ブリッタ・テッケントラップ

Britta Teckentrup

* 作家紹介

 ドイツ、ハンブルグ生まれ。英国、ロンドンのセントマーティンズ・カレッジ・オブ・アート、ロイヤル・カレッジ・アートで学び、絵本作家として活躍。これまでに80冊以上、20カ国以上の国で作品が出版され、テキスタイルや雑貨のデザインも注目されている。絵画展も多数開催。共にアーティストである夫、息子と共にベルリン在住。

 切り絵のように事物を抽象化したような作風は、立本倫子との共通点も感じさせます。しかし彼女の場合はデザイン画やグラフィックに傾きすぎず、絵本らしい情報も残していて、それが読者の記憶に潜むロマンティックな叙情を喚起します。又、動物や自然の造形が絶妙に愛らしく、配色のセンスにヨーロッパらしい中間色の陰影を感じさせるのも魅力。『きみならできるよ!』以外は画風が大体共通ですので、おすすめ欄には特に色彩が美しく、変化に富んでいるものを取り上げました。

* 作品

『きみならできるよ!』 (評論社)

『くっさいぞぉくまくん』 (コクヨS&T株式会社)

『とらさん おねがい おきないで』 (ひさかたチャイルド)

『くまくん、はるまでおやすみなさい』 (徳間書店)

『どこにいるかわかるかな?』 (ポプラ社)

『そっくりさん どこにいるかわかるかな?』 (ポプラ社)

 他

* おすすめ

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『どれくらいひろいの?』 (2006年、イギリス)

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:えもとくによ

 コクヨS&T株式会社・2008年

 世界がどのくらい広いか知りたくなったもぐらの子が、旅に出て色々な動物と出会う話。ページをめくるたびに刻々と移り変わる色彩の美しさは、読者の目を虜にするに違いありません。一見シンプルな線で抽象化しているように見えて、実は非常にグラデーションの豊かな配色を展開。クジラが住んでいる海だけでも、一体どれほどの階調と色の変化がある事でしょう。深い森や高層ビルが立ち並ぶ都会も、独創的なデザインで表現されていてさすがです。

『いのちの木』 (2013年、イギリス)

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:森山京

 ポプラ社・2013年

 森に住むキツネが、年をとって雪の中で息絶える。そこに集まってきた動物達は、キツネの思い出を語り合い、いかにこの森にとって大切な存在だったかを確認しあう。しみじみとした余情を感じさせるお話も感動的ですが、どのページを開いても画の力に心を奪われます。動物や植物のタッチの可愛さと、ヴィヴィッドな原色をあまり使わない微妙な色彩感覚に深い味わいあり。

『手と手をつないで』 (2014年、イギリス)

 作:マーク・スペアリング  絵:ブリッタ・テッケントラップ

 訳:三原泉

 BL出版・2016年

 ネズミの親子(?)が手をつないで山野を歩いてゆくだけの絵本で、お話を読むというより、絵を楽しむための作品かもしれません。様々な動物や植物が、著者特有の計算し尽くした色彩設計とグラフィカルなタッチで描かれますが、やはり切り絵風の抽象化に傾倒しすぎず、四季の移ろいなど情感を喚起する画風が素晴らしいです。

『おなじ そらの したで』 (2017年、イギリス)

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:木坂涼

 ひさかたチャイルド・2017年

 僕達はみんな、同じ空の下で生きている、ここでも、遠くでも。空を見上げる動物達が美しいイラストで描かれた、心に沁み入る叙情的な絵本。表紙をはじめ、ページに穴が開いた仕掛け絵本でもあり、穴の下のイラストや文章は、次のページと連関しています。イラストは一見切り絵のようにも見えますが、色彩の陰影に富み、しなやかな曲線も多用されています。キャラクターの可愛さと、ページごとに変化してゆく多彩な配色も素敵。

『かべの むこうに なにが ある?』 (2018年、イギリス)  

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:風木一人

 BL出版・2019年

 巨大な壁の内側で暮らす動物たち。小さなねずみは壁の向こうの世界に興味を持つが、誰もが無関心で、外で出る勇気を持たない。ある日、外からやってきた鳥の背中に乗ったねずみは、外の世界の素晴らしさを知る。そして、本当は壁なんて無かったのだという事に気付く。

 赤い壁とモノトーンの内側、カラフルに彩色された外の世界と、対比を貴重にした演出を効かせた絵本(カバーと表紙もこの関係にあります)。威圧的な壁を心理的な壁へと転換する物語も秀逸ですが、美しいイラストは見るだけでも楽しめます。ドイツ人の彼女らしいのは、この壁が明らかに「ベルリンの壁」を想起させる所。見開きに、「勇気ある人たちに/そして、壁のない世界に」という言葉があって、思わず胸を打たれます。

『モグラのねがいごと』 (2018年、イギリス)  

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:三原泉

 BL出版・2019年

 星空が大好きなモグラが流れ星にお願いをすると、空に向かって伸びるはしごがたくさん現れて・・・。よくある道徳的な説教話ですが、しみじみと優しい語り口、あまりにも美しくて涙さえ出そうになる素敵なイラストで、見事にテッケントラップ印の絵本になっています。夜空がメインなので寒色系のカラー・パレットを用いながら、暖かみのある室内、星の消えた暗い森など、ため息が出るほど詩情豊かなページばかり。切り絵風のタッチも健在です。

『おおきな おおきな 木みたいに』 (2019年、イギリス) 7/23 追加!

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:木坂涼

 ひさかたチャイルド・2019年

 反発しあう二人の子供の間に、地面から生えたギザギザ。でも、悪口だけでなくお互いに色々な声を掛け合ううち、このギザギザはだんだん木のように成長してゆきます。

 全ページの真ん中に開いた木の形の穴が、子供たちの関係性とともに大きく育ってゆく、一種の仕掛け絵本。しかしイラストは著者らしい陰影に富んで美しく、ほの暗い背景のページも多かったりして、大人が画集として眺めるにも味わい深い絵本です。

『ブルーが はばたく とき』 (2020年、イギリス)

 作・絵:ブリッタ・テッケントラップ  訳:三原泉

 BL出版・2020年

 歌うことも飛ぶことも忘れた、孤独な小鳥ブルーのお話。イエローの鳥と出会って、ブルーの世界が変わってゆくという展開で、イラストも正に色彩の響き合いとなっていますが、無闇に原色を散らさず、シックにまとめた驚異的な美しさがテッケントラップらしいです。最初の方では濃く、暗い背景と対照されていたブルーが、最後には淡く、明るい世界に溶け込んでゆく色彩設計も秀逸。

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