マレーク・ベロニカ

Marek Veronika

* 作家紹介

  1937年、ハンガリーのブダペスト生まれ。文学やデザインを勉強するかたわら、国立人形劇場のスタッフとして活動する内、子供の本の世界に興味を持つ。初めて書いた絵本『ボリボン』で高い評価を得た後、次々と絵本を発表。子供向けテレビ番組や人形劇、アニメーションなど幅広い分野で活躍。本来、人名表記は“ヴェロニカ”としたい所ですが、どの出版社も“ベロニカ”としているので、ここでもその表記に従いました。

 ハンガリーの国民的絵本作家とも言える彼女の作品を私が知り得たのは、大阪・北堀江にある有名な雑貨屋さん“チャルカ”の精力的な活動に負う所が大きいです。チャルカさんは、ベロニカ本人とも親交を結び、原書やグッズを販売している他、ANGERなど他の雑貨屋さんにも商品展開をしています。2005年には、初来日した彼女と共に、作品展やおはなし会、サイン会なども開催していて、我が国におけるマレーク・ベロニカの知名度アップには、計り知れないほど貢献しているお店と言えるかもしれません。

 ところで、ハンガリーにはディアフィルムという家庭用映写機を使った幻燈の風習があり、TVアニメの番組がなかった月曜日は、どの家庭でもお母さんが映写機を操作しながら子供にお話を聴かせてあげたそうです。マレーク・ベロニカもその作者の一人。チャルカさんはこのディアフィルムの幻燈会もよく開催していますが、そのチラシにベロニカのコメントが載っています「ディアフィルムは本当にミラクルだわ。明かりを消した暗い部屋に、家族が集まって映写機の焦げるような匂いを体験しながら、ゆっくりと絵が変わってゆく。映写機がキュキュキュっと鳴ってね。そのすべてが魔法のようだわ」。

 私達夫婦もこの幻燈会に一度参加した事がありますが、実際にハンガリーの家庭用映写機を使い、オリジナルの音楽とナレーションを追加したこの出し物には、何とも不思議な郷愁をおぼえました。チャルカさんは、ベロニカのディアフィルム『ラチとらいおん』『みにくい女の子』を元にしたポストカードのセットを販売していますが、前者などは背景等が絵本版よりも遥かにカラフルに描き込まれていて、大変に味のある、こっくりした色合いの絵が楽しめます。

* 作品

『もしゃもしゃちゃん』(福音館書店)

『ボリボン』(福音館書店)

『ブルンミとアンニパンニ』(風濤社)

『ブルンミのたんじょうび』(風濤社)

『ブルンミとななつのふうせん』(風濤社)

『ブルンミとゆきだるま』(風濤社)

『びょうきのブルンミ』(風濤社)

『くさのなかのキップコップ』(風濤社)

『キップコップとティップトップ』(風濤社)

『キップコップのクリスマス』(風濤社)

* おすすめ

『ラチとらいおん』(1961年、ハンガリー)

 作・絵:マレーク・ベロニカ

 訳:とくながやすもと

 福音館書店・1965年

 ベロニカの代表作。弱虫の男の子、ラチの前に現れた小さな赤いライオン。ラチはライオンから勇気を教わり、強い子へと成長してゆきます。イラスト自体は可愛いのに、背景が真っ白で淋しい感じもしますが、いい絵本です。雑貨屋さんではハンガリー語のオリジナル版を置いている所も見かけますが、棚に飾るにはこれも味わいがあっていいでしょう。

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『おやすみ、アンニパンニ』(1973年、ハンガリー)

 作・絵:マレーク・ベロニカ

 訳:羽仁協子

 風濤社・2001年

 こぐま(?)のブルンミと女の子アンニパンニを主人公にしたシリーズの一冊。どれもほのぼのとした物語ですが、今回は、イチゴ摘みの帰りに拾った子猫のお話。物語というほど起承転結があるわけではなく、ほんわかした日常の一コマを切り取ったような感じです。このシリーズも背景は基本的に無地ですが、カラフルなキャラクターやモティーフを切り絵のように配置していて、一ページ一ページがデザイン画みたいな雰囲気。表紙の見開きの所が、イチゴや蝶々などのパターン柄になっているのも、なかなか洒落たセンスではないでしょうか。キップコップのシリーズや『ラチとらいおん』等と較べると、より洗練されたポップなテイストが感じられるシリーズです。

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『ゆきのなかのキップコップ』(出版年不詳、ハンガリー)

 作・絵:マレーク・ベロニカ

 訳:羽仁協子

 風濤社・2005年

 台所の物置に住んでいる栃(とち)の実の子供、キップコップのシリーズもみんな、ほのぼのとしたストーリー。キャラクター設定が具体的な所を見ると、ハンガリーの民話かおとぎ話の中にそういう精霊か何かが登場するのかもしれません。本書は、キップコップが一羽の弱ったシジュウカラを発見し、世話をして仲間の元に帰してあげるまでの物語。背景が隅々まで描き込まれているので、東欧的な色彩感も豊富です。ボリュームの点から言っても、絵本としての充実度が高いシリーズだと言えるでしょう。

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