ヘッレ・ブルンヴォル

Helle Brunvoll

 ノルウェーの女性シンガーで、ギタリストのハルヴァル・カウスランとの共作『In Our House』(2009年)でデビュー。カウスランとは、数多くのフェスやクラブで共演しているそうで、続くヘッレ単独名義のリーダー作『Your Song』でも、カウスランが演奏と共作で全面バックアップしています。いずれも相当な名盤だと思うのですが、ノルウェーのマイナー・レーベルから出ているため、既に入手困難なのが残念。

ヘッレ・ブルンヴォル&ハルヴァル・カウスラン 『In Our House』

 (2009年、Naxos Norway As - Lunde Records)

 ギタリストのカウスランと共同名義によるデビュー作。10曲全てがカウスランのオリジナル曲で、その内の3曲をヘッレが作詞。しかし、これだけ複雑なジャズ・コードを駆使し、作詞まで担当しているカウスランの才能は超絶的で、単なるギタリストの枠を逸脱した才人というべきでしょう。

 1曲目から実にリリカルで、美しいバラード。ヘッレのスモーキーなヴォーカルに、内向的でジャジーなピアノとトランペットと、静謐で奥深い世界が拡がります。伴奏は基本的にピアノ・トリオで、そこにギター、トランペット、サックスが加わる感じ。軽やかなスウィング・ナンバーもありますが、この編成なので上品なサウンドに聴こえ、ビッグバンドみたいにうるさくなりません。

 ギターとヴォーカルのみで始まる4曲目も、コード感が最高に魅力的。卓抜なソング・ラインティングとメロディのセンスに脱帽です。スロー・ワルツやボサノヴァ、ミュージカル風もあったりと曲調が多彩で、どの曲もクオリティが高いのはさすが。静けさの中に北欧らしいしみじみとした情感が漂う、実に味わい深いアルバムです。

『Your Song』

 (2012年、Prophone)

 デビュー作同様、ギターのカウスランが全面サポートしたソロ・アルバム。8曲中7曲を共作し、1曲はヘッレ単独で作詞作曲。つまりオリジナル曲ばかりですが、ギター、ベース、ドラムのシンプルな編成で、トラディショナルなスタイルです。熱演を繰り広げるタイプではなく、ヴォーカルもギターも柔らかく、落ち着いた風情。静かな午後や夜更けに聴くには、とても良い雰囲気。

 オリジナルとはいえ、スタンダードのような熟成感と名曲感があるのが魅力。マイナー・コードとメジャー・コードの曲がバランス良く混在し、軽快な6/8拍子や、モダンな中間色、サンバのリズムなど、多彩な曲調で飽きさせません。一方、冒頭に“黒いオルフェ”を思わせる物悲しく、スモーキーな曲を持って来ている辺りは、北欧らしいイメージを裏切らない演出。40分を切るタイトな尺ながら、もっと聴きたくなる魅力的なアルバムです。

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