ブラームス / 交響曲第2番

概観

 かつてはブラームスのシンフォニーといえば第1か第4という時代が長く、今もその傾向はありますが、ここ20年くらいで、この曲の人気が上がってきた印象はあります。ブラームスの《田園》と呼ばれるゆえんは第1楽章の明朗で穏やかな作風にあるのでしょうが、後半2つの楽章も結構ネアカ。対照的に第2楽章はブラームスの醍醐味とも言える晦渋さ全開で、これぞクラシックの森の奥深い境地というような曲想です。

 近年は透明な響きですっきりと聴かせる演奏も増えてきましたが、先鋭的な指揮者は早くからそのスタイルを追求していて、私の好みもそちらなので自然とそういう演奏をチョイスしがち。ブラームスの交響曲は全集録音を行う指揮者が多いですが、なぜかこの曲の演奏が一番成功している全集セットが目立つのも、作品の特性に起因するのでしょうか。少なくとも下記リストを見渡す限り、凡庸な演奏は非常に少ないと感じます。

 私が特に素晴らしいと感じるディスクは、モントゥー/ウィーン盤、ケルテス盤、アバドの旧盤、ストコフスキー盤、サヴァリッシュ/ロンドン盤、レヴァイン/ウィーン盤。他にもお薦め盤には事欠かず、ざっと挙げてもカラヤンの両盤、メータ/ニューヨーク盤、ドホナーニ盤、ハイティンク/ボストン盤、バレンボイム盤、ラトル盤、ネルソンス盤など、それぞれ非常に良い演奏です。

*紹介ディスク一覧

55年 ミュンシュ/ボストン交響楽団

57年 ドラティ/ミネアポリス交響楽団

59年 モントゥー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

59年 サヴァリッシュ/ウィーン交響楽団

62年 モントゥー/ロンドン交響楽団

64年 ケルテス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

67年 バルビローリ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

70年 バルビローリ/バイエルン放送交響楽団

70年 アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

73年 ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

75年 ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

75年 小澤征爾/ボストン交響楽団

75年 コンドラシン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

76年 レヴァイン/シカゴ交響楽団

76年 マゼール/クリーヴランド管弦楽団

77年 ストコフスキー/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

78年 カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

79年 朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

79年 メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック

80年 ジュリーニ/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

83年 クーベリック/バイエルン放送交響楽団

86年 カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

87年 ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団

88年 アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

88年 C・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団

88年 ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

89年 シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

89年 サヴァリッシュ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

 → 後半リストへ続く

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“重厚さや渋さを排した、徹底して明快でストレートなブラームス”

シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団

(録音:1955年  レーベル:RCA)

 悲劇的序曲とカップリング。当コンビのブラームス録音は少なく、他に第1番と第4番(モノとステレオ2種)、ピアノ協奏曲2曲(ソロはグラフマン、ルービンシュタイン)があるだけです。また、ミュンシュは第1番をパリ管と再録音していて、名盤として有名。当コンビのステレオ録音では最初期に当たりますが、トランペットなど高音域の抜けが良く、適度に奥行き感もあって良好なコンディションです。

 第1楽章は速めのテンポで推進力が強く、躍動的。この曲としては異色の、テンションが高く熱っぽい表現ですが、これはこれで説得力があります。提示部のリピートもしていないので、バランス的にも古典的な交響曲の様式感でしっくりくる印象。歯切れの良いスタッカートや弾みの強いリズムを随所に盛り込んでいるのも独特です。展開部でトロンボーンの重奏が入る辺りの音響構築センスもモダンで、いわゆる純ドイツ風のブラームスとは全く異質。

 第2楽章も、はかなげなピアニッシモや重厚で渋い色彩よりも、健康的で爽快なカンタービレや鮮やかな発色を指向し、聴いて分かりやすいストレートな演奏という感じ。展開部で加速し、ぐいぐいと牽引してゆくアゴーギクも効果的です。対位法は立体的に構築され、意外に作品の本質を衝いている印象。

 第3楽章も明快な語り口で、残響の少ない録音も相まって、各声部をくっきりと照射する趣。トリオはきびきびとして生彩に富みます。第4楽章もスピード感があり、鮮明な音彩で描写されますが、スタッカートを多用して音価を短く取る傾向があり、ブラームスしてはかなり軽量級のタッチと響きなのがユニークです。ブラスのアクセントや縁取りを随所でシャープに打ち出しているのも、彼らのブラームスに共通する個性。

“鮮やかな音彩でシャープに造形する一方、しなやかな曲線や弱音の味わいも豊か”

アンタル・ドラティ指揮 ミネアポリス交響楽団

(録音:1957年  レーベル:マーキュリー)

 ドラティはロンドン響をメインに全集録音を行っていますが、この曲だけはミネアポリス響を起用。このレーベルらしい発色の良い鮮やかな音質と相まって、実に瑞々しく爽快な演奏です。ドイツ的かどうかはともかく、終始生彩に富んだ流麗な表現で、特に胸のすくように思い切りの良い弦のカンタービレは魅力的。響きが明るくて軽いので、そこが好みを分つ所でしょう。ロンドン響と比較するとややピッチの精度が甘いようですが、音色、音質の傾向は近く、続けて聴いても違和感がありません。

 第1楽章は明晰な音響で、精緻に造形。管楽器が弦の響きに埋もれないので、対位法的な書法がくっきりと描写されるのがこの全集に共通の特徴です。筆圧が高く、音の立ち上がりが速い点も共通しますが、明快一辺倒ではなく、優美なフレージングや弱音の味わいも豊か。ハーモニーが濁らないのは、ブラームスのスコアでは大きなメリットです。金管のエッジが効いていて、微妙に加速、減速を忍び込ませるアゴーギクも巧妙。

 第2楽章も明るくて発色が良く、高音域偏重の響きで爽やかに歌い上げた表現。ハイ・ポジションでポルタメントを盛り込む、艶っぽいヴァイオリン群は魅力ですが、バスの動きやそこに付随する和声で音楽を構築する感じはありません。

 第3楽章も隅々までよく照射され、語調に曖昧さを残さない表現。不思議と無機的にはならず、奥行きと叙情性を湛えているのがドラティの指揮の不思議な所です。第4楽章も元気一杯でテンションが高く、明るい音色が作品との相性良し。アインザッツには力感が漲り、鋭い切り口でスコアをくっきりと描写します。線的にどぎつくならないのは、曲線美も大切にしているからでしょう。

“絶美のオケ、丹精込めて柔らかな曲線でグランドデザインを描くモントゥー”

ピエール・モントゥー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1959年  レーベル:デッカ)

 モントゥーの同曲ステレオ録音は、この3年後にロンドン響とのフィリップス盤もあり。ウィーン・フィルの同曲録音は多いですが、恐らくはどの盤よりもこのオケの良さが前面に出た演奏かもしれません。フレージングがすこぶる丁寧で美しく、何ともいえぬしなやかな放物線でグランドデザインが描写される印象です。

 第1楽章は、快適なテンポで流れの良い演奏。この時代には珍しく、提示部をリピートしています。編成が小さめに聴こえ、響きが厚ぼったくないせいもありますが、ヴァイオリン群の各フレーズやチェロの第2主題など、あまりにピッチとタイミングが揃っているため、ごく数名で弾いているかのような室内楽的一体感があります。展開部も肩を怒らせる事なく、柔らかな旋律線を繊細に紡いでゆくような、実にみずみずしい表現。

 第2楽章も音色のセンスが素晴らしく、艶やかで潤いに満ちた美音をなめらかに連結してゆく手腕が見事です。楽器間の受け渡しや旋律の紡ぎ方が、実に自然で優美。一方ではアゴーギク、デュナーミクを巧みに操作して、音楽を一切弛緩させません。又、晦渋に響きがちなブラームス特有の沈鬱な和声を、明朗な色彩感で軽やかに響かせている所、こんな解釈もあるのかと全くの驚きです。

 第3楽章は、冒頭のオーボエ主題が、フレーズ末尾の処理など歌謡的でユニーク。リズムも鋭敏で、一体感の強い合奏に快適な運動性あり。生き生きとした軽快な足取りは魅力的で、響きも透明でみずみずしく、和声感が豊か。

 第4楽章は、明るくて威圧感のないトゥッティが爽快。アンサンブルが緻密で、オケの優秀さが際立ちます。音楽の隈取りが明快で、曖昧な所を一切残さないのはモントゥーらしいですが、ダイナミクスのメリハリもドラマティックでニュアンスが多彩。しなやかな歌心と叙情性も、随所に盛り込まれています。各楽章と作品全体の構成力に確かな腕前を聴かせ、指揮者としてのスキルの高さを如実に示した格好。

“シャープで明晰、手堅い指揮ぶりの一方、時おり巨匠風の語り口も”

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団

(録音:1959年  レーベル:フィリップス)

 全集録音より。当コンビは同時期に序曲や合唱曲、《ドイツ・レクイエム》も録音している他、サヴァリッシュは後年、ロンドン・フィルとも全集録音を行っています。適度な残響も取り込まれているものの、どちらかというと直接音メインのサウンドイメージ。

 第1楽章は超スローテンポで開始し、主部へ移る際もたっぷりとルバート。しかし音の輪郭は明瞭で、ロマン派風を悪用したようなぼやけた筆遣いではありません。アインザッツは細部まできっちり統率され、職人的とも言える手堅い指揮ぶりは安定感抜群です。ふっくらとした歌や艶やかな音色も聴かれ、堅実一辺倒に陥らない所もさすが。アタックには力感が漲り、シャープなエッジも際立っています。

 第2楽章も遅めのテンポで情感豊か。主題提示は弦の一点張りで押さず、フルートの高音域を生かして美しく明るい響きを作っているのが印象的です。チェロのユニゾンも柔らかな丸みと艶っぽい光沢が魅力的。旋律線は僅かに粘性を帯び、力点を置く際に微妙な重みを加えるのも巨匠風です。やや軽めながら、明朗な音色を志向しているのも好印象。

 第3楽章はくっきりとした音彩で、音に張りと勢いがあってサヴァリッシュらしさが出た格好。合奏は引き締まり、スタッカートの切れ味も抜群です。第4楽章もエネルギッシュで、冒頭から熱っぽさを示すのが好ましい所。弦のハイ・ポジションなど、みずみずしい音色でザクザクとリズムを刻んでくるのが爽快です。低音部はやや混濁しますが、機動性に優れ、精度の高いリズムで全体を支えていてさすが。中庸のテンポながら、充分な推進力と動感を確保しています。

“音色美は旧ウィーン盤に軍配が上がるものの、気品のある歌では負けていない”

ピエール・モントゥー指揮 ロンドン交響楽団

(録音:1962年  レーベル:フィリップス)

 モントゥーのブラームス録音は少ないものの、この曲は得意にしていたのか、この3年前にもウィーン・フィルとセッション録音を残しています。残響豊富とはいかないものの、同じオケでも同時期のデッカのドライな音と較べると、ずっと柔らかみがあってまろやか。

 第1楽章は旧盤の速めのテンポを踏襲して流れが良く、提示部もリピート。やや厚みがあって艶やかにうねる弦楽群は、高音域のみずみずしいカンタービレが魅力的です。軽快なリズム処理も効果的。アゴーギクはフレーズごとに細かく操作していて、弦がユニゾンで下降上昇を繰り返す音型など、わずかにテンポを引き締めて弛緩を防いでいるのはさすがです。音色美ではウィーン・フィルには及びませんが、気品のある歌心ではこちらの叙情性豊かな味わいも負けていません。

 第2楽章は、潤いのある音色で艶美に歌う弦が聴き所。明るい発色の木管群を加えた、管弦のバランスと和声感にもモントゥーの個性が出ています。こちらも物量が増す局面では大きくテンポを煽り、テンションの高い動的なブラームス像を提示。純ドイツ風スタイルの向こうを張って好印象です。第3楽章も軽妙な風合いで開始してチャーミング。テンポも速めですが、中間部のリズムなど頭の音符を短く切った独特の語調で、一般的なブラームス演奏と様相が異なります。

 第4楽章は重々しくなく、爽快な響きで生き生きと造形している辺り、後年主流になるブラームス解釈を先取りしている感もあり。HIPのように敏感だったりコントラストが極端だったりというのはないですが、これはもうモントゥー・サウンドと呼びたいもの。トランペットの華やかなトップノートを際立たせ、カラフルな内声を備えたオーケストラ・サウンドは、彼が振るフランス、ロシア作品の録音を彷彿させます。

“端正な造形の中に驚くべき多彩なニュアンスを付与。凡百の録音とは一線を画す”

イシュトヴァン・ケルテス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1964年  レーベル:デッカ)

 全集録音から。他の3曲は70年代の収録ですが、当盤は先駆けて64年に録音されています。音質は鮮明で、全集に入れても大きな遜色はなし。ウィーン・スタイルの艶っぽさは、この曲に一番出ているように思います。すっきりと端正な造形ながら、どの箇所も驚くほどニュアンスが豊かで、どこか似通っている80年代以降のブラームス演奏とは一線を画す、確固たる解釈を貫徹。

 第1楽章は提示部リピートを実行。低音部の過剰な突出や響きの混濁を許さず、流麗かつ優雅な音色を持ち味とする行き方は非ドイツ風です。旋律の歌わせ方が実に繊細で美しく、すこぶる入念に仕上げられた演奏。自然に高揚する感興と、起伏の作り方も味わい深いものです。

 第2楽章も明朗でふくよかなソノリティが素晴らしく、みずみずしい歌と熱っぽい盛り上がりにも、聴き手を惹き付ける魅力あり。旋律線を巧みに浮き彫りにする管弦のバランスが、作品の晦渋さを取り払って親しみ易い性格を付与しています。

 第3楽章も衒いがなく、いかにもさりげなく開始しながら、細部に至るまで滋味豊かな表現を繰り広げるのがさすが。アインザッツの切っ先が鋭く、生き生きと弾むトリオの表現も秀逸。第4楽章も溌剌とした調子でフレッシュな生彩に富み、マンネリズムはどこにも感じられません。合奏がタイトに引き締まり、集中力と一体感が強いのも見事。艶やかな弦のカンタービレも随所に魅力を振りまき、輝かしいブラス、逞しいティンパニと共に壮烈なコーダを導きます。

“雄大なスケールと叙情性に個性を示すも、シャープな造形センスが意外に先進的”

ジョン・バルビローリ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1967年  レーベル:EMIクラシックス)

 全集録音から。当全集は純ドイツ風の重厚さと決別し、みずみずしくフレッシュな響きに溢れている点がユニークです。同曲や第3番は第1楽章の比重が大きく、頭でっかちな構成になりがちですが、第1楽章の提示部リピートをカットし、フィナーレをどっしりと構築する当盤のスタイルは、様式的にとても収まりが良いものです。録音も鮮明。

 第1楽章は、シンコペーションや付点音符などを歯切れ良く処理し、フットワークの軽さを確保した上で、実によく歌う演奏。ホルンのソロは聴きものです。第2楽章も呼吸が深く、スケールの雄大さと情感の豊かさが印象的。楽器間の受け渡しのスムーズさに、指揮者とオケ双方の熟練の技を感じます。第3楽章は、優美な佇まいがバルビローリ流ですが、プレスト部のスピード感と躍動的な推進力は、この指揮者に付きまとう耽美的叙情派のイメージを覆すに充分。

 フィナーレは、落ち着いたテンポでやや柄の大きな造形。アーティキュレーションの描写が徹底され、変化の多い伴奏のリズムにも機敏に対応しています。合奏は画然と統率され、金管の鋭いアクセントが明快な句読点を打つのも痛快。大家の風格があるけれど時代錯誤の古臭さとは無縁というのか、改めてこの指揮者の先進性を評価したくなるディスクです。

“流麗でリリカルながらダイナミックな力感もある、バルビローリ最晩年のライヴ音源”

ジョン・バルビローリ指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:1970年  レーベル:オルフェオ)

 珍しい顔合わせによるライヴ音源で、V・ウィリアムズの第6番とカップリング。ライナーによると彼はこのオケの指揮台に二度登壇していて、もう一つのプログラムはモーツァルトとウォルトンの組み合わせだったとの事。ウィーン・フィルとの全集セッションから3年後の収録ですが、彼は同年に亡くなっており、当盤は最晩年の演奏という事になります。古い録音ですが、非常に鮮明で生々しい音質。

 第1楽章は、ねっとりと歌うリリカルな語り口がいかにもバルビローリ調ですが、単調な刻みが続く箇所などはイン・テンポで音を短く切って非常に生真面目。淡々としていながらそれがどこか凄みを帯びてモダンに聴こえるのは、後続のC・デイヴィス辺りに継承されてゆくセンスとも言えます。造形は意外に堅固。第2楽章は、筆圧が強く繊細なピアニッシモこそないものの、粘性を帯びたカンタービレで朗々と歌い上げるスタイル。ブラスを伴う強奏はやや粗さもあるものの、ダイナミックに盛り上げています。

 第3楽章は遅めのテンポで、克明さより流麗さを重視。アウフタクトを強調しないイントネーションが、スムーズに聴こえる要因かもしれません。たおやかな情感も、心なしかイギリス流に聴こえてユニーク。第4楽章もテンポが遅く、強拍に溜めがあってやや腰が重く感じられます。この時期のバイエルン放送響もまだ洗練されておらず、響きがささくれて混濁する傾向もあり。この楽章ではアインザッツの不揃いも目立ちますが、感興は豊かでライヴらしい白熱も感じられます。

“若手とは思えぬスケール感と息の長さを示す、後年の再録音以上の名演”

クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1970年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 4つのオケを振り分けた全集録音より。当コンビは後に全集を再録音している他、カップリングの管弦楽曲と合唱曲、2つのセレナード、ドイツ・レクイエム、2つのピアノ協奏曲(ブレンデル、ポリーニ)、ヴァイオリン協奏曲(ミンツ、ムローヴァ、シャハム)、二重協奏曲(ワン、シャハム)と、多くのブラームス録音を残しています。イエス・キリスト教会での収録で、やや低域が軽いものの、長い残響音と広大な空間イメージが印象的。演奏も若手指揮者とは思えないほど息が長く、スケールの大きな表現です。

 第1楽章はそれが顕著で、この時代に提示部をリピートして演奏時間21分以上というのも驚き。序奏からテンポが遅く、主部に入る所でたっぷりとルバートするのも大家のような呼吸感です。音色は艶やかに磨かれ、明朗で透明度の高い響きはアバドらしい所。流線型の長いフレーズを紡いでゆく辺りはカラヤン譲りですが、その点ではカラヤン以上に徹底して流麗志向で、ドイツ的な構築性よりも造形美が勝る印象を受けます。伸びやかで優美なカンタービレは魅力的。

 第2楽章も冒頭から色彩と和声の感覚が明瞭で、鮮やかなブラームス像が新鮮。時に硬質になりがちなこのオケで、ふっくらと柔らかいソノリティを作り出している所にも指揮者の才能を示します。アンサンブルも精緻そのもので、みずみずしいヴァイオリン群の歌も実に艶美。全体に、成熟した音楽家の佇まいを感じさせるのは驚異的という他ありません。

 第3楽章もソステヌートで、実に耽美的な表現。木管などやや遠目の距離感で収録されていますが、弦とブレンドすると色彩の配合が絶妙で、素晴らしい響きがしています。プレストは歯切れが良く、弱音のデリカシーも生かされて秀逸。

 第4楽章はアタックに張りがあり、ティンパニのパンチも効いて様式感に留意。適度に推進力のあるテンポも、さじ加減が見事です。第2主題へ移行する際の減速も美しく、音楽的。フレッシュな覇気と動感が充溢するのも好ましく、それでいて壮麗さや雄大さにも欠けていません。この時期のアバドのグラモフォン録音は、むらのある後年と違って名盤揃いです。

“安定した穏やかな性格ながら、若い世代のフレッシュなブラームス像を提示”

ベルナルト・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1973年  レーベル:フィリップス)

 ハイティンク最初の全集録音から。彼は後にボストン響と二度目の全集を完成させている他、協奏曲や合唱曲も含めるとかなりの数のブラームス録音があります。同コンビは同時に悲劇的序曲、大学祝典序曲、ハイドン変奏曲も録音している他、後年にセレナード第1、2番、ハンガリー舞曲集も録音。

 第1楽章は、ふくよかな響きと安定したテンポ感が、作品との親和性を示します。主部へ入る前のルバート、合いの手に入る木管の小気味好いスタッカートも効果的。厚みのあるソノリティでぐんぐん押すタイプとは違い、風通しが良く、胃にもたれない爽やかさがあります。響きが透明で、木管の対旋律なども鮮やかに生かして、立体的に音楽を構築。厚塗りのモノトーンに陥らないのは美点です。細部の処理もデリケートで、リズムと音感のセンスも鋭敏。

 第2楽章は、弦を中心に主題を受け持つパートの艶やかが際立ち、色彩も和声感も鮮やか。速めのテンポで音楽がよく流れる一方、歌への傾倒を強く表します。第1楽章で提示部をリピートしていないため、作品全体の様式感がタイトに引き締まっているのも好印象。第3楽章は穏やかで柔和な表情、デリケートな歌と爽快な叙情が聴きもの。テンポの速い箇所は軽妙で俊敏、音響バランスへの配慮も完璧で、美しいソノリティに陶然とさせられます。若い世代がフレッシュな感性で洗い直したブラームス像の先駆けかも。

 第4楽章は堅固なアンサンブルで、活力と勢いに溢れながらも、ある種の律儀な克明さを貫徹。音色は常に潤いを保持しますが、低音の動きも含め、対位法の効果は如実に示されます。颯爽とした佇まいながら、雄渾な力感を十分に表出。

“細身のクリアな響きで、旋律線と細部のニュアンスを濃密かつ爽快に描写”

ルドルフ・ケンペ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1974/75年  レーベル:スクリベンダム)

 全集録音から。第1楽章冒頭から響きが軽くて明るく、純ドイツ風の重厚なスタイルを想像していると肩すかしを食らいます。たっぶりと間合いをとった主部への以降は、名人芸といった所。テンポは遅めながら各パートが艶やかに歌い、滔々と流れる音楽は、構築性より旋律線を主役にしたアプローチに聴こえます。低音域と奥行き感が浅い録音が残念ですが、直接音は細部までクリアで、響きが濁らないのはさすが。情感が豊かで、表情がよく練られているのもケンペらしいです。

 第2楽章もスロー・テンポを採択し、細部のニュアンスをじっくりと丹念に描写。濃厚な味わいを残す、叙情性に溢れた演奏です。ディティールの雄弁さゆえ、ことさらドラマティックな演出を施さなくても情感が豊かに聴こえる訳ですが、緻密なデュナーミク、アゴーギクや、鋭いアクセントの打ち込みなど、小技も随所に効いている印象。唯一、サウンドが細身なのが残念で、より豊満な肉体があればと思わないでもありません。

 第3楽章もロマン的な芳醇さこそありませんが、すっきりと冴えた響きで、プロポーションの隈取りも明快。プレスト部はリズムの切り込みが鋭く、勢いとスピード感でスリリングに聴かせます。経過的なフレーズにもすこぶる細やかな表情が付与されていて、あらゆる瞬間において意識が覚醒している集中力の高さはケンペ一流のものです。

 第4楽章は、響きの拡散や力感の放出で盛り上げず、緊密な室内楽的合奏で内側から熱い感興を高めてゆく行き方。聴いていて耳が疲れないし、フォルティッシモの連続で音楽そのものへの注意が散漫になってしまう事もありません。音色は幾分艶消し気味ですが、透明度が高い割にはまろやかにブレンドする個性的なソノリティ。独自の爽やかな魅力を放つサウンドです。リズムも鋭敏で溌剌としていて、僅かに加速するコーダの造形も見事。

“柔和で上品な音楽性の一方、ベテランのような風格もあり”

小澤征爾指揮 ボストン交響楽団

(録音:1975年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 小澤、ボストン響、両者のボックス・セットで復活するまでお蔵入りになっていた音源。当コンビはこの2年後に第1番を録音していますが、小澤のブラームス録音は意外に少なく、全集録音は後にサイトウ・キネン・オケと行った一度だけです。

 第1楽章は、(第1番の時と違い)提示部をリピート。指揮者のふくよかな音楽性と流麗なフレージング・センスが曲調と合っていて、柔らかく上品なタッチも素敵です。遅めのテンポながら、第2主題でわずかに腰を落としますが、3、7小節目の3つの下降音をスタッカートで切るのはユニークな解釈。オケも、艶っぽく明朗な色彩とインティメイトな合奏で好演です。音楽の運びがまったく成熟した棒さばきで統率されていて、どう聴いても円熟したベテランの指揮にしか聴こえないのは凄い所。

 第2楽章も豊かな感興に満ちあふれ、各パートを無理なく自然に歌わせた味わい深いパフォーマンス。芳醇なソノリティは作品に相応しいもので、艶やかで発色の良い響きが、ブラームスの晦渋な和声を分かりやすく解き明かしてくれます。第3楽章はテンポこそゆったりしていますが、響きにドイツ的な重厚さがなく、常に明るくて爽快。アーティキュレーションの描写に細かくこだわっているのも小澤らしいです。

 第4楽章は熱っぽい高揚感も出てきますが、テンポは落ち着いていて、合奏もすこぶる丁寧。古典的交響曲のフィナーレとなると力技になりがちですが、その点で小澤の姿勢は、カラヤンやアバドらの同時代の演奏とベクトルが全く異なります。要するに、終楽章というものの位置づけを、聴き手を熱狂させるための装置にしてしまわない、という事でしょうか。コーダに至るまで細かい音符を決してないがしろにしない行き方に、入念なリハーサルの跡が窺えます。

“エッジの効いた棒で軽快かつ剛毅に描写する異色盤。音質は問題あり”

キリル・コンドラシン指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1975年  レーベル:フィリップス)

 80年代にまとめて発表された、当コンビのライヴ音源の一つ。80年収録の第1番も同時に発表されました。オケ全体を俯瞰するようにやや遠目の距離感で収録されていて、弱音部はモノラル風に聴こえます。個々の直接音は聴きとれますが、ホールの残響は控えめで、金管が突出する強音部などやや音が痩せる傾向。

 第1楽章は落ち着いたペースで開始するものの、強音部ではソリッドなブラスのエッジが強調され、響きがやや荒れます。ティンパニの強打は効果的ですが、弦のリズムもアインザッツが鋭利。第1番の端正で柔らかな演奏と較べると、同じコンビでもスタイルが異なり、きつめの硬質な筆致を用いた印象です。旋律線はしなやかに紡がれ、オケも豊かなニュアンスで好演。音彩の明朗さもプラスに働いています。

 第2楽章はテンポが速い上、フレーズをスタッカートで明瞭に切る箇所が多く、語調が曖昧に流れません。響きもみずみずしい明るさに溢れ、重苦しくならないのは美質。伴奏型の描写が多彩なため、緩徐楽章としてはかなり起伏に富み、テンションが高くて動感が強いのも特色です。第3楽章は、主部こそ柔和な表情で穏やかに描写されますが、中間部は鋭敏さが際立ち、にわかにスピード感と緊張度がアップ。

 第4楽章はタイトに締まった一体感の強い合奏で、神経質なまでに鋭敏なリズム感を駆使して、小気味良くまとめたユニークな演奏。切っ先の鋭いアインザッツは迫力がある一方、緩急の演出が巧みで、減衰局面での力の抜き具合も絶妙。純ドイツ風のスタイルとは異質の軽快極まる表現ですが、剛毅な力感を漲らせてエネルギッシュに盛り上がる後半部には、この指揮者の個性もよく出ています。

“覇気に溢れた、カラフルで雄弁なブラームス。音圧が高すぎる傾向も”

ジェイムズ・レヴァイン指揮 シカゴ交響楽団

(録音:1976年  レーベル:RCA)

 全集録音から。当コンビの最初期の録音で、ブラームスは他にピアノ協奏曲第1番(ソロはアックス)とドイツ・レクイエムがあります。レヴァインは後にウィーン・フィルとも全集録音を行っている他、ドイツ・レクイエムにはボストン響とのライヴ盤あり。前年にほぼ1テイクで収録された第1番の好評を受け、翌年にあとの3曲を、これも何と2日間でレコーディングしたという全集です。メディナ・テンプルの長い残響音をうまく取込んだ、爽快でスケールの大きな録音も魅力。

 第1楽章は覇気があってよく歌う、非常に雄弁な演奏で、いわゆる田園風の穏やかさとは少し趣が異なります。音圧が高く、発色が鮮やかなせいもあるかもしれません。金管のソリッドな響きが朗々と鳴り響きますが、ニュアンスは豊かで、弱音部も繊細。管弦のバランスもよく考えられていて美しいです。ただ強音部ではブラスが幾分荒れる印象があり、あと少しでいいので内圧を下げて欲しい所。ウィーン盤で行っている提示部のリピートは省略。

 第2楽章も動的でテンションが高く、ブラームスらしい沈鬱さとは無縁の表現。柔らかさやデリカシーもあるのですが、弦を中心にメゾフォルテ以上になると線的にどぎつくなりがちです。造形は明快そのもので、語調にも彩色にも曖昧さを残しません。第3楽章は意外にゆったりしたテンポで、なめらかなラインを紡いでゆく趣。プレスト部では若手指揮者らしい俊敏さも聴かせます。解像度が高く、明るい響きも好印象。

 第4楽章は推進力が強く、パンチの効いた表現。定評のある金管もさる事ながら、弦の威力が物を言う感じはこのオケらしいです。出力が群を抜いて大きいがゆえに、細部が徹底的に照射されているイメージでしょうか。アゴーギクは細かく操作され、それに応じたディナーミクの緩急と共に、辣腕のオペラ指揮者らしい設計力もさすが。聴けば聴くほど強靭な合奏力ですが、同じオケであれば、より内実が伴ったバレンボイム盤に軍配を上げたい所です。

“細部に徹底してこだわり、独自のユニークな路線を行くマゼール”

ロリン・マゼール指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1976年  レーベル:デッカ)

 全集録音から。第1楽章は遅めのテンポで、ブラームスとしてはかなり個性的な造形。一見伸びやかに歌う旋律線ですが、よく聴くとアーティキュレーションに細かくこだわっていて、相当にコントロールが行き届いた意識的な演奏と言えます。特にスタッカートの用法は周到に計画されていて、クリーヴランド管ほどの優秀なオケでなければ、これほどの精度でフレーズの解釈を徹底する事はできなかったかもしれません。リズムに関しても、切れの良いスタッカートで殊更に鋭利さを際立たせる箇所があります。

 展開部の対位法的な重なり合いも、落ち着いたテンポで冷徹なまでに正確さを追求する趣。ルバートの間合いや、音楽の自然な流れはちゃんとあるのですが、瞬間瞬間のディティールがすこぶる透徹しているという感じでしょうか。トロンボーンのバス声部やハーモニーの効果を強調しているのも独特。マスの響きは解像度が高く、いわゆる牧歌的な演奏とは対極にあるアプローチです。

 第2楽章も、冒頭のチェロがフレーズに膨らみを持たせて艶っぽく歌うにも関わらず、どこかリアリスティックでクールな肌触りを感じさせるのがマゼールらしい所。色彩が一点の曇りもないほど鮮やかで、ブラームスらしい渋みやくすみは完全に払拭されています。弦のポルタメントも明朗な光沢をさらに上塗りする印象で、突然挿入される鋭いアクセントやフォルテピアノが、この曲としては異例の過敏さを表現しています。

 第3楽章はゆったりとしたテンポで、オーソドックスな造形。タッチも柔かく、優美なパフォーマンスで一貫しています。第4楽章はまた細部の処理が克明で、アーティキュレーションの描写も緻密。通常は目立たない箇所でもトロンボーンを強調していて、いかにも角の立ったシャープな演奏に聴こえます。テンポ・チェンジやアウフタクトでは、必ず溜めを作って芝居がかるのもマゼール流。コーダの表情も癖が強く、特有の個性を感じさせます。

“ストコフスキー嫌いの人にも聴いて欲しい、巨匠が最晩年に到達した絶美の世界”

レオポルド・ストコフスキー指揮 ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1977年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 ストコフスキー最晩年、最後から2番目のレコーディング・セッション。同曲とカップリングの《悲劇的序曲》を録音したストコフスキーは、翌月末から頭にかけてビゼーとメンデルスゾーンの交響曲を録音し、それが最後のアルバムとなりました。ステレオ録音による彼のブラームスは案外稀少で、他にロンドン響との第1番、ヒューストン響との第3番、ニュー・フィルハーモニア管との愛4番があるくらい。

 ちなみにこれら最晩年の録音は、どれも素晴らしく美しい演奏ばかりで、ストコフスキー嫌いの音楽ファンにも一度は耳にして欲しいように思います。当盤も、オケのみずみずしいソノリティとストコフスキーの至芸が際立つ、驚くほどの名演。

 第1楽章はこの指揮者には珍しく、提示部をリピート。彼がなぜ最晩年にこの曲を選んだのかは分かりませんが、この流麗を極めた美しいカンタービレを聴いていると、確かにこのアプローチが最も有効な作品が2番か4番であった事は確かでしょう。第2主題も、効果的なスタッカートを挟んだ独特のフレージングこそ聴かれますが、実にリリカルな歌心に溢れています。

 第2楽章は、チェロの表情豊かな主題提示が聴きもの。デフォルメや奇抜なアゴーギクはどこにも聴かれず、終始オーソドックスな表現を美しく展開します。やや遅めのテンポを採択した第3楽章、第4楽章も、90歳を越えた長老指揮者とは思えぬほどの徹底したコントロール能力と、旺盛な活力を披露。美麗で爽快なサウンドは必ずしもブラームス的ではありませんが、語り口の巧みな棒と相まって、普遍的なクラシック作品としての魅力を見事に抽出した印象、

 ストコフスキーの演奏の特徴として、大家風の堂々たる威厳と感興豊かなフレージングが横溢する一方で、血気盛んな若々しいパッションと躍動感を備えている事が挙げられます。響きが常にフレッシュで、リズムも軽快といっていいほどフットワークが自在。こうやって書くと、私自身もこれがストコフスキーの演奏についてのコメントだとは信じられないくらいですが、お義理でも何でもなく、本当に珠玉の名演と感じます。ブラームス聴くのに何でストコフスキーだ、何でナショナル・フィルだという人にこそ聴いて欲しい一枚。

“見事な棒さばきと一流の合奏力で聴かせる、中身の充実した演奏”

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1977/78年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 70年代の全集録音より。第1楽章は精妙な美音で織りなす導入部に、まず耳を奪われます。物量が増すと共に加速し、基調のテンポは速め。溌剌として覇気に満ち、推進力も抜群です。強弱のニュアンスは細かく、オケも多彩な表現力を備えていて雄弁。いかにも中身の充実した演奏という手応えがあります。フレージングもしなやかで、流麗な造形。響きの透明度が高く、管弦のバランスに様々な配慮と技が凝らされているのがよく分かります。

 第2楽章も流れが良く、艶やかな音彩で見事にまとめた印象。冒頭から、チェロ群の豊かな表情と柔らかなフレージング、伴奏の和声感と音色の配合が秀逸。名手達による管楽器のソロも聴きものです。概して色彩の微細な変化はよく捉えられていて、一本調子に陥る事がありません。さすがは本場ドイツ最高のオケの演奏です。第3楽章も柔らかな表情。プレストはかなり速く感じられますが、オケの側に余裕があるので、性急な調子にはなりません。

 第4楽章は相当に速いテンポを採り、ヴィルトオーゾ風のパフォーマンスで華やか。作品が持つ祝祭的なムードに合っています。弦楽セクションの音圧の高さはソリッドな威力を発揮しますが、ブラスを伴う際の壮麗な響きもダイナミックな高揚感に繋がっていて、ほとんど合奏力の凄さで最後まで聴かせてしまう感じ。

“巨匠初めての全集セッションに、含蓄豊かなスコア研究の跡を聴く”

朝比奈隆指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団

(録音:1979年  レーベル:ビクター)

 神戸文化ホールで公開録音された朝比奈隆初の全集から。残響がデッドで奥行感には不足しますが、各パートがクリアに捉えられた聴きやすい録音です。演奏も含蓄が豊かで、スコアを研究し尽くしたスペシャリストの音楽といった趣があります。

 第1楽章は提示部をリピート。よく練られた解釈で、遅めを基調にアゴーギクを自在に操作。その呼吸が自然で、決して人工的に感じられないのは、この指揮者らしく吟味を尽くした結果でしょうか。ゆったりとした間合いの中、クレッシェンドで強打するティンパニやトロンボーンなど各パートが健闘。透徹した響きには柔らかな肌触りもあり、丁寧で美しいカンタービレを聴かせます。

 第2楽章もテンポをよく動かす一方、流れが良く、しなやかなフレージングが印象的。力強さと優美さのバランスが良く、無骨さより親しみやすさが勝るのは意外でもあります。発色が良く、和声感が豊かなのもその感を強くしていますが、ティンパニに独特の迫力がある一方、ホルンなどは少しひ弱。

 第3楽章は構成が秀逸で、素晴らしいアゴーギク・センス。主部とプレスト部の往復を、力学的に最大限うまく接続するには、この解釈が最適という事なのでしょう。シャープネスとスムーズさの絶妙なブレンドもさすがで、内面には熱いものも充溢します。第4楽章は雄渾な力を漲らせつつ、たおやかな叙情と緻密さを内包。内的感興の高まりもライヴのような高揚感で、凄いほどの迫力を感じさせます。コーダ前のルバートも効果的で気宇壮大。

“問題の多い全集録音の中で、唯一名演と言える見事な仕上がり”

ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

(録音:1979年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 メータ最初の全集録音から。同コンビのブラームス録音は他に、バレンボムとの両ピアノ協奏曲、スターンとのヴァイオリン協奏曲、ズーカーマン、ハレルとの二重協奏曲があります。全集中最初に録音され、当盤のみがマンハッタン・センターでの収録ですが、残響が豊かで音の印象が良好。どうせなら他の曲も、音響の悪さで有名なエイヴリー・フィッシャー・ホールではなく全てこの会場で録音して欲しかったです。

 第1楽章序奏部はゆったりしたテンポで、主部へ移行する際の大きなリタルダンドと共にロマン的性格と感じられますが、語調は明瞭でアタックも強く、磨き上げられた響きでモダンに仕上げた印象。ただしアゴーギクは細かく操作していて、サウンドも分析的ではなくブレンド傾向です。

 造形はメータらしく端正ながら、雄弁な語り口で聴かせる辺りはロス時代の面影もあり。トゥッティの力感や、旋律線の豊かな表情も魅力です。この全集の欠点はざらついた薄手のアメリカン・サウンドですが、当盤では目立ず、豊麗なソノリティや弦楽セクションの艶やかな音色が美しいです。

 第2楽章は抑制された味わいこそないものの、名手を揃えた各パートのパフォーマンスと、艶っぽくみずみずしい弦楽群のカンタービレで聴かせます。メータの棒も表情が非常に豊かで、随所でテンポを煽る巧妙なアゴーギクで音楽をきりりと引き締めています。歯切れの良いスタッカートを盛り込むのも効果的。

 第3楽章は各部ですこぶる的確にテンポを動かし、牧歌的なアレグレットと軽快なプレストの性格を対比するのに成功しています。これによって、楽章自体の座りも良くなった印象。第4楽章はスピーディなテンポで力強く描写。緊張と緩和の手綱さばきが見事で、オケも爽快な響きと集中力の高い合奏で応えています。コーダに向かう熱っぽい盛り上げ方もスリリング。このクオリティを維持すれば良い全集になった筈なのに、至極残念です。

“彫りの深い造詣と流例を極めたカンタービレ。正にジュリーニ美学の典型”

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロスアンジェルス・フィルハーモニック

(録音:1980年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 当コンビのブラームスは後に第1番が録音された他、ジュリーニはウィーン・フィルと全集録音を行っています。ゆったりとしたテンポで心ゆくまで旋律を歌わせた演奏で、しなやかなカンタービレが美しく、作品との相性の良さを感じます。アインザッツの鋭い切っ先もこの指揮者らしいもの。

 第1楽章は提示部リピートも実行した結果、演奏時間が22分30秒という超大作になってしまいました。第2主題ではさらにテンポが落ちますが、フォルテには力が漲り、リズムにも弾力があって、音楽自体は弛緩せず生き生きと躍動しています。トゥッティのアタックは間合いを計ってそっと置くようなイメージで、決してオケを無造作に鳴らす事がありません。

 第2楽章も終始スローテンポで、緻密に処理された音が織りなすアンサンブルの美しさとみずみずしい歌心が秀逸。音色が明朗で、響きが濁らないのは美点です。後半2楽章は、やはり遅めのテンポを採りつつも、硬質なティンパニを軸とした引き締まった響きにより、力強さと動感に溢れた演奏を展開。切れの良い語尾と流麗なレガートのコントラストが彫りの深い造形を切り出しています。オケの響きも明朗でよく練れており、適度な潤いもあって好印象。

“さりげない調子ながら、細部まで真情のこもった丹念なパフォーマンス”

ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:1983年  レーベル:オルフェオ)

 クーベリック唯一の全集録音から。同オケのブラームス録音も意外にも当時まだ珍しく、全集はこれが初だったと記憶します(後にC・デイヴィス、ヤンソンスが敢行)。

 第1楽章は、中庸のテンポでさりげなく開始。主題提示は流麗かつ繊細で、リズムに対する感覚も鋭く、スタッカートを歯切れ良く処理。パート間のバランスが絶妙で、響きが濁らず明朗です。弦の刻みが原動力となって強力な躍動感を打ち出し、ブラスのソリッドな吹奏もやや硬質ながら強力。弦のしなやかなアンサンブルもさすがで、ヴァイオリンのハイ・ポジションが美しく、深奥から響いてくる豊麗なホルンも素敵です。和声の色彩感がよく出ていて、テンポも動かしすぎず、趣味の良い表現。

 第2楽章は艶やかに歌いつつ、緩徐楽章にしては起伏に富むアクティヴな性格で、リズム的な躍動感も強いです。ゆったりと沈み込まず、熱っぽさを内奥に秘める表現は独特。第3楽章はテンポこそ中庸ですが、動感が強く、テンションの高いパフォーマンス。木管をはじめの発色も良く、鮮やかな隈取りで聴かせます。

 第4楽章は活気に溢れてエネルギッシュ。テンポは心持ち速めで、エッジの効いたアタックとスタッカートの切れ味が抜群です。柔軟なカンタービレとのメリハリも見事。ディティールのニュアンスが細やかで、情感も豊か、音圧の高さにオケの力量が表れています。ブラスの鋭いアクセントも効果的。

“ブラームスの全交響曲中で、もっとも強く適性を示す指揮者とオケ”

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1986年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 カラヤン最後の全集録音から。旧盤もそうですが、全4曲中で特にこのコンビに合っていると感じられる演奏です。デジタル収録になって響きに若干の透明感が増したように感じられるのも美点。

 第1楽章の冒頭からふっくらと暖かみのあるホルン、精妙な響きの作り方が絶品。最初のクライマックスはいかにも壮麗で、このコンビらしい艶やかさと力感が充溢しますが、明るい音彩が求められる曲調ゆえか、不思議と演出過剰には感じません。むしろ、しみじみと歌い込む各パートの味わいが耳を惹く趣。雄渾なティンパニや精力的な金管も、豊麗な残響に包まれて適度なスパイスになっています。展開部からコーダに向けての設計も実に自然で、美しい表現。

 第2楽章は冒頭から艶やかな光沢を放つチェロ群が美しく、旋律を引き継ぐ管楽とヴァイオリン群にも大いに魅せられます。ベルリン・フィルですから、ブラームス作品で合奏の構築ならお手の物といった調子。見事なバランス感覚で本場の矜持を示します。

 第3楽章も細部が雄弁で、味の濃い演奏。近年はさらりと流す演奏の方が多いようですが、本来ブラームスはこれが本流のようにも思います。特にこういう楽章は淡白に描写してしまうと、一体何を表現している音楽なのか分からなくなりがちですし。第4楽章は旧盤のような快速テンポではないですが、

“室内楽的な合奏と緻密な指揮で、重厚なブラームス像をとびきり新鮮に洗い直す”

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1987年  レーベル:テルデック)

 全集録音から。英デッカと契約して多数の録音を行っているコンビですが、テルデックの音もなかなか豊麗でデッカの録音技術に劣りません。第1番では第1楽章提示部の繰り返しを省略したドホナーニも、当曲では逆にリピートを実行。風通しの良いクリアなサウンドで、重厚晦渋なブラームス像からの解放を試みたような、終始心地良いパフォーマンスです。速めのテンポで淡々と歩を進める一方、音と音のスムーズな受け渡しに配慮し、常に旋律線をみずみずしい感覚で歌わせているのが魅力的。

 まろやかにブレンドするマスの響きも、刺々しさが皆無。それでいて、ティンパニがパンチの効いた力感を加えていて、スポーティな運動性にも事欠きません。第4楽章など、よく弾む無類に切れの良いリズムを縦横無尽に盛り込み、8割くらいの力で余裕を持って臨んだような演奏を展開。オケの室内楽的なアンサンブルも、スコアの新たな側面に光を当てる感があります。ダイナミクスも完璧にコントロールされていて、ドホナーニ一流のドライヴ能力に思わず驚嘆。

“当コンビの最初の成果ながら、旧盤よりも常套的な表現なのが残念”

クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1988年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 アバド二度目の全集録音から。4つのオケを振り分けた旧全集でも、同曲ではベルリン・フィルを起用していました。新全集の皮切りとなった録音で、来日時の演奏もテレビ放映されて、アバドが次のフェイズへ進みつつあるスタティックな指揮振りが印象的だったのを今も覚えています。教会収録で残響たっぷりの旧盤と較べるとずっと自然な音になりましたが、演奏も常套的な解釈の範疇に収まっているのは気になる所。

 第1楽章は提示部をリピート。旧盤ほどスローには感じられず、むしろ音量の増加と共に僅かな加速を行っています。内圧を高めて押し出しの強いカンタービレを繰り広げる弦楽セクションは、このオケらしい所。落ち着いた優美な佇まいで、音楽は完全に手の内に入っていますが、響きが艶やかに磨かれて明るい点を除けば、アバドならではの個性を見出すのは難しいかも。ただ、例えばカラヤンの各盤などと較べれば、きちんと時間を取って丁寧にリハーサルされた感触はあります。

 叙情性も豊かで、弱音部のデリカシーも聴き所、オケがよく統率され、各パートがみなニュアンスも多彩で上手いので、王道のブラームスを味わうのに不足はありません。コーダも無為に流さず、内実の伴った表現と感じられます。

 第2楽章はアバドに向いた曲想なのか、緻密に構築された合奏に耳を奪われます。旧盤ほどではないものの、ハーモニーの発色も鮮やかで、立体的な響きに和声の移ろいもきっちり表出。緩急の手綱も引き締め、フォルムが崩れる事もありません。第3楽章も精妙な描写力が光りますが、解釈としては至ってオーソドックス。第4楽章はテンポも表情も中庸ながら格調が高く、力まずして造形を美しく切り出す品格がアバドの人気の秘訣でしょうか。コーダにおける力感と流麗さの両立もさすが。

“清潔かつ堅固な表現で、全集中では最も成功した印象”

コリン・デイヴィス指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:1988年  レーベル:RCA)

 全集録音から。個人的には、全4曲中もっとも成功している演奏だと思います。淡々として、むしろアクティヴな印象も受けるデイヴィスのブラームスの中では、曲調に合わせてコンセプトを変えたのか、ゆったりとしたテンポでしっかり歌い込んだ演奏。もっとも、芳醇なロマンの香りが漂うかというとそんな事はなく、堅固な造型感覚でシンフォニックにまとめている点はこの指揮者らしい所です。

 オケの、特に弦の美しい音色は十二分に生かされ、対位法に留意して立体的な響きを構築。いわゆる古典的で、清潔な演奏という感じです。穏やかな性格が支配的な最初の2楽章でも、ティンパニを伴うトゥッティなどは雄渾。第3楽章のプレスト部やフィナーレなど、テンポの速い箇所におけるきびきびと歯切れの良い音楽運びもデイヴィスらしいです。コーダはソリッドな金管が牽引し、さすがに力感漲って輝かしい表現。録音がオフ気味で、木管の動きがマスの響きに埋もれがちなのが残念です。

“徹底して流麗なラインにこだわるムーティ。顕著なまでに歌に傾いたアプローチ”

リッカルド・ムーティ指揮 フィラデルフィア管弦楽団

(録音:1988年  レーベル:フィリップス)

 全集録音の一枚で、大学祝典序曲をカップリング。残響を豊かに収録した録音が美しく、かつて美麗を売りにしていたオーマンディ時代からラテン的サウンドに変貌したと思われたフィラ管も、いつの間にかまた艶やかな美の境地に返り咲いた感があります。フィリップスの録音は肌触りのなめらかさ、柔らかさが特徴で、やはり録音スタッフのヨーロッパ的感性が強く反映されているようです。

 ムーティの表現は全集の他の曲とは異なり、徹底して横の線を美しく扱った流麗なもの。アゴーギクも全編に渡って緩やかです。1番や4番で効果を発揮していたエッジの鋭いアクセントも、ここでは注意深く避けられていて、フィナーレに至ってもその態度は変わりません。

 提示部リピートを実行した第1楽章は、他盤に比しても顕著なまでに歌に傾いたアプローチで、あくまでも繊細なラインで旋律線を紡いでゆく印象。トゥッティの暖かな響きも素晴らしいですが、後半2楽章などは、もう少しムーティらしいスピード感や押し出しの強さを盛り込めば、メリハリが効いて良いコントラストが出たかもしれません。あくまで優美に仕上げるのが、彼の美意識だったのでしょうけど。

“後年の最録音に先駆けた、機敏でモダンなアプローチ”

リッカルド・シャイー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1989年  レーベル:デッカ)

 全集録音から。シャイーは後にゲヴァントハウス管とも全集を完成させていますが、それに先駆けた斬新なアプローチの片鱗が随所にあり、これはこれで従来のブラームス像に一石を投じた、フレッシュな演奏でした。オケの個性も生かしている点で、まだそこが折衷的という感じでしょうか。

 提示部リピートを実行した第1楽章はテンポが速く、終始前傾姿勢で勢いがある一方、横のラインのなめらかさ、しなやかさを極限まで追求。タッチの柔らかさとデリカシーは特筆に値します。オケもリズムやディナーミクのレスポンスが敏感で、小編成でなくともすこぶる小回りのきく印象。細部も明瞭で響きに立体感があり、どことなくベートーヴェン的な躍動感も加味した独特の表現です。

 第2楽章は一転してゆったりしたテンポを採択し、気品に溢れたフレージングでよく歌う演奏。続く第3楽章も、弾みの強いリズムで浮き浮きとした調子を前面に出しており、ブラームス特有の北ドイツ的重厚さとは無縁のアプローチ。色彩の配合も見事です。フィナーレはスピーディでアクセントが鋭く、響きも軽いので、やはりベートーヴェンのような古典的雰囲気が出てきます。オケの機動力がまた抜群で、スタッカートの切れ味やシンコペーションのグルーヴなど、実に敏感でモダン。

“理想的なフレージングと表情で、ブラームスの旋律を最大限に美しく歌わせる”

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1989年  レーベル:EMIクラシックス)

 全集録音から。他に同じ顔合わせで各序曲や声楽曲も録音している他、サヴァリッシュのブラームスはウィーン響との旧全集をはじめ、数多くの録音が残されています。EMIの定番アビー・ロード・スタジオでの収録ですが、非常に柔らかくまろやかなサウンドで、ロンドン・フィルの起用に首を傾げた人も、実際に音を聴けば納得されるのではないでしょうか。ふくよかなソノリティは魅力的で、優美なラインを描いて歌う旋律線も聴き物。

 第1楽章は、主部へのアウフタクトを大きく溜めるのはいかにも旧式ですが、造形は明快そのもの。透徹した響きの中にリズムと対位法を立体的に構築する手法に、やはり現代的な指揮者だなと感じます。張りのある力強いティンパニと金管も印象的。スコアは完璧に掌握されていて、解釈に関して非の打ち所の無い、熟練の演奏です。

 第2楽章は、チェロの主旋律のはかなげな歌い回しが独特。この全集に共通する美質に、ブラームスの旋律をこれ以上美しく歌い上げる事などできないのでは、というほど理想的なフレージングとニュアンスが達成されている点があります。しかも伴奏型を含め、管弦のバランスと和声感、音色が絶美。改めてサヴァリッシュは偉大な芸術家だったんだなと痛感します。

 第3楽章は大らかで柔和な主部と、速めのテンポで鋭敏な躍動感に溢れたプレストをごく自然な流れで連結。第4楽章は落ち着いたテンポながら、瞬発力のあるアタックと歯切れの良い語調でシャープに造形しています。合奏がどこまでも生き生きとしているのはさすがで、きっとオケからも尊敬されていたのでしょう。指揮者の統率力と人柄を偲ばせます。滔々と流れる豊麗な歌を、エッジの効いた金管と逞しいティンパニがきりりと引き締め、コーダも力強く見事。

 → 後半リストへ続く

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