ブラームス 交響曲第4番

概観

 秋の空気をたっぷり身にまとったようなシンフォニー。秋といっても人生の秋、晩年のブラームス特有の枯淡の境地は私も好きですが、第3楽章の祝祭的ムードは派手すぎてちょっと疲れます。フィナーレにパッサカリアという古い形式を使っている所は、古典を愛したブラームスらしい所。

 ブラームスの交響曲は全集録音する指揮者が多く、中には何度も再録音している人もいますが、クライバーやブロムシュテットの優れた単発盤もあり。そのクライバー盤やレヴァイン新旧両盤の元気溌剌系、ケンペやデイヴィスの古典主義から、バルビローリやジュリーニの情緒纏綿たる演奏まで、多様なディスクが揃っています。90年代以降は新鮮なブラームス演奏が難しい時代に入ったと痛感していましたが、近年ではラトル、ネルソンスが新しい方向性を示し、希望の光も見えてきました。

*紹介ディスク一覧

60年 ケンペ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団  

63年 サヴァリッシュ/ウィーン交響楽団  

63年 ドラティ/ロンドン交響楽団  

67年 バルビローリ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

69年 ジュリーニ/シカゴ交響楽団  

72年 ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 

74年 ケルテス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団  

75年 ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

76年 マゼール/クリーヴランド管弦楽団

78年 カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

79年 ジュリーニ/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団  

79年 メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック   

80年 朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

80年 クライバー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

83年 クーベリック/バイエルン放送交響楽団   

87年 ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団 

88年 カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  

88年 ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

89年 C・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団

89年 ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

90年 シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団  

91年 アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  

92年 ハイティンク/ボストン交響楽団

92年 メータ/イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

93年 バレンボイム/シカゴ交響楽団

94年 レヴァイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

96年 ブロムシュテット/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

97年 アーノンクール/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

97年 ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

 → 後半リストへ続く

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“ドイツ風にこだわらず、まろやかで瑞々しい響きで一貫”

ルドルフ・ケンペ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1960年  レーベル:テスタメント)

 ケンペは後にミュンヘン・フィルと全集録音を行っています。残響はややデッドながら、鮮明な直接音と滑らかな手触りが印象的な、時代を感じさせない録音。いかにもドイツ音楽的な低音偏重のピラミッド型バランスにはせず、弦楽四重奏の延長みたいに風通しの良い響きに徹している点はミュンヘン盤と同様です。

 第1楽章は、弦を中心にした合奏を強靭に構築しつつ、まろやかで瑞々しい音色と、よく歌う流麗な旋律線で聴かせる演奏。強弱の演出が細かく、ディティールが豊かで生気に溢れていて、音楽が停滞せず、前へ前へ滔々と流れるのも爽快です。コーダへ向けて僅かに加速しながら、徐々に感情を昂らせてゆく熱っぽさもあり。最後はルバートで大きくブレーキを踏み、名人芸風の見得を切ります。

 第2楽章も、よく練られた美しい響きが印象的。決して華美ではないものの、各パートの音色の同質性というか、柔らかな手触りやユニゾンのしなやかさ、ソノリティのブレンド感など、ケンペが振った時にだけに現れるロイヤル・フィルの固有の美質が、ここには存分に展開されています。集中力を途切らせず、音楽を漫然と垂れ流さないのもケンペの美質。ミスも無いとはいえませんが、オケもケンペの音楽性に傾倒している印象です。

 第3楽章は落ちついたテンポで、ほんのちょっとした間の挟み方にも味わいあり。勢いで流さず、瞬間瞬間を噛みしめるように、スコアを丹念に音にしてゆきます。打楽器を伴うトゥッティも、拡散型のサウンド傾向にはならず、むしろ室内楽的に凝集したアンサンブルを構築。

 第4楽章も、磨き上げられた派手なサウンドではなく、内から沸き起こる感興を内包したような有機的な響きが魅力的。歯切れの良いスタッカートも折り込み、線的な美しさとリズミカルな躍動を見事に対比しています。テンポは落ち着いていますが、情感は豊かでモダンな造形性もあり、純ドイツ風に固執しない、優れたブラームス像。

“明晰で断固たる姿勢を見せるサヴァリッシュ。オケの音色的魅力は今一つ”

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団

(録音:1963年  レーベル:フィリップス)

 全集録音より。当コンビは序曲や合唱曲、《ドイツ・レクイエム》も同時期に録音している他、サヴァリッシュは後年、ロンドン・フィルとも全集録音を行っています。直接音メインの音作りは60年代の録音らしいですが、音響条件はややデッドで、高音域が少しこもるのはオケのキャラクターでしょうか。奥行き感やみずみずしさもある59年録音の第2番と較べると、音色的魅力は逆に減退。この全集は、録音年代が後になるほどオケの響きに潤いがなくなってゆくのが不思議です。

 第1楽章は、過剰な思い入れを排して明瞭な語調で開始。やや響きが練れておらず、ヴァイオリン群の音色に若干の雑味があるのは残念です。しかしどのフレーズも確信を持って鳴らされ、速めのテンポでまなじりを決して進んで行く姿勢は凛々しくも精悍。コーダも主情に傾く事なく、きっぱりと締めくくります。

 第2楽章も、これ以上ないほど明晰な、断固たる態度で開始し、フレーズの解釈や響きのバランスに曖昧さを残しません。その点ではサヴァリッシュも、既に成熟した指揮者であったと言えるでしょう。少なくとも、80年代以降にブラームスに着手した人気指揮者達のような、回答の先延ばしとも取れる中途半端な態度が見られないのは凄いです。しかし北ドイツ風の重厚さはなく、流麗で風通しが良くて、フォルムを重視した現代的スタイルで一貫。

 第3楽章は、垢抜けた響きは聴かれませんが、合奏にまとまりがあり、細部まで実に丁寧に彫琢されています。テンポは中庸で、表現自体は素朴。コーダ前後にも演出めいたものは一切ありません。第4楽章は淡々としていつつも、直情的な熱っぽさを孕んだ表現。ただ、開始部の管楽器のハーモニーなど、ピッチの甘さがやや気になります。ソロは雄弁で自発性に富み、自由な間合いで嫋々と歌い上げるフルートは感動的。コーダは白熱不足で、素っ気ない盛り上げ方に物足りなさも。

“明瞭に分離する管弦の響き、筆圧の高いエネルギッシュな語り口”

アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団

(録音:1963年  レーベル:マーキュリー)

 ドラティはマーキュリーに全集録音を行っていますが、2番だけはミネアポリス響を起用しています。このレーベルらしい発色の良い鮮やかな録音と相まって、実に瑞々しく爽快な演奏。ドイツ的かどうかはともかく、終始生彩に富んだ、流麗な表現を展開します。特に、胸のすくように思い切りの良い弦のカンタービレは魅力的が、響きが明るくて軽いのは好みを分つ所でしょう。

 第1楽章は隅々まで照射された明晰なサウンドと、張りのある元気一杯の旋律線が独特。管楽器が弦に埋もれないので、対位法の効果を前面に出した、非常にクリアな演奏に聴こえます。アゴーギクは通常の感覚を踏襲していますが、筆圧の高いエネルギッシュな語り口はユニーク。弦の艶やかな響かせ方、優美なニュアンスはミネアポリス響よりも一段上です。

 第2楽章はゆったりと構え、緊迫したテンションと推進力を最後まで維持した前楽章とうまく対照。ただし語調はきっぱりとしていて、歯切れの良いスタッカートと鋭利なアタックを随所に効かせます。歌い回しは優美で、曲線の美しさは尊重。第3楽章は落ち着いたテンポで、細部まで克明に造形。切っ先の鋭さは終始一貫しています。

 第4楽章も悠々たる足取りながら、一点の曖昧さも残さないアーティキュレーションでくっきりとスコアを描出。緊密でスピード感のある弦楽合奏はヴィルトオーゾ風で、烈しい勢いを加えた三連音符の連続など、非常な迫力があります。背景の弦のトレモロも強靭。トロンボーンに応答するティンパニのトレモロは、改変がなされているようです。

すべての音符に心を込めて歌い上げる、バルビローリの耽美的音楽世界

ジョン・バルビローリ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1967年  レーベル:EMIクラシックス

 全集中の一枚。最初の数小節を聴いただけでサー・ジョンの耽美的な世界に引き込まれてしまう、ものすごい演奏です。テンポの遅さも尋常ではありませんが、耳を惹くのはフレージング。第1楽章冒頭から細かく抑揚を付けて歌う弦楽群の、なんという美しさでしょう。オケの柔らかくて艶やかな音色も素晴らしいですが、旋律線を全面に押し出したこの歌心はただ事ではありません。響きも見通しが良く、音色が明るく爽やかなので、北ドイツ的重厚さとは隔たった世界と言えます。

 フレーズの切り方はシャープで、演奏全体としては冗長でも鈍重でもないのですが、全ての音符に心を込めて丁寧に扱うバルビローリの態度は正に“慈愛”。第3楽章も相当に遅く、祝祭的ムードよりはベートーヴェン的な雄渾さが強く表れています。作品の性格もバルビローリの資質に合っていて、当全集で最も成功している録音だと思います。

“艶やかな歌を優先するスタイルながら、良くも悪くもオケの個性が印象を左右”

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 シカゴ交響楽団 

(録音:1969年  レーベル:EMIクラシックス)

 ジュリーニの同曲は、後にウィーン・フィルとの全集録音やコンセルトヘボウ管とのライヴ音源もあり。残響は豊富で直接音も鮮明ですが、古い音源のせいか、音の途切れや混濁が残念。オケの特色である、発色の良いカラフルな管楽器と、音圧が高くて張りのある弦のキャラクターはよく捉えています。

 第1楽章は、冒頭から艶っぽく明るい音色で朗々と歌わせる、ユニークな表現。ドイツ音楽らしい和声の構築より旋律線を重視するスタイルはイタリア流で、優美なカンタービレが魅力的です。堅固な様式感で聴かせるタイプではなく、親しみやすい性格。アーティキュレーションの描写は細部まで徹底していて、旋律線もくっきりと隈取られています。切れ味の良いスタッカートも随所に挿入。

 第2楽章は、まろやかな手触りでフレーズを美しく連結。慈愛に満ちた典雅な歌い回しは、後年のジュリーニに通ずるものです。三連音符のモティーフでは躍動感を出し、コントラストも充分。シューベルト辺りに近いようなイメージで、和声の捉え方にも北ドイツ的な暗さや重さはほぼ感じられません。ソノリティも明るく、艶やかな光沢を放ちます。

 第3楽章は、明白に遅いテンポ。一音一音を区切って克明に発音するやり方は、従来のブラームス演奏と一線を画するユニークな造形感覚です。響きがよく洗練され、緻密な音響を作り出しますが、このオケの持ち味であるパワーの拡散や派手な音色は封印。

 第4楽章は、軽めの響きで抑制の効いた滑り出し。強靭なアインザッツで切り込んでくる弦の合奏の凄さは、さすがヴィルトオーゾ・オケです。逆にフルート、クラリネットのソロはまるで白日の下に晒されるようで、もう少しわびさびというか、切々とした調子も欲しい所。意外にもパッサカリア主題の再現では、ものものしいテンポ・ルバートが飛び出しますが、コーダは至って端正な表現。

“高い集中力を維持し、有機的な響きで密度の高い表現を展開”

ベルナルト・ハイティンク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1972年  レーベル:フィリップス)

 ハイティンク最初の全集録音から。当コンビは同時に悲劇的序曲、大学祝典序曲、ハイドン変奏曲の他、後年にセレナード第1、2番、ハンガリー舞曲集も録音しています。ハイティンク自身は、後にボストン響と二度目の全集を完成させている他、協奏曲や合唱曲も含めるとかなりの数のブラームス録音あり。音場の奥行きが深いのに直接音をきっちり捉える録音で、演奏の輪郭も明瞭に出ています。

 第1楽章は、明るい音色でよく歌う表現。アーティキュレーションの処理が入念で、音の垂れ流し状態にならないのは美点です。ホルンの強靭なハーモニーが随所に生かされるのは、個性的な造形。第2主題は艶っぽい音色ながら、決然とした調子が素晴らしいです。豊麗かつ情熱的なカンタービレが聴き手を魅了する一方、鋭敏なリズムも絶妙な効果を発揮。

 第2楽章は、冒頭の管のユニゾンが実に典雅。響きがクリアで、厚ぼったく濁らないのは好印象です。ハイティンクの演奏は、無為にまかせて進行する所がなく、響きの凝集度が高いのが美点で、デュナーミクもアーティキュレーションもよく練られていて集中力の高さを示します。細密な表現なのに窮屈さがなく、常に開放感に溢れているのは驚き。自然な高揚感やスケールの広がりも見事です。

 第3楽章は、切れ味の良いスタッカートと張りのあるアタックを駆使し、生彩に富んだアンサンブルを展開。色彩が鮮やかで、弱音部のチャーミングな表情も素敵です。

 第4楽章は若々しい活力が漲り、アクティヴな性格。弱音部の優美なタッチは印象的で、木管の和音のクレッシェンドですら耳を奪う、その表現の密度、強度といったらありません。アゴーギク、デュナーミクも巧妙かつ適切そのもの。緊密な合奏が形成するクライマックスは、威圧感こそ皆無ながら、ある種の壮烈さを見事に表していて、その有機的な迫力に圧倒されます。奥へ溶け込んでゆくようにマイルドなトロンボーンは、とりわけ魅力的。

“丁寧な譜読みを徹底し、まるで手垢を洗い流したようにフレッシュな表現を達成”

イシュトヴァン・ケルテス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1974年  レーベル:デッカ)

 全集録音より。指揮者、オケの良さが非常に良く出た全集で。すっきりと端正な造形ながら、滋味豊かなディティールを盛り込んだ解釈も秀逸。特別な事は何もしていない感じなのに、どの曲のどの楽章も、まるで手垢を洗い流したように新鮮に聴こえるのに驚かされます。低音過剰にならず、明るくふくよかなウィーン・スタイルの響きで通しているのも流麗、優美に聴こえる一因。

 第1楽章は瑞々しい歌が溢れ、混濁しない明るい響きでフレッシュに聴かせる演奏。同じオケを振ったクライバーに先駆けるような表現でもありますが、ケルテスの語り口はより柔らかく落ち着いていて、独特のヒューマンな暖かみを感じさせます。明瞭な語調でフォルムをくっきりと切り出しますが、曲線美や熱っぽい盛り上がりにも欠けていません。

 第2楽章も集中力が高く、漫然と惰性で流す所のない表現。一見オーソドックスなスタイルなのに、まっさらな視点でスコアを洗い直したような、新鮮な発見や驚きが随所にあります。オケのまろやかなソノリティも素敵。和声感が豊かで、旋律線を巧みに際立たせているのも、人懐っこく聴こえる要因でしょう。第3楽章は、角を立たせる鋭利なリズムを、オケの響きがまろやかに中和。トリオのたおやかな情感と主部の外向的エネルギーの対比も、懐の深い棒で巧妙にまとめています。

 第4楽章は、押し出しの強いストロング・スタイルが主流の中、ケルテスは粘性のある艶やかな弦のカンタービレを前面に出しているのがユニーク。弱音部も、木管と弦を湿潤な響きで絡み合わせる一方、切れ味抜群のスタッカートも多用しています。この曲にこれほど多彩なカラー・パレットを用いる演奏も稀ですが、オケの個性が音色の散らかりを防ぎ、ケルテス一流の精悍な棒が激しくも甘美なクライマックスを導きます。

生き生きとしたリズムで躍動的に描いた、爽やかなブラームス像

ルドルフ・ケンペ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1975年  レーベル:BASF

 全集中の一枚。両端楽章のテンポが遅いため、叙情的で悠々とした印象がある曲ですが、ケンペの演奏は、速いパッセージの歯切れの良さと生き生きしたリズムが際立っていて、非常に躍動的に感じられるのが面白い所。造形的にも古典的なプロポーションが保たれ、ほとんどイン・テンポで突っ走る第1楽章のコーダや、淡々と進めてあっさり終了するフィナーレを聴いていると、ブラームスがいかにこってりと重厚に演奏されてすぎているか良く分かります。

 各部の表情はよく練られ、旋律線も愛情たっぷりに歌い込まれているので、物足りなさは皆無。オケのサウンドは明るく流麗で、常にある種の軽さをキープしていますが、外面的な色艶とは無縁の充実しきった響きが素晴らしい。

ロマン的感情を洗い流し、普遍的な言語でブラームスを語るマゼール

ロリン・マゼール指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1976年  レーベル:デッカ

 全集録音中の一枚。非常に落ち着いた、良くも悪くも知性の勝った冷静な演奏で、ドイツ流の重厚さを一掃し、普遍的な言語でブラームスを語ろうといった雰囲気。音の出るタイミングを徹底して正確に揃えているのもその印象を強めていますが、響きは一聴してクリーヴランド管のそれと分かるもので、独特のしなやか且つまろやかなタッチと、機能主義的なアンサンブルの妙を聴かせます。

 その意味では、きびきびと角の立った第3楽章は当コンビらしい演奏。第4楽章冒頭の金管に派手なクレッシェンドを加える所には、マゼールらしい誇張も顔を覗かせますが、全体的にはロマン的感情をさっぱりと洗い流した、純音楽的でシンフォニックな表現です。

幾分地味なカラヤンとベルリン・フィル。和声のバランスに問題あり

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1978年  レーベル:ドイツ・グラモフォン

 70年代の全集録音より。カラヤン特有の流麗なスタイルを考えれば、この曲は最適かと思ったのですが、案に相違してオーソドックスな表現です。オケは深く柔らかいサウンドを展開。ソロがあまりクローズ・アップされない録音ながら、マスの響きで美しい演奏を繰り広げます。

 問題は金管で、第1楽章でホルンが埋もれ気味なのがもどかしいのと、全体にトランペットの内声が突出して和音のバランスを崩す傾向があるのは気になる点。第4楽章クライマックスの金管群の咆哮も、壮麗というよりは耳についてうるさく感じられます。第3楽章の疾走感は好印象。弦楽セクションにもう少し艶やかさが出れば、好調時のカラヤンらしい華麗な演奏になったかもしれません。

“ウィーン盤ほど造形が崩れず、シカゴ盤よりも表現が深化。良い案配のライヴ音源”

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1979年  レーベル:Radio Nederland Wereldomroep)

 同オケの80年代ライヴ音源を集めたアンソロジー・ボックスから。ジュリーニはこの10年前にシカゴ響と同曲をセッション録音、この10年後にウィーン・フィルと全集録音を行っています。ロス・フィルと1、2番を録音する直前の記録でもあり、指揮者壮年期の芸風を聴く上でも要注目の音源。ただ、オランダ音楽祭との表記があり、ホールのアコースティックが常と少し違って感じられます。指揮者の唸り声がはっきり入っているのも独特。

 演奏は平均的なテンポ設定で、ウィーン盤ほど造形が崩れておらず、シカゴ盤よりも表現は深化していて、丁度良い案配。第1楽章はジュリーニらしく清潔、克明で、情緒的な側面には耽溺しない一方、旋律線は優美かつ艶やかに歌わせています。気力も充実してアタックに力感が漲り、オケも熱演。角は立たないし、極端なルバートは排してロマンティックな叙情性にも傾きませんが、純音楽的に作品の美しさを表出する凛々しさは、ジュリーニ流という他ありません。

 第2楽章も悠々たる佇まいで、オケのまろやかな音色を十二分に生かしながら、暖かな情感と慈愛に満ちた音楽を展開。しかしアーティキュレーションやダイナミクスの描写は精細そのもので、強靭な集中力を保って、音が漫然と流れるのを戒める厳しさも感じさせます。

 第3楽章は遅めのテンポながら、アタックに勢いと弾力があり、後年のウィーン盤ほど腰の重さはありません。ただ、細部を克明に掘り下げてゆく性格は同様で、一音一音を疎かにしない律儀さが一貫。第4楽章も引き締まった造形センスが見事で、よく統率された緊張感のある合奏を展開。ウィーン盤にもある金管コラールの誇張気味のルバートは、ここでも挿入しています。あくまで明瞭な語調をキープしたまま、大河の流れのようにゆったりと白熱。会場を大きく湧かせています。

“派手にざらついた響き。和声への配慮と抑制された美の欠如が致命的”

ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

(録音:1979年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 メータ最初の全集録音から。同コンビのブラームス録音は他に、バレンボムとの両ピアノ協奏曲、スターンとのヴァイオリン協奏曲、ズーカーマン、ハレルとの二重協奏曲があります。

 第1楽章は冒頭から、跳躍音型をテヌートでルーズに繋ぐ歌い回しが独特ですが、それよりも、伴奏型の弦楽セクションがザワザワと騒がしいのが気になります。高音域が派手で、ざらつきが目立つ響きは難点。特に金管を伴うトゥッティは音が荒れてささくれ立ち、何事かと思わず身を起こしてしまうほどです。スコアの解釈は正攻法で、旋律線をしなやかに歌わせる雄弁な表現。張りのあるアタックを多用して音圧が高く、コーダへ向けての高揚感も十分です。

 第2楽章は、管楽器のアンサンブルが健闘。弦の音色もみずみずしくて明るいのはいいのですが、レイヤーが分離して全くブレンドしないため、ドイツ系の楽団とは根本的に音楽の作り方が違います。少なくとも、和声の論理で音楽を構築している様子は感じられません。旋律線はよく歌いますが、リズム的な要素は、切っ先の鋭いアタックで輪郭を強調する傾向。後半部も響きがざらつき、北ドイツ的なほの暗い陰影は完全に消失しています。

 第3楽章はソノリティが美しくなく、混濁して聴こえます。華やかな気分は充分ですが、デリカシーの欠如が致命的。第4楽章もフレーズを気前良く歌わせた、テンションの高いパフォーマンスですが、出力の大きさに比して、抑制された美しさはほとんどありません。熱っぽさは十分で、後半部の盛り上がりもエネルギッシュ。

公開録音による名匠初のブラームス、若々しい表情と内的燃焼度で魅了

朝比奈隆指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団

(録音:1980年  レーベル:ビクター

 神戸文化ホールで公開録音された朝比奈隆初の全集中の一枚。巨匠が満を持して放ったブラームス録音という事で、さぞや武骨な演奏だろうと身構えていると、実に若々しくフレッシュな音楽が響き渡るので驚かされます。特に、弦のみずみずしい音色としなやかな歌には魅了されますが、各部の表情にも生気が漲り、公開録音とあってオケにキズがなく、安心して聴けるのも大きなメリット。残響こそデッドで奥行感に不足しますが、各パートがクリアに捉えられた聴きやすい録音です。

 テンポはやはり遅めで、楽想の掴み方が大きく、大河の流れを思わせる表現。第1楽章の再現部前や、第4楽章冒頭でぐっとテンポを落とす歩調にも、巨人の偉容を想起させる風格があります。色彩は明朗で、枯淡の雰囲気はあまりなし。たっぷりとしたフレージングで、各パートが朗々と歌い切っています。フィナーレに向かう内的燃焼度の高さを聴くにつけ、このコンビは公開録音を続けていればライヴ感とクオリティを両立させられたのではないかという気がします。

ニュアンス豊かな細部と漲る躍動感。クライバーらしいフレッシュなブラームス

カルロス・クライバー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1980年  レーベル:ドイツ・グラモフォン

 クライバー唯一のスタジオ録音によるブラームス。当コンビは、第2番の映像ソフトも残しています。ドイツ的重厚さと無縁の極めて瑞々しい表現で、リズムにも生命力が溢れ、音楽全体が生き生きと躍動しているのが特徴。

 オケの艶やかな響きもこのアプローチにうまくマッチしていて、弦のポルタメントも織り込んだ旋律線は格別の魅力を放ちます。第3楽章における力感の開放が輝かしいものになっているのは勿論ですが、速めのテンポで軽快に音楽を運んでゆく第4楽章後半の展開も新鮮。いわゆる寂寥感は皆無で、細部に至るまでニュアンス豊かに歌い込まれた、フレッシュなブラームスです。

“明るく艶やかな音色で元気一杯に歌う一方、緻密さと鋭敏さも確保”

ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:1983年  レーベル:オルフェオ)

 全集録音から。同団体のブラームス全集は、意外にもこれが初だったと記憶します。第1楽章は艶やかな音色で元気一杯に歌う、明るいブラームス像。各パートが鮮やかに発色して音圧は高め、リズムやアインザッツの鋭い切っ先に、モダンなセンスを匂わせます。しかしフォルテの垂れ流しには陥らず、細やかなニュアンスに滋味豊かな音楽性を感じさせるのはさすがこのコンビ。

 第2楽章も明朗な性格。光沢のある弦を中心に、みずみずしいサウンドで開放的なカンタービレを展開します。思い切りの良い、胸のすくようなパフォーマンスで、響きが重々しく濁らないのも美点。又、陰影に不足する事もなく、叙情性の表出も充分です。第3楽章は鋭敏で歯切れが良く、軽快なリズムにエネルギーが満ちる好演。ティンパニもパンチが効いています。旋律線は雄弁で、ダイナミクスと遠近法も見事。テンポは中庸ですが、一音一音が克明で気合い充分です。

 第4楽章は遅めのテンポと柔らかいアタックで、レガート気味に開始。弦の付点リズムは精確そのもので力感が漲り、鋭利なエッジとしなやかなラインの対比が効いています。オケが巧く、木管などソロも比類のない美しさ。緻密な合奏と無類に歯切れの良いスタッカートが、随所で効果を上げています。自然体の棒ながら、実に素晴らしいブラームス解釈。

“美しくも流麗な旋律線に切れの良いアクセント、明快な音楽作りを聴かせるドホナーニ”

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団   

(録音:1987年  レーベル:テルデック)

 全集録音中の一枚。明快な表情と筋肉質のサウンドで練り上げられた、ダイナミックで健康な演奏。響きが混濁せず、常に見通しが良いのは美点で、それに加えてこのオケ特有の、豊満な肉体と硬質な骨格を兼ね備えた魅力的なソノリティが、得も言われぬ世界を作り上げます。ティンパニを張りのある音色で元気よく強打させているのも、演奏全体のアクティヴでスポーティな性格を強めています。

 第1楽章は、美しい音色で流れゆく豊かな歌と、トランペットなど管楽群の無類に歯切れの良いアクセントの対比が印象的。枯淡の感情からは遥かに遠く、すこぶる瑞々しい音楽作りです。第2楽章も、北ドイツ的憂愁とは無縁の、歌が泉のように湧き出るような表現。フレージングは流麗そのもので、木管のソロなども思わず聴き惚れるほどの美演です。

 第3楽章もてきぱきとして元気一杯。造形は常に明確、アーティキュレーションの描き分けが徹底しているので、輪郭がくっきりと隈取られます。華やいだ気分も自然に表出。フィナーレは冒頭から金管の歯切れ良いスタッカート、続く弦楽セクションのしなやかな歌に魅了されます。室内楽並みの合奏力を誇るこのオケだけあって、弦を中心にヴィルトオーゾ風のパフォーマンスが凄絶。

“分厚く音圧の高い響きで、時に巨匠風の重々しさもある、カラヤン最後のブラ4”

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1988年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 カラヤン最後の全集録音から。初のデジタル収録で、分厚くて音圧の高い響きはやや濁りがあるものの、カラヤンらしい流線型のフォルムを形成します。デュナーミク、アゴーギク共に誇張がないので、造形面では端正に感じられるも一方、サウンド自体に明確な個性の刻印を押すのはこのコンビの演奏に共通する特徴。最晩年の録音ですが、気力に衰えは感じさせません。

 第1楽章は艶っぽいサウンドで嫋々と歌わせながらもアタックに張りがあり、内圧の高さを維持。オケが上手いので細部はよく響きますが、透明度を追求した表現ではありません。特にホルンのバランスは強めで、ユニゾンでも内声でも常に強調される印象を受けます。弦をはじめ音色に柔らかさ、しなやかさがあるのは魅力。第2楽章もやや速めのテンポで、やはりホルンの音圧が高く、テンションの高い性格です。ドイツ流とはいえ、重苦しくならず明朗さもあり。

 第3楽章はもっと派手な方向へ行くかと思いきや、落ち着いたテンポと磨き抜かれた響きで美しいパフォーマンス。刺々しくないのは好印象ですが、ソステヌートのフレージングはカラヤンらしいです。第4楽章はやや粘液質ながら、充実した響きで開始。遅めのテンポで、各変奏をじっくりと掘り下げています。鋭敏さには欠け、巨匠風で重々しい箇所もありますが、そういうブラームスも今では稀少と言えるでしょうか。

明確なフレージングとドラマティックな構成力が光る、ムーティ印の歌謡的演奏

リッカルド・ムーティ指揮 フィラデルフィア管弦楽団

(録音:1988年  レーベル:フィリップス

 全集録音のスタートを切ったディスクで、指揮者・オケ共にフィリップス・レーベルへの登場はこれが初めてでした。悲劇的序曲をカップリング。フィラ管のリッチな響きは艶やかな光沢を放ちますが、伝統的な音作りを誇るフィリップスだけあって、見事にヨーロッパ調の、低弦を土台にしたピラミッド型音響バランスを保持しています。柔らかな肌触りもこのレーベルの美点。

 ムーティの指揮は、抜き身の刀を上段に構えたようなかつての豪胆さは影を潜め、そっと囁くように開始される冒頭から非常に落ち着いた表情。造形はあくまで明快で、スタッカートとテヌートを明瞭に対比させるフレージングはムーティ流です。第4楽どは、このフレージングによって随分と個性的な演奏になっていますが、この楽章に力点を置いてドラマティックに構成した事で、各楽章の座りも良くなった印象。

 テンポはおしなべてゆったりとしていますが、フレーズの末尾をたっぷり終えたい所では自由にルバートを用い、歌謡的な性格も濃厚。弦は勿論の事、木管、金管に至るまで各セクションが美麗な響きでよく歌っていて魅力的です。

“渋いサウンドの中にも多彩なニュアンスをたたえ、枯淡の逆を行くデイヴィス”

コリン・デイヴィス指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:1989年  レーベル:RCA)

 全集中の一枚。遠目のバランスで収録された録音はやや細部がもどかしいですが、こもりがちの渋い音色の中に、柔らかな感触もあるサウンド。ドレスデンでのベートーヴェンやモーツァルトであれほど重厚な表現に傾くデイヴィスが、ここでは逆に、淡々とさりげない表情で通しているのが面白い所です。

 元々彼は、旋律にヴィブラートをかけて甘美に歌わせるタイプの指揮者ではありませんが、一見無骨な中にも、歌い回しに強弱やアーティキュレーションの多彩なニュアンスがあって、芸の細かさを感じます。力感の漲る第3楽章は勿論ですが、第4楽章も豪放な演奏でユニーク。音色こそ地味ながら、作品のイメージに強固にまとわりつく、いわゆる“枯淡の境地”の逆を行くような健康的な演奏です。

“ウィーン・フィルの美点を最大限に生かした、風格と歌心溢れる巨匠の至芸”

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1989年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 全集録音の一枚でライヴ収録。ジュリーニは過去にシカゴ響と同曲を録音しています。悠々たるテンポの中に豊かな歌心を聴かせる格調高い名演で、オケとジュリーニ両者の特質である艶やかな響きと細やかなニュアンスに耳を奪われます。造形は彫りが深く、時に巨匠風の骨太な迫力も聴かせながら、流麗なフレージングと柔らかなタッチを追求。タイム表示を見ると極限まで遅いテンポに見えますが、聴感上は特に遅すぎる印象は受けません。

 第1楽章は流麗ながら感傷性がなく、ティンパニも強めのアクセントを打ち込んできます。アゴーギクがとりわけ見事で、展開部で曲調に合わせてふっと一段落する箇所など、名人芸の域。さりげない表現を採りつつも、コーダに向かっての山場の築き方にドラマティックな構成力を聴かせます。第2楽章も穏やかな世界を展開。明るい音色と、クリアで見通しが良く、フォルテでも硬直しない弾力を維持した響きが魅力的。

 第3楽章は少し重厚過ぎる印象で、推進力も弱いですが、一音一音がよく磨かれた、彫りの深い表現です。骨太かつ克明という感じ。第4楽章は変奏が始まるとぐっと速度が落ち、やはり艶っぽく歌う旋律線に耳を惹かれます。冒頭に回帰する箇所も、ルバートを挟んで独特の迫力。巧みなアゴーギクとたっぷりとした間合いで構成した後半部も、正に大家の風格です。

“流麗な表現の中にモダンなセンスを覗かせるシャイー。既にして巨匠の風格も”

リッカルド・シャイー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1990年  レーベル:デッカ)

 全集録音の一枚。同じコンビの演奏でも第1番の鋭さは影を潜めていますが、オケの美しく明るい音色を生かし、歌に溢れた流麗な表現を繰り広げています。ただ、それだけに終らないのがシャイーの面白い所で、彼は対位法的なテクスチュアの線の動きを磨き上げ、横の流れにも留意して立体感を出しているし、響きをクリアに保つ事でレイヤーを明瞭に聴かせるなどモダンなセンスが横溢。リズムにバネのような弾みも加えて、オケの運動神経を高めています。

 第3楽章の色彩感などは、いわゆるゲルマン的な渋味とは別次元の音作りで、フィナーレの切れ味鋭いリズム処理と併せ、そのまま新ウィーン学派に繋がってゆく雰囲気もあり。これを聴いていると、シェーンベルクが編曲したピアノ四重奏曲第1番の派手な響きも、あながちブラームスらしくないとは言えないかも、という気がしてきます。

 特筆大書したいのは、録音当時まだ若手の分類だったシャイーながら、和声の響かせ方やフレージングの佇まいに、まるで巨匠を思わせる風格が漂っている事。フレッシュな活力を持ちながらも、たっぷりとした間合いで滋味豊かなフレーズを紡いでゆくシャイー、ただ者ではありません。

“カラヤン盤と共通するオケの個性、対照的に明快な造形性を打ち出すアバド”

クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1991年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 アバド2度目の全集録音から。4つのオケを振り分けた旧全集ではロンドン響を起用していました。当コンビは他にも、カップリングの管弦楽曲と合唱曲、2つのセレナード、ドイツ・レクイエム、2つのピアノ協奏曲(ブレンデル、ポリーニ)、ヴァイオリン協奏曲(ミンツ、ムローヴァ、シャハム)、二重協奏曲(ワン、シャハム)と、多くのブラームス録音を残しています。

 第1楽章はテンポこそ遅めながら語調が明瞭で、輪郭のはっきりした造形感覚がカラヤンと対照的。ただ、音圧の高い弦の合奏や重心の低い響き、艶やかで押し出しの強いカンタービレなど、オケの特質はストレートに出ています。ダイナミクスの変化を細かく描き分け、旋律線のアーティキュレーションを優美かつ丁寧なタッチで扱うのもこの指揮者らしさ。内面は充実し、仕上げの美しい演奏ではありますが、新鮮な発見は望めません。アウフタクトを中心に、リズム処理もややルーズ。

 第2楽章はふっくらと柔らかい上、ある種の明晰さもある響きで、このコンビの美点がよく出た印象。弱音部でも失われない細やかなニュアンスや各パートの自発性など、オケの優秀さも窺わせます。特にホルンなど中音域がまろやかにブレンドする豊麗な響きは素晴らしく、正にベルリン・フィルのブラームスを聴く醍醐味。指揮者の主張や個性は希薄に感じられますが、すこぶる美しいパフォーマンスではあります。

 第3楽章はテヌート気味のソフトなアタックで、そのせいでリズムから立体感と弾力が失われるのはアバドの演奏によく聴かれる特徴。覇気が乏しく聴こえるのもそのためですが、彼にはまた別のヴィジョンがあるのでしょう。

 第4楽章も良く言えば柔らか、悪く言えばくぐもった響きで開始。峻厳さがなく、遅めのテンポでおっとりと進行しますが、弦の変奏はブレーキで重みを加えながら歌謡的に表現されます。コラールなど、弱音部の奥行き感も深遠。コーダへの足取りにもあまり高揚感がなく、あくまで淡々とした印象を残します。

“繊細な歌と沸き上がる感興。ハイティンクが到達した円熟の境地を聴く”

ベルナルト・ハイティンク指揮 ボストン交響楽団

(録音:1992年  レーベル:フィリップス)

 全集中の一枚で、ハイドンの主題による変奏曲をカップリング。ボストン響は指揮者によって結構硬い音も出すオケだと思うのですが、ハイティンクが振ると、ヨーロッパのオケに匹敵するほどまろやかで、深みのあるサウンドになります。

 冒頭の、艶やかで繊細な弦の歌はどうでしょう。それにトゥッティの豊かな潤いにみちた、肌触りの柔らかさ。ハイティンクが作る響きは透明度が高く、立体感もあって、北ドイツ風のどんよりと厚ぼったいイメージとは違った、独自の明るさを感じさせます。フレーズの表情もニュアンス豊か。木管の細かい動きもちゃんと耳に入ってきます。

 第1楽章ではクライマックスで熱いパッションを迸らせますが、全体的には内面から湧き出る感興に自然に身を委ねた穏やかな演奏で、テンポの安定感と滲み出る風格には抗し難い魅力があります。まるで彼は、音楽が豊かに流れ出すテンポというのを全部知っているみたい。構成の難しいフィナーレも見事に構築、フルート・ソロの清澄な響きにも素晴らしいものがあります。コーダに向かっての燃焼度も高く、充実感満点。

“ロマン派寄りブラームスの雄として存在感示すメータ。イスラエル・フィルの弦が絶品”

ズービン・メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1992年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 交響曲全集中の一枚。メータはニューヨーク・フィルとも全集録音をしています。定評あるイスラエル・フィルのシルキー・ストリングスを堪能できる演奏。特に第1ヴァイオリンが描く繊細なラインには素晴らしいものがあります。メータは極端に淡白な表現を採る事もある指揮者ですが、ここでは遅めのテンポと粘液質のフレージングで雄弁な演奏を展開。ロマン派寄りブラームスの雄として、存在感を示します。

 対旋律で浮かび上がるホルンを始めとして、金管パートが皆ソステヌートで演奏しているせいか、力感は十分ながら、全体に丸みを帯びて流麗に聴こえるのも特徴です。第4楽章の真ん中辺り、金管によるコラールが静かに流れる場面で、ぐっとテンポを落として荘厳な雰囲気を醸し出しているのも浪漫的。ティンパニのトレモロが入ってくると若干厚ぼったくなるものの、響きの透明度も慎重に保たれています。

“バレンボイム絶好調。あらゆる点で作品との相性の良さを示す”

ダニエル・バレンボイム指揮 シカゴ交響楽団

(録音:1993年  レーベル:テルデック)

 全集録音中の一枚。ライヴ収録ではなく間接音が豊かに取り入れられていて、響きになめらかな肌触りと潤いがあるのがまず意外な点。トゥッティこそソリッドな金管群を伴って明るい音色ですが、深々とした奥行きと柔らかなタッチ、ポエジー漂う美しいフレージングに、失礼ながら、これがあのシカゴ響かと耳を疑ってしまいました。なかんずく弦と木管は、ピッチの正確さゆえかトーンの驚異的均質性を獲得、ふくよかな音色と相まって至福の音世界です。

 バレンボイムも満を持してのブラームスとあって絶好調で、特にテンポの設定には絶妙なセンスを発揮。例えば第1楽章、コーダに向かって加速しながら音楽を白熱させてゆき、最後のティンパニの連打で一気に減速する所。あるいは第4楽章、弦の哀愁を帯びた変奏で一段テンポを落とし、ロマン的感情を盛り込みつつも、後半テンポを上げて熱っぽく音楽を煽ってゆく所。こういう時のバレンボイムには、本当に惚れ惚れしてしまいます。

“明朗活発な表情とドラマティックな構成力が光る、レヴァイン屈指の好演”

ジェイムズ・レヴァイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1994年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 ライヴによる全集録音の一枚。レヴァインは70年代にもシカゴ響と全集を完成させています。クライバーのさらに上を行くような明朗活発な演奏で、溌剌としたリズム、艶やかなカンタービレ、パンチの効いたアクセントと、レヴァインらしさを随所に発揮。実際に最初の2つの楽章は、クライバー盤よりもそれぞれ1分ほど演奏時間が短いです。

 オケも唯一無二の素晴らしい響きを聴かせますが、ライヴ収録ゆえ残響が若干デッドで、奥行き感に不足するのは惜しい点。熱く盛り上がる第1楽章と、ゆったりと穏やかに展開する第2楽章を明瞭に対比させている所に、古典的な様式感も伺われます。

 この曲に限らず、レヴァインの演奏では速めのテンポでぐいぐいと煽る場面によく出くわしますが、これはオペラ指揮者ならではの劇場的感覚でしょうか。第1楽章第2主題ではテンポを一段階上げる他、第4楽章の後半、トロンボーンが入ってくる所からは、逆にテンポを落として堂々と締めくくっていて、4つの楽章の座りの良さに感心しきり。構成への目配りが効いている所は、長大なオペラを数多く手掛けて来た利点でしょう。

“渋い音色ながら、入念なフレージング処理で歌謡的な演奏を展開するブロムシュテット”

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

(録音:1996年  レーベル:デッカ)

 同コンビによるデッカへの初レコーディングですが、結局この組み合わせによる録音は数点に留まりました。ブロムシュテットのブラームスも、これが唯一のスタジオ録音。モテットなど、無伴奏の合唱作品をカップリングしているのもこの指揮者らしい選曲です。

 演奏は、冒頭から歌謡的と言えるほど旋律線に入念な表情を付けたもの。アーティキュレーションに細かい工夫が施されていて、ゆったりとしたテンポの中にも起伏のある音楽を作り上げています。金管やティンパニが遠目の距離感で収録されているせいか、オケの響きは渋い趣がありますが、なめらかで聴き易いサウンド。ホルンも美しくブレンドしています。とにかくフレージングが丁寧で、構成的にも安定感抜群の素晴らしい演奏ですが、全集に発展しなかったのは残念でなりません。

“個性的表現を盛り込みつつも、骨張った響きが好みをわかつ”

ニコラウス・アーノンクール指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1997年  レーベル:テルデック)

 話題を呼んだ全集録音中の一枚。ベルリン・フィルを起用しながら、カラヤン時代の豊麗な響きはどこへやら、艶消ししたようにハスキーなサウンド。良く言えば透明度の高い響きで、アンサンブルにも室内楽的な趣があります。第1楽章は、フレーズの切れ目を独自に解釈した第2主題がユニーク。イン・テンポ気味に突っ走るコーダも迫力があります。

 第2楽章の明晰で美しい音響と克明なリズム処理、すこぶるテンポの速い第3楽章なども個性的な表現ですが、トゥッティの骨張った響きは好みをわかつ所でしょう。アーノンクールの演奏は個々の表現がなかなか音楽的感動に結びつかないというか、聴いて面白いという事ではもう充分アジテーションの役目を果たしているので、さらにそれ以上の感情的な高揚を求めても良いような気がします。存在意義のあるディスクではあるのですが…。

“いぶし銀のサウンドとがっしりした構成。淡々とした中にも微妙なテンポの動きあり”

ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団

(録音:1997年  レーベル:RCA)

 全集録音中の一枚。いぶし銀とも言える渋いサウンドを基調にしている所は相変わらずですが、この指揮者のブラームスとしては目立ったテンポ・チェンジの少ない演奏です。そのため、全体に淡々と音楽が流れる印象を受けますが、実際には微妙なテンポの動きがそこここにあり、いかにも芸の細かい表現。

 響きがそれほど混濁しないのと、高齢の指揮者とは思えないほどリズムへの配慮が行き届いているおかげで、鈍重な所は全くなく、速めのテンポゆえか造形も引き締まっています。派手な演出はありませんが、形式的にもがっしりと構成された演奏だと思います。

 → 後半リストへ続く

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