ズデネック・ミレル

Zdenek Miller

* 作家紹介

 1921年、チェコスロヴァキアの首都プラハから約30キロほど西にある、クラドノという町に生まれる。絵を描く事と音楽が大好きで、ヴァイオリンはオーケストラに入って演奏する程の腕前だったが、小学校の授業でミレルの絵を見た教師が驚き、突然教室を出て行ったかと思うと、他の教師を数人集めて戻って来た。自分の絵に自信を持ったミレルは、プラハの国立絵画写真学校、続いてプラハ工芸大学に進学。第二次大戦のために大学は閉校するも、ドイツはズーリンのスタジオで強制的にアニメーター、デザイナーとして働く事になり、これが後の人生を決定づける。

 終戦後、プラハに戻った彼はチェコアニメの巨匠、イジー・トゥルンカが所長を務めるトリック・ブラザーズで働く。自身も人形アニメ、セルアニメの分野で成功し、48年『太陽を盗んだ億万長者』でヴェネツィア国際映画祭特別賞を受賞。57年、クルテク・シリーズの1作目『もぐらくんとずぼん』を発表、チェコの国民的アニメとなる。02年『もぐらくんとかえる』の出版を最後に、現役を引退。

 ミレルの名前を知らない人でも、クルテクのキャラクターは見た事があるかもしれませんね。絵本のシリーズも出ていて、日本では“もぐらくん”という訳で出版されています。ディズニーっぽいタッチにも見えますが、背景の自然描写の豊かさや色使いに東欧らしさ、チェコらしさが表れています。ストーリーも皆、自然の摂理を踏まえつつ、ほのぼのとした率直明朗なもの。クルテクの印象が強いミレルですが、他にも柔らかなタッチのものや、デザイン性の高いハイセンスな絵本なども描いていて、作風は一様ではありません。

* 作品

『もぐらとずぼん』(福音館書店)

『もぐらとじどうしゃ』(福音館書店)

『しりたがりのこいぬとみつばち』(偕成社)

『しりたがりのこいぬとおひさま』(偕成社)

『しりたがりのこいぬとたまご』(偕成社)

『ありさん あいたたた…』(プチグラパブリッシング)

* おすすめ

『ひよことむぎばたけ』 (1953年、チェコ)

 作:フランチシェク・フルビーン  絵:ズデネック・ミレル

 訳:千野栄一

 偕成社・1978年

 迷子になってひよこがお母さんの元に帰るまでの、ごく短いお話。ミレルの他の作品とは違い、写実的で格調の高い筆致がすこぶる美しいです。ひよこも可愛い。ミレルはこのお話に思い入れがあったのか、14年後に同じ絵本を再び作っていますが、横長ミニサイズの体裁のみ共通で、画風は全く違っています(下記に紹介)。お求めの際はご注意下さい。

 

『ゆかいな きかんしゃ』 (1961年、チェコ)

 作:ヤン・チャレック  絵:ズデネック・ミレル

 訳:きむらゆうこ

 ひさかたチャイルド・2006年

 きかんしゃトーマスのように、顔が付いた機関車の絵本。ページは最小限の枚数で、厚紙になっているので、幼児絵本としておすすめです。ただしセンス抜群のイラストは、大人に猛アピールするはず。車体がカラフルに塗り分けられた機関車は、『せかいでいちばんおかねもちのすずめ』にもスタイリッシュなデザインで登場しますが、ここでは動物も人間もひたすらチビっこくて可愛い造形です。二人並んで同じポーズでハサミを持つ車掌の女の子なんてもう・・・。

 あと、ミレルにはよくあるのですが、うさぎや魚、ヒヨコなど、全く同じ絵を5つくらい並べる事でパターン模様のように見せる手法は、グラフィック・デザインの素養が生かされているのを感じます。色合いはカラフルでにぎやか、構図や遠近法もモダンかつグラフィカルで、どのページも絵葉書にして欲しいくらい素敵なイラストばかりです。

『せかいでいちばんおかねもちのすずめ』 (1963年、チェコ)

 作:エドアルド・ペチシカ  絵:ズデネック・ミレル

 訳:きむらゆうこ

 プチグラパブリッシング・2006年

 これはまた、何とオシャレな絵本なんでしょう。丸や三角や四角などのシンプルな図形をたくさん使い、ポップな色彩が弾ける各ページは、どれをとってもポスターや絵葉書にしたくなる無類の楽しさ。カラフルだけどケバケバしさがなく、趣味の良さを感じさせます。さすがはプチグラさんが目を付けただけはありますね。お話は、ちょっぴり欲張りなすずめのぼさぼさくんが、仲間の大切さに気付くまでを描いたもの。

『あおねこちゃん』 (1964年、チェコ)

 作:マリカ・ヘルストローム=ケネディ  絵:ズデネック・ミレル

 訳:平野清美

 平凡社・2012年

 外国からやってきた青いネコが、周囲に受け入れられるまでを描いたお話。単に外国とだけ書かれていますが、ミンチンという名前や送り主アロソンも含めた顔の造作から、東洋(恐らくは中国)と推察されます。文章の分量がかなり多い本ながら、グラフィックの素養も感じさせるミレルの可愛いカラー・イラストは、どのページもセンス満点で魅力的。全く古さを感じさせない、おしゃれさが凄いです。ミレルはこの5年前に、同じく東洋の青いネコを主人公にした短篇アニメを作っていますが、話の内容は違っています。

『ひよことむぎばたけ』 (1967年、チェコ)

 作:フランチシェク・フルビーン  絵:ズデネック・ミレル

 訳:きむらゆうこ

 ひさかたチャイルド・2008年

 53年の作品を、ミレル自身の絵でリライト。背景や色彩など『クルテク』の雰囲気に近付いているのと、ページ数がぐっと減り、人間は登場しなくなりました。どのページもイラストが美しく、ひよこが超絶的に可愛いので、絵本好きの大人から子供まで万人に薦めたい傑作。大人の読者なら、配色やデザイン・センスの素晴らしさに唸らされるでしょう。ただし絶版のせいか、こちらは入手しにくいようです。厚紙の頑丈な本なので幼児向けにとてもいいのですが。

『まぬけのイワン』 (1973年、チェコ)

 作:マクシム・ゴーリキー  絵:ズデネック・ミレル

 訳:きむらゆうこ

 プチグラパブリッシング・2006年

 これもプチグラさんの快挙。『もぐらくん』シリーズと違ってアニメチックな雰囲気のない、しゃれた画風の絵本です。小型のサイズなのも、大人の絵本好きには嬉しい所。よく見ると細かな図形を組み合わせたグラフィック的手法もふんだんに使われていますが、ポップな『せかいでいちばんおかねもちのすずめ』とも少し違って、淡く柔らかいタッチに仕上げられています。

 ロシアの文豪ゴーリキーによる原作は、トルストイの『イワンのばか』とはまた別のお話ですが、一見愚かなイワンが実は物事の本質を最もストレートに理解しているという主題は両者に共通のものです。勿論、文章は易しく書かれているので、お子様にも十分理解できるでしょう。

『Pictures Friends 004  Krtek クルテク』

 プチグラパブリッシング・2004年

 これは絵本ではなく、『クルテク』とミレルの世界を特集した日本独自の企画本。ミニ絵本のような小さなサイズながら豊富な情報を満載し、大変に充実した本になっています。内容は、クルテク・シリーズの作品紹介やキャラクター図鑑、ミレルの他の絵本やアニメ作品の紹介、経歴とインタビュー、グッズ紹介、チェコ共和国とチェコ語のミニ講座、チェコのおやつクネドリーキのレシピ、最後には切り取り式の指人形がおまけに付いて、正に盛りだくさん。

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