ヨゼフ・パレチェク

(ヨゼフ・パレチェック)

Josef Palecek

* 作家紹介

 1932年、チェコスロヴァキアのイフラバ(イグラウ)生まれ。プラハのカレル大学教育学部芸術教育科を出た後、グラフィック・アーティスト、画家、イラストレーターとして仕事を始め、その後、タペストリー、モビール、壁のデザインなども手掛ける。73年、夫人のリプシェ・パレチコヴァーと共にスイス、ノルド・ズッド社に企画を提案し、最初の絵本を出版。チェコ文化庁の「最も美しい絵本賞」に何度も選ばれる。短編アニメ『ちびとらちゃん』など、アニメーション作家としても活躍。

 チェコの絵本作家の中では、イジー・トゥルンカと並んで知名度の高いパレチェクですが、かつては日本でも80種類もの作品が翻訳されていたにも関わらず、全て絶版になり長らく入手困難でした。それがこの所、絵本ブームなのか、チェコ・ブームなのか、或いは一部の雑貨屋さん、個性派書店さんの商品傾向を反映してか、続々と復刻されはじめています。下記のおすすめ欄でご紹介している絵本は、全て2005年以降に復刻・翻訳されたものばかりです。

 彼の作風は、作品によって若干の違いはありますが、いかにもチェコ風のこっくりとした美しい色彩は全ての作品に共通しているようです。又、幻想味を帯びていたり、コミカルだったり、可愛らしかったりする絶妙なキャラクター造形には、チェコの伝統である人形劇の影響も感じられます。以前は“パレチェック”と訳される事が多かったようですが、最近では皆“パレチェク”という表記になっているので、そちらの表記に従いました。

* 作品

『けしのみたろう』

* おすすめ

『みにくいあひるの子』 (1971年、スイス)

 作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:山内清子

 偕成社・1984年

 アンデルセン童話原作。ゼロ年代以降の復刻はありませんが、私が所有しているものでも97年に第3回増刷となっていますので、まだオリジナルで入手しやすい本ではないかと思います。有名な童話ですので、それなりに需要があるのかもしれません。背景もびっしりと描き込まれているし、人間があまり出てこないせいか、幻想味や詩情もふんだんに盛り込まれて格調高い趣。パレチェクのファンには、画集としての見応えがある作品だと思います。

『ねずみのレオポルド』 (1972年、スイス)

 作:リブシェ・パレチコヴァー  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:千野栄一

 フレーベル館・1981年

 観たお芝居に影響されて、王様気取りになってしまうねずみのお話。人間が出てこないので、他のパレチェク作品のような、いかにも東欧風の人物デザインがない一方、ねずみ達といい、最後に出てくるネコといい、とにかく動物の造形が愛くるしいです。可愛らしさではパレチェク作品随一なので、ぜひ復刻して欲しい絵本。彼特有の色彩感覚も素晴らしいです。

『はだかの王さま』 (1974年、スイス)

 作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:石川史雅

 プロジェクトアノ・2005年

 アンデルセン童話原作。上記パレチェク絵本復刻シリーズの、恐らく第1弾かと思われます。大きめの本で、ページ一杯に細かい町並みや大勢の人々が描き込まれていたりして、圧倒されます。パレチェクらしい人物造形や色使いも充分堪能できるオススメ本と言えるでしょう。

『イグナツとちょうちょ』 (1974年、スイス)

 作:クラウス・ボーン  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:荒井良二

 プロジェクトアノ・2006年

 自転車で蝶々を追いかける、イグナツという男のお話。派手なシャツを着て、髭面にメガネで、平和的な性格のイグナツは、変わり者というよりもヒッピーに見える所が面白いです。トゥルンカの絵本もそうですが、パレチェクの作品も背景が白抜きになっているぺージが多いのが特徴。旧チェコスロヴァキアの出版事情ゆえでしょうか。

『ちびとらちゃん』 (1974年、日本)

 作:リブシェ・パレチコヴァー  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:木村有子

 アットアームズ・2007年

 巻末の表記を信じるなら、かつて我が国で学研から出ていたものがオリジナルのようです。ただし、アニメーションにもなっている作品なので、どちらが先かは分かりません。アニメを見た日本の依頼で絵本化したものかもしれないですね。この新装シリーズの出版は今まで、プロジェクト・アノ(アットアームズ+レンコーポレーション)となっていましたが、後者が降りたのか本書からアットアームズと表記されています。

 

『おやゆびひめ』 (1975年、スイス)

 作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:石川史雅

 プロジェクトアノ・2005年

 こちらもアンデルセン童話。復刻第2弾でしょうか。『はだかの王さま』とは又少し違って、どこか懐かしいような、不思議な古めかしさと気品を感じさせるタッチです。心なしか、どの絵もぼんやりとして夢うつつのように見えますが、これは復刻版だからでしょうか。

『ちいさなよるのおんがくかい』 (1980年、イタリア)

 作:リブシェ・パレチコヴァー  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:木村有子

 アットアームズ・2009年

 かつてフレーベル館から出ていたものの復刻ですが、訳も絵も新装版になっているようです。各ページごとに短いお話が載っているオムニバス風の物語集で、表題作をはじめ楽器に関するお話が多いのも特徴。どの絵も美しく印象的で、ピアノのイラストなど、ポストカードになっているほどグラフィカルなものあります。文章はやや多めですが、一日一話などと分割して読める所がメリット。漢字にもルビがふってあり、小さなお子様でも読める内容です。

 

『ソリマンのおひめさま』 (1980年、日本)

 作:カレル・チャペック  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:千野栄一

 集英社・1980年

 絵本ではなく子供向けの読み物で、「こどものための世界名作童話」シリーズの21巻に当たる本。チャペック唯一の童話集『長い長いお医者さんの話』の中にある一話を訳し、この企画のためにパレチェクが挿絵を描いたものです。全てがカラーとはいきませんが、ほとんどのページにイラストが入っているので、パレチェクのファンなら探し求める価値のある本です。カラー・ページも多く、見応えあり。

『人魚ひめ』 (1981年、スイス)

 作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:石川史雅

 プロジェクトアノ・2005年

 背景が白抜きのものあるパレチェック作品ですが、この絵本は背景まできっちり描かれていて見応えがあります。ただし、アンデルセン童話なので文章の量がかなり多いです。文章だけのページもありますが、上下に小さなイラストが入っているのが素敵。イマジネーション豊かなパレチェックの絵は、どれも幻想的で素晴らしいです。

 

『DIE BREMER STADTMUSIKANTEN』 (1990年、スイス/ドイツ)

 作:グリム兄弟  絵:ヨゼフ・パレチェク 

 Neugebauer Verlag・2002年

 グリム童話『ブレーメンの音楽隊』。正方形の小さな絵本で、ハードカバーのオリジナルを、後にミニ絵本シリーズ化したもののようです(見開きの所にリストが載っていますが、シリーズの最初はヘルガ・ガルラーの『まっくろネリノ』になっています)。有名なお話ですし、ドイツ語の文章が読めなくても雑貨的に楽しめるのでお勧めです。何より、サイズが可愛らしくて、お洒落なのがいいですね。

『PETER & DER WOLF』 (1990年、スイス/ドイツ)

 作:セルゲイ・プロコフィエフ  絵:ヨゼフ・パレチェク

 Neugebauer Verlag・2003年

 上記『ブレーメンの音楽隊』と同シリーズのミニ絵本。ロシアの作曲家プロコフィエフによる、ナレーション入り音楽童話『ピーターと狼』のストーリーを絵本にしたものです。暖色を基調とした東欧的色彩とグラフィカルなタッチが満載で、まさにパレチェク節が炸裂といった所でしょうか。ファンなら必読だと思います。

『かばのティリーネック』 (1990年、オーストリア)

 作:リブシェ・パレチコヴァー  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:木本栄

 プロジェクトアノ・2006年

 カバである事がイヤになったティリーネックが、魔法によって蝶々になったり、鳥や魚になったりする、奇想天外なお話。カバはちょっと、と思われる方もあるでしょうが、妙に人間っぽいティリーネックの姿が愛らしく、羽が生えて空を飛ぶ姿もユーモラス。文章は多めですが、漢字にもルビがふってあります。

『マシュリカの旅』 (2000年、チェコ)

 作:リブシェ・パレチコヴァー  絵:ヨゼフ・パレチェク

 訳:くう編集部

 編集工房くう・2005年

 マシュリカという魔法のリボンが、風に乗って持ち主の手を離れ、子牛や、リンゴの木や、ウサギへと次々手渡されてゆきながら、めいめいの心にポジティヴな足跡を残してゆく、という詩的な物語。作者のパレチコヴァーはプラハ出身の作家で、パレチェクの奥さん。舞台の演出やシナリオ執筆もしています。パレチェクの絵も生き生きとして奔放そのもの。原書の『DAREK』は雑貨屋さんなどで売られているのをよく見かけましたが、やっと邦訳されました。

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