イジー・トゥルンカ

Jiri Trnka

* 作家紹介

 1912年2月、チェコスロヴァキアのピルゼン生まれ。ピルスナー・ビールでも有名なこの街には人形劇場があり、絵の先生だった人形劇アーティストのヨゼフ・スクーパが、11歳のトゥルンカの才能を見いだす。37年、最初の絵本であるV・シュメイツの「トラの話」2部作を出版。45年にトリック・ブラザーズ・スタジオを設立、戦前・戦後を通じてチェコの人形アニメの第一人者として世界中に知られた他、挿絵画家、絵本作家としても数多くの作品を残した。68年、国際アンデルセン賞受賞。69年、プラハで逝去。

 特に『真夏の夜の夢』『チェコの古代伝説』など、人形アニメではイジー・トルンカ監督として有名。彼に師事したアーティストの中にはブジェチスラフ・ポヤルや、チェコの国民的アニメ『クルテク』のズデネック・ミレル、NHKの人形劇『三国志』の川本喜八郎などもいます。彼の絵本は、人形アニメそのままのタッチから、美しい水彩画まで多彩な技法によっていますが、これぞ東欧!と言いたくなるような、素朴で温かくて、コクのある色彩とデッサンは共通で、奇抜なアイデアはなくとも得難い魅力を放射しています。

* おすすめ

『こぐまのミーシャ、サーカスへ行く』 (1940年、チェコ)

 作:ヨゼフ・メンツェル  絵:イジー・トゥルンカ 

 訳:平野清美

 平凡社・2013年

 日本で入手できるトゥルンカ作品の中でも、特に古い初期作品。トゥルンカ28歳の時にチェコで出版されています。新しいエディションも、トルンカ・スタジオから2007年に出版。当時の印刷技術を反映してか、色の数が制限されていて、タッチも後年のものとは少し異なります。文章のボリュームが多く、トゥルンカ作品に時々ある挿絵付き読み物のような体裁ですが、全ページにイラストがあるし、オールカラーです。インチキ一座のバシルおじさんと旅をするミーシャとバルボラ母さんが、本物のサーカスと出くわして騒動になるお話。

 

『おとぎばなしをしましょう』 (1953年、チェコ)

『こえにだしてよみましょう』 (1953年、チェコ)

 作:フランチシェク・フルビーン  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:きむらゆうこ 

 プチグラパブリッシング・2004年

 邦訳版のほとんどが絶版となっているトゥルンカの絵本ですが、プチグラが2冊も出版してくれたのは快挙という他ありません。2冊一緒に本棚に飾ってもいい感じです。内容も、期待通りの素晴らしさ。『おとぎばなしをしましょう』は、短いおとぎ話をたくさん載せたような構成で、トゥルンカ印の可愛くて味のあるイラストが満載。

 『こえにだしてよみましょう』は、各ページごとに身近な事柄を題材にした詩の本で、チェコでは幼少の頃からこの本に親しみ、大人になっても自然と口をついて出てくるという人が大勢いるそうです。邦訳で読む限り、文章はかなり難解な感じがしますが、トゥルンカの絵の魅力が全開で、ページをめくるごとに胸が躍ります。いずれも装丁がお洒落で、雑貨屋さんでもよくディスプレイされています。大きさも価格も手ごろなので、とりあえず入門にトゥルンカの本を一冊、という人には格好のおすすめ。

『おじいさんのおくりもの』 (1955年、チェコ)

 作:ヤン・アルダ  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:保川亜矢子

 ほるぷ出版・1984年

 おばあさんを喜ばせたいと思っていたおじいさんが、ある日たまたま金持ちの商人の命を救い、大金を受け取るが、道中で物々交換をしてゆくうちに何もなくなってしまうというお話。本当の幸せとは何かという寓話ですが、この前年に『おじいさんの物々交換』という短篇アニメ(というより静止画を組み合わせた音声入り紙芝居みたいな作品)を発表しているので、本書はそのイラストを使って絵本に再構成したものかもしれません。

 陰影が濃く、彫りの深い画風は、他のトゥルンカ作品と較べると重厚に感じられますが、それは可愛らしいキャラクターが出てこないせいと、前述の成立過程のせいかもしれません。日本版は、横長の小さなサイズの本です。

 

『DVAKRAT SEDEM POHADEK』 (1958年、チェコ)

 作:フランチシェク・フルビーン  絵:イジー・トゥルンカ

 ALBATROS・2002年

 タイトルは「7つの物語を2度」という意味だそうで、『ヘンゼルとグレーテル』などの童話がたくさん入っているオムニバス絵本です。邦訳は出ていないようですが、洋書を扱うセレクト・ショップなどでオリジナルを見かけたりします。原書も2002年出版となっているので、入手しやすいのでしょう。人形アニメを彷彿させる可愛いイラストがてんこ盛りで、絵本の好きな人であれば、文章は読めなくとも十分楽しめるに違いありません。

『わんぱくビーテック』 (1961年、チェコ)

 作:ボフミル・ジーハ  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:ちのえいいち

 ほるぷ出版・1984年

 文章メインの読み物で、トゥルンカのイラストは挿絵の扱い。カット自体あまり大きくはありませんが、全てカラーで、ほぼ全ページに入っています。挿絵のため背景が描かれていないので、いわゆる“絵本”を求めている人には物足りないかもしれません。ただ、我が国で知られているトゥルンカ作品では有名な本なので、ファンなら持っていたい所です。文章は、連作ショートショート集といった趣。

『ふしぎな庭』 (1962年、チェコ)

 作・絵:イジー・トゥルンカ  訳:いでひろこ

 ほるぷ出版・1979年

 5人の少年達が、ふしぎな庭で体験する様々なエピソードを、オムニバス的に描いた作品。トゥルンカの50歳記念出版で、彼が文章も担当した唯一の絵本という事です。ちなみに彼には、実際に5人の子供がいます。絵本としては異例の超大作ですが、遊び心たっぷりの文章が魅力的で、個人的には、他の人が文章を担当した絵本よりずっといいように感じました。絵の方は、彼の人形アニメと共通する独特のデザインとこっくりした色使いが素晴らしく、トゥルンカの代表作と呼ばれるのもうなずける話です。

 訳書は絶版で入手困難ですが、こまめに古本サイトやネット・オークションなどをチェックしていると、時折出品している人を見かけます。原書は、海外絵本を扱うセレクト・ブックショップなどで今も売られているようですが、文章の量が非常に多く、内容も味わい深いので、邦訳版を探される事をお薦めします。68年、国際アンデルセン賞受賞作。

『花むすめのうた』 (1964年、チェコ)

 作:フランチシェク・フルビーン  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:ちのえいいち

 ほるぷ出版・1988年

 花から生まれた花むすめが冬婆にさらわれ、動物達が救い出すという物語が、散文詩のような文章と歌によって綴られる、ちょっと風変わりな絵本。フルビーンの文章はやはり、少々難解な感じがします。トゥルンカの絵は、白地にワンポイントで挿入されているようなものが多く、ページ数の多い絵本でありながら、文章の量の方が多い印象です。

『ほたるの子 ミオ』 (1969年、スイス/ドイツ)

 作:マックス・ボリガー  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:矢川澄子

 メルヘン社・1981年

 ほたるの家族の小さなぼうや、ミオの成長と冒険を描いたトゥルンカ最晩年の名作。淡い水彩のぼかしを多用した美しい絵がたっぷりと収録されていて、見応えがあります。紙質が上等で、本として楽しむ醍醐味があるのもポイント。チェコでは「最も美しい子供の本」として不動の地位にあるそうです。81年の第1刷から増刷していないようで、ISBNのコードも付いていませんでした。

『夢みるイルジー』 (1977年、チェコ)

 作:ヘレナ・フヴォイコヴァー  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:小林陽子

 佑学社・1980年

 トゥルンカが遺した絵に、後から文章を付けた作品。夢見がちな少年イルジーの日常を描いた軽いタッチのお話ですが、文章の量がけっこう多いです。おはなし画集シリーズと銘打たれているのも頷けるほど、格調が高く優美なトゥルンカのカラー・イラストが圧倒的。このためにだけでも画集として購入したいほどですが、いかんせん絶版ゆえ、中古市場での値段の高騰が無惨です。私も、図書館で借りた本を参考にして、この記事を書いております。

『お菓子の小屋』 (1982年、チェコ)

 作:ハナ・ドスコチロヴァー  絵:イジー・トゥルンカ

 訳:金山美莎子 

 佑学社・1983年

 こちらもトゥルンカの絵に、後から文章を付けた作品。グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』をチェコ流にアレンジしたお話で、主人公兄弟もヤネックとマドレンカという名前になっています。トゥルンカの美しいカラー・イラストはどのページも全く素晴らしいですが、文章の分量が相当に多く、そちらがメインという感じ。大きめのサイズに分厚い表紙と、手に持った感触がずっしり来る豪華絵本です。古本は値段が高騰している様子。私には、図書館で借りて読む事しかできません。

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