モニカ・ドミニク

Monica Dominique

 音楽一家に生まれ、由緒あるスウェーデン王立音楽アカデミーを卒業したという彼女は、ピアニスト、シンガー、作編曲家として活躍。60年代には、スウェーデンを代表するジャズ・コーラス・グループ Gals & Pals、その後は北欧を代表するプログレッシヴ・ロック・バンド Solar Plexus のメンバーとして活動。

 80年からは、18歳でビル・エヴァンスと共演したというベーシストの実弟パレ・ダニエルソンと、ワシントン出身でスウェーデンに移住したドラマーのリロイ・ロウとピアノ・トリオを結成。自主制作レーベルから作品を発表しています。日本では神戸のセレクト・ディスク・ショップ、ディスク・デシネ(現在は渋谷のデシネ・ショップ)のレーベル・制作部門、プロダクション・デシネから作品が復刻、発売されています。

モニカ・ドミニク・トリオ 『ティレグィナン』

 Tillagnan (1980年、プロダクション・デシネ)

 スウェディッシュ・ピアノ・トリオの名作と呼ばれる1枚。繊細なピアノの音色と、メロディアスな楽曲群が特色です。特に冒頭とラストに2ヴァージョン置かれている表題曲は、半ばポップスに接近しているメロディで、「ジャズ風味のポップスではないか」と言われそうですが、それもその筈、実は元々歌詞が付いていて、スウェーデンではウェディング・ソングの定番になっているほど有名な歌だそうです。

 スタンダードではなく、モニカのオリジナル曲ばかりなのも特色で、哀感を帯びた美しい曲調の他、躍動的なナンバーや、ピアノ・トリオらしいインプロヴィゼーションもちゃんとあります。“シャーレキャン”にはチェロがフィーチャーされていますが、これはベーシストが弾いているのか、ピッチが不安定だったりして技術的に怪しいのがご愛嬌。

『わたしのまんなか』

 Mitte i mej (2000年、プロダクション・デシネ)

 こちらはピアノ・トリオでもジャズでもなく、帯によれば「北欧産キッズソフトロック」。「何のこっちゃ?」と思いますが、つまり朗らかな爽快ポップです。実は当盤、小さな女の子アンナと主人公の心の触れ合いを描いたミュージカル『Herr Gud det ar Anna』の為に書いた曲を集めたもの。作詞はオーレ・ペッテンション。子供向けのお話ですが、歌っているのは大人達です(子供のコーラスは入ります)。全9曲に、カラオケ用のインストゥルメンタルをなんと全9曲分収録。

 さすがは『ティレグィナン』のドミニクが作曲しているだけあり、胸キュン・コードを多用したセンチでキャッチーなメロディが満載。それを優しい歌声と子供達の爽やかなコーラスで彩るので、いやが上にも「素敵やん!」の雰囲気になります。ジャズ・ミュージシャンらしいちょっとしたテンション・コードも、曲におしゃれな隠し味をプラス。美しいピアノも聴こえてきます。部屋に飾りたくなる、可愛らしいイラストのジャケットも付加価値大。

モニカ・ドミニク、パレ・ダニエルソン 『トゥギャザーネス』

 Togetherness (2012年、プロダクション・デシネ)

 姉弟二人による、ベースとピアノのデュオ作。子供時代の仲良し写真を使った、モノクロのジャケットも素敵です。モニカのオリジナルは1曲だけで、後は全てカヴァー。結果的に、我が国で紹介されているこの3作品の中では、最もジャズらしいタッチのアルバムになっています。

 とは言ってもスリリングな即興プレイに走る訳ではなく、静謐でインティメイトな音楽が紡がれるのが彼女達の個性。北欧らしく、暖かみと優しさの横溢する音世界です。選曲はコール・ポーターあり、セロニアス・モンクあり、ドビュッシーありと多彩。中でもミシェル・ルグラン作品が4曲入っているのが目を惹きますが、意外にもメロディアスさを強調せず、あくまでジャズの流儀でプレイしているのが好感触です。モニカのオリジナルは軽快に弾む明るい曲調で、そこに旋律美が盛り込まれるのが彼女らしい所。

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