ヨゼフ・ウィルコン

Jozef Wilkon

* 作家紹介

 1930年、ポーランドのボグチスに生まれる。クラクフ美術大学で絵画を、ヤギェウォ大学で美術史を学び、その後、日本で紹介されているだけでも100冊を越える絵本を発表。ライプツィヒ金賞、BIB金賞、ボローニャグラフィック賞など、国際展で数々の賞に輝き、『What is this ? なにかしら』で89年度のライプツィヒ栄誉賞を受ける。現在はワルシャワ郊外の広い庭のある家で、自然と多くの動物に囲まれて暮らしている。

 深みのある色彩と柔らかなタッチ、時にメルヘンチックほど可愛らしい動物たちのキャラクター・デザインは、どれも一目で彼の作品と分かるものですが、技法の上では水彩から出発し、テンペラ画、パステル、ガッシュなどに変遷していったと本人はいいます。非常に多作な人で、おすすめ作のチョイスがなかなか難しく、下に取り上げたものは数ある作品のうちの一部とお考え下さい。

 彼はまた大の親日家でもあり、何度も来日していますが、90年に雲仙・普賢岳で噴火があった時、地元の人々からの依頼を受けて『くろい山』という絵本を制作しています。この本は、雲仙観光協会から少部数で刊行されました。他にも、日本の作家と共作した絵本が、幾つかあります。

*作品

『こぐまのやま』

『ブラウンさんのネコ』

『くろねこのかぞく』

『にじ』

『子馬とカバ』

『トニオ』

『あたらしいぼうけん』

『いやといったピエロ』

『へんてこなフラミンゴ』

『ベビーライオンフーゴ』

『フーゴのともだち』

『フーゴのおとうと』

『なにかしら What is this?』 (以上、セーラー出版)

『カツペル、話してごらん』

『ネコ踏んじゃった!』 (以上、グリーンピース出版会)

『ノアのはこぶね』 (講談社)

『アツーク 少年がみつけたもの』 (ノルドズッド・ジャパン)

 他

* おすすめ

『ミンケパットさんと小鳥たち』 (1964年、ドイツ)

 作:ウルスラ・ジェナジーノ  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:いずみちほこ

 セーラー出版・1999年

 主に水彩の技法を使っていた初期の代表作。モノクロを指向しながらその中に微妙な色合いが映える大変美しい作風で、どこか墨絵を思わせる雰囲気もあります。後年のタッチとは違いますが、東欧らしいこっくりとした色彩感覚が味わえる、おしゃれな絵本。小鳥達に囲まれ、そのさえずりをピアノで奏でんと鍵盤に向かう丸縁眼鏡のミンケパットさんには、どことなくウィルコン自身の姿もだぶります。

 いわさきちひろがこよなく愛した絵本としても有名で、彼女の息子でもある安曇野ちひろ美術館の館長が短文を寄稿していますが、同館は本書をはじめ、ウィルコン作品の原画を数多く所蔵しているそうです。

『ちいさな いぬ』 (1981年、スイス)

 作:デサンカ・マキシモヴィッチ  絵:ヨゼフ・ウィルコン 

 訳:佐々木元

 フレーベル館・1983年

 おじいさんの家にいる、ある茶色い子犬。ある日、いつまでもここにいられないと考えた子犬は、涙をこらえ、勇気を出して外の世界に飛び出します。通常の起承転結とは違う、読み手に投げかけるようなラストがユニーク。モノトーンと粗いデッサンを基調にしたシンプルなイラストがお洒落で、モノクロの背景に子犬の茶色をワンポイントで着色したページも多いです。

『三びきの ちびっこライオン』 (1968年、フランス)

 作:ポール=ブクジル  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:那須辰造

 講談社・1984年

 動物園の檻から出て散歩をはじめた3匹の子ライオン達のお話。こちらも水彩で後年のタッチとは異なっていますが、パリでの出版を意識したのか、白を背景にカラフルな色使いで動物達を描き、鮮やかな印象を残します。又、人間のデザイン等にどことなくグラフィカルなセンスを感じさせるなど、ファンにも見逃せない作品。

『やさしい おおかみ』 (1982年、スイス)

 作:ペーター・ニックル  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:佐々木元

 フレーベル館・1983年

 お医者さんになった優しい狼のお話。妻のビネッテ・シュレーダーとよく組んでいるペーター・ニクルの作です。夜や夕方のお花畑や雪原、月なのか太陽なのか黄色い光を受ける森など、詩情溢れる美しいイラストが満載。どことなく墨絵や日本の絵を思わせるイラストもあったりしますが、一ページだけ、動物達が集まってくる場面に初期の頃のタッチも使われているのがユニークです。人名が「ユゼフ」となっているので注意。

『ねずみにとどいたクリスマス』 (1985年、ドイツ)

 作:ルドルフ・オットー.ヴィーマー

 絵:ヨゼフ・ウィルコン  訳:川中子義勝

 いのちのことば社フォレストブックス・2007年

 大きな星から救い子が生まれたという知らせを受け取ったねずみは、様々な動物や人間を道連れにしながら、救い子のいる馬小屋を目指す。イエス誕生の日の出来事を、登場キャラクターの中で一番小さな動物の視点から描いた絵本。たくさんの動物や人間が出て来るので、ウィルコンの可愛らしいイラストが楽しめる本です。人名が「ヴィルコン」となっているので注意。

『天国のいねむり男』 (1985年、日本)

 作:遠藤周作  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 河出書房新社・1985年

 日本企画のウィルコン作品の一つ。失敗ばかりして聖書にも名前が乗っていないという、イエスの弟子ズボラのお話です。めるへんの森シリーズの1冊で、架空の設定とはいえ、キリスト教の人達からは物議を醸しそうな内容。

 自然界を舞台にする事が多いウィルコン作品としては、珍しく大都会の描写が多いので、敢えて取り上げてみました。森の描写もありますが、ややシュールな感じはいつもと違います。文中にスーパーマンが登場して、イラストにも書かれているのはびっくりですが、その横はもしやバ○○マン?(この辺も違う方面からヤバそうな・・・)

『こうもりサーカス』 (1985年、スイス)

 作:イヴリン・ハスラー  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:佐々木元

 文化出版局・1986年

 サーカスの名人、こうもりのピピストレリ一家の冒険。火事で町から逃げ出し、新しい住まいを探す話なので、ウィルコンのイラストも変化に富んでいます。ただ、主役がこうもりなので、可愛いと感じるかどうかは好みの分かれる所かも。背景の自然や風景は美しいです。都会や人間も登場。

『ぴょん ぴょん うさぎ ぴょん』 (1985年、スイス)

 作:ヨゼフ・グッゲンモース  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:たかはしけいすけ

 セーラー出版・1990年

 うさぎをめぐる12ヶ月の情景を、四季折々の自然と共に美しいイラストで描いた絵本。著者はドイツの児童文学作家で、本書のように詩集みたいな作品も書いているようです。ページによっては長い文章もありますが、大抵は短い散文詩のようなもの。変化に富むウィルコンの素晴らしい絵と共に、詩画集としてプレゼントにも最適。

『ゆきだるまのさがしもの』 (1988年、スイス)

 作:ゲルダ・マリー・シャイドル  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:いずみちほこ 

 セーラー出版・1988年

 花を探しに出かけたゆきだるまのお話。雪景色とパステルカラーの町並み(夜景)、お花畑の対照が美しい上に、主人公のゆきだるまが可愛らしいので、お薦めに取り上げました。お話は、他愛のないものです。

『月がくれたきんか』 (1988年、スイス)

 作:アナリーセ・ルッサルト  絵:ヨゼフ・ウィルコン 

 訳:いずみちほこ 

 セーラー出版・1988年

 こちらは、ウィルコン節全開の楽しい絵本。金持ちと貧乏、二人の農夫による民話風の教訓物語です。寒色系・暖色系とさまざまに変化する色彩が印象的で、クレヨンを思わせる柔らかな線も、ほのぼのとした空気を読み手に伝えます。ウィルコンの絵本はどれも美しい上に出版点数がかなり多いので、どれを取り上げようか迷いますが、本書はページをめくった時の第一印象(特に色合い)でピックアップしました。

『すきすきだいすき 〜ブルーノのプロポーズ〜』 (1991年、ドイツ)

 作:ピョートル・ウィルコン  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:いずみちほこ

 セーラー出版・1992年

 私が最初に魅せられたウィルコン作品が、これです。大阪南港ATCの大規模な絵本フェアでお目にかかったのですが、手に取って一目見た瞬間に惚れ込んでしまいました。主人公達の造形がキュートなのは勿論ですが、その優しさというか、全体を包む暖かい幸福感みたいなものが素晴らしい。それでいて、絵画的な構図やデザイン性、微妙な色彩感覚も際立っています。お話が恋愛物なのも、本書の愛らしさの秘密かもしれません。

 

『どうぶつえんから にげだそう!』 (1993年、スイス)

 作:ピョートル・ウィルコン  絵:ヨゼフ・ウィルコン 

 訳:鷺沢萌

 講談社・1997年

 タイトル通り、動物園から動物たちが逃げ出すお話です。街中に放たれた動物たちの描写が楽しく、ウィルコンのイラストもシチュエーションが多彩で変化に富んでいるので、彼の絵を眺めるのが目的の人にはお薦めの1冊。

『ちびおおかみ』 (1993年、スイス)

 作:ゲルダ・ヴァーゲナー  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:鷺沢萌

 講談社・1998年

 ちっとも恐くないので兄弟から笑われたちびおおかみ。ねずみが何とか恐ろしげに変身させようとするが・・・。個性は色々でいいという、絵本によくあるテーマですが、お話よりも美しいイラストが魅力的。お得意の森や丘の描写を中心に、柔らかなタッチと陰影に富んだ色彩センスが素晴らしいです。真ん中に四角くイラストを配置しているページが多く、これが額縁やポストカードのような雰囲気があるのも、雑貨好きの大人にはたまらない所。

『マリオンのおつきさま』 (1994年、スイス)

 作:ゲルダ・マリー・シャイドル  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:鷺沢萌

 講談社・1997年

 少女マリオンが描いた、ムーン・マンのお話。シルクハットにタキシードを着たにっこり顔のお月様で、子供が書いたイラストらしくとても可愛いです。川べりの町や丘、城壁など、背景が美しく描かれているのもウィルコンらしい所。寝ている姿しか出てこないマリオンもキュート。

『ケイティーと おおきな くまさん』 (1995年、スイス)

 作:ヘルマン・メールス  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:鷺沢萌

 講談社・1995年

 少女ケイティーと、本の中から飛び出してきたくまのお話。街が舞台なので、都会や室内の描写がたくさんあるのが、ウィルコン作品では珍しいです。真っ赤に塗られた長いエスカレーターのページなんて、とても印象的。赤いリボンに赤い靴とワンピース、くっきりしたお顔のケイティーもかわいいです。

『いっしょに いたら たのしいね』 (1995年、スイス)

 作:パズ・ロディロ  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:久山太市

 評論社・1996年

 川に住むサカナと空のコトリは友達どうし。ずっとコトリ一緒にいたいと思ったサカナは、魔法使いに空を飛べるようにしてもらうが、空を探しまわってもコトリは見つからなかった。その頃、コトリも・・・。自然の描写や陰影の深い色彩などウィルコンの個性は大いに発揮されていますが、ユニークなのは金色をふんだんに使っていること。そのせいか、著者独特の色彩感がより際立って美しく感じられます。

『クララ しあわせを さがして』 (1996年、ドイツ)

 作:ギゼラ・クラール  絵:ヨゼフ・ウィルコン 

 訳:鷺沢萌

 講談社・1999年

 お母さんから幸せを自分で探しにゆくように言われた、赤ちゃんアザラシの旅。山野のお話が多いウィルコン作品には珍しく、海の生物がたくさん登場するので取り上げました。シロクマ、タコ、魚、クジラ、カメと登場キャラクターはなかなか楽しいですが、海だけに画面構成はシンプルで、色合いも白が基調で制限されています。

『金のひかりが くれたもの』 (1997年、スイス)

 作:ピョートル・ウィルコン  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:久山太市

 評論社・1997年

 オタカ王とルシンダ姫の城に、旅人の魔法使いコルネリウスが現れる。王はコルネリウスの魔術に魅せられ、城中を金に変えてゆくが・・・。オカタが金ピカ王と呼ばれるまでになるにつれて、ページがどんどん金色で埋め尽くされてゆく趣向です。金色との対比のためか、こってりと濃いめの色使いがウィルコンには珍しく、おとぎ話らしい構図も大変に美しいです。画集としても、見応えのある絵本。

『ホッペル、ポッペル、それともストッペル?』 (2000年、スイス)

 作:マックス・ボリガー  絵:ヨゼフ・ウィルコン

 訳:さかくらちづる 

 評論社・2003年

 お母さんウサギでさえ見分けが付かなくて困ってしまうほど、よく似た子ウサギ兄弟ホッペル、ポッペル、ストッペル。心配したお母さんウサギは、子供達を旅に出す事にした。スイスの児童文学者ボリガーと組んだ、可愛いお話。

 画風が初期の水彩画のタッチに戻ってきたようで、そこにガッシュなど他の技法を組み合わせているように見えます。多様な色彩を用いながら、全体がモノトーンのような印象を与える配色も独特で、日本の水墨画の影響も見られるように思います。動物達も、擬人化されていた過去の作風と違い、リアルなタッチ。尚、人名表記は「ユゼフ・ヴィルコン」となっていますのでご注意を。

『二羽のツグミ』 (2002年、スイス)

 作・絵:ヨゼフ・ウィルコン  訳:さかくらちづる 

 評論社・2004年

 ウィルコンの最愛の妻マウゴジャータが98年1月、ガンでこの世を去りました。宣告からわずか3ヶ月後のことでした。本書は、作者が妻に捧げた美しいレクイエム。出会い、愛し合い、幸せに生きる二羽のツグミ。平穏な日常の中で、大切な事は忘れがちになってしまうが、気付いた時には、別れがすぐそこに待っていた。

 インスピレーションの源泉であったとも言われる奥さんに捧げただけあって、イラストも彼の集大成。過去の様々な技法を盛り込んで、多彩な変化に富みます。自身で書いた少し長めの文章も、さりげない調子の中に万感が胸に迫る物語。結末のあまりの唐突さに、ウィルコンの、妻への想いが溢れます。

item6
item7
item8
item10
item11
item12
item13
item14
item15
item16
item17
item18

*   *   *

 

Home  Top