メンデルスゾーン/交響曲第4番《イタリア》

概観

 第1楽章の開始や終楽章のタランテラ舞曲など、いかにもイタリアンなムードが横溢するこのシンフォニー。ロマン派作品では人気のある方で、コンサートのプログラムにも時々載りますが、やはり尺が短く、完全燃焼のカタルシスには至らないせいか軽視されがちです。

 新譜があまり出ないのも悩みですが、こうやって並べてみると意外に重量級の指揮者が録音している印象。メンデルスゾーンは魅力的な作曲家なので、他の交響曲も合わせてもっと演奏されて欲しい所。

*紹介ディスク一覧

58年 ミュンシュ/ボストン交響楽団   

59年 サヴァリッシュ/ウィーン交響楽団

60年 マゼール/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

62年 セル/クリーヴランド管弦楽団

66年 サヴァリッシュ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

71年 カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

76年 ムーティ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団  

76年 C・デイヴィス/ボストン交響楽団

77年 ストコフスキー/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

77年 デローグ/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 

78年 ハイティンク/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

78年 ドホナーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

79年 コンドラシン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 

80年 テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

84年 C・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団

86年 ビシュコフ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

88年 レヴァイン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

89年 ブロムシュテット/サンフランシスコ交響楽団  

91年 ヴェラー/フィルハーモニア管弦楽団

91年 アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団

95年 フェドセーエフ/ウィーン交響楽団  

95年 アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

96年 アシュケナージ/ベルリン・ドイツ交響楽団

97年 ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団

97年 ガーディナー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

14年 ガーディナー/ロンドン交響楽団

15年 エラス=カサド/フライブルク・バロック管弦楽団 

21年 シャイー/スカラ座フィルハーモニカ  

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“エネルギッシュな棒で熱っぽく造形した、異色のメンデルスゾーン”

シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団

(録音:1958年  レーベル:RCA)

 第5番とカップリング。当コンビは他に第3番、八重奏曲〜スケルツォ、ヴァイオリン協奏曲2種と《カプリッチョ・ブリリアント》を録音しています。近接した距離感の録音で、オケの音色自体には艶っぽさもありますが、高音域がざらついて荒れる印象もあり。トゥッティでは歪みと混濁もあります。

 第1楽章はテンポこそ遅めですが、語気が強く、アタックに高圧のエネルギー感があるのがこのコンビらしい所。特に金管とティンパニが加わる強奏で力こぶを作る傾向があり、それが感興の熱っぽさに繋がっています。合奏はヴィルトオーゾ全開で鉄壁のの機動力を示しますが、ミュンシュの棒はやや前のめりの興奮体質。リズムの切れは良いです。

 第2楽章は、内声をクリアに聴かせているにも関わらず、色の濃い、高カロリーの響きに聴こえるのがこのコンビの芸風。合奏は丹念に構築されていますが、内面に熱さを秘めている感覚が常にあります。第3楽章は、弦の美しさが端的に現れたパフォーマンス。同時代のアメリカの団体と比べると、滑らかさやしなやかさ、艶っぽい音色に利がありますが、ドイツ系オケのコクや味わいはさすがに求められません。ホルンも然りで、トランペットなど高音域もややヒステリック。

 第4楽章は、遅めのテンポで着実に造形。推進力よりも、瞬間瞬間を克明に描き出してゆくスタイルです。普通ならスピード感たっぷりに頭を突っ込んでゆく箇所も、やや溜めて随所にくさび形のアクセントを打ち込んでゆく印象。そのため、このコンビらしい熱っぽさはやや後退しますが、そこは豪腕ミュンシュの事、力強い棒できっちり迫力のクライマックスを形成します。

“超絶的にみずみずしい、爽快極まるシャープな名演”

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団

(録音:1959年  レーベル:フィリップス)

 私が聴いたのはデッカから出ている、サヴァリッシュのフィリップス録音を集成した25枚組ボックスですが、高音域に強調感があり、すこぶる爽快で繊細なサウンド。低音が不足する訳ではないですが、中音域のふくらみはもう少し欲しい感じです。

 第1楽章は中庸のテンポながら、驚異的な切れ味を誇る鮮やかな名演。録音のせいもありますが、ヴァイオリン群の超絶的にみずみずしいカンタービレは一度聴いたら忘れられないような魅力があります。他のパートも素晴らしく、滑らかで爽快な手触りがどこまでも連結されてゆく趣。リズム処理が尖鋭で、アタックに溌剌とした張りがあるのはサヴァリッシュならではですが、アインザッツのみならずフレーズの末尾も優美に処理されているのはさすがです。

 第2楽章も、ふくよかなロマン性より清涼感が勝る表現。艶っぽくもしなやかな弦楽セクションの音色に魅了される事しきりですが、とてもウィーンの団体というイメージではありません。後の同オケの印象とも、かなり異なります。丹念な表情付けは指揮者の美質。第3楽章は速めのテンポで流動性が強く、張りのあるカンタービレで健全に歌います。内声のバランスは見事に調整されていて、旋律線をくっきりと浮かび上がらせながらも、対位法のラインは明瞭に彫琢。

 第4楽章は堅実なテンポを採る一方、音の立ち上がりが速く、アインザッツの勢いだけで非常なテンションとスピード感が出ています。オケもあらゆる音符に鋭いエッジを効かせながら、一点の曇りもないほどに緊密な合奏を繰り広げて鮮やかそのもの。マゼール盤のベルリン・フィルと較べてもさほど遜色がないほどで、ウィーン響がこんなに凄いオケだったとは驚きです。

“鋭利で精確な指揮者のセンスと、優秀なオケの魅力が両方味わえる名演”

ロリン・マゼール指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1960年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 第5番とカップリング。マゼールのメンデルスゾーンは非常に珍しく、ヴァイオリン協奏曲の伴奏を除けば、これ以外は録音していないと思います。60年代のマゼールというと線的にどぎつく、鋭利に尖っていたイメージが強いですが、当盤などは柔らかなタッチも随所に際立つ、非常に円熟した演奏で、初めて聴くリスナーは驚かれるかもしれません。

 第1楽章はやや速めのテンポ。フレージングの句読点がすこぶる明瞭な所に、マゼールの特質が目一杯出ています。リズムも徹底的に精確さが追求されている感じですが、音像が筋肉質でよく引き締まり、管弦のバランスに卓越したセンスを聴かせる点は非凡という他ありません。

 旋律線がニュアンスに富み、豊かな情感を表すのも若手指揮者の域を超えた早熟な音楽性で、随所にはっとさせられるような味わい深い表現が聴かれます。オケの優れた技術と音色美もよく生かされ、合奏の統率力も完璧。鋭敏なリズムとしなやかな歌の対比も明快。

 第2楽章は落ち着いたテンポと表情で、豊麗なカンタービレを展開する名演。細部までデリケートに描写されているのもさすがですが、各パートのパフォーマンスが実に素晴らしく、後年の同オケのディスクに匹敵する聴き応えがあります。第3楽章も遅めのテンポで、しっとりと情感を表出する一方、細部までくっきりと照射する造形感覚がマゼールらしいです。

 第4楽章もさほど速いテンポを採らず、じっくりとディティールを彫琢。リズムの鋭さ、正確さは、マゼールらしい所で、終始きびきびと演奏をコントロール。硬質なティンパニの打音を核としたタイトな響きはベルリン・フィルならではですが、艶やかな光沢を放つ音色や鉄壁の合奏力など、このオケの魅力はそこここに出ている印象。

“オケと指揮者の凄さが随所に垣間見える、驚異的なパフォーマンス”

ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1962年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 第1楽章は速めのテンポで、勢い良く開始。冒頭の木管の刻みが並々ならぬ生気に溢れ、弾けるような弦の主題提示に、聴き手の心も思わず浮き立ちます。音響が一点の曇りもないほどに明晰なのも、作品の性格と合致。こういうテンションの高い演奏は、あるようでなかなかないので稀少です。

 リズムを徹底的に細かく処理しているのも合奏の機動力を強めていますが、しなやかなカンタービレとの対比も素敵。それが逆に躍動感を強調しています。アクセントが鋭く、音圧の高いパフォーマンスは、スコアが必要とする生命力の輝きを、見事に捉えた印象。コーダに向かって僅かに加速するのも効果的です。

 第2楽章は、適度な推進力のあるテンポを採択。ロマン派的にムードでぼやかさず、解像度の高いサウンドでスコアを隈無く照射しています。旋律のアウトラインも明瞭に描き出し、曖昧な点を一切残しません。残響の少ない鮮明な録音もその印象を助長します。

 第3楽章も同傾向で、雰囲気でごまかさないのが特徴。それでいて情感は豊かで、決して無味乾燥に陥らないのはセルの演奏に共通する不思議な美質。アゴーギクに自然な呼吸感があるせいかもしれません。メロディ・ラインはくっきりと隈取られ、中間部のリズムも正確に、きっちりと造形。

 第4楽章も歯切れの良いリズムで、きびきびと進行。バロック的と言えるほどに緊密なアンサンブルですが、驚異的な技術力を誇るオケの合奏には、思わず唖然としてしまいます。聴きようによっては機能性とヴィルトオジティの披露と取れなくもないですが、作品が求めるスピード感とタランテラ舞曲の性格を考えれば核心を衝いた表現と言えます。それにしても本当に凄い指揮者、オケですね。

“落ち着いた表情ながら、鋭利なリズムでシャープに音楽を造形する再録音盤”

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

(録音:1966年  レーベル:フィリップス)

 全集録音から。サヴァリッシュの同曲は、7年前にウィーン響との録音もあります。彼はむしろ第2番を得意としていて、他にベルリン・フィル、チェコ・フィルとの録音が出ています。

 第1楽章はウィーン盤と較べてテンポこそ変わりませんが、表情はだいぶ落ち着いた感じ。その分、底抜けに爽快な魅力は交替していますが、几帳面なリズム処理でシャープに造形する傾向は同じです。アタックも強く、活力と動感も充溢。音色面での明朗さや清涼感も、他盤と較べると十分アドヴァンテージがあります。きびきびと音楽を展開した後、コーダをソフト・ランディングさせるのは独特の造形。

 第2楽章は、テンポが旧盤よりぐっと遅くなり、叙情的な性格が増した印象。旋律線も嫋々と歌いますが、響きが透徹していて厚ぼったくならないので、終始繊細なタッチは維持されています。和声の彩りも豊か。第3楽章は、ソステヌートの流麗なカンタービレに、指揮者のフレージングの才能を発揮。響きの作り方も絶妙です。第2主題はリズムの扱いが律儀で丁寧。遠近感のさじ加減も卓抜です。

 第4楽章は旧盤ほどの極端な尖鋭さはないですが、やはりザクザクと刻まれる鋭利なリズムが大きな効果を上げ、中庸のテンポながらぴりりと引き締まったムードを醸し出します。オケも、ウィーン響ほどのヴィルトオーゾ型ではないにしろ、切っ先の揃った音圧の高いアインザッツに、独特の迫力あり。

“柔和なタッチを用い、叙情性を優先させるカラヤン”

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1971年  レーベル:ドイツ・グラモフォン

 全集録音より。オリジナル・カップリングは、翌年録音の《宗教改革》。ティンパニの固めの打音を軸とする豊麗なサウンドは、このコンビの典型と言えます。第1楽章は遅めのテンポで、元気溌剌ではないものの、叙情的で柔和な味わい。弱音部の豊かなニュアンスは美しいものです。第2楽章はスロー・テンポで、ややいかめしい性格。リズムが几帳面で堅苦しいですが、第2主題の柔らかな表情は、オケの音色と合わせて実に魅力的です。

 第3楽章はしなやかなフレージングを駆使した、優美な表現。テンポが遅く、じっくり歌い込んでいるのもその印象を強くします。クラリネットをはじめ、木管ソロの美しさにはっとさせられる瞬間が多々あります。第4楽章はさほどスピードを追求している訳でもないですが、オケがとにかく上手いので、ただただ聴き惚れてしまいます。ソノリティにある種の重厚さがあるものの、タランテラの軽快さや推進力は維持されています。フォルティッシモもダイナミック。

“優美で艶っぽい歌と峻厳な造形への志向が、熱気と緊張感を生む”

リッカルド・ムーティ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

(録音:1976年  レーベル:EMIクラシックス)

 ムーティの数少ないメンデルスゾーン録音の一つで、シューマンの第4番とカップリング。当コンビは同時期に第3番と序曲《静かな海と楽しい航海》を録音しています。アビーロード・スタジオでの収録ですが、キングズウェイ・ホールで録音された第3番に較べると、遥かに抜けが良くて爽快なサウンド。

 第1楽章はゆったりしたテンポで、しなやかなカンタービレが魅力的。単に艶っぽく歌わせるだけでなく、なんとも優美でデリケートなタッチが加わっているのが素晴らしいです。この時期のムーティとしては、勢いで押さないのが意外ですが、落ち着いた足取りを維持しつつもリズムが溌剌と弾んでいて、重々しくはならないのが何より。展開部辺りから、熱っぽい感興と高揚感が加わるのも好ましいです。

 第2楽章は、見事な均整美で整えられた響きのバランスと、リリカルな歌心の横溢が素敵。ドイツ系の音作りとは違いますが、美麗で爽快なサウンドには特有の魅力があります。第3楽章はレガートを多用した流麗な造形ながら、テンポに適度な推進力があって、集中力の散逸を禁じるような趣。弱音部の合奏も緻密に構築され、リズムの打ち出し方も峻厳です。

 第4楽章は非常に速いテンポ。しかもこの速度以外は許さないような断固とした厳しさが、合奏に特有の緊迫感を生んでいます。トスカニーニ的な態度と言えなくもないですが、オケの方にも積極的に協力する雰囲気があり、そこから生まれる密度の高さと熱量は圧巻。硬質なティンパニを軸にした筋肉質の響きと、雄渾な力感も聴き所です。

“敢えて遅めのテンポで剛毅さを表出する、男性的なメンデルスゾーン”

コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

(録音:1976年  レーベル:フィリップス)

 《真夏の夜の夢》から抜粋4曲とカップリング。デイヴィスは後年バイエルン放送響と同曲を再録音しています。当コンビのディスクは意外に少なく、協奏曲の伴奏を除けば他にシベリウスの交響曲全集と管弦楽曲集、ドビュッシーの《海》《夜想曲》、チャイコフスキーの《1812年》《ロメオとジュリエット》、シューベルトの《未完成》《グレイト》《ロザムンデ》があるのみ。

 第1楽章は、安定した遅めのテンポをキープし、噛んで含めるように一音一音を処理した、細部まで極めて明快な表現。画然たるリズムが力感漲るトゥッティを形成する様は、この指揮者を形容するのによく使われるレトリックとして正に“剛毅”という言葉がふさわしいものです。精緻に刻み込まれる音符には勢いと力強さが溢れますが、一方で流れの良さなどには見向きもしないストレートさが感じられます。スタッカートの切れ味も抜群。

 第2楽章は“厳粛”と形容したくなるほど遅いテンポ。木管が入ってくると、対位法的な線の交錯に才能を発揮します。この楽章に限らず、弱音部を中心に響きが立体的に構成されているのは耳を惹きます。旋律線はしなやかに歌っているのですが、どちらかというと響きとリズムに注意を置くのがデイヴィスの持ち味。第3楽章も折り目の正しい表現で、中間部のリズムの弾みと押し出しの強さが特徴的。フレージングには柔らかさも聴かれます。

 第4楽章は中庸のテンポですが、徹底的に管理されたアーティキュレーションが、ディティールの克明さ、エッジの鋭さを際立たせています。ロマン派的な幻想味や柔らかいムードはほとんどなく、全てが白日の下に晒されるようなリアリスティックな表現。デイヴィスはこの曲を流麗軽快な標題音楽ではなく、あくまで動機の積み上げで構築される、純然たるシンフォニーとして捉えているのでしょう。コーダはさりげなく終了。

“意外にも繊細な感性で生き生きと躍動する、ストコフスキー最晩年の名演”

レオポルド・ストコフスキー指揮 ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1977年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 ストコフスキー最晩年のレコーディング群の一枚で、ビゼーの交響曲とカップリング。90歳以上の老大家が指揮しているとは思えないような、溌剌とした生命力溢れる演奏です。

 第1楽章はテンポこそゆったりとしていますが、細部の表情付けは徹底しており、ニュアンスがすこぶる豊か。オケも弦のみずみずしいソノリティを始めとして実に流麗で明るい響きで、リズムも軽快に弾みます。第2楽章は、厚塗りの音色でオケを鳴らしまくるこの指揮者のイメージとは真逆の、繊細な歌に溢れた表現。フルートのオブリガートなど対位法的な書法や弱音の効果、透明な響き等、失礼かもしれませんが、ストコフスキーらしからぬデリカシーが随所に聴かれるのは驚きであります。

 第3楽章もトリオの付点リズムを始めリズム感が良く、フィナーレのきびきびとしたテンポも若々しいもの。さすがにコーダに向けて白熱するような盛り上がりはありませんが、お家芸でもあるスコアの改変を行わず、端正な造形で直球の名演に仕上げた所は、巨匠の余裕と風格を感じさせます。

“卓抜な棒さばきで作品の本質を衝く、不遇の才人デローグに注目!”

ガエターノ・デローグ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1977年  レーベル:スプラフォン)

 第5番とカップリングで、いまいち全貌が分からない、このコンビのレコーディングの一つ。分かっている限りでは、LPで《スコットランド》と《フィンガルの洞窟》、シベリウスの第5番と《トゥオネラの白鳥》、ロッシーニの序曲集、ストラヴィンスキーの《火の鳥》《カルタ遊び》、ヴェルディの《聖歌四篇》があります。とにかく過小評価が著しい指揮者なので、再評価を強く希望。私の手元にあるCDは録音データの記載が最小限ですが、残響がややデッドなのでドヴォルザーク・ホールではないようです。

 第1楽章は遅めのテンポながら、細部を克明に処理して輝くばかりの生命力を獲得した名演。オケの合奏や音色も含め、華美な所は全くありませんが、卓抜なリズム感を軸に、徹底したディティール描写が物を言う雄弁な演奏です。木管の第2主題が愉しげに弾む所や、全編を貫く連打リズムが強い推進力と熱っぽいエネルギー感を保持するなど、作品の本質を衝く表現が頻発。

 第2楽章は荘重になりすぎず、風通しの良い流麗なスタイル。弦をはじめ響きに厚みがあって音圧も高いですが、フットワークが軽く、音色も明朗なので聴きやすいです。第3楽章も豊かな感興と音楽的愉悦に溢れ、実に味わい深い演奏。第2主題も金管とティンパニがシャープで力強く、フルートのリズムも鋭敏。

 第4楽章はアタックに覇気が漲り、圧倒的な力感で迫ります。しかし力で押すタイプではなく、ニュアンスが多彩で、常にアーティキュレーションが精細に描写されているのはデローグらしい所。強弱の演出も巧みで一本調子にはなりませんが、コーダは減速せず一気に終了します。カップリングの第5番も素晴らしい演奏で、もっともっと注目されるべき1枚。

“柔らかなタッチで優美な表現を志向する、壮年期のハイティンク”

ベルナルト・ハイティンク指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1978年  レーベル:フィリップス)

 当コンビは2番を残して全てのメンデルスゾーンの交響曲を録音、その2番だけは同じオケを振って、デビュー間もないシャイーが録音しました。ハイティンクは60年代に、コンセルトヘボウ管ともこの曲を録音しています。コンセルトヘボウ管はどういう訳かメンデルスゾーンと縁が浅く、ハイティンクのみならずデイヴィスも、シャイーも、他のオケで録音しているのが残念。フィリップス・レーベルは数年後、ビシュコフの指揮でこの曲をレコーディングしていますが、そのオケもなぜかロンドン・フィルでした。

 第1楽章はオケの爽快な響きも手伝って、しなやかで軽快な演奏。突出した力感や強いアクセントは排除されていて、メリハリには乏しく感じられますが、良く言えば優美で趣味の良い、落ち着いた大人の表現です。弦を中心に、アンサンブルが流麗で美しいタッチを聴かせるのが何より。強調こそされませんが、リズム感も良いです。響きのバランスも理想的で、ソノリティがまろやか。

 第2楽章にはこのコンビの良さがよく出て、優しい感触でリリカルな歌を紡いでゆきます。オケも各パート好演。第3楽章も暖かな情感と、みずみずしく潤いに満ちたカンタービレが印象的で、内から湧き起こるような感興の豊かさも魅力的。この時期にはハイティンクも、指揮者として円熟の境地に入りつつあった事を伺わせます。

 第4楽章はさりげない調子で推移しますが、リズムやアーティキュレーションに鋭敏に対応していて、スキルの高さや感性の鋭さを目立たぬ所で生かしている感じが、いかにもハイティンクらしいです。編成もあまり大きくないのか、フットワークの軽さと透明度の高い響きも好印象。コーダも熱くならず、ふんわりと処理します。

“類をみないほどに精妙な、非の打ち所のないメンデルスゾーン演奏”

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1978年  レーベル:デッカ)

 全集録音中の音源。当コンビは序曲《フィンガルの洞窟》《静かな海と楽しい航海》の他、カンタータ《ワルプルギスの夜》を録音しています。ドホナーニは、クリーヴランド管とも3、4番を再録音している他、当曲に関しては楽団自主レーベルからのライヴ音源もあり。とにかもかくにもく非の打ち所のない演奏です。

 第1楽章は、珍しくもリピートなしで演奏。遅めのテンポでディティールを克明に彫琢し、まろやかで明朗ながらも透明な響き、よく弾むリズムで生き生きと造形。落ち着いた雰囲気で抑制も効いて、意外にソフトなタッチですが、色彩は鮮やかで、管楽器のソロもくっきりと浮かび上がります。精緻に構築されたアンサンブルには、有無を言わせぬ圧倒的な説得力あり。

 第2楽章はデリカシーに溢れ、メロディ・ラインを繊細に描写。秘められたニュアンスの美しさは類を見ないもので、弱音の微細な効果も絶妙です。管弦のバランスが全く惚れ惚れするほどに巧緻で、オケも素晴らしいパフォーマンス。第3楽章も考え抜かれた音響バランスと色彩の配合、弱音を主体にしたダイナミクスの設計など、あらゆる局面において、これほど精妙なメンデルスゾーン演奏は滅多と聴けないものと感じます。オケの音色も、すこぶる魅力的。

 第4楽章は、冒頭から無類に鋭敏で、小気味の良いリズムが炸裂。フォルテの音量を抑えて軽妙さも維持しており、羽毛のように軽く、敏感な表現はメンデルスゾーンにふさわしいものといえます。和声感も豊かで色彩もソノリティも美麗そのもの。それでいて無駄肉のない、スマートにシェイプされたプロポーションで、きびきびとしたフットワークと細やかな強弱の描写も見事。ビジネスライクにならず、表情が豊かなのも美点で、けだし作品の本質を衝いた名演だと思います。コーダはあっさり終了。

“オケの美音を生かし、平素の剛毅なイメージを大きく裏切るコンドラシン”

キリル・コンドラシン指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

(録音:1979年  レーベル:フィリップス)

 80年代にまとめて発表された、当コンビのライヴ音源の一つ。カゼッラの《パガニーニアナ》がLP発売時のオリジナル・カップリングと思われます。70年代の同オケのライヴ音源を集めたアンソロジー・ボックスにも同じ曲が収録されていますが、両盤記載のデータを信じるなら、そちらは当盤の翌日に行われた別の演奏。

 第1楽章は遅めのテンポで細部を克明に聴かせる個性的な造形で、粘性を帯びたフレージングや、さらに細かくブレーキをかける恣意的なアゴーギクも独特。何か不思議な魅力のあるパフォーマンスですが、決して重々しくはなく、オケの明朗で柔らかな音色も生かされています。ただ、しっとりと潤う美しい響きや丁寧なディティール、流麗な歌などは、コンドラシンの剛毅で熱っぽいイメージと対極にある表現かもしれません。

 第2楽章は立体的な書法の処理が巧妙で、伴奏型のフルートの音彩など、得も言われぬ美しさがあります。全体に、丸みを帯びたなめらかな筆遣いを用いているのも素敵。第3楽章もスタッカートで効果的にフレーズを切りながら、みずみずしく流れるカンタービレを聴かせ、指揮者の無骨なイメージを裏切ります。中間部の鋭敏極まるリズム感も秀逸。

 第4楽章も落ち着いた大人の態度という感じで、勢いより正確さを追求するようなテンポが意外です。オケの緊密な合奏力と音色美を生かし、細部を愛おしむように瞬間瞬間の美しさが味わえる演奏。アンサンブルに一体感があるため、フットワークが重くなる事はありませんが、ライヴ的な白熱には向かわないのが、この指揮者のファンには物足りない部分があるかもしれません(私は好きな演奏です)。

“指揮者の非凡な才能を、優秀なオケがうまくフォロー”

クラウス・テンシュテット指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1980年  レーベル:EMIクラシックス)

 数点ある、当コンビの録音のかなり初期のもので、カップリングはシューマンの4番だったと記憶します。一聴してベルリン・フィルと分かるサウンドは、当時まだカラヤン時代だったせいもあるかもしれません。叙情的な箇所での耽美的な表現や、息の長いフレージングなど、やはりカラヤンを彷彿させる面があるのも興味深い所。

 第1楽章は、リピートをしない少数派。遅めのテンポで、克明なリズム処理もドイツ的ですが、音色が明るいのは作品にふさわしい所です。旋律線のしなやかさも印象的で、感興が豊か。躍動感や標題音楽的な描写性よりも、シンフォニックな美しさに傾いた表現です。コーダに向かっての盛り上げや、びしっと決まる締めくくりも見事。

 第2楽章は、ゆったりとしたテンポで流麗に歌う演奏。響きは厚塗りにならず立体的で、高音域にも爽快感があります。第3楽章は落ち着いたテンポで、デリケートな歌が横溢。オケの巧さもよく出ていて、ホルンのハーモニーとそれに続く弦楽セクションなど、緻密なアンサンブルや音量のバランス感覚は非凡そのもの。

 第4楽章は逆に速めのテンポで、てきぱきと進行。緊密に合奏を統率してゆくタイプではなく、気力と勢いでオケをまとめてしまう辺りは、いかにも旧世代的な棒の芸術という感じ。オケがすこぶる優秀なので、鋭敏に反応していて迫力も充分です。強弱やアーティキュレーションの描写も細やかで多彩。ティンパニの鮮烈なアクセントが随所で効果を発揮するのは、このオケらしい所です。スピード感を増してコーダへ突入。

“シンフォニックな骨格と克明なディティール。美しいソノリティがエッジを緩和”

コリン・デイヴィス指揮 バイエルン放送交響楽団

(録音:1984年  レーベル:オルフェオ)

 第5番とカップリング。当コンビは第3番と《真夏の夜の夢》序曲も録音している他、C・デイヴィスの同曲にはボストン響とのセッション録音もあり。デイヴィスのメンデルスゾーンは、シュターツカペレ・ドレスデンと第3、5番のライヴ盤もあります。

 第1楽章は遅めのテンポで、フレーズとフレーズの間にゆとりがあるのがデイヴィスの美質でもあります。リズムやアーティキュレーションを精確に処理しながらも、鋭敏さが前に出ず、気品と優美さを感じさせるのは、オケの個性と指揮者の円熟の相乗効果でしょうか。雄渾な力感は保持しつつも、無用な力みがないのが爽快です。メロディ・ラインは存分に歌っていますが、流麗さよりもシンフォニックな骨格が勝る印象。その分、がっちりとした安定感があります。

 第2楽章は、スロー・テンポで厳かに流れる演奏。独特の格調高さを感じさせますが、その中にも潤いとみずみずしさに溢れた音色美や、清澄な叙情が心に沁み入ります。第3楽章は淡々としてさりげない調子ですが、さすがにオケがニュアンス豊かで雄弁。ホルンのハーモニーなども、音色とヴィブラートの味わいだけで聴かせてしまう力があります。中間部のリズムなどで、男性的な力感が示されるのもデイヴィスらしい所。

 第4楽章は中庸のテンポながら、切れの良いスタッカートと快適な弾力でリズムを精緻に彫琢。それでも、残響の多い録音とオケの豊麗なソノリティのおかげで、必要以上に角が立つ事がありません。無闇にスピード感を強調する事もなく、それが恰幅の良さと余裕に繋がっています。コーダも特に煽る事なく、ゆったりと落ち着き払って終止。

“作品のイディオムを掌握し、あらゆる面に非凡な才覚を示す若き日のビシュコフ”

セミヨン・ビシュコフ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1986年  レーベル:フィリップス)

 第3番とカップリング。ビシュコフのメンデルスゾーン録音は、フィルハーモニア管、ラベック姉妹との二重協奏曲があります。当コンビのレコーディングは当盤が恐らく唯一。フィリップスの英国録音はフォーカスが甘いものも多いですが、当盤は豊富な残響を取り込みながら直接音が鮮明で、クリアな音響が胸のすくように爽快です。

 第1楽章は適度なテンポ設定で、色彩的にどぎつくしすぎず、趣味の良い表現。木管ソロや弦楽パートの表情が雄弁なので、鋭利な隈取りがなくても生き生きと聴かせる演奏です。リズム感は卓抜で、管楽器の細かい刻みを巧みに強調して、弾むような運動性と推進力を演出する手腕は非凡という他ありません。旋律線はのびのびと爽快に歌い、開放感は充分表現されています。フーガ風の箇所も精緻な合奏で聴かせ、ルーズさを残さない明晰なパフォーマンス。若々しい勢いもあり、コーダに向かって僅かに加速してゆくセンスも新鮮です。

 第2楽章も、デリケートな歌と弱音に溢れた精妙な演奏。管弦のバランスに優れ、各部の表情の作り方は新進指揮者とは思えないほど。構成の才覚も確かで、音楽が散漫に流れてゆく箇所がありません。第3楽章は、弦楽セクションのカンタービレに魅了されますが、ポルタメント気味のしなやかなフレージングといい、艶っぽい音色といい、どこかビシュコフの才能を発見したカラヤンのセンスに通じるものもあります。キャリア初期にして既に作品のイディオムを掌握している点に関しては、驚嘆を禁じ得ません。

 第4楽章は一転、快速調で疾走。相当な勢いがありますが、細部の仕上げが粗削りになる事はなく、克明なディティール処理と鋭敏なリズム感によって、有機的なアンサンブルを構築しています。カップリングの《スコットランド》もそうですが、ビシュコフは拍節の感覚が優れていて、倍速のリズムを精確に捉えているため、大きな二拍子の感覚を同時にキープして軸がブレません。疾走のさ中にあっても、音色に対する配慮が行き届いているのはさすが。コーダは句読点を強調せず、あっさりと終了。

“繊細なディティールとみずみずしい歌。オケの合奏力も圧倒的”

ジェイムズ・レヴァイン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1988年  レーベル‥ドイツ・グラモフォン)

 交響曲第3番とカップリング。レヴァインのメンデルスゾーンは、シカゴ響との《真夏の夜の夢》もあります。イエス・キリスト教会での録音で、やや残響過多に感じられますが、カップリングの《スコットランド》に較べると、細部が明瞭に出ている印象。

 第1楽章はリズム感に優れ、溌剌として爽やか。元気一辺倒ではなく、みずみずしい歌とデリカシー溢れるディティールの描写がレヴァインらしいです。唯一、クレッシェンドの局面で弦にグリッサンドのような粘りが加わるのが耳に付きますが、思い切りの良いエネルギーの解放は曲想に相応しく、実に爽快です。オケがとにかく上手く、見事なアンサンブルと表現力を披露。

 第2楽章も、オケの音彩の美しさは比類がありません。レヴァインの棒も語り口が上手く、ニュアンスが多彩。潤いのある響きも魅力的です。第3楽章は流麗で、木管のバランスなど弱音部の繊細さが耳の残る巧緻な表現。その一方、中間部のリズムはよく弾み、時に峻烈さも示します。第4楽章はリズム感の良さが際立ち、エッジが効いてシャープ。テンポこそ落ち着いていますが、若々しい活力に溢れます。合奏力の凄さも聴きもの。

“正攻法でスコアの本質に迫るブロムシュテット。オケの魅力も全開”

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 サンフランシスコ交響楽団

(録音:1989年  レーベル:デッカ)

 《スコットランド》とカップリング。ブロムシュテットのメンデルスゾーン録音はあまり多くないですが、作曲者ゆかりのゲヴァントハウス管と《スコットランド》、ピアノ協奏曲集(ソロはティボーデ)、オラトリオ《エリア》も録音しています。柔らかく深みのある響きと、シャープで堅固な造形を両立させた演奏で、奇を衒う所はありませんが、正攻法でスコアの本質に迫る姿勢は好感が持てます。内的な感興が豊かで、みずみずしい歌に溢れるのと、オケの音色が明るいのは美点。

 第1楽章は遅めのテンポで、細かい音符を克明に処理する行き方。響きがたっぷりとしていて潤いがあるので、即物的になりすぎたり角の立つ傾向はありません。旋律線もみずみずしい感覚でよく歌い、情感が豊か。第2、3楽章は落ち着いた佇まいの中で、明快なアーティキュレーションを追求。管弦のバランスも繊細にコントロールされていますが、しなやかな歌心が素晴らしく、フレージングの優美さは絶品。

 第4楽章は鋭いアタックで、シャープに造形。切れの良いリズムを駆使しながらも、線的にどぎつくならず、柔らかな輪郭と深い奥行きを維持しているのが好感触です。オケも暖かみのあるソノリティと、室内楽的な合奏力で応えていて見事。後半もパンチの効いたアクセントを盛り込みつつ、落ち着いたテンポで自然に白熱してゆく設計に唸らされます。

“得意のウィーン・スタイルで楽曲の本質を衝く、含蓄豊かな名演”

ヴァルター・ヴェラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団

(録音:1991年  レーベル:シャンドス)

 序曲《フィンガルの洞窟》を含めた全集録音から。ヴェラーはスコティッシュ・ナショナル管と、《真夏の夜の夢》抜粋盤も録音しています。このレーベルらしく、教会を会場にした残響豊かなサウンドですが、細部はクリアにキャッチされていて、艶っぽく爽快な響きに収録されています。

 ウィーン・フィルのコンマスだったヴェラーの指揮は、ダイナミクスとバランスに細心の注意を窺わせる辺り、早くも耳を惹く表現。どこにも力みを感じさせず、室内楽のような一体感で豊かな音楽を作り上げてゆく手腕はただ者ではありません。旋律線の艶っぽい身のこなしはさすがのウィーン・スタイルと思わせ、よく弾む生き生きとしたリズム感も魅力的。

 第1楽章は中庸のテンポで肩の力を抜きながら、しなやかな歌とデリケートなタッチが見事。第2主題のリズムにも明快ながらある種の軽さがあり、作品の本質を衝く解釈と言えます。音色は爽快ながら、淡彩になりすぎない趣味の良さが好感度大。第2楽章は、厳粛な中にも透明感とほのかな明るさを湛え、これも又、スコアの本質に到達するような表現。美麗なパフォーマンスの内に、思わず感心させられます。

 第3楽章へは、ほぼアタッカでさりげなく突入する感じですが、爽やかなタッチの中に多彩なニュアンスが盛り込まれて滋味豊か。テンポ設定や管弦のバランスも、適正という他ありません。ディティールの処理も繊細そのもの。

 第4楽章はいたずらにスピードを強調しないものの、柔らかなアタックを基調に巧みなメリハリを付け、リズミカルに弾む愉悦感と色彩の変化を表出していて見事。合奏が隅々まで精緻に構築されている所も凄いです。要所で打ち込まれるアクセントやダイナミクスの演出、わずかに芝居がかったエンディングも実に効果的。この指揮者の演奏は常に含蓄が豊かで、どのディスクを聴いても教えられる事が多いです。

“あらゆる局面にアーノンクール印が刻印された、極めて個性的な解釈”

ニコラウス・アーノンクール指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

(録音:1991年  レーベル:テルデック)

 イタリア、フェラーラでの収録で、第3番とカップリング。当コンビのメンデルスゾーンは、ライヴ収録の《真夏の夜の夢》《ワルプルギスの夜》もあります。

 第1楽章は早くもアーノンクール印で、冒頭からフレーズの解釈が独特。スコアにない強弱やアーティキュレーションが適用されます。全体を貫くリズムは、最後までエネルギーと動感を維持。鋭利なアクセントが随所でパンチを加える一方、流麗な歌との対比も印象的に演出されます。合奏も生気に溢れ、爽快な音色が魅力的。コーダの盛り上がりも見事です。第2楽章は遅めのテンポで緻密な表現。木管も弦も、潤いに満ちた響きが好感触です。

 第3楽章は速めのテンポでリズミカル。推進力が前に出て流れが停滞しないので、この解釈は適切と言わねばなりません。中間部の付点リズムの軽快さ、弦楽セクションの敏感なダイナミクスは聴きもの。ノン・ヴィブラートのしなやかなカンタービレも美しいです。第4楽章は、烈しいアクセントで始まる冒頭からアーノンクール節が炸裂。鋭利なスタッカートを多用した明敏なフレージングが痛快で、乗りの良さと卓越したリズム・センスを示します。やや過剰なブラスの強調も、ピリオド系アプローチの専売特許。

“意外に洗練されたセンスと音楽性の高さを示すフェドセーエフ”

ウラディーミル・フェドセーエフ指揮 ウィーン交響楽団

(録音:1995年  レーベル:CALIG)

 複数のレーべルから幾つか出ている、当コンビのライヴ盤から。他にベルリオーズの《ローマの謝肉祭》、チャイコフスキーの《イタリア奇想曲》とカップリング。イタリア括りの企画盤かと思いきや、3日間で集中して録音されているので、そのプログラムのコンサートだったようです。楽友協会ホールでの収録ですが、押し出しの強いティンパニやマスの音色など、ウィーン・フィルのサウンドとはやはり少し違う雰囲気。残響を適度に取り入れながらも、直接音の鮮明な録音です。

 第1楽章は遅めのテンポで、ゆったりとした間合い。力みがない割に、細かい音符を克明に処理しているので、輪郭のはっきりした造形になっています。その中で、旋律をみずみずしく歌わせていて美しく、フェドセーエフの洗練された一面を聴く思い。リズムも鋭敏に弾んでいます。第2主題のしみじみとした情感や、優しい風合いも素敵。提示部リピートをカットしているので、演奏時間はやや短くなっています。

 第2楽章は、繊細な弱音の中で管弦のバランスが精緻に構築されていて見事。オケの音色も艶美です。第3楽章もフレーズの処理が非常に丁寧で美しく、モスクワ放送響との録音が時に雑に聴こえるのは、指揮者よりオケの問題なのかもしれません。やはり各パートのバランスがデリケートに整えられていて、演奏者の音楽性の高さを窺わせます。装飾音や歌い回しも絶妙のセンス。

 第4楽章はやや重心の低い響き、逞しい力感がフェドセーエフらしいですが、リズムは軽快で推進力も強く、緩急の押し引きも実に巧みです。合奏も一体感が強く、鋭いアタックで切り込んで来る弦、鮮やかな音彩を添える敏感な木管など、演奏全体に生気と集中力が漲ります。強い個性こそないものの、音楽的スキルの高さで聴かせる一枚。

“シンフォニックな様式感で妥協せずに構築した、アバドらしい真摯なライヴ盤”

クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1995年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 ベルリン・フィルによる大みそか恒例のジルヴェスター・コンサート・ライヴ盤。アバドは毎年、特定の作曲家をテーマに取り上げていて、同じ日に演奏された《真夏の夜の夢》もカップリング。彼は過去にロンドン響と全集録音も行っています。豊かな残響音を収録した録音はディティールもクリアに捉え、オケの豊麗なサウンドを堪能できる上、繊細で柔らかなタッチが心地よくもあります。両端楽章におけるソリッドなブラスが加わるトゥッティは、アバド特有の骨太な響きで貫徹。

 全体に落ち着いた佇まいで、ゆったりめのテンポを採択。第1楽章は優しくデリケートなタッチが印象的ですが、リズムは軽快に処理されていて、生き生きとした動感を表出します。アンサンブルも緊密で乱れがなく、瑞々しい響きと歌心に溢れる流麗なカンタービレが魅力的。展開部では音楽が白熱してくるなど、ライヴらしい感興の豊かさも感じさせます。

 第2楽章は遅めのテンポを採り、切々たる歌の美しさ、細やかなニュアンスの表現が圧倒的。この辺り、オケの巧さも際立っています。第3楽章は、中間部のホルンの響きが素晴らしく、途中で加速するアゴーギクも効果的です。フィナーレも、適度なスピード感と舞曲的躍動感を保ちつつ、充実した響きでシンフォニックな様式感を見事に構築。お祭り的なライヴでも表現に妥協しない、指揮者の真摯さが伝わります。

 アバドという人は、フォルムの美しさに傾倒した時が、結果的に最も良い演奏になるような気がします。シカゴ響との録音には、時折首を傾げたくなるようなものもありますが、どうもオケ側からの力みが作用してうまくいかないというか、ベルリン・フィルとの演奏ではより肩の力が抜けた良さが出ているのではないでしょうか(そう考えると、バレンボイムもシカゴではうまく行っていない演奏が多かったような)。

“爽やかな叙情と躍動感。メンデルスゾーンに強い適性を示す指揮者アシュケナージ”

ウラディーミル・アシュケナージ指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団

(録音:1996年  レーベル:デッカ)

 全集録音中の一枚。オケの編成を小さめにしているのか、響きの見通しが良く、各部のラインが明瞭に聴き取れる演奏。録音も残響音を豊かに取り入れながら、ソロ楽器の艶やかなサウンドもクリアにキャッチした、デッカらしいものです。

 第1楽章は冒頭から実に敏感な表現。弦の第1主題のフレージングが独特で、随所にスタッカートで音を切っている他、弱音の挟み方もデリケート。全編に渡ってリズムの切れが良く、軽やかな爽快感に溢れます。明瞭に隈取られた弦の旋律線のみずみずしさや、木管ソロの典雅な美しさも印象的。各部の表情にも生き生きとしたニュアンスが付与され、作品の魅力を十二分に表出した演奏と感じられます。

 中間二つの楽章も、みずみずしい歌と爽やかな情感が横溢する好演。ここでもやはり、第1ヴァイオリンの美しいラインに耳を惹かれる箇所が多いです。特に第2楽章における旋律線の表情、管弦の艶やかな色彩は聴きもの。快速テンポで駆け抜けるフィナーレは、リズムのセンスが良く、歯切れの良いスタッカートと推進力が胸のすくよう。指揮者としてのアシュケナージは、個人的にどうもしっくりこない演奏が多いイメージですが、彼の持ち味と言えるある種の軽みは、メンデルスゾーンの音楽と非常に相性が良いように思います。

“オケの機能性が目一杯生かされた、圧倒的ライヴ・パフォーマンス”

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団

(録音:1997年  レーベル:クリーヴランド管弦楽団)

 オーケストラ自主制作による10枚組ライヴ・セット中の音源。ドホナーニは過去にウィーン・フィルとメンデルスゾーンの交響曲全集を録音していますが、その旧盤と較べると当盤ではテンポがずっと落ちて、演奏時間でいうと全体で4分以上も延びています。

 第1楽章は非常にゆったりとした佇まいで、タッチも柔らか。リズムの歯切れが良いので鈍重さはなく、弱音部の繊細なデリカシーなど、なかなかの聴きものです。木管のちょっとした合いの手や第2主題の歌い口などは、実に優美で艶やかなフレージング。コーダに向かう音楽の運び方も見事な間合いです。

 第2楽章、第3楽章は、潤いに満ちた豊麗な響きと、多彩な強弱のニュアンスが素晴らしく、オケのまろやかなソノリティがプラスに働いた好演。弦のみずみずしいカンタービレも、よく歌う割には情感的にべとつきません。第4楽章は敏感で切れの良いリズム、室内楽的な一糸乱れぬアンサンブルに圧倒されます。適度に落ち着いたテンポ設定で、旋律線に豊かな表情が与えられているため、決して技術ありきの機械的なパフォーマンスに陥らない所がさすがです。

“指揮者の主張よりオケの個性が前に出た印象。珍しい改稿版も同時収録”

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1997/98年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 オリジナル版の翌年に改稿された1834年版の第2、3、4楽章と、第5番をカップリングした稀少なディスク。ガーディナーは後にロンドン響と、全交響曲及び《真夏の夜の夢》をライヴ収録しています。ガーディナーとウィーン・フィルの共演盤は他に、シューベルトの《ザ・グレイト》、シャブリエ、エルガーの管弦楽曲集、ブルックナーのミサ曲第1番、レハールの喜歌劇《メリー・ウィドウ》全曲があります。

 第1楽章は落ち着いたテンポながら、細部を緻密に彫琢する事で生き生きとした躍動感を実現。ホルンの合いの手をはじめ、アクセントは強調される傾向にありますが、しっとりと柔らかなオケのソノリティが刺々しさをうまく緩和しています。よく弾むリズムは無類に爽快で、それが随所で音楽を活気づけている印象。後年のロンドン盤にはない繊細な表情や艶やかなカンタービレ、豊かな情感が聴かれるのは、ひとえにウィーン・フィルの功績と言えるかもしれません。

 第2楽章は、細やかなデュナーミクで雄弁なニュアンスを付ける一方、弦楽セクションやフルートのハーモニー、クラリネットなど、オケの美麗な音色を巧みに取り込んでいて魅力的。第3楽章も、チャーミングなスタッカートを忍ばせたフレージングに工夫があるものの、優美を極めた歌い回しはウィーン・フィルならではの味わい。逆に言えばガーディナーの個性を聴くには、後年のロンドン盤に軍配が上がります。第2主題のリズム処理は、すこぶるデリケートな軽妙さを感じさせて秀逸。柔らかな弱音の典雅さも心に残ります。

 第4楽章はテンポが速くて勢いがあり、冒頭のトゥッティ連打も管楽器のアクセントが効いてやや濁ります。鋭敏で歯切れの良いリズム処理と合わせて、ここはガーディナーの主張が前に出た印象ですが、全体としてはオケの艶美な音色が支配的。緊密な合奏もバロック団体のような一体感があって素晴らしいです。

 改稿版は作曲と同様、翌年に録音。どの楽章も尺が少し長くなっています。第2楽章は、主旋律が既にオリジナルと違う展開。全く違うのではなく、オリジナルを基調にところどころ逸脱するという感じです。第2主題も旋律線が書き換えられ、雰囲気はそのままに別の展開へ。

 第3楽章はほぼ同じメロディ・ラインで、所々小さな修正がなされています。本来高い音に上がる所で、タイミングがズレて上がる箇所が多いので、オリジナルを聞き慣れた耳にはもどかしく感じるかもしれません。第2主題は、ホルンの合いの手に入る木管や弦の上昇音階が付点音符ではなくなっているのと、それに続く短調の展開が全く違っています。

 第4楽章は楽想自体よりも、オーケストレーションやアーティキュレーションを見直した箇所が多い印象。楽器を足して、音の厚みを増している部分が目立ち、音色的にもピツィカートの多用など多彩になっています。フレーズが展開を加えて長くなっている箇所もあり、やはり少しだけ長尺。どの楽章も、これはこれで充分な完成度と美しさがあるので、ブルックナーのように指揮者によってエディションを選択する風習になっても良いような気がします。

“エネルギッシュでスリリング。指揮者の大胆な主張が際立つ再録音盤”

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 ロンドン交響楽団

(録音:2014年  レーベル:London Symphony Orchestra)

 楽団自主レーベルによる全集録音の一枚で、1番とカップリング。バービカンでのライヴ収録で、弦や木管など音自体はしなやかで艶っぽいですが、会場のアコースティックがややデッドで、奥行き感が浅めなのがこのレーベルの残念な所です。弱音部では特に潤いが不足しがちな一方、直接音は生々しく収録されています。

 第1楽章は、ガーディナーらしくエネルギッシュな活力に溢れ、ティンパニや管楽器のアクセントが効いています。アタックに勢いがあるのも、テンションの高い、溌剌とした感じを増幅させます。細やかな強弱のニュアンス、流れるように美しいカンタービレと、よく弾む鋭利なリズム(特に金管のファンファーレは見事!)との対比も見事ですが、神経質な誇張はあまり目立ちません。情感も豊かです。

 第2楽章は、レガートで音を連結しない第1主題の歌い口が独特。弦は編成を減らしているのか、涼やかな肌触りとすうっと触れてくるような繊細で美麗な音色が魅力的。強弱のニュアンスも味わい深く、柔らかな叙情性を湛えます。これがメジャー・レーベルのスタジオ録音であれば、さらなる美感が得られたかもしれません。

 第3楽章は速めのテンポで推進力が強く、流線型のなめらかな造形。フレーズの掴み方がバロック風に大きいのもユニークです。通常は入らない位置に控えめなスタッカートを盛り込んだり、スコアにないダイナミクスを指示したり、独自の解釈にも事欠きません。ロマン派ムードでだらだら流さず、常に意識が覚醒しているような敏感さが持ち味。ヴァイオリンの旋律線は、やはり小編成に聴こえます。

 第4楽章は全曲中最も表現主義的で、冒頭から恐ろしく速いテンポで疾走。バロック風の極端な強弱の対比と、スコアにないクレッシェンド、スフォルツァンド等、機敏を極めたシャープなリズムを駆使し、小編成アンサンブルのような機動力でスリリングに暴れ回ります。オケも超絶技巧を披露。それでいて表現に細やかなグラデーションがあり、余裕を感じさせる所はさすが一流オケです。短い曲の中で、充分な高揚と白熱へ結びつける構成の腕も確か。

“徹底してHIPのスタイルながら、大らかな性格で神経質さがないのが美点”

パブロ・エラス=カサド指揮 フライブルク・バロック管弦楽団

(録音:2015年  レーベル:ハルモニア・ムンディ)

 全集録音の一環(第2番はバイエルン放送響)で、第4番とカップリング。当コンビは同時に序曲《フィンガルの洞窟》《美しいメルジーネ》の他、ベザイデンホウトとピアノ協奏曲第2番、イザベル・ファウストとヴァイオリン協奏曲も録音しています。ピリオド楽器のオケで完全にHIPスタイルですが、フライブルクではなくスペインのムルシアで収録。

 第1楽章は意外に落ち着いたテンポですが、合奏はどこまでもきびきびと明瞭で、フレージングやダイナミクスはやはり全て再解釈されています。内声がクリアなせいか、管楽器の鮮やかな色彩感がよく出ているのも特徴。旋律線はしなやかに歌っていますが、これだけ細かく雄弁にニュアンスを付けても、神経質さや不自然さがないのは並外れたセンスと言えます。溌剌として、明るくおおらかな性格が伺えるのも好ましい所。

 第2楽章は、速めのテンポで流麗。ノン・ヴィブラートの清澄な音色で、滑らかに歌っています。常に意識が覚醒していて合奏の凝集度が高く、音楽が漫然と流れる事がないのは美点。第3楽章も新鮮に聴ける演奏で、合奏がすこぶる緻密に構築されています。第2主題の、極めてデリケートで鋭敏なリズムの扱いにも注目。

 第4楽章は、俊敏で解像度の高いアンサンブルが圧巻。その一体感が舞曲らしい身体性に繋がっています。機動力抜群の速弾きが連続する演奏ですが、メジャー・オケのようにそれが名技性の誇示に聴こえないのは、小編成バロック・アンサンブルの利点でしょうか。ティンパニも単にバチが固いだけでなく、打音が極限まで軽いのがユニーク。

“流麗で立体的な音響を構築。演奏が素晴らしく、改稿版でも普通に聴き惚れる”

リッカルド・シャイー指揮 スカラ座フィルハーモニカ

(録音:2021年  レーベル:デッカ)

 シューベルトのイタリア風序曲2曲、モーツァルトの歌劇《ポントの王ミトリダーテ》《アルバのアスカーニオ》《ルーチョ・シッラ》序曲をカップリングした、《ムーサ・イタリアーノ》というイタリア・テーマ・オムニバスから。オリジナル版の翌年に改稿された1834年版の第2、3、4楽章を採択しています。

 シャイーのメンデルスゾーン録音はロンドン・フィルとの第2番、ロンドン響との第3番の他、ゲヴァントハウス管と初稿の第2、3番、《真夏の夜の夢》序曲、補筆版のピアノ協奏曲第3番、《フィンガルの洞窟》がありますが、同曲は未録音でした。せっかくなら作曲者ゆかりのゲヴァントハウスで聴きたかったですが、明るくまろやかなスカラ座オケの音色も魅力的です。

 第1楽章は現行版と同じですが、冒頭の木管の刻みからクレッシェンドを加え、旋律線にも細かいデュナーミクを演出して実に雄弁。これでアーティキュレーションも見直すとHIPになるのでしょうが、強弱の抑揚以外はオーソドックスな造形です。ただ、オケの流麗な響きと生彩に富んだアンサンブルが素晴らしく、全篇に漂う音楽的な上質さが聴き所。対位法の効果を緻密に彫琢していて、立体的な音響が構築されているのも見事です。

 第2楽章、第3楽章は、ベテランの至芸ともいうべき味わいの深さが印象的で、みずみずしくも優美なカンタービレに聴き惚れていると、もはやエディションの違いなどさほど気にならなくなってきます。小気味好いリズム処理も効果的。ガーディナー/ウィーン盤の所にも書きましたが、オリジナル版を基調にところどころ寄り道したり、アレンジが加わったりする感じなので、演奏のクオリティさえ高ければ同様に楽しめる感じです。

 第4楽章は、スピード感のあるきびきびとした合奏がシャイーらしい所。ここでも響きがよく整理されていて、内声の動きや副次的なフレーズなど、やはり精緻なオーケストレーションを立体的に組み立てる手腕が傑出しています。推進力は強いですが、コーダをあっさりと終了するのは古典的な感覚。

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