アンネゲルト・フックスフーバー

(アネゲルト、アンネゲルト・フクスフーベル)

Annegert Fuchshuber

* 作家紹介

 1940年、東ドイツのマグデブルグ生まれ。12歳の時から絵本を描き、西ドイツのアウグスブルグ工芸美術学校で学んだ後、印刷会社で植字を習う。ミュンヘンで商業デザイナーを経て、本のイラストレーターとして活躍。料理本やパズル、新聞イラスト、カレンダーも手掛ける。『友だちのほしかった大おとこの話』でドイツ児童文学賞を受賞。趣味は古いガラス器の収集、スキー、音楽鑑賞。三児の母でアウグスブルグ在住。

 写実的な陰影で立体感を出しながらも、構図や造形に絵本らしい個性を出してゆく手法には、同じドイツ出身のビネッテ・シュレーダーやミヒャエル・ゾーヴァと同じ匂いを感じます。濃いめの発色でカラフルに設計しながら、どぎつさを感じさせない絶妙な色彩センスも、ヨーロッパのアーティストならでは。造りに仕掛けのある絵本や、難民や環境問題を扱ったシリアスな作品などテーマが多彩で、イラスト自体にも斬新なアイデアを盛り込む人です。

* 作品

『Floris Weihnachtstraum』 『From Dinosaurs to Fossils』

『Joker and the Lion』 『Henry and the Bombardon』

『Augsburg Story Bible』 『Toribio, and the Magic Hat』

『Der Mond』 『Lotte ist lieb』

『Two Peas In A Pod』 『Die Nikolausstiefel』

『Es stand ein Stern in Bethehem』 『Jona』

 他

* おすすめ

『世界で一番美しい星 ミヒル少年のアドベント・絵本・カレンダー』

 (1969年、ドイツ)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:鈴木和男

 燦葉出版社・1980年

 絵本としても読めますが、本当にアドベント・カレンダーになっているので、購入を検討される方はご注意下さい。縦にめくっていく体裁で、しおりくらいの細長いページからはじまり、ページ幅が増えていって、最後のページでフルサイズになります。言葉で説明するのは難しいですが、全ページにカラーのイラストと文章が載っているので、ページのめくり方にこだわらなければ、普通に絵本としてお薦めできます。一種の仕掛け絵本だと思えばいいでしょう。

 画風はチェコ絵本のような造形の平面的なイラストで、これも可愛いので私は好きですが、他のフックスフーバー作品とはタッチが異なります。人名表記も「フクスフーベル」となっているので、ネットで検索する場合は要注意。彼女によるアドヴェント・カレンダー(ドイツ語原書)はサイトの検索にも数点あがってくるので、もしかすると毎年クリスマスに出しているのかもしれません。

『ゆめくい小人』 (1978年、ドイツ)

 作:ミヒャエル・エンデ  絵:アンネゲルト・フックスフーバー

 訳:酒井真理子

 偕成社・1981年

 まどろみ国のお姫様は、怖い夢を見るので眠るのを恐れていた。心配した王様は姫を救う旅に出て、夢を食べる奇妙な小人と出会う。ドイツの国民的作家エンデと組んだ、フックスフーバーの代表作。イラストは既に個性が確立していて素晴らしいですが、ゆめくい小人に関しては可愛いかグロいか、線引きが微妙な所。怖い夢を食べる場面も結構シュールで、見ようによっては恐いかも。

『フィディブスとはらぺこライオン』 (1980年、ドイツ)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:さきおかよしみ

 フレーベル館・1983年

 真っ白なページに卵が一つ。そこから主人公フィディブスが出て来て、ペンで地面の線を描き、花や木を描いて空を塗り、ページに色が着いていってお話が始まるという、フックスフーバーらしい仕掛けがユニークな絵本。急に登場するライオン、お姫様を探しにゆくストーリーと突拍子もない展開の連続ですが、どうも意図的に唐突な表現をして面白がっているような所もあります。

 イラストが素晴らしく、画集としての完成度が高すぎ。斬新な構図で描かれた草原の情景の美しさ、ガラスのお城の13の塔で13羽のフクロウが鍵をくわえている画のシュールさ、強盗に襲われてフィディブスとライオンが両手を挙げている図のユーモア。どのページも魅力いっぱいで、表現の引き出しの多さに脱帽です。絶版で入手しにくいのがひたすら悔しい一冊で、人名表記は「フクスフーバー」となっているので要注意。

『わすれられた庭』 (1981年、ドイツ)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:酒寄進一

 福武書店・1988年

 人々の忘れ物が集まる、わすれられた庭。主人公カティと、庭にいる不思議な小人のお話です。文章がやや多く、漢字にルビがふってあるとはいえ文字も小さいので、お子様向けには要注意。それよりも、大人が画集として眺める用途にぴったり。美しくカラフルで、イマジネーション豊かなイラストが圧巻です。

 木にぶらさがっているたくさんの時計、草原を舞う傘の群れ、ほぼブルー系一色で統一されたカティの家の食堂など、ページをめくるたびに目と心を奪われてしまいます。絶版でプレミア価格になっている事が、ひたすら腹立たしい一冊。

『ノアのはこぶね』 (1982年、オーストリア/ドイツ)

 作:ゲルトルート・フッセネガー 

 絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:松居友

 女子パウロ会・1984年

 聖書の中の有名なお話を、チェコの作家による文章で絵本化。イラストはまったくフックスフーバーらしい魅力的なもので、カラフルで濃厚だけど派手じゃない配色、可愛らしいキャラクター造形、写実的で美しい構図によって、どのページも目を楽しませてくれます。ちなみに本書は、人名表記のファースト・ネームが「アネゲルト」となっているので、検索の際は要注意。

『ハーメルンのふえふき』 (1984年、オーストリア)

 絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:小澤俊夫

 偕成社・1985年

 有名なドイツの民話がモティーフ。こんもりと盛り上がった山々や町並み、極端な遠近法や宗教画を思わせる構図など、随所にフックスフーバーの個性を発揮したユニークな絵本です。子供向けのグリム童話絵本というより、大人が楽しむ画集として眺めたい内容かも。

『友だちのほしかった大おとこの話/友だちのほしかったネズミの話』

 (1986年、ドイツ)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー 訳:たかはしようこ

 偕成社・1986年

 臆病すぎて友達がいない大男、勇敢すぎて友達がいないネズミ。それぞれのお話が本の真ん中で出会う、前からも後からも読める仕掛け絵本。表紙は裏と表が上下逆さになっていて、それぞれに別のタイトルが付いています。フックスフーバーらしい凝った趣向が楽しいですが、美しく味わい深いイラストも素敵。ネズミの容姿をリアルに描いておきながら、棒に下げた風呂敷包みを持たせるという、行動だけ擬人化するスタイルがユニークです。

『ちきゅうの子どもたち』 (1988年、ドイツ)

 作:グードルン・パウゼヴァング

 絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:酒寄進一

 ほるぷ出版・1990年

 人間の横暴に怒った地球が、子供たちを飲み込んでしまった・・・。環境破壊に対する怒りをファンタジーの形で表現した、ヨーロッパらしい絵本。

 リアリズムを基本としたアプローチと画力が圧巻。鮮やかな色彩センスも見事ですが、ゴミの山や工事現場、工場、荒涼とした空き地など、現実世界を写実的なタッチでヴィヴィッドに突きつけて来る所、描き手の強い意志を感じさせます。大胆な構図の高速道路、子供達がそれぞれの親を説得する場面を表現した、小さな窓が並ぶマンションのロングショットなど、斬新なアイデアも満載。

『手のなかのすずめ』 (1988年、ドイツ/オーストリア)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:平野卿子

 ほるぷ出版・1990年

 森の中で迷子になってしまった少年ティム。恐ろしい森の中で怯える彼が、すずめの赤ちゃんを見つけた事で、苦境を切り抜ける勇気と、守るべきものに対する責任感を得る。少年の成長を描いた美しい絵本ですが、特筆すべきは想像力溢れる絵の素晴らしさ。

 例えば、森の木々にボタンが付いていたり、文字が書いてあったり、枝が手になっていたりするのですが、こういうイメージの飛ばし方はフックスフーバーならではの独創的なものです(我が国では出久根育も似た事をやってます)。鮮やかさとシックな趣を兼ね備えた、絶妙な色彩感覚も魅力。

『かっこう時計のかっこう』 (1988年、ドイツ)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:加藤丈雄

 京都書院・1989年

 これは、非常に変わった絵本です。どのページも左が文章、右が絵になっているのですが、右ページの絵はある家の外観が、同じ構図で描き続けられています。一方、左の文章ページには時計の絵が幾つか入っていて、その時間に合わせて家で何が起きているのか、長めの文章が綴られます。定点観測のように、同じ風景の中で細部が変化してゆくという仕掛け。つまり、ある家の一日を、時計と文章とイラストで描いた絵本なのです。絵の美しさも相変わらず。

『カーリンヒェンのおうちはどこ?』 (1995年)

 作・絵:アンネゲルト・フックスフーバー  訳:池田香代子

 一声社・2004年

 戦争で村を追われた少年が、「おばかさん」に受け入れられるまでを描いた絵本。難民という、現在進行中のシリアスなテーマを、ファンタジーの世界に置き換える事で寓話的に語っています。もっとも、魔女の国やカラスの国など異世界をさまよいながらも、人間が住む都会にはコカコーラの空き缶が落ちていたりして、現実世界と地続きに描こうという姿勢は見え隠れします。

 フックスフーバーらしい豊かなイマジネーションの飛翔は、本書でも健在。森の木々に足が生えていたり、都会の空が看板でぎゅうぎゅう詰めに埋め尽くされていたり、美しい色彩の中にユニークなアイデアがたくさん盛り込まれています。

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