ガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルー

概観

 パリのアメリカ人とならんで、よく演奏されるガーシュウィンの人気曲。人気コミックを連続ドラマ化した『のだめカンタービレ』では、ベートーヴェンの第7交響曲に対する第2テーマとして、この曲のバラード部分が使われていました。ただ、個人的にアメリカ音楽が苦手な事もあり、そもそもガーシュウィンの曲をクラシック音楽の範疇に含めるかどうかは、議論の余地があるようにも思います。

 オーケストレーションは、組曲《グランド・キャニオン》で有名な作曲家ファーディ・グローフェが行っていますが、これは初演時のジャズ・バンド編成版と、後に改訂したフル・オーケストラ版の2つがあり、クラシックのコンサートや録音では、後者がよく演奏されています。

 前者はポール・ホワイトマン楽団の編成に合わせて初演のなんと1ヶ月前にアレンジされたスコアで、木管3(サックス、クラリネット、オーボエ、ファゴットの持ち替え)、トランペット2、トロンボーン2、ホルン2、テューバ、パーカッション、チェレスタ、ピアノ、バンジョー、ヴァイオリン8という編成。初演当時に短縮録音されて以来、長らく忘れられていましたが、76年にティルソン・トーマスが、ワシントン国会図書館に保存されていたスコアを元に録音。49年ぶりに陽の目を見ました。

*紹介ディスク一覧  

60年 プレートル/パリ音楽院管弦楽団   

68年 ケルテス/ロンドン交響楽団   

70年 デ・ワールト/モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団

74年 マゼール/クリーヴランド管弦楽団 

76年 T・トーマス/コロンビア・ジャズ・バンド

79年 メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック   

82年 T・トーマス/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

83年 マリナー/フィルハーモニア管弦楽団   

83年 小澤征爾/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  

84年 プレヴィン/ピッツバーグ交響楽団

85年 シャイー/クリーヴランド管弦楽団

86年 サイモン/ロンドン交響楽団   

87年 ラトル/ロンドン・シンフォニエッタ  

88年 A・デイヴィス/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

90年 レヴァイン/シカゴ交響楽団   

91年 マリナー/シュトゥットガルト放送交響楽団  

97年 T・トーマス/ニュー・ワールド交響楽団

10年 シャイー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

15年 ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団  

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“派手なパフォーマンスで元気一杯。意外に楽しいパリのガーシュウィン”

ジョルジュ・プレートル指揮 パリ音楽院管弦楽団

 ダニエル・ワイエンベルク(ピアノ)

(録音:1960年  レーベル:EMIクラシックス)

 ピアノ協奏曲とカップリング。この時代は特にヨーロッパの指揮者、オケによるガーシュウィンは珍しかったのではないかと思うのですが、演奏は元気一杯で音色も華やか、決して悪くありません。

 冒頭のクラリネットはぱりっとして明るく、センス良し。ピアノも明快なタッチで生き生きと弾いていて、速弾きの箇所もテンポを上げて腕前を誇示。フランスのガーシュウィンもなかなか良い感じです。オケもアインザッツはやや乱れるものの、シャープなブラス・セクションをはじめリズムも鋭利。ややフットワークが重い箇所もありますが、フラッター・タンギングや派手なヴィブラートなど、ジャジーな奏法も思い切り取り入れてやる気満々です。バラード部分も華麗な音色で歌いまくっていて、音色的にはやや下品に感じる場面もありますが、とにかく楽しいパフォーマンスには一聴の価値あり。

 

“器用なオケの性質を生かし、溌剌と明快な表現を展開”

イシュトヴァン・ケルテス指揮 ロンドン交響楽団

 ジュリアン・カッチェン(ピアノ)

(録音:1968年  レーベル:デッカ)

 共演盤の多いカッチェンとケルテスのディスク。ラヴェルの2曲の協奏曲がオリジナル・カップリングのようです。指揮者、ピアニスト共にガーシュウィンどころか、アメリカ音楽のイメージすらないですが、オケがロンドン響だけあって、おかしな方向へは行っていません。

 冒頭のクラリネットからして手慣れた感じがあり、グリッサンドを多用した管楽器群は全体に好演。金管が壮麗に突出する辺りはいかにもブラスの国イギリスらしいですが、力みのないパフォーマンスはオケの器用さをよく表しています(何といってもプレヴィン時代の録音ですし)。

 強音部の合奏は若干の重さを含み、テンポも遅くなりがちですが、音色自体は輝かしくシャープだし、ピアノもきらびやかなタッチでセンス良し。後半も鋭利なリズムでオケがリードする一方、アインザッツがピアノと大きくズレる箇所もあり、少し勇み足に感じられます。しかし、全体に溌剌として明快な表現で、事前に言われなければケルテスの指揮だとは誰も思わないでしょう。

“欧風でクラシック寄りの性格ながら、やや腰の重い印象も”

エド・デ・ワールト指揮 モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団

 ウェルナー・ハース(ピアノ)

(録音:197年  レーベル:フィリップス)

 ピアノ協奏曲、アイ・ガット・リズムをカップリング。当コンビはもう一枚、パリのアメリカ人、キューバ序曲、《ポーギーとベス》組曲を入れたオケ・アルバムも録音しています。両者の共演は珍しいですが、ヨーロッパでガーシュウィンを録音するならカジノの街、モンテカルロのオケだという判断だったのでしょうか。録音も、やや高音域よりで華やかさを強調していて、音色もカラフル。

 デ・ワールトは後年、ミネソタ管弦楽団ともアメリカ音楽を録音していますが、ジャジーなセンスを得意にしている訳でもなく、リズム処理などやや生真面目。テンポが遅く、腰が重く感じられる箇所も多いです。オケは感覚的にはシャープで、ブリリアントな輝きが出る場面もありますが、技術的に一級の水準とはいきません。冒頭のクラリネットも、いやにあっさりした表現。ハースのピアノは、クラシック風にスローなテンポで、たっぷり間合いを取るリリカルなスタイル。全体に、欧風のガーシュウィンという感じ。

“きびきびと鮮やかな棒さばき、洒落たセンスのピアノ”

ロリン・マゼール指揮 クリーヴランド管弦楽団

 アイヴァン・デイヴィス(ピアノ)

(録音:1974年  レーベル:デッカ)

 《パリのアメリカ人》《キューバ序曲》とのカップリング。当コンビは歌劇《ポーギーとベス》全曲も録音しています。テキサス生まれのピアニスト、アイヴァン・デイヴィスはセンスが良く、装飾音も加えてお洒落な歌い回し。バラード部直前のデリケートな最弱音など、他盤と一線を画すソフィスティケトされた表現です。

 一方マゼールは、鋭利な棒さばきできびきびと音楽を運び、変化に富む音楽作りがなかなか作品に合っています。リズム感も良く、メリハリの効いた造形感覚と原色の鮮やかな色彩感は印象的。オケも自国の作品だけあって、管楽器を中心にジャズ、ブルースの語法への適性を示します。

“作曲者自身のピアノ・ロールにオリジナル版スコアで演奏。若き日のMTTの挑戦”

マイケル・ティルソン・トーマス指揮 コロンビア・ジャズ・バンド

 ジョージ・ガーシュウィン(ピアノ・ロール)

(録音:1976年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 ニューヨーク・フィルを振ったパリのアメリカ人とカップリング。作曲者本人が残したピアノ・ロールを再生し、それに合わせて指揮を振るというユニークなアイデアは、当時大きな話題を呼びました。スコアにジャズ・バンド編成のオリジナル版を使用しているのも特徴で、T・トーマスは後のロス・フィル、ニューワールド響との再録音も、このエディションで演奏しています。

 とにかく、テンポが速いです。ピアノの名手でもあったガーシュウィンのピアノ・ロール自体が相当なスピードなのですが、それにぴったりと付けている伴奏も驚異的な合奏力と言わざるをえません。それによって、いわゆるオーケストラ編成のバージョンにはない、独特の軽妙さと乗りの良さが出ている事は確かで、それは同じ版で演奏しているT・トーマス自身の再録音盤にもない、当盤だけの唯一無二の美点と言えます。

 もっとも、当盤は資料的価値しかない記録演奏ではなく、あくまでも生き生きと鋭敏なパフォーマンスを展開している所、さすがは才人T・トーマスです。そもそもコロンビア・ジャズ・バンドというのが常設の団体なのかどうかも不明なのですが、プレイヤーには相当な腕利きを集めているようで、ソロも合奏も完璧な演奏でびっくり。発売当初は、プロデューサーであるアンドリュー・カズディンのライナーノートも楽しい読み物でしたが、彼の録音スタイルでもある、各パートが見事に分離したサウンドも刺激的です。

“意外にシックな態度を見せつつも、後半はきっちり盛り上げる演出巧者メータ”

ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

 ゲイリー・グラフマン(ピアノ)

(録音:1979年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 ガーシュウィンの有名なナンバーをオケ用にアレンジした小品集(メドレー形式で収録)をカップリングした、ウディ・アレン監督作『マンハッタン』のサントラから。メータはロス・フィルと、《パリのアメリカ人》も録音しています。

 オケもピアノも意外にシックで、抑制の効いた演奏。こういう企画のアルバムだからこそ、クラシック演奏家としての矜持を示してやろうという事なのでしょうか。各パートとも、必要なルバートやグリッサンドは用いているものの、特にデフォルメしたり大きく歌い崩したりせず、サウンドもこのオケとしてはやや艶消しの方向を選んだ印象を受けます。

 技術的に難はなく、軽快なリズムや小気味の良いアンサンブルもさすがだし、後半をダイナミックかつ壮麗に盛り上げる設計も見事。決して輝きが不足する訳ではないのですが、ややオフ気味の録音のせいで、派手さを抑えたように聴こえるのかもしれません。80年代以降の当コンビの洗練志向を窺わせる演奏と言えるでしょうか。

“T・トーマスらしさが最も出た、鋭利で活気に溢れる再録音盤”

マイケル・ティルソン・トーマス指揮・ピアノ ロスアンジェルス・フィルハーモニック

(録音:1982年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 セカンド・ラプソディとピアノ小品集をカップリング。企画性ありきで多少の無理も感じられる旧盤、若者達のオケと即興的なフィーリングを展開しながら音色的には落ち着いている97年盤と較べると、当盤が最もT・トーマスらしさの出た演奏ではないかと思います。

 一聴して彼の演奏と分かるのは、アグレッシヴなほどエッジの効いた、思い切りの良いブラスのアクセント。共演も多かったロス・フィルとの録音という事もあり、70年代から80年代にかけてのT・トーマスに顕著な特性である、尖鋭なリズム感覚が前面に出た演奏だと言えます。その意味ではジャズ・バンドを起用した旧盤に近い内容ですが、当盤は自身のピアノという事で、極端なテンポ設定もなく、自然な音楽を展開しているのが美点。オケも溌剌としたパフォーマンスで活気があり、技術的にも一級。カラフルな色彩感も魅力です。

 

“上品なタッチながら卓抜なリズム感を示すマリナー。ピアノ・ソロはクラシック寄り”

ネヴィル・マリナー指揮 フィルハーモニア管弦楽団

 ミッシャ・ディヒター(ピアノ)

(録音:1983年  レーベル:フィリップス)

 アディンセルのワルソー・コンチェルト、リトルフの交響的協奏曲第4番(スケルツォ)、ショパンの《ポーランドの歌による大幻想曲》、リストの《華麗なポロネーズ》をカップリング。 マリナーがフル・オケを振り始めて少しした頃の録音で、フィルハーモニア管との録音は他に、オフェンバックの序曲集、メンデルスゾーンの真夏の夜の夢、シャンドス・レーベルにベキネル姉妹とのメンデルスゾーン、ブルッフの二重協奏曲があります。

 上海生まれのポーランド人ピアニストをフィーチャーしているだけあって、ポーランドにちなんだ曲を集めたかと思いきや、リトルフとガーシュウィンが入っているせいでコンセプトが見えないアルバムになっています。オケに溶け込むようなバランスで収録されているせいもありますが、まろやかなタッチで叙情的に弾くスタイルはクラシック寄りで、パリっとした鮮やかさや刺激は感じられません(フィリプス・レーベルのガーシュウィン・アルバムは、総じてどの指揮者、ピアニストもこの路線です)。この曲のソロとしては大人しい部類だと思います。

 マリナーの指揮は、冒頭のクラリネットやミュート付きトランペットの即興的なフィーリングにジャジーなセンスを感じさせるものの、フィリップスらしい美麗な録音も手伝って、上品で真面目な性格に感じられます。特にトゥッティ部ではタッチの柔らかさを重視する印象もありますが、リズム感が良いせいで重々しくはならないのは長所。オケの統率力は申し分なく、ニュアンスの豊かさにも欠けていません。色彩感や叙情性も十分で、クライマックスでのエッジが効いたブラス・セクションは痛快。

 

“意外に自由闊達なソロとオケ。趣味の良い、大人のガーシュウィン”

小澤征爾指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 アレクシス・ワイセンベルク(ピアノ)

(録音:1983年  レーベル:EMIクラシックス)

 《アイ・ガット・リズム》変奏曲、《ポーギーとベス》組曲をカップリング。当コンビ最初期の録音ではないかと思いますが、EMIへは翌年、チャイコフスキーの管弦楽曲集も録音しています。なぜガーシュウィンだったのか興味深い所ですが、それを言えば、ソリストがワイセンベルクというのもユニークな企画です。

 小澤の指揮でベルリン・フィルの演奏とくれば、相当に重い、真面目くさったガーシュウィンになってもおかしくないですが、意外にも生来のリズム・センスと運動神経の敏感さを生かして、自由闊達な表現を繰り広げています。オケも、必要以上に派手な音作りには傾かず、自然体というか、あくまで合奏力で聴かせる趣。ワイセンベルクのソロは、きらきらした繊細な高音域をはじめ、クリアな音色でタッチも軽快。プライヴェートではジャズも弾くそうで、腰の重さや違和感はありません。オケもソロも肩の力が抜けていて、趣味の良い大人の演奏という感じ。

“ソフィスティケイトされたタッチに魅力はあるが、残念なカットとオケに問題あり”

アンドレ・プレヴィン指揮・ピアノ ピッツバーグ交響楽団

(録音:198年  レーベル:フィリップス

 ピアノ協奏曲とパリのアメリカ人をカップリング。プレヴィンは過去にロンドン響ともこれらの曲を録音しています。ホールトーンの豊かな録音で、奥行き感も深く、柔らかなソノリティが聴きやすいですが、オケの合奏力や音色にはさらなる洗練を望みたい場面も多々あります。

 T・トーマス盤などと違い、刺激的なリズム処理は避け、よりソフィスティケイトされたタッチで洒落た感じ。ピアノもタッチが柔らかいです。ラテンのヴァリエーションが入ってくる所を猛スピードで弾きとばすなど、即興性もあり。指揮の方もこなれた表現で色彩感覚も豊かですが、途中に大きなカットがあるのは残念。収録時間には余裕もあるのに、なぜ短縮ヴァージョンで録音したのか不思議です。

“抜群のセンスを聴かせるオケと、非凡な才を発揮する若き日のシャイー”

リッカルド・シャイー指揮 クリーヴランド管弦楽団

 カティア&マリエル・ラベック(ピアノ)

(録音:1985年  レーベル:デッカ)

 パリのアメリカ人、キューバ序曲、弦楽合奏のためのララバイをカップリング。シャイーとクリーヴランド管のディスクは意外に少なく、他にはストラヴィンスキーの《春の祭典》他、プロコフィエフの《アレクサンドル・ネフスキー》、チャイコフスキーの《ロミオとジュリエット》《フランチェスコ・ダ・リミニ》という、ロシア物アルバム3枚しかありません。

 オケが抜群にうまく、センスが良い上に機動力満点。フレージングもよく練られています。シャイーの棒もリズムが軽快で、クリーヴランド・サウンドをうまく生かした表現。音感は鋭くモダンで、テンポの揺らし方やルバートも小粋ですが、バラード部分のフレーズで装飾的な音のずらしを入れているのはやや下品で、違和感を覚えました。

 ラベック姉妹のピアノもアドリブ風の表現を交えた好演で、きらびやかな音色が魅力的。途中でスウィングのリズムを適用したり、オケの入りに先駆けて派手なグリッサンドを導入したり、アイデアも豊富です。ピア2台用にアレンジされている訳ではなく、交替で弾く感じですが、録音は左右チャンネルに割り振られています。

“教会収録でたっぷりと残響を伴った異色のガーシュウィン”

ジェフリー・サイモン指揮 ロンドン交響楽団

 ジェイムズ・トッコ(ピアノ)

(録音:1986年  レーベル:CALA)

 サイモン自身のレーベルから出た、オーケストラ・マスターワークスという6枚組ボックスの中の音源。オール・セインツ教会で録音された長い残響を伴うサウンドは、とてもガーシュウィンに合っているとは言えませんが、ピアノを含めてソロの直接音はある程度クリアにキャッチ。ただ、合奏部分になると細部はかなり不明瞭になります。

 演奏はなかなかアグレッシヴな性格で、冒頭のクラリネット、トランペットからして少々下品なほどフレーズを崩して歌う傾向。その割にトゥッティのリズムは腰が重い感じもしますが、総じてフレージングを自由に捉える事でジャジーな気分を出そうというコンセプトです。個々の奏者の自発性を重んじる一方、合奏は几帳面に揃えざるを得ないという感じでしょうか。

 歯切れの良いシャープなリズム、パンチの効いた思い切りの良いアタックは痛快で、拡散型の派手なフォルティッシモにも迫力があります。ピアノは硬質で鮮やかな音色ですが、特にジャズ的なパフォーマンスではなく、クラシックの協奏曲を聴く趣。

“実に軽快でセンスの良い、オリジナル・ヴァージョンのお薦め盤。ピアノはやや大人しめ”

サイモン・ラトル指揮 ロンドン・シンフォニエッタ

 ピーター・ドノホー(ピアノ)

(録音:1986、87年  レーベル:EMIクラシックス)

 ミヨーの《世界の創造》、ストラヴィンスキーの《エボニー・コンチェルト》、バーンスタインの《プレリュード、フーガとリフ》と、ジャズ色の強いコンチェルトばかりを集めたアルバムからの音源。バルトークの協奏曲等で共演しているドノホーをソリストに迎え、オリジナル・ヴァージョンで演奏しています。ラトルのガーシュウィンは、同じくドノホー&バーミンガム市響のピアノ協奏曲とソングブック、ロンドン・フィルとの歌劇《ポーギーとベス》全曲録音もあります。

 ラトルはさすがにリズム・センスが良く、ジャズ系のフィーリングへの適性も高いので、音の佇まいに全く不自然さがありません。オケの編成が小さく、響きが軽いのも優位な点。ビッグ・バンド風に軽快なリズムが続く箇所では、このフットワークの自在さと肩の力の抜け具合は、正に必要不可欠と言えるでしょう。同じ系統ではT・トーマスのジャズ・バンド盤が最右翼ですが、当盤はそこまでエッジを尖らせた刺激の強調もなく、プレヴィンほどソフトすぎず、丁度良い加減。音色の美しさへの配慮も感じられます。唯一、ピアノがあまりフィーチャーされず、大人しく聴こえるのは好みを分つ所。

“ソリストも指揮者も、テンポやダイナミクスに個性を発揮するユニーク盤”

アンドルー・デイヴィス指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

 ツィモン・バルト(ピアノ)

(録音:1988年  レーベル:EMIクラシックス)

 ラヴェルとプロコフィエフ(3番)のピアノ協奏曲にカップリング。冒頭のクラリネットと続くオケのパートはなかなかシックな響きで耳を惹かれますが、残響の多い録音でもあり、打楽器やホーン・セクションが入ってくると、やや刺々しく聴こえる箇所もあります。

 デイヴィスは細かいルバートを盛り込んでテンポの変動が大きく、即興的なフィーリングも随所に生かす他、音色やリズムの処理に優れたセンスを聴かせます。バラード部におけるソロ・ヴァイオリンとオーボエの重ね方など、すこぶる美麗。各部の描写も変化に富んで飽きさせませんが、アンサンブルに一部乱れが散見されます。バルトのソロは、音符やフレーズを短く切って分解する傾向が強く、かなり個性的。アドリブ的なフレージングもあちこちにあるし、ピアニッシモを効果的に挟んだり、強弱やテンポのメリハリがかなり大きい演奏です。

“リーダー感覚で妙に目立つソロ。時に刺々しく、出力過剰のオケ”

ジェイムズ・レヴァイン指揮・ピアノ シカゴ交響楽団

(録音:1990年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 キューバ序曲と《ポーギーとベス》組曲、パリのアメリカ人をカップリング。ピアニストとしても活躍するレヴァインの弾き振りですが、普通は裏方に回る箇所でもピアノが時々目立つ合いの手を入れて来るのは、自身がソロを取っているリーダー感ゆえでしょうか。詩的で柔らかなタッチも生かしたりと音色が豊富なのは、ジャズ系のピアニストと一線を画す表現。

 冒頭のクラリネットはセンス満点。ジャズっぽいフィーリング満点ながら、抑制が効いて上品な所がいいです。ただしブラスによる主題再現はぱりっとした造形ながら、出力過剰でやや刺々しいのが玉に瑕。ストレートな力感や思い切りの良いアクセント、鮮やかな色彩感覚はこのコンビの得意とする所。曲が進むにつれて肩の力も抜け、鋭利で軽快なリズムが美点として浮上してきます。ただ、バラードの部分でサックスのバランスを強めすぎて、やや下品なサウンドになってしまったのは残念。合奏のフットワークが軽いのは、さすがアメリカのオケという感じです。

“遅めのテンポで丁寧ながら、腰が重く、抑制されたスタイル”

ネヴィル・マリナー指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団

 セシル・ウーセ(ピアノ)

(録音:1991年  レーベル:カプリッチョ)

 パリのアメリカ人、ピアノ協奏曲とカップリング。当コンビは別のアメリカ音楽アルバムで《ポーギーとベス》組曲を録音している他、マリナーの同曲にはフィルハーモニア管との旧盤もあります。やや遠目の距離感で捉えた録音は、作品とのマッチングにやや難あり。ただしピアノやソロ楽器など、ディティールは明瞭に拾っています。

 マリナーは遅めのテンポで、細部を丁寧に描写してゆく傾向。その意味では旧盤と解釈が一貫しています。ウーセはクラシック寄りのルバートを効かせたスタイルで、美音でタッチの粒立ちが良い一方、リズムや歌い回しは上品な性格。指揮者もソロも、テンポの落差をあまり極端には付けないので、より抑制された表現に聴こえます。

 特に短いフレーズや繰り返しの音型をイン・テンポに乗せている辺りは、ジャズ的な自在さと一線を画す印象。リズムのノリはかなり腰が重く感じられる箇所もありますが、スケールは大きく、シンフォニックな表現としては成功している方かも。

“若者達のオケを指揮して自在なフィーリングを聴かせる、MTT3度目の録音”

マイケル・ティルソン・トーマス指揮・ピアノ ニュー・ワールド交響楽団

(録音:1997年  レーベル:RCA)

 T・トーマス三度目の録音は、『ニュー・ワールド・ジャズ』というアルバムに収録の音源。カップリングはアダムズのロラパルーザ、バーンスタインの《プレリュード、フーガとリフ》、ストラヴィンスキーのエボニー・コンチェルト、ミヨーの《世界の創造》、ヒンデミットのラグタイム、アンタイルのジャズ・シンフォニー、ラスキンの映画《悪人と美女》のテーマです。

 自身が創設した若者主体のオケを振っていて、いかにも自由な雰囲気。冒頭のクラリネットやピアノも、自在な間合いをとって即興的なパフォーマンスです。ちょっとはめを外し過ぎた(くだけた言い方をすれば「調子に乗りすぎた」)感もありますが、ガーシュウィンが好きな人にはこれくらいが楽しいかもしれません。少なくとも、お堅い演奏を聴かせられるよりはいいです。バラード部分の旋律は、サックスの三重奏か四重奏のように聴こえるのですが、オリジナル版でもそのような楽器編成にはなっておらず、これは当盤だけのアレンジではないかと思います。

“才気煥発のシャイーと、アドリブも盛り込むジャズ・ピアニストの共演”

リッカルド・シャイー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

 ステファノ・ボラーニ(ピアノ)

(録音:2010年  レーベルデッカ)

 ピアノ協奏曲、《ポーギーとベス》組曲、ラグ《リアルト・リップルズ》をカップリング。シャイーとしては、クリーヴランド管&ラベック姉妹との旧盤以来、25年ぶりの再録音になります。ジャズ・ピアニストのポラーニはセンスが抜群で、ソロ・パートやカデンツァ部分では即興演奏や独自のヴォイシングも盛り込んでいます。

 シャイーの棒は、フレーズやグルーヴの捉え方など、T・トーマスやプレヴィンとはフィーリングが異なる部分もありますが、リズムや色彩に対する感覚が鋭敏で、各場面を多彩に演出。ミュージカルのように千変万化する楽しさがあります。テンポのコントロールも見事で、編成があまり大きくないためにフットワークも軽快。オケも非常にうまく、合奏の一体感の強さは、当コンビのベートーヴェンやブラームスを想起させます。

“遅めのテンポでシックな装い。豪腕マツーエフも余裕のある弾きっぷり”

マリス・ヤンソンス指揮 バイエルン放送交響楽団

 デニス・マツーエフ(ピアノ)

(録音:2015年  レーベル:BRクラシック)

 シャブリエの狂詩曲《スペイン》、エネスコのルーマニア狂詩曲第1番、ラヴェルのスペイン狂詩曲、リストのハンガリー狂詩曲を組み合わせた、今どき珍しいラプソディー・アルバムから。これをライヴ録音で、しかも寄せ集め音源ではなく、一晩のコンサートで演奏しているのがユニークな発想です(それも近代的なガスタイク・ホールではなく、古風なヘルクレス・ザールで)。

 演奏はたっぷりとした音使いで、ロマンティックな性格。音色もあまり弾けさせず、シックな装いです。テンポも遅めで、やや腰が重く感じられますが、タッチは洗練されていて無骨な印象はありません。オケも名手を揃えているので、ソロ・パートも聴き応えがあります。バラード部も情感が豊かで、普通に感動的なパフォーマンスになっているのはさすが。

 ピアノに豪腕マツーエフとはこれまた重量級ですが、彼もソフトで軽快なタッチを心掛けているようで、繊細な音で優しく弾く箇所が目立ちます。ジャズ的な要素にも適性があるらしく、リズム感が鋭く、テンポ・チェンジも自在に行って意外に柔軟。ヴィルトオーゾ的な箇所はさすがですが、バリバリ弾き倒すというより、肩の力が抜けた余裕のある弾きっぷりです。

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