ガーシュウィン/《パリのアメリカ人》、《キューバ序曲》

概観

 ラプソディ・イン・ブルーとならんで、ガーシュウィンの作品の中でもよく演奏される人気曲が、パリのアメリカ人。個人的にはアメリカ音楽が苦手な事もあり、そもそもガーシュウィンの曲をクラシック音楽の範疇に含めるかどうかは、議論の余地があるように思います。この曲は交響詩でも劇音楽でもありませんが、車のクラクションが使われていたりして、多分に描写的な要素も含む作品。

 私としては、最も気に入っているガーシュウィン作品の一つがキューバ序曲です。ジャズやブルースの要素より、南洋のエキゾティックなムードやダンサブルな乗りが心地良いですし、10分前後と尺が短く、構成が緊密に仕上がっている所も魅力。

*紹介ディスク一覧  

パリのアメリカ人のみ

57年 ドラティ/ミネアポリス交響楽団  

74年 T・トーマス/ニューヨーク・フィルハーモニック

76年 メータ/ロスアンジェルス・フィルハーモニック  

76年 小澤征爾/サンフランシスコ交響楽団 

84年 プレヴィン/ピッツバーグ交響楽団

91年 マリナー/シュトゥットガルト放送交響楽団  

97年 T・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

[キューバ序曲のみ]

97年 デ・ワールト/シドニー交響楽団  

00年 レヴァイン/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団  

パリのアメリカ人&キューバ序曲

71年 デ・ワールト/モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団

74年 マゼール/クリーヴランド管弦楽団 

81年 マータ/ダラス交響楽団

85年 シャイー/クリーヴランド管弦楽団

90年 レヴァイン/シカゴ交響楽団  

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パリのアメリカ人のみ

“鮮やかな音彩と軽妙なリズムでセンス良く仕上げる職人芸”

アンタル・ドラティ指揮 ミネアポリス交響楽団

(録音:1957年  レーベル:マーキュリー)

 オリジナル・カップリング不明ですが、同時に録音されているコープランドの《ロデオ》は収録されたものと思われます。デトロイト時代のドラティはガーシュウィンをほとんど取り上げていないので、ステレオ録音は当盤が唯一の様子。

 膨大なレパートリーを誇ったドラティだけあり、鮮やかな音彩で小気味好く仕上げた見事な演奏。特にジャズ・センスがあるとか小粋という感じではないのですが、肩の力を抜いて、卓越したリズム感で軽快なパフォーマンスを繰り広げる辺りは正に職人芸。オケも合奏力に優れ、各パートが生き生きと自発性を発揮しています。音圧を抑え、刺々しいアクセントを用いない所が成功の要因でしょうか。

 控えめながらルバートも多用していて、自在な呼吸感が素敵。トランペットのブルースを速めのテンポでさらりと歌わせながら、ちょっとしたルバートでほんの少しほろりとさせるのも趣味が良い語り口です。鮮やかな音彩ですが派手にはなりすぎず、スウィングの箇所はリズム・セクションを抑制して軽妙さを出しているのがセンス満点。ブルース風のフレーズには、ちゃんとポルタメントを挿入しています。

“鋭利なリズムとソフィスティケイトされたタッチで、音楽を生き生きと展開”

マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

(録音:1974年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 ガーシュウィン自身のピアノロールを使用したラプソディ・イン・ブルーとのカップリング。それが超ユニークな企画であったために埋もれてしまいがちですが、こちらも同曲屈指の名演として、雑誌の名曲名盤企画では常に上位に入っていたのを覚えています。T・トーマスとニューヨーク・フィルの共演は珍しく、録音はいまだにこれ一枚(というか一曲)のみ。せっかくレコーディング・セッションを組んだのなら、他にも数曲録音してくれればよかったのにと思わずにはいられません。

 ニューヨーク・フィルの《パリのアメリカ人》といえばバーンスタイン盤が不動の地位にありますが、当盤も負けず劣らず生き生きと楽しい演奏で、よりソフィスティケイトされてモダンな造形という感じ。鋭利で敏感なリズム、爽やかな叙情など、この指揮者らしい美点は随所に出ているし、決して奇を衒わずとも、作品を知り尽くした自信溢れる棒さばきが魅力です。

 オケは高音域が華やかで、抜けの良いサウンド。低音域も力強く、バスドラムの迫力ある強打など、ダイナミックレンジの広い録音です。カラフルな色彩感も作品にふさわしく、みずみずしい弦の響きが魅力的。

“同年代のクラシック指揮者の中で、作品に図抜けた適性を示すメータ”

ズービン・メータ指揮 ロスアンジェルス・フィルハーモニック

(録音:1976年  レーベル:デッカ)

 バーンスタインの《キャンディード》序曲、コープランドの《普通の人々のためのファンファーレ》《アパラチアの春》とカップリング。メータはニューヨーク・フィルとソニーに《ラプソディ・イン・ブルー》を録音している他、テルデックに同曲の再録音、キューバ序曲、《ポーギーとベス》組曲のガーシュウィン・アルバムもあり。

 メータはジョン・ウィリアムズのアルバムも録音するくらいで、西欧の出自じゃないせいかアカデミックな教条主義に捕われない音楽家なのが素敵です。マゼールや小澤、レヴァインなど、リズム感に一長のある指揮者もこの曲を録音していますが、彼らが几帳面すぎたり力みが目立ったりするのと対照的に、メータはすこぶる自然体。

 冒頭から抜群に肩の力が抜けていて、本領発揮のオケと共に生き生きとしたパフォーマンスを繰り広げます。颯爽と軽快なリズム感、鮮やかな色彩センス、ジャジーな歌い回し、完璧に統率された一体感の強い合奏、雄弁な語り口と、作品にふさわしい要素を網羅した理想的な表現と言えるでしょう。

“軽快でシャープなリズム処理はいいものの、小節線をまたがず律儀な指揮ぶり”

小澤征爾指揮 サンフランシスコ交響楽団

(録音:1976年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 ウィリアム・ルッソのブルース・コンチェルトとカップリング。当コンビはこの4年前に同じくルッソ作品と組み合わせてバーンスタインの《ウェスト・サイド・ストーリー》組曲を録音している他、小澤は後にベルリン・フィルとガーシュウィン・アルバムも出しています。

 生来の真面目な音楽作りはここでも展開され、冒頭から金管の各フレーズが正確・律儀に演奏されるのにやや窮屈な感じもあり。オケは潤いのある明朗なサウンドで聴きやすいですが、ブラスのエッジが効いている一方、どこか流麗でマイルドな響きは後年の小澤サウンドを彷彿させます。

 リズム感が良い指揮者なのである種の軽快さには事欠かないし、響きの明晰さ、合奏の一体感もプラスに働いていますが、フィーリングがジャジーではないという事でしょうか。各プレイヤーがアドリブ風にテンポを揺らしたりしない点がその印象を強め、トランペットのブルースも小節線をはみださないのがもどかしい所。後半の各場面もスポーティな活力とダイナミックな若々しさに溢れ、クラシック寄りに聴けばなかなか良い演奏と言えるかもしれません。

“肩の力が抜けた軽快な演奏ながら、オケのクオリティに問題も”

アンドレ・プレヴィン指揮 ピッツバーグ交響楽団

(録音:1984年  レーベル:フィリップス)

 自身のピアノによるラプソディ・イン・ブルーとピアノ協奏曲をカップリング。プレヴィンは過去にロンドン響ともこれらの曲を録音しています。ホールトーンの豊かな録音で、奥行き感も深く、柔らかなソノリティが聴きやすいですが、オケの合奏力や音色にはさらなる洗練を望みたい場面も多々あります。

 演奏はさすがにこなれていて、さらりとした力の抜け方なんて絶妙。リズムはきびきびとしていますが、必要以上にとんがってエッジを効かせる事がありません。各部の表情も自然体で、ジャジーなフィーリングの強調もなし。それでもクラシックのオケにありがちな、腰の思い演奏にはならず、常に軽快です。色彩的にもカラフルですが、オケのレヴェルがもう一段上であれば、印象はかなり違ったかも。

“意外に洒脱なフィーリングに富むマリナー。後半はやや淡白で生硬な箇所も”

ネヴィル・マリナー指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団

(録音:1991年  レーベル:カプリッチョ)

 ラプソディ・イン・ブルー、ピアノ協奏曲(ソロはセシル・ウーセ)とカップリング。当コンビは別のアメリカ音楽アルバムで《ポーギーとベス》組曲を録音している他、マリナーにはフィルハーモニア管とのラプソディ・イン・ブルー旧盤もあります。オケの明るい音色は作品にマッチしていますが、やや遠目の距離感で捉えた録音はその意味でマイナス。

 カップリング曲と較べるとずっと洒脱なフィーリングに溢れた生彩に富む演奏で、テンポの設定も適度。理由は分かりませんが、マリナーと相性が良い曲調なのかもしれません。もっとも、スタイル自体はシンフォニックで、その意味では作品自体がクラシックのイディオムをより多く含んでいるという事でしょうか。トランペットのブルースは、意外に速めのテンポで情に溺れすぎません。後半のスウィングは肩の力こそ抜けているものの、フレージングがやや生硬。

“オーソドックスな造形はそのままに、合奏の一体感が増したMTT再録音盤”

マイケル・ティルソン・トーマス指揮 サンフランシスコ交響楽団

(録音:1997年  レーベル:RCA)

 『祝!100歳ガーシュウィン』という2枚組アルバムに収録。カップリングはキャット・フィッシュ・ロウ組曲、ラプソディ第2番、ピアノ協奏曲です。T・トーマスの同曲録音はニューヨーク・フィルとの旧盤がある他、ウィーン交響楽団とのライヴ映像ソフトも出ています。

 演奏は、旧盤よりさらに肩の力が抜けた、軽妙なもの。やはりリズム感が良く、躍動感や活気も相変わらずですが、当盤はオケのアンサンブルがより緊密で、一体感の強さがあります。ルバートの感覚も自在で、ソロもみな達者。両録音の間には23年ものブランクがありますので、再録音といっても単純に同じ人の演奏とはみなせないかもしれませんが、端正でオーソドックスな造形は共通していて、いかにもこの指揮者らしいもの。奇を衒った所は微塵もありませんが、作品の形を明瞭に打ち出した、誠実な演奏です。

[キューバ序曲のみ]

“ソフィスティケイトされたタッチでフレーズを優美に歌わせるデ・ワールト”

エド・デ・ワールト指揮 シドニー交響楽団

(録音:1997年  レーベル:ABCクラシックス)

 小品を集めたアンコール集から。カップリングはグリンカの《ルスランとリュドミラ》序曲、アルビノーニのアダージョ、ベルリオーズの《ベアトリーチェとベネディクト》序曲、スメタナの《モルダウ》、ワーグナーの《ニュルンベルグのマイスタージンガー》序曲、カール・ヴァインの《Celebrare Celeberrime》、エルガーの威風堂々第1番。デ・ワールトは過去にモンテカルロ歌劇場管ともこの曲を録音しています。

 遅めのテンポでソフィスティケイトされたタッチながら、鋭敏なリズムを駆使して生彩に富んだパフォーマンス。響きが暖かみを帯びて柔らかく、恰幅が良いのと、細部まで実に丁寧に仕上げ、あらゆるフレーズを優美に歌わせているのもこの指揮者らしいです。オケの技術レヴェルも、70年代のモンテカルロ歌劇場管よりずっと格上。全体に物足りなさはないですが、唯一、エンディングだけはもう少しパンチが効いていればと思いました。

“ややシンフォニックで腰の重い、レヴァイン再録音ライヴ盤”

ジェイムズ・レヴァイン指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:200年  レーベル:オームス・クラシックス)

 楽団自主レーベルのライヴ録音集から。当アルバムは、ハービソンの交響曲第3番、アイヴスの交響曲第2番とカップリング。レヴァインのガーシュウィン録音は、シカゴ饗との同響旧盤、パリのアメリカ人、ラプソディ・イン・ブルー、《ポーギーとベス》組曲のアルバムがあります。

 ゆったりしたテンポでシンフォニック。やや腰が重いものの、スケールの大きさで聴かせます。オケの響きが明るいので、サウンド面での違和感や物足りなさはありませんが、もう少しリズム的な側面に自発的なノリの良さやテンションの高さが欲しい所。技術的には巧く、緻密な合奏を展開。弦の美しい音色も印象的で、中間部の歌い口もなかなかムードを掴んでいます。後半部のダイナミックな盛り上げ方もさすが。

パリのアメリカ人&キューバ序曲

“丁寧な表現ながら、躍動感に乏しい演奏。オケも今一つ”

エド・デ・ワールト指揮 モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団

(録音:1971年  レーベル:フィリップス)

 《ポーギーとベス》組曲をカップリング。当コンビはもう一枚、ウェルナー・ハースをソリストに迎えてラプソディ・イン・ブルー、ピアノ協奏曲、アイ・ガット・リズムを入れたアルバムも録音しています。両者の共演は珍しいですが、ヨーロッパでガーシュウィンを録音するならカジノの街、モンテカルロのオケだという判断だったのでしょうか。録音も、やや高音域よりで華やかさを強調していて、音色もカラフル。

 デ・ワールトは後年、ミネソタ管弦楽団ともアメリカ音楽を録音していますが、ジャジーなセンスを得意にしている訳でもなく、リズム処理やフレージングなどやや生真面目。テンポが遅く、腰が重く感じられる箇所も多いです。オケは感覚的にはシャープで、ブリリアントな輝きが出る場面もありますが、技術的には残念ながら一級の水準とはいきません。

 《パリのアメリカ人》は冒頭からなかなか軽快ですが、クラクションの音程が悪かったり、スカスカだったり独特。各場面をじっくり丁寧に描写する一方、乗りの良さや勢いはあまりなし。後半のスウィングのパートなど、リズムが硬直して、やや野暮ったく感じられます。《キューバ序曲》もスロー・テンポで、リズムこそ鋭敏ですが、ダンサブルな躍動感には乏しい印象。オケもどこか不器用だったりするので、全体のダルな印象がオケの技術レヴェルのせいなのか、指揮者のセンスなのかは判然としません。旋律はじっくりと歌い込んでいます。

“鮮やかな棒さばきを聴かせる一方、細部まで振りすぎる傾向のあるマゼール”

ロリン・マゼール指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1974年  レーベル:デッカ)

 《ラプソディ・イン・ブルー》とのカップリング。当コンビは歌劇《ポーギーとベス》全曲も録音しています。《パリのアメリカ人》は、各部とも速めのテンポを設定し、シャープでパリっとした性格。ルバートは小粋、ジャジーな軽快さも十分で、溌剌としたパフォーマンスを展開します。打楽器を重々しく強打させない点は、フットワークの軽さを獲得するのに有効に働いているようです。

 ただ、カップリングの2曲ほど顕著ではありませんが、細かい音符までしゃかりきに音にしすぎる傾向はやっぱりあって、それがオケの自発性を妨げている感が無きにしもあらず。しかし、アメリカの団体だけにさすがの適性で、どのパートも上手いの一語に尽きます。

 《キューバ序曲》はテンポが遅めで、落ち着いた佇まい。マゼールらしくリズムが鋭利で、やや律儀に刻み過ぎの傾向もありますが、ブラスのアクセントなど思い切りが良く、迫力満点です。ただ、この画然たるリズム処理は刃の剣というか、こういった作品では句読点が目立ちすぎて、もう少しオケの自発性やフィーリングで流す部分も欲しくなります。実に鮮やかで立派な演奏ですが、マータ盤のような、本当に作品の情感を理解している演奏とは別物という感じ。

“リズムのメカニズムを知り尽くしたマータ。聴き手も思わず身体が動き出す超名演”

エドゥアルド・マータ指揮 ダラス交響楽団

(録音:1981年  レーベル:RCA)

 《ポーギーとベス》組曲をカップリング。当コンビは他にもコープランドやバーンスタインなど、アメリカ音楽を積極的に録音しています。当盤は、マータの群を抜くリズム・センスが如実に生かされたディスクで、オケも生気溢れるパフォーマンスを展開しています。

 《パリのアメリカ人》は、冒頭から遅めのテンポながら、肩の力が抜けた余裕のある棒さばきで、垢抜けたリズム感が秀逸。単に切れが良いとか、弾みが強いだけでなく、マータの場合は例えばベースを担当するテューバ等の頭打ちタイミングなども含め、どうすればリズムがグルーヴを生み出し、ヒップに跳ねるか、本能的に知っている感じです。大編成のオケだと普通はどうしたって腰が重くなってしまうものですが、当盤のフットワークは驚異的。情景の描き分け方も卓抜で、イマジネーション豊か。ブルース歌手のように拍節をずらしてアドリブで歌うトランペット・ソロは、当盤のMVPといった所でしょうか。

 《キューバ序曲》も大音量で圧倒する箇所は皆無ですが、リラックスしたさりげない雰囲気ながらも、聴き手の身体を自然に揺すらせるダンサブルな躍動感が見事。特に、シンコペーションの拍節感は絶妙です。オケの響きは豊麗で、リッチな輝きがある一方、不思議と柔軟性や暖かみがあってけばけばしくならないのがダラス響の個性。各パートのパフォーマンスも生気に溢れて乗りが良く、曲全体を活気付かせています。中間部におけるブルージーな弦の歌も、惚れ惚れとするようなフィーリングで、ひたすら上手いです。コーダへ向けての高揚感もなかなかの白熱ぶり。

“力で押さず、鋭い感性で痛快なパフォーマンスを展開する若き日のシャイー”

リッカルド・シャイー指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1985年  レーベル:デッカ)

 パリのアメリカ人、キューバ序曲、弦楽合奏のためのララバイをカップリング。シャイーとクリーヴランド管のディスクは意外に少なく、他にはストラヴィンスキーの《春の祭典》他、プロコフィエフの《アレクサンドル・ネフスキー》、チャイコフスキーの《ロミオとジュリエット》《フランチェスコ・ダ・リミニ》という、ロシア物アルバム3枚しかありません。

 同じオケによるマゼール盤ほど肩に力が入らず、リラックスした雰囲気なのは若い世代らしい所。オケがセンス満点で、ソロ、アンサンブル共に抜群のうまさ。《パリのアメリカ人》は、トランペット・ソロの小粋な節回しなど、文句なしのパフォーマンスです。シャイーの棒もリズム感が良く、とりわけ重心の取り方は見事。軽妙な音楽作りが痛快そのもので、シャープなエッジと活気に満ちた動感、鮮やかな色彩、巧妙なアゴーギクなど、長所は枚挙に暇がありません。

 《キューバ序曲》もマゼールとは違って、力の抜きどころを心得た印象。あくまで力で押す事なく、鋭敏な感性で、曲想の変化を余す所なく捉えています。中間部のカンタービレも、情感豊か。両曲ともそうですが、作品の構成力に卓越したセンスが光るのは、オペラや大作も得意とするシャイーらしいですね。

“アメリカのオケらしい乗りがメリット。やや力みが目立ち、刺々しさも”

ジェイムズ・レヴァイン指揮 シカゴ交響楽団

(録音:1990年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 ラプソディ・イン・ブルーと《ポーギーとベス》組曲をカップリング。当コンビは複数のレーベルに多くのレコーディングを行いましたが、意外にもアメリカ音楽はあまり取り上げなかったので、当盤は貴重かもしれません。

 《パリのアメリカ人》は、ブラスを中心にやや角は立ちますが、軽快なリズムでぱりっと仕上げた鮮やかな演奏。トランペットのソロは、伴奏型のグリッサンドも含めてジャジーなフィーリングに溢れ、さすがアメリカのオケという感じです。サックスのバランスを強調しているのも特徴。全体にアタックと色彩がどぎついので、もう少しソフィスティケイトされた表現がお好みの方も多いかもしれません。後半部もスウィング感は充分生かすものの、力みが目立ち、派手なサウンドが耳を刺激する傾向があります。

 《キューバ序曲》は冒頭からブラスが咆哮してやや刺々しいですが、華麗なサウンドは作品にマッチしています。ただ、レヴァインの棒はタイトな軽快さよりもスケールの大きさを志向しているようで、テンポも遅めでシンフォニック。この曲としては大柄な演奏になってしまった感もあります。後半もパワフルで華やかですが、少々聴き疲れもします。

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