マルタ・コチ

(マルタ・コッチ、コチー、コーチー)

Marta Koci

* 作家紹介

 1945年、チェコスロヴァキアのオルムッツ生まれ。ウヘルスケ・フラディシュチュ工芸美術学校で絵画を学び、64年オーストリアに移住。ウィーンでグラフィック・デザイナーの仕事をした後、絵本の世界に魅せられ、71年に最初の絵本を出版。畑や牧場仕事の合間に絵本を制作する。作品は『すてきな旅』『よくばりの王さま』『イバン ディバン』など。

 彼女の作風も単一ではなく、下記おすすめ欄で取り上げているのは、丸っこい線と斜めに傾いた造形を駆使した、童心溢れる系列のもの。素朴で愛らしいキャラクターと、東欧らしい味わい深い色彩が魅力です。『ピンキー・プウ』のシリーズなどは、アニメチックな筆致で結構モダンな印象。『リベックじいさんのなしの木』や『だいすき!ブラッカード』は水彩のようで、絵の具のにじみを生かしていますが、造形自体はおすすめ欄の諸作の延長線上にあるので、人によっては好みにフィットするかもしれません。

* 作品

『リベックじいさんのなしの木』(ペンタン)

『だいすき!ブラッカード』(絵本の家)

『なかよしもこもぐ』(学習研究社)

『イワンとがらくたべやのともだち』(学習研究社)

『いたずらこぶたピンキー・プウ』(学習研究社)

『たいへんたいへんピンキー・プウ』(学習研究社)

『おばけだわいわいピンキー・プウ』(学習研究社)

 他

* おすすめ

『おうさまといど』

 作・絵:マルタ・コチ

 学習研究社・1972年

 学研おはなしえほん第4巻第3号との表記あり。たまたま入手したものすごく古い本なので、単発で発売されていたものかどうかも分かりません。翻訳者の記載もなく、日本企画のオリジナルなのかどうかも不明。ただ、画風が『ヤコブとリザのもり』に近いので、参考のためにここで取り上げました。ケチな王様が井戸を独り占めしてバチが当たるという教訓話。斜めに傾いた人物や背景、つぶらな瞳の可愛らしい人物造形など、著者の魅力が存分に出た絵本なので、何らかの形で復刻して欲しいものです。

『ちびっこピー』

 作・絵:マルタ・コチ

 学習研究社・1972年

 学研ワールドえほん第1巻第2号との表記あり。これもたまたま入手したものすごく古い本です。同様に翻訳者の記載なし。こちらも画風が『ヤコブとリザのもり』に近いので、参考に取り上げました。後に学研フローラル(りんご版)や別の作家と2作品をコンビ収録するシリーズ等、何度も別バージョンで出ているので、日本企画のオリジナルではなく原書が存在するのかもしれません。

 顔が完全に人間の子供ですが、ピーは虫のキャラクター。とても小さいがゆえに命びろいするという寓話です。にっこりと笑う、コチ特有の可愛らしいキャラ造形が満開で、虫の身体で空を飛ぶ事でカワイさ数倍増し。

 

『みどりの どりちゃん』

 作・絵:マルタ・コチ

 文:中村千栄子

 学習研究社・1973年

 学研ワールドえほん通巻第13号との表記あり。住んでいる木から離れ、遊びに出かけたどりちゃんの話。本書に関してはネットから収集した情報で、私は所有していないし、現物も見ていない事を断っておきます。表紙からして、同シリーズの『おうさまといど』『ちびっこピー』と同系列の作風と思われます。

『ヤコブとリザのもり』 (1973年、スイス)

 作:クルト・バウマン  絵:マルタ・コチ

 訳:長浜宏

 佑学社・1979年

 森の外れに住むヤコブとリサの兄弟。ある日から動物達が病気になりはじめ、手当に追われるヤコブは、原因を突き止めなくてはと動きはじめます。そして、町の工場からスモッグが流れてきている事を知ったヤコブは、怒って町に乗り込み、人々に惨状を訴えかける。

 まだマルタ・コチについて知らなかった頃、神戸のvivo,vabook storeで見つけて、一瞬にして魅了されたのがフランス語版でした。包帯を巻いたりベッドに横たわったりしている動物達や、つぶらな瞳の主人公など、何とも純朴で愛くるしいキャラクターと、ほの暗い色彩の美しさに目を奪われました。その時にもう一冊コチの絵本が置いてあって、それも同じタッチの作品だったのですが、絵の分量が少ないように思われ、値段も確か四千円前後していたのでそちらは諦めました。今となってはタイトルすら分からず、思い切って買っておくべきだったとただただ後悔です。

 彼女の絵本は何冊も邦訳されていますが、これと同じ作風のものはほとんどありません。学研から出ていた『ちびっこピー』『おうさまといど』辺りが、ほぼ同系列という感じでしょうか。本書は人名が「マルタ・コッチ」と表記されているので、検索の際はご注意下さい。

『クリストルのこねこ』 (1978年)

 作:ヘルマン・ハスリンガー  絵:マルタ・コチ

 訳:楠田枝里子

 ほるぷ出版・1980年

 こちらは『ヤコブとリザのもり』から、少し水彩っぽい『だいすき!ブラッカード』辺りの作風が加わった感じ。同傾向のキャラクター造形と可愛らしい仕草にはノックアウトされます。色の使い方が、やはりヨーロッパ的に制限されているのも素敵。山奥に動物たちと住む女の子が、突然いなくなった小猫を探しにいって、連れて帰ってきてめでたしめでたしという、他愛もないお話ですが、絵を眺めているだけでも十分楽しめます。

 尚、この本には、オリジナルの出版国名が記されていません。オリジナル・タイトルもドイツ語なので、ドイツかオーストリアかスイスの出版社だとは思います。

『むぎうちヨナス』 (1981年、スイス)

 作:クルト・バウマン  絵:マルタ・コチ

 訳:大塚勇三

 文化出版局・1982年

 巨大なコンバインを持つヨナスが農村にやってくるが、彼は風邪をひいて寝込んでしまい。すっかり秋から冬になってしまう。住む所もないヨナスは、もう役に立たないコンバインを家に改造し、村の人々は彼に手を差し伸べる。画風としては、『だいすき!ブラッカード』や『リベックじいさんのなしの木』辺りの水彩っぽいにじみが混ざってきていますが、とにかく絵が可愛いです。小っちゃく、丸っこく描かれた人や動物や家などが牧歌的な風景に散りばめられていて、なんとも魅力的。色合いも美しいです。 

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