特集  写真絵本よ、なぜそんなに味があるのか?

 私達の写真絵本との邂逅はほんの数年前、スイスのルツェルンにおいてでした。旧市街を散策中に見つけた小綺麗な書店。奥の児童書コーナーに行ってみるとあるわあるわ、絵本の山が。特に絵本が好きな同行の友人夫婦が、珠玉の一冊を見つけたと興奮していたのが『わたしのろばベンジャミン』でした。写真絵本なんて、子供の頃以来目にした記憶がなかったので、何だか懐かしいような、珍しいような、すごくレアな感じがして、本屋さんに行く度に熱心に探すようになりました。

 ところが、写真絵本というのは、実は今でもたくさん出ているようで、センスの良い雑貨屋さんや本屋さんの中には、HPサイトの中でコーナーを作って紹介している所もあるくらいです。その後雑誌でも一、二度、特集を見かけました。そうとはつゆ知らず、調子に乗ってこんなコーナーを設けてしまった自分を、今ではムチで打ちすえたい(あくまで比喩です)気分ですが、この分野、未知の人には宝の山です。行きがかり上、知らない人向けという名目で無理矢理この特集を実現させる私です。

 そんな訳で、ここにご紹介する本はどれも、このジャンルではよく知られたものばかりです。従って、コアな写真絵本マニアの方にとっては手ぬるくて話にならないような内容かもしれませんが、そういった方々にあられましては、もっとディープなサイトを探求される事をお勧めします。ちなみに、当サイト《旅のめっけもん》コーナーにおきましても、『わたしのろばベンジャミン』スイス版を発見した当人であるなっちゃん氏が取り上げております。当該コーナーでは他にも、氏がハワイなどで発掘した珠玉の写真絵本等(こちらは結構レア物かも)を多数紹介しておりますので、併せてご覧下さいませ。

* おすすめ

『二ひきのこぐま』(1954年)

 作・写真:イーラ 

 訳:松岡亭子

 こぐま社・1990年

 動物写真の第一人者と称されるオーストリアの女流写真家イーラによる、楽しい写真絵本。二匹の小熊の表情及びポーズはこれが本当に野生の熊かと思うほど多彩で、たんぽぽの綿帽子を匂うこぐま、相撲を取るこぐま、抱き合って眠るこぐま、木の後ろに隠れんぼしあうこぐま、岸辺に寝そべって水の上に顔だけ出すこぐま、並んで倒木を渡るこぐま、並んで泳ぐこぐまと、正にこぐま面白ポーズの目白押し。訳者には失礼ですが、写真のインパクトが強すぎて、ページをめくるだけでも大笑いしてしまいました。

『わたしのろばベンジャミン』(1968年、スイス)

 作:ハンス・リマー

 写真:レナート・オスベック

 訳:松岡亭子

 こぐま社・2002年

 幼い少女とろばの交流をほんわかと描いた、件の名作写真絵本です。日本語版は立ち読みしかした事がありませんが、スイス版(ドイツ語)の絵面から想像していた単純なストーリーとは少し違いました。しかし、ゆるい空気の漂うほのぼの絵本である事には違いありません。オール・モノクロなのもいい味を出しています。少女の表情が多彩なせいで、ほとんど無表情なろばの方もいい演技をしているように見えてくるから不思議。私達が所有しているものは、2002年にドイツで復刻された版のようですが、スイスではミニ絵本のバージョンも多数売られていました。こちらの方が見た目も可愛いので、お土産にたくさんゲット。

『ヴァイオリン』(1976年、カナダ)

 作:ロバート・T・アレン

 写真:ジョージ・パスティック

 訳:藤原義久、藤原千鶴子

 評論社・1981年

 憧れのヴァイオリンを手に入れたクリス少年は、あまりのひどい音に挫折してしまう。そんな時に出会った、ヴァイオリン弾きのおじいさん。音楽を介した二人の交流を描く感動的な写真絵本ですが、文章の分量もかなり多めで読み応えがあります。粒子の粗いモノクロ写真がノスタルジックで美しく、わざとそういう処理がしてあるものと思っていたのですが、実はこの本、1976年のカナダ映画から編集されたものだという事です。

『Le Ballon Rouge』(1976年、フランス)

 Mouche l'ecole des loisirs・2002年

 こちらは、アルベール・ラモリス監督の1956年映画『赤い風船』の各場面を、写真で構成した本。私はあいにく映画を観ておらず、フランス語の文章を読む能力も持ち合せないので、詳しいストーリーは分かりませんが、タイトル通りの赤い風船をひたすら少年が追いかけているようです。しかも、最後の方には色とりどりの風船が登場していきなりポップな色合いになったり、全体にしゃれた雰囲気の本です。日本語版は出ていないと思うのですが、センスの良い雑貨屋さんや本屋さんでは原書を扱っている所を時々見かけます。私達が所有しているのは2002年出版のペーパーバック版というか、小型サイズのエディション。

『イエペはぼうしがだいすき』

 作・写真:石亀泰郎

 文化放送局・1978年

 この本はシリーズ物らしく、写真家・石亀泰郎の代表作と言われています。前作に『イエペさんぽにいく』というのがあるそうですが、残念ながら絶版。写真家がデンマーク、コペンハーゲンの公園で出会ったイエペ君は帽子が大好きで、学校へ行く時も、家にいる時も常に帽子を被っています。そんな彼のお茶目な日常に密着し、カラーの写真絵本として構成したのがこの本。みんなにからかわれるので、ある日帽子を被らないで学校に行くと、なんだか調子が出ません。この、調子が出ない時のイエペ君も、どうにも冴えない感じで又チャーミングだったりします。写真家がイエペ君の家族に聞いた所では、彼は帽子を百以上も持っているそうです。イエペ君の百面相に魅了される一冊。

『パリのおつきさま』(1993年、アメリカ)

 作:シャーロット・ゾロトウ

 写真:タナ・ホーバン

 訳:みらいなな

 童話屋・1993年

 アメリカを代表する絵本作家の一人シャーロット・ゾロトウが、写真絵本の分野では第一人者と言っていいタナ・ホーバンと組んだ一冊。特に物語らしい体裁は取らず、子供向けのパリ印象記とでもいった内容になっています。子供や動物の写真で有名なタナ・ホーバンですが、本書はヨーロッパ情緒溢れる美しい風景写真が中心。何と言っても表紙が素敵なので、つい部屋に飾りたくなりますね。

 

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