tamino》に、掲載されなかった絵も加えて再構成し、オペラの筋書きから採った文章を付けた、日本オリジナル企画の絵本。

 登場人物の衣装や美術デザインが相当ユニークで、実際の舞台でもさぞ斬新なヴィジュアルが展開していただろうと想像すると、なんだか嬉しくなります。《魔笛》は大変ポピュラーなオペラですが、登場人物の善悪が途中で逆転したり、宗教的な思想も背景にあったりするので、最初にこういう本で親しむのも良いでしょう。装丁も素敵。

『クマの名前は日曜日』 (2001年、ドイツ)

 作:アクセル・ハッケ  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 訳:丘沢静也 

 岩波書店・2002年

 クマのぬいぐるみを持っている男の子が、ある晩、夢を見る。彼は、クマの世界のおもちゃ屋で人間のぬいぐるみになっていて。あるクマに買われてゆくが・・・。

 おなじみハッケによる奇抜な発想の物語ですが、今回はほのぼのとした暖かみが勝った印象。装丁がシンプルで美しい上に、文章も少なくて字が大きいので、外見も中身もとっても可愛い本になっています。講談社のシリーズよりはひと回りくらい大きなサイズですが、装丁がおしゃれで、棚に飾るととても見栄えがします。プレゼントに最適の本。

『エーリカ あるいは生きることの隠れた意味』

 (2002年、ドイツ/オーストリア)

 作:エルケ・ハイデンライヒ  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 訳:三浦美紀子

 三修社・2003年

 クリスマス・イヴ、仕事で疲労困憊して帰ってきたベルリンのOL。彼女のもとに、昔の男から「スイスまで来ないか」と電話が掛かってくる。結局行く事にした彼女はクリスマス・プレゼントを買う為にデパートに入るが、そこで大きなブタのぬいぐるみと出会い、誘われるように購入する。そしてこの行為は、休暇の予定や彼女の生きる意味を、少しずつ変えてゆく。

 クヴィント・ブーフホルツともコンビを組んでいるハイデンライヒの作ですが、風変わりな発想と、どこか陰があって物憂げな文体は彼女ならでは。ラストは、少しジーンときてしまいました。大人向けの短編小説で挿絵も少なめですが、諧謔味を抑えてストーリーを追った美しい絵に魅了されます。日の落ちた後の寂しい駅の風景なんて、主人公の孤独な心理状態を映し出していて、何とも言えない情感が漂います。

『ヌレエフの犬 あるいは憧れの力』

 (2005年、ドイツ/オーストリア)

 作:エルケ・ハイデンライヒ  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ 

 訳:三浦美紀子

 三修社・2005年

 これもハイデンライヒとのコンビで、大人向けのお洒落な本。ほんの60ページほどの短編で、最後に親切丁寧な訳注が付けられています。挿絵は豊富とは言えませんが、どれも誇張を排した美しいもの。夜、年老いた犬のオブローモフが人知れずバレエを踊っている。飼い主は名ダンサーのルドルフ・ヌレエフ。かなり滑稽なこんな光景が、物語の中では何とも物悲しくて、しみじみと暖かい場面になっています。

 本人も認める通り、ハイデンライヒの文章にはほのかなメランコリーが影を落としていますが、私に限らず、胸を打たれる人は多いかもしれません。作家カポーティ、ハインリヒ・ベルなど実在の人物がたくさん登場しますが、物語自体はフィクションのようです。

『ミヒャエル・ゾーヴァの世界』

 構成・訳:那須田淳、木本栄 

 講談社・2005年

 日本独自の企画本で、ゾーヴァのロング・インタビューを軸に未発表作品や代表作など、絵が45点収録されています。ページいっぱいに絵が載っていたり、オペラ《魔笛》の舞台写真が掲載されているのも嬉しい所ですが、インタビュー自体がかなり面白い内容。描いた絵を際限なく手直しする癖があるので、依頼を受けても締め切り日に引き渡せないどころか、作品自体も、原型をとどめないくらいに変わってゆくそうです。アクセル・ハッケの短いエッセイも収録。

『プラリネク あるクリスマスの物語』 (2005年、ドイツ)

 作:アクセル・ハッケ  絵:ミヒャエル・ゾーヴァ

 訳:三浦美紀子

 三修社・2005年

 三修社のシリーズですが、こちらはハッケとのコンビ作。ハイデンライヒ作品のような哀感はなく、風変わりでコミカルな雰囲気です。父が息子に話すクリスマス物語という設定で、命を吹き込まれたおもちゃ達の奇妙なミニ冒険譚が展開します。

 本書はドイツの女性誌が「子供に語って聞かせられるクリスマス物語を」と依頼したものだそうですが、ロマンティックなムードは希薄で、現代的な乾いたユーモア感覚が横溢。ただ、挿絵がたった5点というのは寂しい気がします。

『ひみつのプクプクハイム村』 (2012年、ドイツ)

 作・絵:ミヒャエル・ゾーヴァ  訳:木本栄

 講談社・2013年

 ある村に突然現れた竜の伝説を描いた絵本。とは言っても、1人称の語り手が最後に漏らす通り、教訓なんて何もないという、ひねくれたお話です。挿絵の仕事が多いゾーヴァには珍しく絵本になっているので、大きなサイズの美しいカラー・イラストをたっぷり眺められて、見応え十分の1冊。著者本人の了承を得て、日本版は文章が短縮されているそうですが、それでも絵本としては文章多めです(漢字にはルビが振ってあります)。

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