特集 “幻のロシア絵本1920-30年代展”顛末記

 ちょっと前になりますが(2004年2月〜4月)、兵庫県の芦屋市立美術博物館で“幻のロシア絵本1920-30年代展”が開催されました。雑誌などの宣伝によると、幻のロシア絵本が多数展示される他、厳選された10冊(だったかな? ちょっとうろ覚えです。すみません)が復刻販売されるとの事。

 当時、ヨーロッパ系の絵本にハマリはじめたばかりだった私達、これは行かない訳にはまいりません。早速、3月のあるポカポカ陽気の週末、喜び勇んで芦屋へ出かけていった次第であります。この美術館は、私もまちこまき氏も行くのが初めてでしたが、芦屋でも海に近い最南部にあり、建物や前庭のデザインがカラフルかつ前衛的で、どちらかというと現代美術のミュージアムといった印象。中は少しこじんまりした雰囲気もありますが、思っていた以上に広い会場でした。

 革命後のソビエト連邦(ロシア)では、新しい国作りに燃える画家や詩人たちが、未来を担う子供達のため、絵本の制作に大きな意欲を燃やしました。絵本といっても、紙質は悪いし、ホッチキスで留めただけの小冊子ばかりですが、ロシア・アヴァンギャルドの成果も盛り込まれたこれらの絵本は、モダンで、可愛らしく、グラフィカルで、パリやロンドンでも注目の的となったそうです。

 日本にも、このロシア絵本に魅了され、影響を受けたり収集したりした人がいました。例えば画家の柳瀬正夢、デザイナーの原弘、そして今回の展示物の所有者である芦屋の画家、吉原治良(よしはらじろう、1905-72)。彼は、友人がモスクワで目にしたこれらの絵本に刺激を受け、1932年に当時の日本では異例とも言えるモダンな絵本《スイゾクカン》を発表します。この展覧会では、彼の遺した250点にも及ぶ貴重なコレクションが集められ、東京でも巡回展が行われました。

 実物を目の当たりにすると、やはり紙質の悪さが目立ちますが、おしゃれであると同時に、どこかユルいアナログ感覚が横溢する絵の内容には、粗末な紙と装丁、そして時代を経て色褪せた風合いが不思議とよく似合います。ここ数年、やはりロシア製の手動式カメラ、LOMOのノスタルジックな写真が密かなブームを呼んでいますが、そういう風潮を考えると、これらの絵本も若い人達に強くアピールするものかもしれません。展示はおおむね時代に沿っていて、後半に進むと、物資不足のために使われている色の数が制限されてきたり、社会主義的なプロパガンダ色が濃くなっていったりする所も、なかなか興味深く思えました。

 ミュージアムショップで売られていた復刻絵本は、市販の一般絵本と同じくらいの値段がつけられていて、ページの少ない小冊子風の作りからすると、かなり高価に感じられましたが、特に気に入ったマルシャークの『郵便』という絵本だけは、一冊買って帰りました。図録もかなり充実していて、これは二千五百円近くしますが、資料として大変貴重なものではないかと思います。後日、この図録と復刻絵本は、書店の絵本コーナーや雑貨屋さんなどで売られているのを何度も目にしました。探せば今でもあるかもしれませんので、ご興味のある方は、絵本を扱う雑貨屋さんや、絵本コーナーの充実した大型書店をのぞいてみられると良いでしょう。

 

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