ユリー・シュルヴィッツ

(ユリ・シュルヴィッツ)

Uri Shulevitz

* 作家紹介

 1935年、ポーランドのワルシャワ生まれ。画才に恵まれていた両親の励ましもあり、3歳から絵を描きはじめる。4歳で第2次大戦に遭い、各地を転々とした後、47年パリに落ち着く。当地の中学校で美術展に入賞したりもするが、2年後にイスラエルへ移住、テル・アヴィヴの教員養成機関で学ぶ。

 59年に渡米、2年間ブルックリンの絵画学校で学んだ後、ニューヨークの出版社でヘブライ語の児童書に最初のイラストレーションを描く。やがて子供の本のための新しい絵のスタイルを見いだし、63年に『ぼくのへやの月』、続いて『あるげつようのあさ』『あめのひ』(69年)を出版。同年、『空とぶ船と世界一のばか』でコルデコット賞を受賞。

 69年にアメリカの図書館協会の選定図書に選ばれた『あめのひ』は、私が子供の頃に買ってもらって最も魅了された絵本の一つで、今でも当時のまま所有しています。いかにも東欧らしいくすんだ色彩や、翳りのある人物の表情が気に入っていますが、彼の他の絵本は、もっとくっきりした線を使った、明るいタッチのものが多いようです。ここでご紹介した冊は、どちらかというと、シュルヴィッツの作品の中では珍しい作風のものなのかもしれません。

* 作品

『ぼくとくまさん』 (あすなろ書房) デビュー作

『ゆき』 (あすなろ書房) コルデコット賞・銀賞

『ゆうぐれ』 (あすなろ書房)

『ねむいねむいおはなし』 (あすなろ書房)

『おとうさんのちず』 (あすなろ書房)

『あるげつようびのあさ』 (徳間書店)

『空とぶ船と世界一のばか』 (岩波書店) コルデコット賞・金賞

『じどうしゃトロット』 (そうえん社)

 他

* おすすめ

『あめのひ』 (1969年、アメリカ)

 作・絵:ユリー・シュルヴィッツ

 訳:矢川澄子

 福音館書店・1972年

 街に降ってきた雨が、雨どいや溝を流れてゆき、野や山を走って川となり、やがては海へと集まってうく様を、雨のやみ間や町なかの情景をまじえながら詩情豊かに描く、美しい絵本。

 いかにも東欧出身の作家らしく色を制限していて、くすんだ灰色と青、緑の調子をベースに、子供の頃、雨の日に感じる、甘やかでノスタルジックな静寂の世界へと、私達をいざないます。それらの絵に添えられる、詩的で簡潔なテクストも魅力。例えば、“みずたまりは そらの かけら ぴょんと とびこそう”、“はてしない わだつみ うねり あわだち てんまで とどけ”など。子供達の表情や、街角の描写にも独特なムードがあって、そのヨーロッパ的な色調に、大人になった読者も魅了される事でしょう。

『よあけ』 (1974年、アメリカ)

 作・絵:ユリー・シュルヴィッツ

 訳:瀬田貞二

 福音館書店・1977年

 “音もなく、静まり返る湖のほとりに、おじいさんと孫が毛布にくるまって寝ている。やがてそよ風が出て、生き物が活動をはじめ、二人はボートに乗って湖に漕ぎ出す。その時‥‥山と湖が緑に染まった!”

 物音ひとつせず動くものもない世界が、少しずつ活動を開始し、よあけを迎えて輝かしい色に染め上げられるまで。『あめのひ』とはまた違った淡い色調と柔らかい線で、やはり詩的な雰囲気とドラマティックな構成で、スタティックに描いた絵本です。東洋の文芸・芸術にも造詣が深いというシュルヴィッツは、唐の詩人、柳宗元の詩《漁翁》をモティーフとしていますが、それをきかずとも、何かしら深遠で神秘的な世界を感じさせる所はさすが。例によってテクストが簡潔で意味深く、訳文も大変に美しいものです。

『たからもの』 (1978年、アメリカ)

 作・絵:ユリー・シュルヴィッツ

 訳:安藤紀子

 偕成社・2006年

 ある貧しい男が、夢のお告げに従って町まで旅をする・・・。すぐ近くにある宝物のためにはるばる旅をしなければならない事もあるという、パウロ・コエーリョの人気小説『アルケミスト』をシンプルにしたような寓話。それをシュルヴィッツらしい、極限まで切り詰めた言葉で描いています。画風としては『あめのひ』に近いタッチですが、色合いに暖かみがある点が違いと言えるでしょうか。80年、コルコデット賞銀賞受賞作。

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