ヤン・クドゥラーチェク

(ヤン・クドラーチェク、クドラチェク)

Jan Kudlacek

* 作家紹介

 1928年、南モラヴィア生まれ。プラハの国立グラフィック学校卒業後、カール大学で芸術史を学び、造形芸術アカデミーを卒業。67年、ベトナムの伝説『魚が空でえさをはんでいたころ』の挿絵で国内の2つの賞を受賞。70年に『ペトルーシュカ』でブラティスラヴァ世界絵本原画展入賞。71年に『Trudy, The Rainwoman』でライプツィヒ国際図書展銅賞、ブラティスラヴァ児童書展絵本部門金賞。72年『チョウさんさようなら』でイタリア・ボローニャの特別賞を受賞。

 美しくカラフルな色彩センスに、生命力溢れる自然の描写、人形劇の伝統も窺わせる人物造形など、チェコの画家らしい魅力が横溢する、素晴らしい画風が特徴です。クドゥラーチェクの個性としては、時にグロテスクにも見えるほど曲線や立体感を強調したリアリスティックなタッチや、カッパのような水棲生物をよく登場させる作風は有名。

* 作品

『かんむりをもらったカエル』 (学研ワールドえほん)

『ちびむしちゃんのさんぽ』 (学研フローラル)

『かわせみとまほうのさかな』 (学研フローラル)

『魚が空でえさをはんでいたころ』

『ヤクブと小春日和』

『こうのとり』

『かっぱたちがナマズをどう手なづけたか』

『にひきのロバくん』

 他

* おすすめ

『ペトルーシュカ』 (1970年、チェコ)

 作:オルガ・ヘイナー  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:高橋ひろゆき

 佑学社・1978年

 ペトルーシュカと踊り子、ムーア人という3体の操り人形による三角関係の悲劇。ストラヴィンスキーのバレエ音楽としても有名なロシア民話です。ここではバレエ版と違い、人形使いに死神の手が迫るというかなり恐ろしい結末が特色。文章が多いですが、生き生きと詩情豊かな再話が素晴らしいです。

 クドラーチェクのイラストは、パッチワークのような手法でカラフル。人形達の可愛らしい造形も見どころですが、分量としてはあくまで挿絵の部類です(ただしオールカラーで絵だけのページもあり)。名作バレー物語シリーズとして出ている日本版は入手困難な上、布張りの表紙が付いた大型の豪華本で、絵本のコレクションには不向きかも。

『雨ひめさまと火おとこ』 (1972年、チェコ)

 作:テオドール・シュトロム  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:塩屋竹男

 佑学社・1978年

 こちらも世界の名作童話シリーズとして出ている、分厚い表紙の大型本。やはり文章がメインでイラストは挿絵の扱いですが、オールカラーで全てのページに絵が入っているし、絵だけのページもあります。ただし入手困難。民話風のフェアリー・テイルはどこの国が舞台なのか明記されていませんが、マーレン、アンドレース、シュティーネという登場人物や作者の名前からして、ドイツ語圏のお話と思います。

 パッチワーク風のタッチや配色にクドラーチェクらしさが出ていますが、全体的には同じ国のイジー・トゥルンカ辺りを思わせる画風で、格調高く美しいもの。こういう素晴らしいイラストが埋もれてしまうのは残念なので、是非復刻して欲しいです。

『おんなのことあめ』 (1974年、チェコ)

 作:ミレナ・ルケショバー  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:竹田裕子

 ほるぷ出版・1977年

 国民的絵本作家がコラボレーションした、おしゃれで可愛い絵本。ある雨の日の、女の子と雨、動物達の交歓を、詩情豊かに描いています。物語というよりも散文詩で書かれたスケッチという感じ。淡く微妙な色彩と、チェコの画家らしいデッサン、優れたデザイン感覚が素晴らしいです。文章は少なめで、全てひらがなで書かれているので、小さなお子様にもお薦め。ちなみに本書は、著者名が「クドラーチェク」となっているので注意。

『チョウさん さようなら』 (1975年、チェコ)

 作:ミレナ・ルケショバー  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:竹田裕子

 岩崎書店・1976年

 女の子リージンカと蝶々の優しいお話。クドゥラーチェクのイラストも可愛らしく素敵で、豊かな自然の描写も彼ならでは。入手困難なのが悔やまれます。北欧や東欧の雑貨が人気のこの時代、こういう絵本は復刻して然るべき場所で宣伝すれば、ある程度は絶対に売れると思うのですが。

『あき みつけた』 (1976年、チェコ)

 作:ミレナ・ルケショバー  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:三宅みち

 日本基督教団出版局・1987年

 主人公じゅりあんが秋の森を歩き回る様子を、散文詩で描いたひたすら美しい絵本。少年の造形も服装や帽子を含めて絶妙な可愛さですが、顔の付いたどんぐりの実やひまわり、松ぼっくりなど、自然の描写も情緒豊か。紅葉の色彩感をはじめ、どのページも一瞬で心奪われる美しさです。

 本書では著者名が「ルケショワ」「クドラチェク」となっているので検索に注意が必要ですが、そもそも一般の流通経路には乗らなかったのか、入手が超困難。マメに古書を探すしかありません。

『ゆきのおうま』 (1978年、チェコ)

 作:ミレナ・ルケショバー  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:千野栄一

 ほるぷ出版・1984年

 吹きすさぶ雪を白い馬で表現した、詩情豊かな絵本。起承転結のある物語ではなく、ある雪の日のスケッチという感じです。子供達の造形はイジー・トゥルンカのスタイルと共通点がありますが、立体的でリアルながらころりと可愛らしい動物達はクドゥラーチェクならではの画風。落ち着いた味わい深い色彩感や、背景の美しさにも注目です。

『おやゆびひめ』 (1978年、日本)

 文:横田弘行  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 学習研究社・1978年

 学研、せかいのおはなし全12巻の第7巻に収録。1冊に4話入っているオムニバスで、他は『ばけくらべ』『うかれバイオリン』『はなさかじいさん』(全て日本人の文、絵です)。オリジナル・データ等の記載もなく、文章も「訳」ではなく「文」となっているので、恐らくは日本企画のオリジナルと思われます。

 クドゥラーチェクは、森の生き物(特にカッパや両生類)を描く時にややグロテスクなデザインも行ったりする人ですが、人間の造形は縮尺や衣服、表情が絶妙に可愛いです。本書のおやゆびひめも、小じんまりとして実にキュート。お得意の、生命力溢れる自然や生物の描写も全開です。

『ジャックとまめのき』 (1978年、日本)

 文:佐野語郎  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 学習研究社・1978年

 こちらも学研、せかいのおはなし全12巻の第8巻から。他の収録作は『きたかぜのくれたテーブルかけ』『さんまいのおふだ』『ハメルンのふえふき』(全て日本人の文、絵)。お得意の森の生物があまり出て来ず、人間がメインのお話なので少し雰囲気は違いますが、タッチは完全にクドゥラーチェク流。豊かな色彩感も健在です。尚このシリーズでは、著者名が「クドウラーチェク」となっています。

『おかしな結婚式』 (1980年、チェコ)

 作:ボフミル・ジーハ  絵:ヤン・クドゥラーチェク

 訳:井出弘子

 童心社・1986年

 イジー・トゥルンカと組んだ『わんぱくビーテック』など、ビーテク・シリーズで知られる作家ボフミル・ジーハが、80年のアンデルセン賞作家賞受賞記念として出版されたのが本書。かっぱの親分スターレクじいさんと川の生き物達によるおとぎ話ですが、絵本ではなく、文章がメインの挿絵扱い(ただしイラストはほとんどがカラー)。クドゥラーチェクが得意とするかっぱや魚など、水生生物の描写が満載です。

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