『おばけリンゴ』 (1965年、スイス) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:矢川澄子 |
福音館書店・1969年 |
貧乏なワルターが持っているたった一本のリンゴの木には、まだ一度も実がなった事がない。他の人々のすずなりのリンゴをうらやましく思ったワルターは、ある晩、ベッドの中で「ひとつでいいからうちの木にリンゴがなりますように」と祈る。願いは叶えられ、りんごの木は白い花をひとつ付けるが、その実はどんどん大きくなっていって・・・。 |
何が素晴らしいといって、ヤーノシュの、ぶっきらぼうなようでいて、実はとてもセンスが良く、童心に溢れた筆使いやデッサンと、彩度の抑制された色合いです。まるで子供が描いたようにも見える独特のタッチ、特に人物の体の動きや顔の表情は、私達の心の奥にまだ残っている子供の部分をコチョコチョくすぐります。世界傑作絵本シリーズ・ドイツの絵本という肩書きで発売されていますが、原書はスイスで出版されているようです。 |
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『フィリポの まほうのふで』 (1965年、スイス) |
作:ミッシヤ・ダムヤン 絵:ヤーノシュ 訳:藤田圭雄 |
佑学社・1978年 |
いつもこき使われている可哀想なポニーに、食べ物を持っていったフィリポ君。お礼にポニーのたてがみで作った魔法の筆をもらった彼は、飼い主のロザリアに様々なイタズラを仕掛ける。やや文章が多めですが、ヤーノシュらしい大胆なデッサンと、子供のクレヨン画を思わせるタッチ、階調豊かで美しい色彩感覚は堪能できます。 |
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『ヨーザと まほうの バイオリン』 (1967年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:矢川澄子 |
偕成社・1981年 |
小さくて力のないヨーザが、小鳥にもらった不思議なバイオリンを持って旅に出る。夢は、このバイオリンを弾いてお月様を大きくしたり、小さくしたりすること。珍しくロマンティックな感じのファンタジーですが、絵のタッチは完全にヤーノシュ流。得難い才能というか、こんな絵を書ける人は稀少ですね。ただ、この本は文章の分量がやや多めになっています。 |
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『ゆきだるまの おきゃくさま』 (1969年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:矢川澄子 |
偕成社・1982年 |
お人好しのゆきだるま、ウィリーが村人達の善意を断り切れず、森番の娘の誕生日に招かれるが、善意によって部屋もどんどん暖められ・・・。ヤーノシュらしい、少々辛辣な皮肉の効いたお話。彼一流の大胆なやんちゃさと、ヨーロッパ的な繊細さが同居する不思議なタッチは、木の描き方、機関車の描き方一つとっても、どこか童心をくすぐるというか、私などはなぜかキュンとしてしまいます。 |
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『ふしぎな じどうしゃ』 (1969年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:志賀朝子 |
小学館・1980年 |
これはひとサイズ小さな絵本で、世界の創作童話という小学校低学年向きシリーズ物の一冊。大きくなったり煙突が生えたりする不思議な自動車にまつわる奇想天外なお話です。文章も多く、挿絵のような感じになっているページもありますが、基本的には絵本と言える体裁。ただし、ところどころモノクロのページもあります。画風が完全にヤーノシュ印なので、ファンなら探し求める価値のある本。 |
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『わにくん イグラウへ いく』 (1970年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:楠田枝里子 |
文化出版局・1979年 |
自身も画家であるタレントの楠田枝里子が翻訳を担当しているこのシリーズも、子供の落書き風のタッチと素敵な色使いが楽しめる逸品揃い。画布を思わせる、しっかりした紙質も魅力です。イグラウという町の動物園に行った、ちびワニくんのお話。この時期のヤーノシュらしい魅力がいっぱいの、素敵な画風です。漢字を用いず、リズミカルで詩的な日本語に置換した訳文もイマジネーション豊か。 |
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『とべ とり とべ』 (1971年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:楠田枝里子 |
文化出版局・1979年 |
楠田枝里子訳のシリーズ。カラフルな表紙がおしゃれで、是非とも本棚にディスプレイしたい一冊。内容は、クノフとツビーベルという男の子女の子の二人組が、原っぱで見つけたアルミニウム缶に乗って冒険に出かけるというひたすら荒唐無稽なお話で、ライオンや大きな魚に襲われては危機を脱し、最後にグラフィカルな大文字で「たすかった。」とくるから笑えます。 |
本書は構成も独特で、その後にライオンや魚の目鼻りんかく以外は真っ白なページが出て来て、ここに大きく書いてごらん、と促されたりします。又、漫画のように小さなコマが並ぶページもあったりして、意外に実験的。字体も大きさやフォントが様々で、子供の口から「あんたなんかせいぜいピエロよ」という、すれっからした言葉が飛び出して、大きな文字で強調されているのもシュールです。どのページにもヤーノシュの並外れた才気がほとばしる、『おばけリンゴ』に劣らない隠れた名作。 |
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『ぼくは おおきな くまなんだ』 (1972年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:楠田枝里子 |
文化出版局・1979年 |
こちらも楠田枝里子訳のシリーズで、素朴なタッチと味わい深い色彩が堪能できる絵本。ヤーノシュ作のストーリーはどれも破天荒で、これも母親に反抗した男の子が巨大なクマに変身し、街に出てやりたい放題を尽くすというアナーキーなお話。ただこのクマ、反抗的に家を飛び出した割には、やっている事が全部人助けや世直しなのが子供らしくて可愛い所です。ヤーノシュ流の一見ヘタクソなお絵描き風タッチは、実は細部に至るまで想像力に溢れた美しいもので、ところどころに写真をコラージュしたりと実験精神にも事欠きません。 |
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『くまのサーカス ザンパーノ』 (1975年、ドイツ) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:さくまゆみこ |
アリス館・1978年 |
くまと一緒に旅回りの芸人をしているザンパーノ。あちこちの村を回っては、くまにあれこれと芸当をさせるザンパーノだが、ある日、いつものようにくまをこき使っていると、一匹のハエが飛んできて・・・。こっくりと落ち着いた色彩に、ぶっきらぼうな筆使い、ネコみたいな目をした人物や動物の表情。彼の絵はやっぱり童心をくすぐります。隅っこに小さ描かれている子供や家畜、車や森や家や動物などが、いちいち味わい深くて楽しみが尽きません。 |
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『それゆけ、フェルディナント号』 |
(1963/2003年、ドイツ/スイス) |
作・絵:ヤーノシュ 訳:つつみなみこ |
徳間書店・1978年 |
フェルディナントさんご自慢の車に関する二つの物語を収録した、絵本では珍しい(?)オムニバス物ですが、データから察するに、片方が初期の作品でもう片方が最近作らしく、絵のタッチが少し異なっています。といっても、基本的な雰囲気は同じなのですが、後半の作では、人物のまつ毛が細かく書き込まれていたり、線がより繊細になっている印象を受けます。 |
前半「フェルディナント号のやまのぼり」は、坂を上がるフェルディナント号をタクシーや郵便車や消防車などがどんどん押してゆく話で、後半の「フェルディナント号はちからもち」は、川に落っこちたトラクターをフェルディナント号が引っぱり上げ、調子に乗って他の車や牛車までロープに繋いでどんどん引っ張ってゆく話。 |
つまり、押される話と引っ張る話という事で、前半と後半が対照されているのですが、どちらにも大方予想通りのオチが付き、それをあっけらかんと処理してしまう所はやはりヤーノシュ節、極端なほどの単純さとシニックの微妙なバランス感覚といった所でしょうか。「なんじゃそりゃ!」と思わず声に出してしまった所へ、間髪入れず「おしまい」の絵が目に飛び込んできます。二編ともそうです。大体、二編とも短すぎますって、コレ。でも、『おばけリンゴ』のヤーノシュが好きな人なら、是非持っておきたい本だと思います。 |
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