『ジョットという名の少年 羊がかなえてくれた夢』 |
(1998年、イタリア) |
作:パオロ・グアルニエーリ 絵:ビンバ・ランドマン |
訳:せきぐちともこ |
西村書店・2000年 |
作家紹介の所で書いたように、原画が実際の絵本よりも小さなサイズで木版にまとめて描かれている、異色の作品。ルネッサンスの先駆けとなったイタリアの画家ジョット、農夫だった彼が、羊の絵を書いていた所を画家チマブーエに見いだされたエピソードなど、言い伝えを元にした物語です。 |
ランドマンのタッチは、絵本でありながらまるで宗教画のように荘厳で美しく、どのページも細部に至るまでじっくりと味わいたくなるもの。それでいて、人物や動物のデッサンは微妙に可愛らしく、本物の宗教画と違ってどこか親しみやすさも備えています。漫画のようにコマ割りになっているのも独特の体裁。大人にとっても読み応えがありますが、漢字にはルビがふってあり、お子様にも自信を持ってお薦めできる素晴らしい絵本です。 |
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『天才レオナルド・ダ・ヴィンチと少年ジャコモ』 |
(2000年、イタリア) |
作:グイド・ビスコンティ 絵:ビンバ・ランドマン |
訳:せきぐちともこ |
西村書店・2000年 |
ランドマンの邦訳絵本第2弾は、これもルネサンスを代表する芸術家ダ・ヴィンチの活躍を、実在した助手の少年ジャコモの目を通して描いた秀逸な作品。やはり宗教画を思わせる格調高いタッチと色彩で描かれています。『ジョット〜』の方は、金の塗料が印象的に使用されていましたが、本作では銀が使われていて、「豪華5色刷り」と帯で謳われている印刷技術ゆえか、これも美しく浮き上がって見えます。文章は、絵本としてはやや多めですが、ダ・ヴィンチの含蓄に富んだ言葉の数々は、深く心に残ります。 |
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『シャガール わたしが画家になったわけ』 (2005年、イタリア) |
作・絵:ビンバ・ランドマン |
訳:白崎容子 |
西村書店・2006年 |
こちらはイタリアを離れ、ロシアの画家マルク・シャガールの人生を、自身の著書『わが生涯』を下敷きに、主人公の一人称で語ったもの。原画は絵ではなく、様々な素材を使った立体のコラージュを写真に撮ったもののようです。造型や色彩も今までのランドマン作品とは少し違って、シャガールの絵のタッチを生かしたような印象を受けますが、ともあれユニークな絵本である事に変わりはありません。 |
シャガールは百歳近くまで、とにかく波瀾万丈の人生を生きた人なので、最後に掲載されている年譜は本文の参考になります。この絵本シリーズは、ちょっとした解説が最初や最後に付いていたりして、実在の人物を描いた絵本にふさわしい親切な構成だと思います。 |
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『ギリシア神話より オデュッセウスの旅』 (2007年、イタリア) |
作・絵:ビンバ・ランドマン |
訳:せきぐちともこ |
西村書店・2008年 |
画家の生涯を描いてきた過去の作品とはガラリと変わり、ホメロスの『オデュッセイア』を絵本化。トロイの木馬のエピソードや、一つ目巨人、ミノタウロスとの戦いなど、有名な場面も全て盛り込んだ結果、コマ数はコミックばりに多いし、ページ数もかなり大部になってデラックスな印象(お値段も少し高くなっています)。ランドマン独特のデッサンと不思議なムードは健在ですが、今回はかなりシュールな絵も散見され、残酷な場面も多数。やはり大人向きの絵本だと言えるでしょう。各場面ごとにテーマ・カラーを分けているのは大変印象的で、『オデュッセイア』のダイジェストとしては非常に面白く読める本だと思います。 |
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『ラファエロ 天使に愛された画家』 (2012年、イタリア) |
作:ニコラ・チンクエッティ 絵:ビンバ・ランドマン |
訳:青柳正規 |
西村書店・2013年 |
本作では再び画家の伝記に戻り、画風も初期のジョットやダ・ヴィンチの頃に回帰しています。壁画のような神秘性や格調高さと、絵本らしい親しみやすさを両立させながら、目を見張る色彩の美しさや漫画のようなコマ割りによるストーリー性も盛り込む手法は、ランドマンならでは。作者のチンクエッティも児童書を数多く手掛ける人との事ですが、ラファエロ自身の語りで進行しながら、様々な出来事を手際良く盛り込む手腕は秀逸。ランドマン作品では『ジョットという名の少年』と共に、とりわけお薦めしたい一冊です。 |
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『ミケランジェロ 石に命を吹き込んだ天才』 (2014年、イタリア) |
作:キアーラ・ロッサーニ 絵:ビンバ・ランドマン |
訳:森田義之 |
西村書店・2014年 |
このシリーズも、最初の頃からするとコマ割の漫画風タッチから変わってきて、より自由な構図と遠近法を駆使して、ダイナミックにページを構成するようになってきています。極端なクローズアップと引きの絵を対象させる手法はランドマンの特徴でもありますが、ページのデザインが変化に富んでいて、様々なアイデアで読者を飽きさせません。彫刻の描き方がリアルなので一瞬写真かとも思いますが、よく見るとやはり絵のようです。画家の生涯に童話のようなストーリー性を打ち出すロッサーニの文章も、このシリーズらしくて感動的。 |
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『サン=テグジュペリと星の王子さま 空に幸せを求めて』 |
(2013年、イタリア) |
作・絵:ビンバ・ランドマン |
訳:鹿島茂 |
西村書店・2014年 |
飛行士になったサン=テグジュペリが、名作『星の王子さま』を書き、飛行中に消息を絶つまでを描いた絵本。ランドマン特有の芸術的な絵の数々に魅了されますが、本書は彼女自身による文章も実に素晴らしく、作家の有名な生涯をよく知る人にも、改めて感動を与えるような内容になっています。砂漠でキツネと出会うなど、『星の王子さま』の世界を作家の現実に投影させる、イマジネーションの飛翔も素敵。 |
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『イクバル 命をかけて闘った少年の夢』 (2016年、イタリア) |
作:キアーラ・ロッサーニ 絵:ビンバ・ランドマン |
訳:関口英子 |
西村書店・2017年 |
本作の主人公イクバル・マシーは、パキスタンの小さな村に生まれた少年で、4歳の時にわずか12ドルで絨毯工場に売られ、牢獄のような工場で重労働を課せられました。9歳の時、彼は工場を抜け出し、児童労働を無くす活動をしている団体に参加した事で、弁護士の力を借りて仲間と共に自由の身となりますが、12歳の時に故郷の村で暗殺されて亡くなります。 |
ランドマンの絵本は、描かれる主人公の気概や熱量に肉迫する態度が顕著で、単なる伝記と違って熱いものを内に秘めている事が多いですが、その好例が本書。一応は伝記という体裁ですが、イクバル少年の一生を忠実に描写する事にはあまり興味を示さず、想像力を駆使して少年の内面に迫る事で、より強いメッセージ性を付与し、寓話に昇華させる事に成功しています。そのため、文章の多くは少年の心の叫びに費やされ、暗殺の場面も省かれています。 |
作風は、タッチこそランドマン流ですが、一部に写真などもコラージュしたりアイデアが満載です。ユニセフ・イタリアが協力している事もあるのか、最初と最後には写真入りでイクバル少年や児童労働の廃止活動も紹介。より多くの人に手に取ってもらいたいという事か、本のサイズもアートな絵本シリーズより小さくなっています。祈りにも似た著者の切望が伝わってくる、感動的な絵本。 |
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