チャイコフスキー/交響曲第4番 (続き)

*紹介ディスク一覧

00年 ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団

02年 ヤンソンス/ピッツバーグ交響楽団

02年 ゲルギエフ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

02年 T・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

06年 パッパーノ/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団

11年 ネルソンス/バーミンガム市交響楽団

17年 ノセダ/ロンドン交響楽団  

18年 ビシュコフ/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団  

19年 P・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 

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“圧倒的なヴィルトオーゾ・パフォーマンスを繰り広げるライヴ盤”

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:2000年  レーベル:クリーヴランド管弦楽団)

 オーケストラ自主制作による10枚組ライヴ盤から。ドホナーニはウィーン・フィルと同曲をスタジオ録音しています。当コンビのチャイコフスキーは、テラーク・レーベルへの《悲愴》もあり。音はややこもり気味に感じられ、響きも豊麗とは言い難いですが、会場の音響条件に由来する部分以外は、クリアで聴きやすい音質です。

 第1楽章冒頭は、気負いがなく自然体。主部も切実さや緊張感はあまりなく、淡々としたシンフォニックな表現です。アーティキュレーションやデュナーミクには細やかなニュアンスや工夫があり、無表情にならない所はさすが。第2主題はルバートを交えずイン・テンポ気味に歌わせていて淡白に聴こえますが、各部を大きな流れで捉える表現は古典的とも言えます。展開部の造形は見事で(ティンパニはミス?)、コーダも巧みな棒さばき。弦のカンタービレが美しく、リズムのエッジも効いています。

 第2楽章はテンポが速く、オーボエに続く弦の主題でスタッカートを多用し、動感の強いリズミカルなフレーズに見直しているのは斬新。ベートーヴェンで流行しているピリオド奏法を思わせる、ユニークな発想の転換が聴かれます。中間部は、木管の付点リズムが舞曲のような軽快さ。美しい音で朗々と歌うヴァイオリン群のカンタービレも魅力的です。

 第3楽章は高速テンポのヴィルトオーゾ・パフォーマンス。細かい音符の解像度の高さに度肝を抜かれます。フィナーレもこの調子で、急速なテンポと緻密なアンサンブルで聴き手を圧倒。弱音部でもあまり速度を落とさず、テンションの高さを維持しています。威圧的な大音量は避けていますが、メカニカルな技巧の披露がスリルと興奮を呼ぶ、当コンビならではの演奏。作品自体にそういう要素がある事を考えると、これも本質を衝いた表現と言えるかもしれません。

“やや人工的ながら、相変わらずあの手この手を駆使した自主制作ライヴ盤”

マリス・ヤンソンス指揮 ピッツバーグ交響楽団

(録音:2002年  レーベル:ピッツバーグ交響楽団)

 ヤンソンスが音楽監督を務めた期間のライヴ音源を集めた、楽団自主レーベルによる“ヤンソンス・イヤーズ”という3枚組セットから。同セット中でも屈指の名演で、曲の核心を衝いたドラマティックな表現に打たれます。低域が浅く、響きがデッドな点は改善の余地がありますが、金管のソリッドな強奏を伴う時のピッツバーグ響のサウンドはなかなか好調と感じられ、冒頭のファンファーレから美しい響きを聴かせます。

 弾みの強いリズムと歯切れの良いスタッカートで引き締めた第1楽章は、概して駆け足のテンポを採り、疾走感を強調。強弱のニュアンスも豊かさです。展開部のスリリングな迫力は聴きもので、ヤンソンスらしい細かく急速なクレッシェンドを多用している他、音楽が盛り上がる場面では焦燥感溢れるアッチェレランドも盛り込んでいます。もっとも、オスロ・フィルとの旧盤にもあったティンパニのトレモロの追加等は、どうにも違和感が強く感心しません。

 第2楽章もデュナーミクとアゴーギクの魔術で、単調に陥りがちな音楽から驚くほど多彩な表情を引き出しています。フィナーレに至っては、アーノンクールばりのフレージングの見直しも聴かれますが、これも少々デフォルメ感あり。ただ、アグレッシヴな表現が手垢にまみれた作品をリフレッシュしている事は確かで、ラストの猛烈なアッチェレランドまで聴けば、雄叫びを上げるピッツバーグの聴衆ならずとも熱狂の渦に巻き込まれる事でしょう。

“細かく表情を付けている割に、印象が一本調子で総合的感銘度に欠ける演奏”

ヴァレリー・ゲルギエフ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:2002年  レーベル:フィリップス)

 同じ楽友協会ホールでライヴ収録された《悲愴》と、過去に発売されたザルツブルグ・ライヴの5番を組み合わせた、後期3大交響曲セットから。ゲルギエフの表現は私はしっくりこない事が多いのですが、当盤もそうで、ウィーン・フィルを起用したメリットもさほど感じられません。ロシア音楽に対するアドバンテージは十分ある人ですが、オケの個性を生かすのはあまり得意じゃない感じです。

 第1楽章は比較的遅めを基調とし、アゴーギクはそれなりに動かすものの、音楽の進め方が単調と感じられる場面も少なくありません。特に、チャイコフスキー特有の同じ音型の繰り返しを機械的に処理したり、頑なにイン・テンポを通したりと、どこか感情的に窮屈な印象も受けます。

 表情を細かく付けている割に自在な呼吸感に欠け、ウィーン・フィルを振りながら音色の艶やかさやカンタービレの魅力に乏しいのも不思議。これが純ロシア風のスタイルだという、押しの強いこだわりがあるのかもしれませんが、造形的にもタイトで、少なくともゲルギエフと聞いて想像するような、感情の起伏が大きな演奏とは違います。

 第2楽章も同様の傾向で、表情豊かに歌っている一方でどこか一本調子。プレイヤーの自発性が抑圧されているのか、それともこれが大陸的な時間感覚なのでしょうか。第3楽章は中間部のテンポを遅く採ったため、主部との対比が表されず、やはり音楽的コントラストを弱めて単一色を指向するゲルギエフの特性が裏目に出ているように思います。

 フィナーレは、冒頭のトゥッティでシンバルを鳴らしていない様子。大音量で圧する他盤とは違い、肩の力を抜いてリズムの軽快さを確保している点は好感が持てます。ディティールは表情豊かで、コンパクトな造形に濃密な表現をパッキングしていますが、聴き終わった時点での総合的感銘度が弱く、淡白な印象ばかりが残るのは、ゲルギエフの録音に共通する傾向です。アンサンブルはよく統率されています。

“余裕たっぷりの棒さばきで、圧倒的に濃密な表現を展開するMTT”

マイケル・ティルソン・トーマス指揮 サンフランシスコ交響楽団

(録音:2002年  レーベル:サンフランシスコ交響楽団)

 映像ソフト“キーピング・スコア”シリーズのサウンドトラックという位置付け。当コンビのチャイコフスキーは第5番、ネット配信で6番が出ている他、T・トーマスはボストン響と第1番、ロンドン響とマンフレッド交響曲も録音。管弦楽曲や協奏曲も合わせると、チャイコフスキーの録音には積極的な指揮者と言えます。ライヴ収録ですが、このレーベルは直接音が鮮明で残響が豊麗、ふくよかさと柔らかさもあって、メジャー・レーベルと較べても遜色のない音質です。

 第1楽章冒頭は随所に自由なフェルマータを挿入し、間合いを引き延ばしていて斬新。歯切れ良くスタッカートで切りながら、残響が長い尾を引くトゥッティの一撃も絶妙です。主部は落ち着いたテンポながら表情が雄弁で、ダイナミクスやアーティキュレーションの描写が細かいので、動感や推進力の強さが際立ちます。T・トーマスの棒はスタッカートの使い方が絶妙で、何ともしなやかに、サクサクとした歌いっぷりが爽快。オケも生彩に富んでテンションが高いです。

 第2主題は艶っぽい音色で感情豊かに歌い、オペラのアリアのごとき歌謡性を感じさせるチェロなどは絶品。それでも音楽がべとつかないのは、軽妙なスタッカートを縦横無尽に盛り込んでいるからでしょう。展開部も即興的な間をあちこちに挿入して、ドラマティックな語り口。生き生きと弾む、ダイナミックなコーダも魅力的です。

 第2楽章も、冒頭のオーボエがオペラ歌手のような歌い回し。続く弦も、みずみずしい音色と自在なカンタービレが素晴らしいです。集中力も高く、無意識に音が流れてゆく箇所が一切ありません。第3楽章は中間部も含め、余裕のあるテンポで細密に養分を行き渡らせた豊穣な演奏。刺々しい所はなく、全てがソフィスティケイトされたタッチで描かれるのも好印象です。

 第4楽章は打楽器のタイミングがジャストミートし、パンチが効いて痛快。シャープな造形ながら、響きに潤いと暖かみがあって、刺激は緩和されています。残響が長いので壮麗なサウンドが尾を引き、まるで音の飛沫が飛び散るような華麗さがユニーク。細かい音符まで徹底して緻密に処理するのはT・トーマスらしく、弦の民謡主題を彩るフルートのオブリガートにまでこぶしを効かせているのも面白いです。鋭敏なリズムと巧みなアゴーギクで、凄まじく白熱するコーダは圧巻。

“明朗で美しい音色と多彩なニュアンスで傑出した、素晴らしい録音”

アントニオ・パッパーノ指揮 ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団

(録音:2006年  レーベル:EMIクラシックス)

 ライヴによる後期3大交響曲録音より。3曲中、もっとも完成度の高い名演だと思います。オケの歌心に満ちたパフォーマンスが素晴らしく、特に金管のロングトーンにはヴィブラートの掛かった歌うような調子があり、柔らかなタッチも備えているのが魅力的です。同じイタリア人でもムーティやシャイーの衣鉢を継ぎ、旋律美と構成美を感覚的に表出できるパッパーノは、チャイコフスキーにふさわしい性質の持ち主だと思います。

 第1楽章は冒頭のファンファーレが惚れ惚れするほどの美しさ。遅めのテンポを貫きながらも、よく聴けばそれと分かるほどに微妙なアゴーギクの変化があり、展開部では僅かにテンポを加速して効果的にクライマックスを構築するなど、構成力が卓抜です。独自のダイナミクスも効果的。フォルテが硬直せず、響きに弾力性があるのも耳に心地よいです。ワルツでは小粋に弾むリズムがユニークで、しなやかなラインを描きつつ、豪放な力感を伴ってダイナミックに盛り上がる展開部は圧巻です。

 第2楽章も明るく艶やかな音彩で、しなやかな歌心が魅力的。デュナーミクは雄弁、情感の豊かさや造形美の彫琢も充分で、こういう演奏を聴くと、ロシアの憂愁云々という紋切型の批判文句などバカらしく思えてきます。第3楽章は、落ち着いたテンポで強弱のニュアンスを細やかに表出。カラー・パレットが多彩なので、ピツィカートだけでも和声感が出ているし、それが中間部の鮮やかさにも繋がります。

 第4楽章は、抜けの良い爽快なサウンドと勢いのある合奏で熱っぽく造形。エッジの効いたリズム感もスピード感を高めています。アタックは鋭利ですが刺々しくなりすぎず、柔軟性を持たせる事で音響的快感を得ているのが当盤の美点。力で押す事がなく、軽快なフットワークを軸に多彩な変化を盛り込む設計も非凡です。

“あれこれやりすぎて忙しく感じるものの、意欲では頭一つ抜けているネルソンス”

アンドリス・ネルソンス指揮 バーミンガム市交響楽団

(録音:2011年  レーベル:オルフェオ)

 《フランチェスカ・ダ・リミニ》とカップリングしたライヴ盤。当コンビは後期3大交響曲とマンフレッドを録音していて、《ロミオとジュリエット》《ハムレット》《スラヴ行進曲》も併録されています。ドイツのレーベルが、R・シュトラウスやチャイコフスキーなど売れ線のレパートリーにこのコンビを起用しているのは異例と見えますが、そこにネルソンスに対する期待の大きさを窺わせます。

 第1楽章はきびきびと、スタイリッシュに開始。全体にかなり速めのテンポを採り、自在な呼吸とアゴーギクで情感豊かに音楽を展開しています。強音部でテンポを煽るのはネルソンスの特徴で、鋭利なアインザッツを駆使して、勢い溢れる颯爽としたパフォーマンスを展開。細かな強弱の演出など、自己主張にも事欠きません。

 又、旋律線にしなやかな粘性があり、それが情感の豊かさに繋がっているのと、タイトな合奏と引き締まったテンポ感で緊張感を継続させる手腕は一級。ドラマティックな語り口や卓越したフレージング・センスにも、非凡な才覚を感じさせます。

 第2楽章は表情付けが濃厚で詳細に渡り、聴き様によっては少し忙しいというか、落ち付きがない印象を受けるかもしれません。それでも個性や面白味のない演奏を聴かされるよりはずっと良いですし、私は意欲的な指揮ぶりとして好ましく受け止めました。テンポも場面ごとに変化させていて、是が非でも一本調子を避けようという姿勢。クライマックスでは伸びやかな気分の開放や、情熱の発露が率直に提示されて胸のすくようです。

 第3楽章は極めて発色が良く、ディティールの描写が精緻。中間部への移行とテンポ変化も見事で、バレエ音楽の情景描写を思わせるような想像力溢れる語り口です。オケも柔らかな音色と一体感の強いアンサンブルで好演。鋭敏なリズム処理もさすがです。

 第4楽章はも非常に速く、一心不乱に疾走するパワフルな演奏。尖鋭なリズムが縦横無尽に駆使されますが、旋律線は流麗かつしなやかで、対比の妙で音楽を構成する面もあります。筆圧が高い上にアクセントが明確で、細部まで鮮やかに照射されるので、実際以上にスピード感が強調される感じ。主題提示に回帰する際は、ティンパニの猛烈なクレッシェンドとアクセントの一撃も効果的。激烈なアッチェレランドでテンポを煽るコーダも、すこぶるエキサイティングです。

“オケの響きと録音に不満もあるものの、ノセダの才気が随所に発揮された注目盤”

ジャナンドレア・ノセダ指揮 ロンドン交響楽団

(録音:2017年  レーベル:LSO LIVE)

 ムソルグスキーの《展覧会の絵》とカップリングされたライヴ盤。当コンビは同レーベルへショスタコーヴィチの交響曲シリーズ、ブリテンの《戦争レクイエム》、ヴェルディのレクイエムも録音しています。第1楽章は冒頭のファンファーレの音がこもっていて、やはりバービカン・センターの音響はちょっと、という気になりますが、主部に入ると気にならなくなります。ノセダが柔らかい音色を要求したのかもしれません(コーダ前で回帰する宿命動機も、やはりソフトなタッチ)。

 歯切れの良いリズムを駆使した主部は、いかにもこの指揮者らしい非凡なパフォーマンス。フレーズを細部までしなやかに歌わせながら、シャープな切り口で生き生きと描写してゆきます。雄弁に歌う木管ソロをはじめ、オケの自発性も好印象。アゴーギクにもオペラ指揮者らしいドラマティックな起伏が感じられ、随所に自由なルバートを盛り込む他、コーダの猛烈な追い上げも熱っぽいです。

 第2楽章は速めのテンポで弛緩せず、艶やかなカンタービレで歌い切ったみずみずしい演奏。しかしアーティキュレーションやダイナミクスは繊細に描写され、ロシア音楽も得意とするノセダだけに、皮相な表現には陥りません。音感も鋭敏で鮮やか。第3楽章はテンポも快調ですが、音の立ち上がりにスピード感があり、尖鋭なセンスで一貫しているのが痛快。

 第4楽章も速めのテンポで、持ち前の俊敏なリズム感を駆使して、軽妙なフットワークを駆使しているのが見事です。無類に切れの良いスタッカートも効果的。合奏がよく統率されていて集中力が高く、エッジの効いたアインザッツと緊密な一体感が、指揮者の才覚を如実に示します。

“近年屈指の傑出したチャイコフスキー解釈。オケの美音にも聴き惚れる”

セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:2018年  レーベル:デッカ)

 マンフレッド交響曲や管弦楽曲、3曲のピアノ協奏曲も含めた全集録音から。ビシュコフはかつてコンセルトヘボウ管と《悲愴》、ベルリン・フィルと弦楽セレナード及び《くるみ割り人形》全曲、パリ管と《エフゲニー・オネーギン》全曲をフィリップスに録音しています。残響を豊富に取り込みながら、直接音を鮮明に捉えた録音が素晴らしく、デッカの録音技術の健在ぶりに脱帽。

 第1楽章はふくよかで朗々たるファンファーレが見事。いきなり心を鷲掴みにされますが、スタッカートを盛り込んでフレーズに独自の輪郭を与える一面もあります。主部は潤いたっぷりの美音と、歯切れが良くエッジーなリズムで、魅力的なパフォーマンスを展開。リリカルな歌心と熱いパッションを盛り込む一方、徹底して丹念に仕上げられた細部が、研ぎ澄まされた造形センスに結びついています。

 それにしてもオケの美音と、慈愛に溢れた艶やかな歌は魅力的。あらゆる瞬間に聴き惚れてしまうような、近年稀に見る美しい演奏です。展開部の造形も彫りが深く、金管やティンパニの峻烈なアクセントが効果を発揮。独特の工夫が施された響きのバランスが、リスナーの耳を釘付けにします。聴き馴れた音楽を、目の覚めるようにフレッシュな感覚で聴かせてくれる点は、この全集に共通の特色。

 第2楽章もデリカシーと詩情に溢れ、フレーズの解釈も個性的ながら見事。名手揃いの各パートの好演と、丁寧に構築されたアンサンブルも聴き所です。巧みなアゴーギクでドラマティックに盛り上げた中間部も、思わず身を乗り出してしまうほどの熱演。第3楽章は遅めのテンポで、各部に味わいと養分をたっぷりと含ませて聴き応え満点。こういう中身の濃い演奏でこそ、この楽章の軽い性格も生きてくるというものです。

 第4楽章もどっしりと構え、瞬間瞬間の表情を多彩に描き出した密度の高い名演。情感たっぷりのカンタービレも随所に盛り込みながら、鋭敏なリズム感で全体をきりりと引き締めているのもビシュコフらしいです。フォルテがうるさくならないのは美点で、強音部でも深々とした奥行き、たっぷりとした響きを維持しています。合奏は勢いで押さず、常に高い精度で統率しているのもさすが。アーティキュレーションが完璧に解釈されていて、確信の強さを感じさせます。コーダも熱っぽく高揚。

“ドラマティックな緩急や濃密な表情を付けながら、精緻な描写力を貫徹”

パーヴォ・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

(録音:2019年  レーベル:アルファ・クラシックス)

 管弦楽曲作品もカップリングした全集録音から。同オケによるチャイコフスキーの交響曲全集はこれが初で、19年から21年にかけて長いスパンで録音されています。P・ヤルヴィによるチャイコフスキー録音は、シンシナティ響との《悲愴》《ロメオとジュリエット》もあり。音響効果の良いホールらしいですが、アナログな温もりや柔らかさがある一方、やや響きのこもりや飽和もある印象。直接音はクリアですが、いわゆる鮮烈な印象のサウンドではありません。

 第1楽章のファンファーレは、たっぷり間合いを挟んでドラマティックな語り口。主部はデュナーミクが自在で、艶やかに歌う旋律線を中心に濃厚な表情で各部を描写してゆく一方、感傷性やベトつく甘さがないのはこの全集共通の傾向です。逞しいティンパニの強打を軸に、筋肉質な響きでダイナミックな力感を解放するのも痛快。スリリングな加速を用いた、展開部の烈しく熱っぽい高揚にも手に汗握る迫力があります。

 第2楽章は楽想が分断せず、各部が流れるように有機的に繋がってゆく様が優美。全体から逆算して部分を設計している所に、指揮者の才気を感じます。そのせいか感興が豊かで旋律が自然に高揚し、ドラマティックな緩急を為す様が印象的。気宇壮大なクライマックスも感動的です。旋律線は即興的と言えるほど自由な呼吸で歌っていますが、情緒過多な所は皆無。

 第3楽章は、この全集の傾向からすると一般的なテンポで意外。トリオもゆったりとした佇まいです。第4楽章も平均的なテンポですが、合奏の解像度やアタックとスタッカートのシャープな切れ味によって、造形は極めて峻烈。旋律線の表情は変わらず雄弁で、ちょっとしたフレーズにも細かな緩急が適用されます。ライヴ的に白熱するコーダも迫力満点。

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