ヴェルディ/序曲、前奏曲集

概観

 ヴェルディは純然たる管弦楽曲をほとんど書きませんでしたが、オペラの序曲には“シンフォニア”と名付けた大規模なものもあり、単独でも聴き応えがある曲が多いです。実際、コンサートでも演奏されますし、吹奏楽にアレンジしたものはコンクールの自由曲によく取り上げられます。

 かくいう私も学生時代にブラスバンドで《運命の力》と《シチリア島の夕べの祈り》を演奏(トロンボーン)した事がありますが、その時に思ったのが、ヴェルディの曲はとにかく技術的に難しいという事。合奏としてはアインザッツを合わせにくい付点リズムが多いし、山場では弦楽パート(吹奏楽ではクラリネットやサックス)の超絶技巧的な速弾きが延々と続きます。

 かつてはドラティやカラヤンなど様々な指揮者が録音したアルバムですが、80年代以降はオペラを得意とするイタリア人指揮者の専門分野になっているのが残念。珍しい作品も含めて2枚組に網羅したカラヤン盤はお薦めですが、意外な所ではすこぶるドラマティックなマルケヴィッチ盤も名演。

*紹介ディスク一覧

57年 ドラティ/ロンドン交響楽団

67年 マルケヴィッチ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

75年 カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

78年 アバド/ロンドン交響楽団

82年 シャイー/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

83年 シノーポリ/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団

93年 ムーティ/ミラノ・スカラ座管弦楽団

96年 アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

12年 シャイー/ミラノ・スカラ座管弦楽団

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“独自のイントネーションと明晰な音響で、モダンに再構成したユニークなヴェルディ”

アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団

(録音:1957年  レーベル:マーキュリー)

 《運命の力》《ナブッコ》《シチリア島の夕べの祈り》、《椿姫》第1、3幕前奏曲の5曲収録。CDではミネアポリス響とのロッシーニと組み合わせてあり、オリジナル・カップリングがどうだったのかよく分かりませんが、ドラティのヴェルディ録音自体、非常に珍しいです。音質は鮮明ですが、強音部では混濁と歪みあり。オケも指揮者も非イタリア系だからか、聴き慣れない表現が頻出する個性的な演奏です。

 《運命の力》は冒頭の金管がものすごい威力。エッジも効いてシャープで、「それが運命だ!」という感じです。テンポも相当に速く、緊密に整った合奏もヴィルトオーゾ風で迫力満点。アクセントの置き方も独特で、イントネーションがイタリアの指揮者とは異なります。《ナブッコ》は、フレーズをぶつ切りにした冒頭のコラールがユニーク。続く管楽器の旋律も、アーティキュレーションを全く独自に解釈しています。それでもイタリアンな和声感やムードはちゃんと出ているから不思議。

 《シチリア島の夕べの祈り》は比較的オーソドックスで、全体を流麗に造形。編成が大きくないのか、指揮者の統率力が強靭なのか、細部まで描写が徹底していて合奏も精密、室内オケのようにも聴こえます。録音のせいもあってか、弦や木管の細かい動きまで全てクリアに聴き取れる趣。《椿姫》ではしなやかなカンタービレを展開しますが、それが甘美な方向へ傾かず、音響的明晰さによって新ウィーン楽派に接近しているのが、ドラティらしい怜悧な視点です。

“意外にドラマティックな語り口で、オペラ本編をも聴きたくさせる名演揃い”

イゴール・マルケヴィッチ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

(録音:1967年  レーベル:フィリップス)

 《運命の力》、《マクベス》のバレエ音楽、《椿姫》第1幕、3幕前奏曲、《ルイザ・ミラー》《アイーダ》《ジョヴァンナ・ダルコ》《シチリア島の夕べの祈り》の8曲収録。鮮明で歪みや混濁も目立たず、柔らかさやみずみずしさもあって音質良好。この指揮者としては客観性より雄弁さが勝った表現で、語り口も巧妙そのもの。オペラ全曲が聴きたくなるほどドラマティックな演奏です。オケの弦の美しさが生かされ、旋律美の打ち出しも十分。独特の選曲ですが、配置もよく練られています。

 最も感銘度の高いのは、冒頭に置かれた《運命の力》。最初のユニゾン3音が、間に挟んだ短いエピソードとの連結も含め、テンポといい間合いといい全くもって見事な呼吸。理想的な解釈と言わざるを得ません。続くアリアの旋律は、スロー・テンポで情緒纏綿たるカンタービレ。意外に彫りの深い造形で、感情表現が豊かなのに驚きます。一方、合奏の統率やシャープなリズム感は、マルケヴィッチならでは。

 《マクベス》からはバレエ音楽が取り上げられ、演奏時間も最も長いですが、変化に富む曲想を巧みに掴んで、構成と描写力で聴かせます。特に冒頭のトランペット二重奏は、軽快に弾むリズムと細やかな強弱のニュアンスが見事。《椿姫》は特に第1幕の前奏曲で遅めのテンポを採って、抑制を効かせつつも切々たるカンタービレを聴かせる所、やはりオペラ本編への期待を抱かせます。

 《ルイザ・ミラー》は悲劇性を鋭利にえぐり出し、物語を彷彿させるドラマティックな表現で聴き手を惹き付けます。《アイーダ》はしなやかな起伏を描く演奏で、静かな感情を優しいタッチで山場へ導いてゆくスタイルが独特。《ジョヴァンナ・ダルコ》は緩急巧みに音楽を対比させ、緊張度の高い合奏を展開する中、オーケストレーションの色彩感も十分に表出。管弦楽作品として面白く聴かせます。

 最後の《シチリア島の夕べの祈り》は、構成が大規模なためか《運命の力》ほどの設計の妙は聴かれませんが、各部の対比と卓越したフレージングが見事。強奏部では、通常と違う拍にアクセントを置いたりして、個性的な造形を聴かせる箇所もあります。典型的なベルカント風ではありませんが、旋律線にはしなやかな歌心が横溢。

“質の高い演奏で珍しい作品も聴かせる、カラヤンらしい好企画の2枚組”

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1975年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 2枚組で発売された異色のヴェルディ・アルバム。1枚目は《ナブッコ》《マクベス》《海賊》《ルイザ・ミラー》《リゴレット》《椿姫》《シチリア島の夕べの祈り》《仮面舞踏会》《運命の力》《アイーダ》、2枚目は《オベルト》《王国の一日(にせのスタニスラオ)》《エルナーニ》《ジャンヌ・ダルク》《アルツィラ》《アッティラ》《群盗》《レニャーノの戦い》《アロルド》を収録。

 曲数が多い上、私のよく知らない曲も含まれているので、他盤との比較には適しませんが、質の高い演奏でこれだけまとめて聴けるのは有り難いです。極端なほどメリハリが大きいカラヤンの棒と、高音偏重でいかにも派手なオケのサウンドはヴェルディとの相性も抜群で、イタリアの歌劇場にはない豊かな残響も魅力。ティンパニをはじめ、打楽器が激烈に叩き込まれるのは全曲に共通する傾向です。

 《ナブッコ》《シチリア島の夕べの祈り》《運命の力》の彫りの深い造形と、振幅の大きい雄弁な語り口、《マクベス》《リゴレット》に聴くブラス・セクションの威力、《椿姫》《アイーダ》の耽美的な世界と、カラヤン節は全開。逆に《海賊》《レニャーノの戦い》など、音楽自体の質がやや落ちる作品では、過剰なフォルテがうるさく聴こえる箇所もあります。

“若々しい勢いのみならず、迸る才気で劇場のムードをも横溢させるアバド”

クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団

(録音:1978年  レーベル:RCA)

 アバドが行ったRCAへの数少ない録音の一つ。他に同オケとロッシーニの序曲集、ムソルグスキーの管弦楽曲集があります。アバドは後に、ベルリン・フィルともヴェルディの序曲集を録音。《ナブッコ》《アイーダ》《運命の力》《アロルド》《ルイザ・ミラー》《シチリア島の夕べの祈り》の6曲収録で、英デッカがよくレコーディングに使用していたキングズウェイ・ホールでの収録です。

 冒頭の《ナブッコ》からシャープなリズムと若々しい勢い、みずみずしい響きが耳を惹き、《アイーダ》のホルンを伴う壮麗なサウンドにも、ロンドン響らしい底力あり。その有機的な迫力には、ただの若手指揮者に留まらない才気を感じさせます。《運命の力》は、ブラスのソリッドな響きとしなやかな弦のカンタービレが魅力的。抜群のリズム感で聴かせるクラリネット・ソロから、一気に加速してトゥッティに持ってゆく呼吸、生き物のようにフレーズが躍動する、白熱のコーダも非凡です。

 《アロルド》は覇気に溢れ、よく弾む付点音符が軽快。トランペットの歌心も聴き所です。《ルイザ・ミラー》は、速めのテンポでスリリングなヴィルトオーゾ風パフォーマンス。《シチリア島の夕べの祈り》は、木管とチェロのアリアが歌謡的な歌い回しで見事です。ルバートを挟む、ちょっとした間合いも絶妙。オペラティックな興趣の横溢は、実際に劇場の指揮台に立っている人ならではでしょう。

“周到な棒さばきで、若さに似合わず落ちついた表現を展開”

リッカルド・シャイー指揮 ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1982年  レーベル:デッカ)

 《運命の力》《アロルド》《ナブッコ》《シチリア島の夕べの祈り》《ジョアンナ・ダルコ》《オベルト》《ルイザ・ミラー》の7曲収録。シャイーは後にスカラ座管とも序曲集を出していますが、こちらは長い残響を伴った、コンサート・プレゼンスの録音コンセプトが特色です。ナショナル・フィルの音色も明朗かつ爽快。

 《運命の力》は、たっぷりとした響きで開始。遅めのテンポや管弦のバランスなど、意外に落ち着いた表現で、血気盛んな若手指揮者の演奏という感じではありません。旋律もじっくりと腰を据えて丁寧に歌わせ、ドラマティックな語り口もオペラ指揮者らしい所。マイナーな《アロルド》も生き生きと楽しく聴かせ、卓越した手腕を垣間見せます。《ナブッコ》となると、鮮やかなメリハリや熱情の発露、煽るようなアゴーギクも頻出。

 《シチリア島の夕べの祈り》は肩の力が抜けていて、強奏部も暴走することなく軽妙なタッチで造形。旋律線も艶やかに歌わせています。後半部も、むしろ堅実とさえ言える盛り上げ方で、リズムに強弱の特徴を持たせるような余裕もあり。《ジョアンナ・ダルコ》《オベルト》《ルイザ・ミラー》の後半3曲は、生気に溢れた明敏なトゥッティと、表情豊かな木管群が織りなす弱音部のアンサンブルが好対照で、しなやかなカンタービレも魅力です。

“冴えた筆致と振幅の大きな語り口で聴かせる、シノーポリならではのヴェルディ”

ジュゼッペ・シノーポリ指揮 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団

(録音:1983年  レーベル:フィリップス)

 オリジナルは《運命の力》《アイーダ》《アッティラ》《ルイザ・ミラー》《椿姫》第1、3幕前奏曲、《仮面舞踏会》《ナブッコ》《シチリア島の夕べの祈り》の9曲。再発売の際には、全曲盤からローマ聖チェチーリア管との《リゴレット》、ベルリン・ドイツオペラ管との《マクベス》も併録されたりしています。当コンビの初レコーディングで、フィリップス・レーベルへはこの1枚のみ。残響をたっぷり取り入れた非常に美しい録音で、指揮者の熱っぽい唸り声も入っています。

 《運命の力》は冒頭からたっぷりとした柔らかな響きでオケの美質を生かしますが、細かく付けられたダイナミクスの変化はシノーポリ流。スピード感に溢れた鋭敏なアインザッツや極端なアゴーギク操作、徹底したアーティキュレーション描写など、細部まで筆致に曖昧な所が一切なく、天下のわがままオケが指揮者の意のままに統率されている凄さをひしひしと感じます。

 又、《アイーダ》や《椿姫》など叙情的な曲では、超スロー・テンポで感情をえぐり出すような表現を採るのも独特。《アッティラ》や《仮面舞踏会》の情緒纏綿たる弦のカンタービレも、スカラ座のオケなどとはまた違う、美麗な音色と粘りのある歌い回しに魅了されます。《ルイザ・ミラー》《ナブッコ》での峻厳と優美の明瞭なコントラスト、機敏なリズム処理、冴え冴えとした筆遣いもさすが。

 《シチリア島の夕べの祈り》もスマートではなく、むしろ無骨な造形と言えますが、かなり急速なテンポを採る箇所も多い中、一体感の強い合奏に圧倒されます。リズムがきびきびとしていて、ディティールを勢いで流さず克明に描き出すのは、オペラ専門の指揮者にはない性質。後半、弦がピアニッシモで突然清澄な旋律を挟んでくる箇所は、神々しい幻想が眼前に現出したような、思わずはっとさせられるドラマ性にシノーポリらしさを感じます。

“オケ、指揮者共に真打ちの貫禄を聴かせる、新時代の決定盤”

リッカルド・ムーティ指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団

(録音:1993年  レーベル:ソニー・クラシカル)

 《運命の力》《アッティラ》《ナブッコ》《椿姫》第1、3幕前奏曲、《レジャーノの戦い》《群盗》《ジョアンナ・ダルコ》《仮面舞踏会》《ルイザ・ミラー》《アイーダ》《シチリア島の夕べの祈り》の12曲収録。

 ムーティはフィルハーモニア管とも序曲集のアルバムがあり、当盤は待望のスカラ座管との再録音に当たります。当コンビは他にバレエ音楽集も録音。硬質なティンパニの打音が印象的な録音で、そのせいかどうか、カラヤン・チルドレンとしての側面も感じさせるのが興味深い所。

繫げています。行進曲の箇所は、急速なテンポで疾走。《椿姫》前奏曲では、オケ、指揮者ともにこれぞという歌いっぷりを披露し、《ジョアンナ・ダルコ》は主部のきびきびした調子と牽引力、ワルツの木管ソロ、アンサンブルが聴きものです。

 《仮面舞踏会》もテンポの演出が実に巧みで、ドラマティックな緩急を生き生きと描き出す名演。《ルイザ・ミラー》のストレートな力感の解放と推進力、《アイーダ》のソステヌートのフレージングには、カラヤンの衣鉢を継ぐ雰囲気もあります。《シチリア島の夕べの祈り》は序奏からドラマの予兆を孕み、猛スピードで駆け抜けるアレグロは嵐のよう。ディミヌエンドと共に大きくリタルダンドし、アリアでまたテンポを上げるなど、自在な呼吸で各場面を活写しています。

“一流シンフォニー・オケの美質を生かし、ドイツ音楽に通ずる密度と奥行きを追求”

クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(録音:1996年  レーベル:ドイツ・グラモフォン)

 《運命の力》《ルイザ・ミラー》《ナブッコ》《アイーダ》、《椿姫》第1幕、3幕前奏曲、《マクベス》のバレエ音楽、《ドン・カルロ》第2幕前奏曲、《シチリア島の夕べの祈り》の9曲収録。ジャケットにはフィルハーモニーザールの写真が使われていますが、実際の収録はイエス・キリスト教会です。長い残響音が耳に付く一方、低音域と奥行き感がやや浅い印象。当コンビのヴェルディ録音は、歌劇《ファルスタッフ》とレクイエムもあります。

 若々しい活力が魅力的だった旧盤から18年ぶりの再録音で、外面的効果よりドラマの奥行きを掘り下げている辺り、指揮者の成熟を感じます。一級のシンフォニー・オーケストラだけあって、細部のニュアンスが実に豊か。派手な演出こそ注意深く避けられていますが、これらの曲においては平素あまり聴かれない彫りの深さや、音楽的な味わいが魅力になっています。かつてスカラ座で活躍したアバドがこういうアプローチを採るのも面白い所。

 《ルイザ・ミラー》など、艶やかな音色で緊密な合奏を繰り広げる弦が素晴らしく、思わずベートーヴェンの交響曲を聴いていると錯覚してしまうくらい。ヴェルディの音楽にも、それだけポテンシャルがあるという事でしょう。《アイーダ》や《マクベス》も、スケールの大きさや底力、凄味のあるトゥッティが、ドイツ音楽に通じる深みを感じさせます。《ドン・カルロ》を選曲するのはアバドらしいですが、この第2幕前奏曲とは、彼が録音した5幕版で言う所の第3幕冒頭にある、穏やかで短い曲の方。

 元々が演奏効果の高い《運命の力》《ナブッコ》《シチリア島の夕べの祈り》といったシンフォニアは、抑制の効いた表現の中に豊かな陰影と格調の高さを表し、独特の気品を感じさせるのがアバドらしい所。オケも手を抜かず、クオリティの高いパフォーマンスを丁寧に展開しています。又、リズミカルな箇所でのエネルギッシュな爆発力やスピーディな躍動感も十分で、ヴェルディらしい熱っぽさは欠けてはいません。《椿姫》の2つの前奏曲は、弦の音色が絶美。

“やはり熱血型の勢いに頼らず、細部を緻密に彫琢した再録音盤”

リッカルド・シャイー指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団

(録音:2012年  レーベル:デッカ)

 《シチリア島の夕べの祈り》《アルツィーラ》、《椿姫》第1幕、3幕前奏曲、《海賊》《ナブッコ》、《イェルサレム》序奏とバレエ音楽、《ジョヴァンナ・ダルコ》《アイーダ》《マクベス》《運命の力》の11曲収録。「ヴィヴァ・ヴェルディ」と称された生誕200年記念アルバムで、歌劇場ではなくオーディトリウム・ディ・ミラノという会場で収録されています。奥行き感はやや浅いですが、残響はそれなりに豊かで、スカラ座の録音に時折あるカラカラに乾いた音ではありません。

 若き日の旧盤も意外に大人びた演奏内容でしたが、ここでも勢いで押す事はなく、細部を緻密に描写。オケがスカラ座ですからオペラティックな興趣や流麗な歌が充溢している事は言うまでもありませんが、どの曲も周到に設計されていて、いわゆる熱血型の演奏では全くありません。しかし輝きや華やかさには欠けておらず、各曲終盤の盛り上がりも、凄絶と言えるほどの底力を感じさせて圧倒的。

 引き締まった速めのテンポを基調にし、沸き立つような活気も充分盛り込みながらも、強引に音楽を運ぶ事はなく、落ちついた風情を感じさせます。その分、各曲を深く掘り下げ、それぞれに丁寧な彫琢を施した印象。《アルツィーラ》や《海賊》、《イェルサレム》など、珍しい作品が入っているのもシャイーらしい視点です。

 オケは、合奏が上手いのは勿論、各パートの生彩に富んだニュアンスまで、ヴェルディのイディオムを自家薬籠中のものにした団体ならではの、見事なパフォーマンス。予期された事ではありますが、やはりさすがと唸らされます。木管やハープのソリストがブックレットにクレジットされていて、オケに対する敬意も示されているのが好印象。

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