ストラヴィンスキー/3楽章の交響曲

概観

 クラシック・ファンの例に漏れず、私もストラヴィンスキー、なかんずく3大バレエは大好物ですが、それ以外のストラヴィンスキー作品で好きなものを3つ挙げろと言われたら、これは人によって随分違うセレクトになるのではないでしょうか。私なら、《妖精の口づけ》も《エディプス王》も《星の王》も好きだし、《15人の器楽奏者のための8つのミニチュア》は飽きるほど聴いたし、《詩篇交響曲》も《兵士の物語》も《花火》も《うぐいすの歌》もと悩みますが、絶対外せないのがこの曲。

 この作品は、新古典主義的な取り澄ましたストラヴィンスキーと違って、まだアグレッシヴな雰囲気が残っている所が魅力です。特にリズムの面白さには心躍るものがあり、例の、ブーレーズの論文で詳細に分析された《春の祭典》のリズム細胞の手法が、ここでも効果的に使われているようです。

 それに、千変万化する曲想の独創性とかっこ良さ。そして、ダンス・ミュージックや映画音楽を思わせる躍動感(数々の映画音楽がこの曲の影響を受けているように思います)。第1楽章のティンパニは、作曲者自身が言及しているようにルンバのリズムを表し、これが楽章全編で印象的に使われています。一方で、第2楽章中間部では、新ウィーン学派を思わせる音処理や浮遊感も聴かれたりと、多彩な内容。

 演奏はマータ盤が圧倒的名演と感じますが、残念ながらCD化されていません。他でお薦めはC・デイヴィス盤、デュトワ盤、ラトル/バーミンガム盤、N・ヤルヴィ盤、マゼール盤、A・デイヴィス盤。ストラヴィンスキーを得意としているブーレーズ、サロネン、T・トーマス、ラトル(ベルリン盤)の演奏があまり面白くない一方、非主流派に名演が多いのは意外な現象です。

*紹介ディスク一覧

60年 シルヴェストリ/フィルハーモニア管弦楽団  

79年 マータ/ダラス交響楽団

81年 デュトワ/スイス・ロマンド管弦楽団

85年 C・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団  

86年 ラトル/バーミンガム市交響楽団  

89年 サロネン/フィルハーモニア管弦楽団

90年 メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック 

91年 T・トーマス/ロンドン交響楽団

93年 N・ヤルヴィ/スイス・ロマンド管弦楽団

96年 ブーレーズ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

97年 マゼール/バイエルン放送交響楽団 

07年 ラトル/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  

09年 ブーレーズ/シカゴ交響楽団 

22年 A・デイヴィス/BBCフィルハーモニック  

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“明快かつ鋭利、時にユニークな解釈も盛り込むシルヴェストリ”

コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

(録音:1960年  レーベル:EMIクラシックス)

 オリジナル・カップリングは恐らく同時録音の《うぐいすの歌》。第1楽章は、序奏から句読点が明快で、オン気味の録音と相まって、全てが鮮やかに捌かれる趣。主部はやや前のめりの足取りで落ち着きが無いですが、それがスリリングだと感じなくもありません。アンサンブルも空中分解の一歩手前で持ちこたえます。音色は派手で拡散型。強弱の演出が細かく、独自の解釈を盛り込んでいます。

 第2楽章は発色の良い響きで緻密に合奏を組み立て、鋭い音色センスを聴かせます。この時代のリスナーには、相当にモダンで精密な演奏に聴こえたと想像されます。第3楽章は、シャープで切れ味の鋭いリズムが見事で、音色も合奏も鮮烈。主部のファゴットの掛け合いは、リズムの採り方が個性的で、続く弦の伴奏型にもユニークな解釈を聴かせます。爆演指揮者のように言われがちですが、勢いにまかせて仕上げが粗くなる事は全くありません。

“落ち着いたテンポで着実に音楽を構築してゆくマータらしい演奏”

エドゥアルド・マータ指揮 ダラス交響楽団

(録音:1979年  レーベル:RCA)

 《火の鳥》組曲とのカップリングで、未だにCD化されていない録音。個人的に大変気に入っているディスクなので、CD化を強く希望します。非常に遅い、落ち着いたテンポで着実に音楽を構築してゆくマータらしい演奏で、彼のストラヴィンスキーとしては、ダラス響と後年に再録した《春の祭典》と同傾向の蓄積型アプローチと言えます。

 情緒的な面に流れないで、急がず慌てず、音楽の潜在的パワーを徐々に高めてゆくイメージ。とは言っても、ブーレーズのような怜悧な表現に偏らず、リズムを鋭く弾力的に処理している上、オケの響きにもグラマラスな肉体性を追求しているので、決して冷たい演奏にはなっていません。ただ録音の方はLPできく限り、響きが若干もやもやしてディティールの解像度がもどかしい印象は否めません。

作品のあらゆる様相を呈示する、理想的な表現

シャルル・デュトワ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団

(録音:1981年  レーベル:デッカ

 オリジナルはハ調の交響曲とのカップリング。デュトワがレコード業界で頭角を現してきた、正にその時期の録音ですが、彼がそのレパートリーをなぞりつつあったアンセルメのオーケストラである、スイス・ロマンド管弦楽団を振った録音という事でも貴重なディスクです。

 冒頭からフィナーレまで、作品のあらゆる様相を聴き手に呈示する理想的な演奏。改めてデュトワという指揮者の並外れた才能に驚かされます。音色の香気や卓越したリズム感、峻烈なダイナミクス、テンポ変化の呼吸の巧さは勿論、作品が持つ粗暴なエネルギーも余す所なく捉えている点に好感を持ちました。トゥッティのサウンドも、皮の質感生々しいティンパニを軸に適度にシェイプされ、往年の英デッカ・レーベルの魅力を伝えます。

“超一級のアンサンブル、鋭いアクセントと不協和音の効果、緻密で重厚な響き”

コリン・デイヴィス指揮 バイエルン放送交響楽団     

(録音:1985年  レーベル:フィリップス

 当コンビのストラヴィンスキー録音はオルフェオ・レーベルに《エディプス王》があります。ハ調の交響曲とカップリング。このコンビは、フィリップスへの録音が意外に少ないので貴重です。演奏は、コンセルトヘボウとの見事な三大バレエを彷彿させる、素晴らしい仕上がり。不協和音の効果を大胆に生かし、鋭いアクセントと徹底したアーティキュレーション、重厚かつ緻密な響きでスコアを生き生きと再現して、作品の魅力をヴィヴィッドに伝えます。

 T・トーマスやブーレーズ、ラトルなど、本来こういう曲を得意にしている筈の指揮者よりずっと作品の面白さを引き出している事や、三大バレエ《エディプス王》の名演ぶりも考え合わせると、デイヴィスはストラヴィンスキーとかなり相性が良いようです。オケのアンサンブルも超一級。

“エネルギッシュな活力と共に、圧倒的な明晰さを示す若きラトルの名演”

サイモン・ラトル指揮 バーミンガム市交響楽団

(録音:1986年  レーベル:EMIクラシックス)

 《ペトルーシュカ》とカップリング。ラトルは後にベルリン・フィルと、同レーベルに当曲を再録音しています。第1楽章は冒頭からエッジが効いてシャープ。オケの響きもモダンで、打楽器や金管のアクセントにもパンチあり。尖鋭さを前面に出した造形は、作品とも相性がいいです。テンポこそ中庸ですが、活力に溢れたエネルギッシュな表現はラトルの美点。細部まで生き生きと描写しています。

 第2楽章は、各パートとも生気に満ちたパフォーマンスを展開。木管ソロもみな巧いです。サウンドの作り方が実に精緻で、色彩の配合も繊細そのもの。第3楽章は、壮麗なソノリティと鋭いリズムで、凄味のある演奏。圧倒的な明晰さを備えた棒さばきで、多彩なニュアンスを表出しつつ、変化に富む曲想の面白さを見事に掴んでいます。歯切れの良いスタッカートも効果絶大。

“筋肉質の響きで小規模にまとめながら、官能的色彩も逃さないサロネン”

エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

(録音:1989年  レーベル:ソニー・クラシカル) 

 《春の祭典》とのカップリング。かなり速めのテンポを採っていますが、あまりスケールを拡大せず、筋肉質の響きで小気味良くまとめていて、一つのスタイルとして強い説得力があります。サロネンはスコアが孕む官能的色彩も逃さず捉え、適度な粘性を保ちつつ楽想を処理。若手指揮者にありがちなように、色彩とリズムを数学的に割り切るあまり、無味乾燥に陥ってしまう事がありません。

 第2楽章もそれほど速度を落とさず、常に運動性を維持しながら演奏を進めますが、作品全体の構成の仕方から言えば、むしろ適切なテンポ設定に感じられます。最後まで聴くに至って、サロネンらしい作曲家的な視点に改めて唸らされる思い。

“感覚的に曲想を掴んだユニークな表現ながら、録音のせいで魅力半減”

ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

(録音:1990年  レーベル:テルデック)

 当コンビ2度目の《春の祭典》とカップリング。《ハルサイ》《ペトルーシュカ》以外のストラヴィンスキー作品をメータが録音するのは珍しく、同曲に関しては唯一のディスク。ソニーも使用しているマンハッタン・センターでの収録で、ある程度の残響を取り込んでいてドライではありませんが、奥行き感と低域がやや浅く、直接音も微妙に距離感が遠くて細部の精彩を欠きます。

 第1楽章は適度なテンポ感ですが、さすがメータは直感的に曲想を掴むのが上手く、勢いと熱気で聴かせます。低音部に安定感があり、トロンボーンのエッジを効かせるのもメータ・サウンド。優秀なオケ、それもストラヴィンスキーを得意としたバーンスタインのオケだけあって、合奏は緻密に構築されていますが、リズムの精確さや怜悧な分析を追求する発想とは根本的に異なります。もっと感覚的に反応していて、そういう演奏は逆に少ないので新鮮。押し出しの強さや迫力もあります。

 第2楽章も録音のせいでやや発色が悪いですが、演奏自体は集中力が高く、メータらしい雄弁さと棒の牽引力が感じられます。設計の面でも単純なイン・テンポではなく、主部と中間部の微細な対比感もあり。第3楽章への推移も明白なメリハリを付けない代わり、アゴーギクの操作で繋ぐ側面が強く、そのため序奏部の表情はかなり淡白になっています。主部は自然体で、コーダに至るまで有機的に構成されていますが、ディティールがより鮮やかに出ればさらに峻烈だったかも。

鋭いエッジをきかせながらも、意外と面白みに欠ける演奏。MTT苦戦?

マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ロンドン交響楽団

(録音:1991年  レーベル:ソニー・クラシカル

 詩篇交響曲、ハ調の交響曲とのカップリング。若い頃にはストラヴィンスキー自身と親交もあり、得意にしているT・トーマスですが、この曲に関してはどうも他盤に軍配が上がります。第1楽章冒頭、エッジの効いたシャープな響きとリズムは、一聴して彼の演奏と分かるものですが、意外にも主部のリズム的面白さが浮き出てこないもどかしさがあります。テンポが速すぎるせいかもしれません。

 第2楽章以降は、落ち着いた足取りでじっくり演奏していますが、オケの音色が淡白で、作品が時折垣間見せる妖しい色彩感や微妙な官能性に対して、いかにも素っ気なく通り過ぎる傾向があります。T・トーマスは個人的に好きな指揮者ですが、彼自身が一家言を持ち、昔から定評もあるストラヴィンスキー作品の演奏に関しては、私はどれもあまり高く買いません。

“鮮やかな場面転換とアグレッシヴな勢い。オケと指揮者の優秀さが際立つ一枚”

ネーメ・ヤルヴィ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団

(録音:1993年  レーベル:シャンドス)

 当コンビの5枚組ストラヴィンスキー・ボックスから。ヤルヴィのストラヴィンスキーは、他にもコンセルトヘボウ管、ロンドン響、スコティッシュ・ナショナル管との録音があり、総合するとほぼ全集といっていい規模になると思います。

 アンセルメ時代は「録音のマジック」と揶揄され、その後も不遇と見られたスイス・ロマンド管ですが、インバルやデュトワ、このヤルヴィ父など、オーケストラ・ビルディングに定評のある指揮者と関係を保ってきたおかげで、ソロ、合奏力、音色の艶やかさ、鋭利さなど、ここではあらゆる点で一級レヴェルと感じられます。

 ヤルヴィは語り口が巧く、コントラストを明瞭に付けて、場面転換を鮮やかに演出。両端楽章はテンポが速く、音の立ち上がりもスピーディで、無類に歯切れの良いスタッカートが頻出します。第3楽章の冒頭もエッジが効いてアグレッシヴ。アンサンブルが見事に統率されています。音色がカラフルで変化に富み、淡彩に陥らないのも魅力。ヤルヴィのストラヴィンスキーは、新古典主義の作品を中心に概してこの鮮やかなスタイルでリズム感も良く、抜群の適性を示しています。

精緻を極めた完全主義的パフォーマンス。やや躍動感を欠く傾向も

ピエール・ブーレーズ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1996年  レーベル:ドイツ・グラモフォン

 管楽器のための交響曲、詩篇交響曲とカップリング。ブーレーズ一流の精緻を極めた完全主義的演奏で、オケのパフォーマンスも見事。テンポが遅く、いかなる場面においても信じられないくらい冷静で、激した部分が全くありません。これはこれで凄い事ですが、スポーティな運動性には不足しますし、作品が持つユニークなダイナミズムを十全に伝えているとは言えず、特にリズムが平面的で弾力性を欠くのは好みをわかつ所。

 しかし、この曲に限らずブーレーズの録音は、スコアを徹底的に音化している点において、現代のリスナーは避けて通れないもの。好き嫌いは別として、一度は必ず聴いておかなくてはならない演奏という気がします。当盤でも、無調音楽的な部分の処理や、ハープやピアノを伴った室内楽的アンサンブル、妖しく冷たい光を放つ微妙な色彩効果などに見せる才気など、他の指揮者の比ではありません。その点は脱帽です。

“尖鋭なリズムと多彩なニュアンスで作品への適性を示す巨匠マゼールの棒”

ロリン・マゼール指揮 バイエルン放送交響楽団   

(録音:1997年  レーベル:RCA)

 詩篇交響曲、《兵士の物語》組曲とカップリング、マゼール初録音の作品ばかりを集めたアルバムです。彼の表現は予期していた以上に鋭角的で、特に金管の刺々しいアクセントは若い頃のマゼールをも想起させるほどですが、さすがにバイエルン放送響は優秀で、しなやかなレスポンスと多彩なニュアンスを聴かせます。響きが薄手にならず、充実した有機的なサウンドをキープしているのもこのオケならでは。

 マゼールの作品への適性は、ウィーン・フィルとの《ペトルーシュカ》以上のものがあり、彼の年齢を考えれば、改めてその尖鋭なリズム・センスに驚かされます。弱音部の緻密なアンサンブルも見事に描写されていて、個人的にはブーレーズ盤よりもずっと作品の面白さが出ている演奏と感じます。

“音の立ち上がりが遅く、意外にリズムの面白味に欠けるラトル期待の再録音”

サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  

(録音:2007年  レーベル:EMIクラシックス)

 詩篇交響曲、ハ調の交響曲とカップリングの他、日本盤のみ《管楽器のシンフォニー》をボーナス・ディスクに収録。ラトルはバーミンガム市響とも当曲を録音しています。ラトル、ベルリン・フィルという事で大いに期待したのですが、意外にリズムの面白味とグルーヴ感が出てこず、特に第1楽章は不満です。

 トゥッティの立ち上がりも重く、ラトルらしいパーカッシヴな瞬発力を欠きます。彼も老境に差し掛かりつつあるという事なのでしょうか。弱音部の精妙な表現はさすがにベルリン・フィルだけあって、第2楽章は全体に堂に入っています。第3楽章もやや持ち直す印象ですが、この作品はやはり、リズムの弾力性と乗りが命だと思います。録音もこもり気味であまり感心しません。

“躍動感の欠如は継承しつつ、旧盤を凌駕する圧倒的合奏力が聴き所”

ピエール・ブーレーズ指揮 シカゴ交響楽団

(録音:2009年  レーベル:CSO RESOUND)

 オケ自主レーベル発のライヴ盤。《4つのエチュード》、《プルチネルラ》全曲とカップリングされています。ベルリン・フィルとのセッション録音から13年振りとなる録音ですが、コンセプトは全くブレておらず、遅めのテンポで精緻な合奏を組み立ててゆくスタイルは変わりません。しかし、ただでさえ残響のデッドなホールでしかもライヴ収録なので、響きの浅さ、潤いのなさはDSD、SACDの高音質をもってしてもいかんともしがたい所。

 第1楽章は落ち着き払ったテンポで、着実そのもの。旧盤同様、リズムの躍動感を期待するともどかしさが先に立ちますが、アンサンブルの精度の高さはライヴ演奏の常識を超えています。音色の鮮やかさ、シャープな抜けの良さはベルリン盤以上。第2楽章は、録音にもう少し発色の良さが欲しい所ですが、弱音でも妖しい光沢を放つ旋律線の艶っぽさは、さすがブーレーズです。

 第3楽章はやはり遅めのテンポで悠々と開始。序奏部からオケの底力が発揮され、何とも言えない凄味を放ちます。主部はやはり腰の重さがブレーキとなりますが、スコアは隅々まで照射される印象。テンポの変化も強固な意志でコントロールされ、語尾の明瞭さと併せて、有無を言わせぬ調子が全体を支配します。

“76歳にしてますます才気が冴え渡る、どこまでも精悍で鋭敏なパフォーマンス”

アンドルー・デイヴィス指揮 BBCフィルハーモニック

(録音:2022年  レーベル:シャンドス)

 ハ調の交響曲、ディヴェルティメント、グリーティング・プレリュード、サーカス・ポルカをカップリングした、83分半の長尺盤(LPなら2枚分です)。A・デイヴィスのストラヴィンスキー録音は珍しく、他には80年代にトロント響との《春の祭典》、BBC響との《ペルセフォーヌ》ライヴ盤があるくらい。若々しい演奏スタイルが特色だったサー・アンドルーも当盤録音の時点で76歳、それでもBBC響とのベルク作品集をほぼ同時にリリースするなど、活動は旺盛です。

 少し前に出たトロント響との幻想交響曲があまりにも穏便な演奏だったので、さすがに年を取ったなあと思っていましたが、当盤はきびきびと精悍に造形していて、シャープで筋肉質な響きの作り方も壮年期と変わらず。単に解釈の問題だったようです。テンポこそ落ち着いていますが、ティンパニの鮮烈な打ち込みやエッジが効いて歯切れの良いブラスなど、すこぶる鋭敏な合奏を展開。音の立ち上がりにもスピード感があり、音色も鮮やかです。

 第1楽章の機敏なリズム感と瞬発力、和声に対する鋭いセンス、見事という他ない遠近法の演出、第2楽章の艶っぽくも研ぎ澄まされたモダンな音色、解像度の高い精妙な響き、第3楽章で主部に入った所のファゴットのリズムのとぼけた味わい、楽器の組み合わせが変わる各場面の切り替えとコントラストなどは、いずれも聴き所。晩年急速に老けた感のあった先輩格のコリン・デイヴィスとは対照的に、アンドルーの才覚はますます冴え渡っているようです。

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